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ニチアサの話がしたい vol,224


■今週のガヴ

・MVP永徳さん

 年明けの放送から始まった、言わば「仮面ライダーヴラム登場編」の「過去回」にあたるエピソードとなった今週の『ガヴ』19話「プリンのほろ苦隠し味」。もう今週のMVPは私が個人的に彼のファンという贔屓目を抜きにしてもぶっちぎりでラーゲ9改めルキア・アマルガのグラニュート態、及び仮面ライダーヴラムを演じるスーツアクターの永徳さんだったのではないだろうか……。グラニュート界で愛弟コメルと二人で貧しくも暖かな生活を送っていたが、闇菓子によってその平穏とコメルの命がいとも簡単に奪われてしまうラキアの悲しい回想や、あるいはショウマがかつてストマック社にいたと知ると、弟を手にかけたのはお前かと感情を爆発させる場面。悲しみと怒り、混乱と後悔の中で、大切な弟の命はなぜ失われなければいけなかったのか、その真実を求め孤独な戦いを続けてきたラキアの重く冷たい覚悟と苦悩が、永徳さんの芝居のひとつひとつからひしひしと伝わってきて、もちろんファンとしては彼の素晴らしい芝居をたくさん見れて幸せだったが、素晴らしいからこそ、ラキアの心中を思うととにかく胸が痛かった。シータがショウマに倒された際、ランゴたちが驚きつつも実の妹が死んだにしては存外そっけないリアクションだったため「グラニュートと人間では生死観が違うのかもしれないな」と思ったが、一般人(一般グラニュートっていうのか?)のラキアが人間と同じような感覚で弟を愛しその死をひどく悼んでいるのを見ると、何てことはない、ただただストマック家の感覚が終わっているということも今回のことでよく分かった。

・酸賀研究室へようこそ!

 同時に、放送当初に比べると驚くほど多彩な演技を見せてくれるようになったなあと思わず感心したのがショウマ役 知念英和さんだ。絆斗は意識を失い、ラキアはほぼグラニュート態かライダーという「素面少なめ」な回だからこそ、杉原監督や藤田AC監督のカメラもかなりじっくり知念さんの表情の機微を追っていたように思う。

 そんな知念さんの芝居を一層引き立てていたのが酸賀役を浅沼晋太郎さんだ。戦闘中に「お前もストマック一族なのか」と口走ったことでヴラムの逆鱗に触れてしまい、変身解除まで追い込まれてしまった絆斗を危機一髪のところで助けたショウマは(一瞬ではあったが、ヴラムの超強力な必殺技から絆斗を守るため、派生フォーム中で最強の防御力を誇るグルキャンを「盾」として使う演出がイカしてる)絆斗の懐から顔を出したチョコドンゴチゾウの導きでショウマは初めて酸賀の研究所を訪れることになる。この研究所での浅沼さんの軽妙な芝居がすごくいい。意識の無い絆斗を担ぎ、「すいません!誰かいますか!」と駆け込んできたショウマの声にタオル片手に「はいはいはいはい!」と、いかにも迷惑そうに出てきたり、絆斗の一大事なのにさほど動揺する風でもなく、むしろ「君さぁ、仮面ライダーのガヴだよね?」と爆弾発言をサラリとする余裕。それに思わず「はい……」と返してしまい慌てるショウマに「やっぱり!やっと会えた、久しぶり!」と、指を鳴らして気の置けない雰囲気で再会を喜んでみせたり、コーヒーを断ろうとするショウマに「何遠慮してんの、いいから」と気安く肩に触れるふりをして彼の服に付着した髪の毛をスッと盗むなど、どこまでも抜け目ないのに表面的にはどこまで気さくで親しげ。自分のペースに相手をあっという間に巻き込む酸賀の鮮やかな手練手管がキケンで魅力的でゾクゾクしてしまう。そんな酸賀に対しショウマは「この人に色々バレたらマズい」とばかりに彼の視線から逃れるようにこっそりグミを食べたり、傷の治りの早さを悟られないようにハンカチでサッと顔を隠すなど、いかにも警戒心MAXな面持ちなのがニコニコ(というかニヤニヤ?)顔を絶やさない酸賀と対照的で面白かった。

