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ニチアサの話がしたい vol,223


■今週のガヴ

・ショウマ、もう言ってくれ……

 先週の放送でついに「変身」を果たしたセクシープッチンプリンこと(注:筆者が言っているだけです)仮面ライダーヴラム。今週第18話「激強!プリンな用心棒」は、そんなヴラムの初登場回の中編、もしくは初回の延長線といった面持ちだ。アバンの3分間を丸々前回17話ラストのヴラム初変身からvsガヴ&ヴァレン戦のリフレインに使うという贅沢な尺の使い方からも分かるように(これは新商品であるヴラスタムギアの販促も兼ねているかもしれないが)サブタイの通りとにかくヴラムは「激強」であるということを全面に押し出しつつ、ヴラムの変身者であるラーゲ9のパーソナルな部分を初めて垣間見せるところまでを追っていく。

 だが、物語の焦点がずっとラーゲ9に当たっているかと言えばそうでもない。むしろAパートはクリスマス回から「ショウマは自分に何か隠し事をしているのでは」という疑いの気持ちが晴れない絆斗と、絆斗に嘘を重ねることを苦々しく思いつつ、本当のことを言い出すこともできないショウマのもどかしいやりとりが印象的だ。

 ヴラムと共に初めて人間界に姿を現したストマック家の次男・ニエルブ。彼の名をショウマが知っていたことから、「やっぱお前、俺に隠してることあるよな?言えよ!」と絆斗はショウマを問い詰める。自分には何でも打ち明けてほしい、そんな熱い思いが伝わってくる絆斗の真剣な瞳を見ると、「ショウマ、もうこの辺で言っといた方がいいって!」と思わずTVの向こうから声を掛けたくなってしまうのだが、「もし俺のこと心配してんなら気にすんな。俺は社長と違ってグラニュートを倒す力がある……お前と同じようにな」と、絆斗がフォローのつもりで言った一言が「そもそも自分と絆斗は同族ではない」という部分で引け目を感じているショウマの言い出しにくさを更に助長してしまったり、ショウマが心を決めきる前に話題がそこからストマック兄弟がどんな奴らなのかに移ってしまったため、絆斗自身が「確かにあんなのがゴロゴロいるようなところに乗り込むには部が悪すぎる。お前が引き留めたのも今さらながら納得だわ」「お前はもうそこまで情報を掴んでた。だからこれ以上犠牲者を出さないことを優先してた。そういうことだよな?」と、自分の中の違和感に自分で答えを出して完結させてしまったりと、絆斗が頭の回転が速く聡いゆえにボタンの掛け違いがどんどん進んでいってしまうのが観ていて辛いし、それに対するショウマもストマック社や経営に携わる5人の兄弟たちに関する情報は嘘偽りなく絆斗に話す一方、自分との関係性は伏せたままなので絆斗に「兄弟5人……」と呟かれると「6人目」として思わず目が泳いでしまったり、「だから今はさっき逃した鳥みたいなグラニュートからみんなを助け出したいんだ。それでいいかな?」と絆斗の質問にはイエスともノーとも言わず、目の前の問題に話題をすり替えたりと、意図的にではないものの巧妙に絆斗を上手に騙してしまう形になってしまうのが何とも息苦しい。この辺りの微妙にすれ違い続ける二人の会話劇は、さすが繊細な言葉選びで定評のある香村先生と金子先生の共作脚本回なだけあるなと思うし、本人たちも決して悪気があるわけでなく、むしろ互いに対して好意や友情を感じているからこそ「疑いたくない」「拒絶されたくない」というエゴが先んじて真実から遠のいてしまう切なさは、ショウマ役知念英和さんと絆斗役日野友輔さんの丁寧なお芝居の賜物といえよう。2人の間に誤解と嘘が重なるにつれ、観ているこちらの胃は痛くなる一方なのだが、一筋縄ではいかない複雑な人間関係を描くドラマとして非常に見応えのあるシーンだった。