・「どうする?」が問うもの

 また、今週は服飾系大学に忍び込み人間狩りを行おうとしたラキアをショウマが止める形で演者の知念さんがかなり長尺で素面アクションに挑戦されているのも見どころのひとつだ。もちろんその中でも特に危険なシーンはアクション俳優の方が吹き替えをしているだろうし、相手役を務めるラキアグラニュート態の永徳さんのフォローも多々入っていると思うが、それでも生身のままラキアに喰らいつき、捻られ、殴られ、蹴られ、投げ飛ばされても「やられてたまるか!ここのみんなも守って、お前たちがさらった人たちも絶対取り戻す!」と何度でも立ち上がるショウマのヒロイックな姿は、「主人公ライダー」としてどんどん顔つきや目つきが変わってきた知念さんの成長がそのまま映し出されているようでグッときた。まだまだ始まったばかりだと思っていたが『ガヴ』も気付けば折り返しが近いのだ。(これに気付いた時、夜中なのにマジで叫びそうになった)

 戦いの中でヴラムの狙いが闇菓子ではないと悟ったショウマは、コメルを手にかけたのは自分ではないこと、ヴラムの敵も自分と同じストマック家なのだとしたら自分たちは戦う必要はないこと。また、自分の母親もストマック社の犠牲者であり、コメルの死の真相を調べるのも協力するとヴラムブレイカーの刃が肩口にめり込む激痛に耐えながら必死にヴラムに語りかける。「グラニュートハンターなんてあいつらが勝手に呼んでるだけだ!俺が戦ってるのは、犠牲者を出したくないからだ!」母さんはもう戻ってこない。けれど、せっかく生き延びたならこの命で母さんのいた世界を守りたい。そんなエゴを超えた博愛に近い精神で日々戦いに身を投じるショウマの姿が瞬間的に眩しく感じたのか「他に犠牲がで出ようと関係ない。俺はコメルの仇さえ取れれば……」と、震える声で呟くヴラムを遮って、ショウマは叫ぶ。「関係ないならなおさら!君が憎いのはストマック社で、闇菓子がほしいわけじゃない。だったらあいつらの手先として人間を攫うなんて、そんなダルいことしなくたっていいはずだ!」と。ファン界隈で「ショウマはレスバが上手い」と評されるのはまさにこういう理論的かつ相手の感情に訴えかえる返しが瞬時にできるからだろう。「ダルい」というヴラムの口癖をここで拾ってくるところがまた痛快で、ショウマがそう言うことで、ヴラムがこれまで繰り返し使っていた「ダルい」の真意は、単純に作業や仕事が面倒臭いという以上に「自分の本当の望みとは違っていることをやり続けなければいけない辛さ、苦しさ」を指すものだと分かるのもいい。

 言葉を失い俯くヴラムにショウマは続ける。「どうする?そのベルトの力、あいつらの野望のために使い続けるか、それともここで引き返して、あいつらの野望を止めるために使うか……!」これは言うまでもなくガヴの決め台詞の「どうする?二度と闇菓子に関わらないか、この場でオレに倒されるか!」からの引用なのだが、これまで人間を攫ってきたグラニュートに「最後の審判」として投げかけてきた言葉を仮面ライダーになったラキアに問うことで、そもそも仮面ライダーと怪人は表裏一体の存在であり、「バケモノ」になるか「戦士」になるかは「その力」をどう使うのかの選択で決まるという初代『仮面ライダー』から連綿と続くテーマをも浮かび上がらせるのが本当に巧すぎる。後ろで流れる切なげな『Got Boost?』のピアノバージョンの音色も相まって、家族のために戦おうとするヴラムの心情を慮るショウマの慈愛、ショウマの弁明が本当であるという証拠もないのに、彼の言葉を信じ、闇雲に進み続けてきた自らの行いを省みてしまうラキアの隠しきれない人の良さも沁みて、胸に響く名シーンに仕上がっていた。

 ラキアとコメルのファミリーネーム「アマルガ」はスペイン語で「苦味」を表す「Aamarga」から来ているらしいが、調べると「無愛想な」「刺々しい」などまさに今のラキアにぴったりな意味の他に、「悲しみ」や「苦しみ」の表現にも使われるそうだ。名は体を表すとはよく言ったものだが、まさにそんな苦々しい渦中に置かれたラキアは果たしてどんな思いでショウマと闇菓子工場へ向かうのか。そして彼を救いたいと願い、戦いの中で自分がグラニュートであることも明かしながら、それでもやはり「自分もストマック一族」だということは言えず、結果的に今回も二枚舌を使ってしまったショウマの嘘は、ヴラムや絆斗にいつ、どのような形で暴露されてしまうのか。手に汗握りつつ胃が痛い日々がまだまだ続きそうだ。

■今週のスーアクさん

・肉片、血飛沫、喉仏!

 あまり他の作品では見たことのない、壁やドアのカラフルな色使いが特徴の大学キャンパスを舞台に繰り広げられた今週のアクションシーン。巷を騒がす大量失踪事件の現場にショウマが飛び込んでいくというシチュエーションからガヴ VS ヴラムのバトルが始まったため、ラキアがグラニュート態からライダーへ変身し、『リバイス』のバイス→仮面ライダーバイス以来の「永徳さんから永徳さんへの変身」を見られたのが先ずもって最高だった。正直その後もヴラムにメロってるうちに気付いたら番組が終了していたのだが、そんな中でも特に印象に残ったのはウォータービーズの使い方だ。

 ご存じのとおり、ガヴのアーマーはグミ製であり攻撃に耐えられなくなるとバラバラになって弾け飛んで無くなってしまう。その弾け飛ぶグミの破片としてウォータービーズが使われているのだが、今回目を引いたのが「お前がコメルをやったのか!?」と激昂したヴラムがガヴの胸のアーマーに鎌(チェーンソーと言った方が正しい気がするが……)に変形させたヴラムブレイカーを押し当て、ガヴが自白するまで少しずつそれらを削る度にアーマーとブレイカーの刃の間からウォータービーズがまるで血飛沫のようにバッ!と飛び出す演出だ。血糊などが使える一般的なアクションシーンとは異なり、地上波の特撮ヒーロードラマはメインターゲットが児童であるという性質上、特に変身後はどうしてもオミットせざるを得ない肉片散乱や欠損、血飛沫と言ったゴア的な表現をウォータービーズを使ってできるのはお菓子という「消え物」でスーツが構成されているという設定の『ガヴ』ならではだろう。

 前半は自分の狩り現場を目撃したショウマを始末するため、冷酷な殺し屋のような雰囲気でガヴを追い詰めていたヴラム。その容赦の無さや鋭さはダークライダー然としていてとてもセクシーで、弓を折り畳み鎌の刃を出すだけでこんなカッコいいことある!?と言いたいくらいクールだった彼が、後半ショウマがストマック社にいたと知ると途端に動揺し、先ほどまでの冷静さはどこへやらと言った感じで感情のままにガヴを問い詰める、この永徳ヴラムさんの緩急というか寒暖のギャップもたまらない。かつ、ヴラムはガヴやヴァレンと違い首元の下面がメタリックなシルバーなので、永徳さんが台詞を喋る度に喉仏のあたりが動くのがカメラにばっちり映っており、これはもはやフェティッシュの領域なので分かってくれる人がいるのが不明だが、個人的にはそれが大変刺さりまくった。いいじゃないですか……この「スーツアクターさんは台詞を全部覚えて現場で喋っている」感が!!あとなんかこう、「ほんとにスーツに人が入って演じてるんだな~!」と、アクターさんの身体性が目に見えて実感できるのも、いいじゃないですか!!(都道府県に1名づつくらい同志がいると信じて書いています)

・追憶のラキアとコメル

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