・僕も生きてるグラニュートだけどね

 その頃、ヴラムシステムを完成させたニエルブは得意げに(ニエルブ役滝澤諒さんの表情が本当に得意げなのが可愛い)その成果を酸賀に見せる。驚きだったのは「安全が保障された状態で生きてるグラニュートに会うのは初めてだ!」と喜びいさむ酸賀にニエルブが「僕も生きてるグラニュートだけどね」とポロッとこぼし、それに対して酸賀が「そうだった。どっちかっていうとニエルブくんは研修者仲間って意識の方が強くてね」とニッコリ微笑んだことだ。てっきり酸賀さんはニエルブと情報交換しつつも、彼の正体までは気付いていないと思っていたので、「もう知ってたんだ!?」ということもだし、「知っててこの友好的な付き合い方なの!?」という部分でもかなりビックリだった。確かにニエルブがグラニュートだと理解した上で研究者同士としての親睦を深めている方が変人度は上なので、酸賀さんにはとことんマッドでいてほしい筆者にとってはうれしくはあるのだが、「グラニュートや仮面ライダーはその姿を見た人が皆バケモノと逃げ出すほど恐ろしい存在」として描かれている世界で、ある意味一番2種族間とフラットに交流しているのが酸賀というのもまた奇妙な話ではある。

 「ちょっと失礼するよ~ごめんなさいね~」と酸賀に軽い口調で断りを入れられ、腹のミミックキーを出し入れされたり頬をツンツンされたり、完全に見せ物扱いされてもニエルブが居る以上、されるがままになるしかなかったラーゲ9。その最中も始終本気でダルそうだったが、中盤、そんな彼の過去がわずかに明かされる。

・闇菓子流通下の犠牲者

 絆斗がグラニュート・チョールの人間態である赤いスカーフの女の絵を描き、(絵心があるわけでは決してないが、画伯と言うにはちょっと上手すぎる絶妙な味わいなのがまたいい)SNSで「こいつは人攫いのバケモノです!」と注意喚起を拡散したため人々に警戒され、思うようにヒトプレスを回収できなくなったチョールが「口に入れた途端、全身が痺れるような甘い衝撃が走るんだ!いや甘いだけじゃねえ。ありとあらゆる複雑な刺激が絡み合って、俺の舌に、腹に、心に絡みついてくる!」と闇菓子を求めて狂おしく身を捩る姿を見て、ラーゲ9の脳裏には「こうでもしなきゃもう闇菓子は買えないんだ!」と苦しげに暴れる少年の影がよぎる。(この時のラーゲ9役庄司浩平さんの物憂げな横顔の美しいこと!)

 OPクレジットで書かれている通り、この少年はラーゲ9の弟であり、この回想とこれまでのラーゲ9の言動から察するに、彼には大事な弟が闇菓子の毒牙にかけられてしまったという悲しい過去があり、その復讐としてストマック社の内部に入り込み、一族を壊滅させる機会を窺ってきたということなのだろうか。中毒性のある食品を通じて社会支配を企むストマック社の行いはドラッグ・ビジネスのメタファーにもなっていることは明らかであり、これまではその材料として人間たちが攫われるという「闇菓子製造上での被害」をメインに描いてきたわけだが、闇菓子が蔓延るグラニュート界には当然のことながらラーゲ9の弟のように「闇菓子流通下での被害」があるのだということを今更ながら思い知らされる。

 とはいえ、愛する家族の仇のために戦っているという点ではラーゲ9もショウマと絆斗と共通しているわけだし、敵は同じストマック社。ならばこれは共闘の余地があるのではないか?という気もするが(放送中に流れたガンバレジェンズのCMはちょっと仲間っぽいテンションだったし…… )既にバイトとして散々人間をヒトプレスにしてランゴに献上してしまっているラーゲ9の罪はどうなるのかなどの課題もあり、これもなかなかすんなり仲間入りとはいかなさそうである。次回、第19話「プリンのほろ苦隠し味」ではスーツアクターの永徳さん演じるグラニュート態ラーゲ9と弟の重要な回想シーンもあるようなので、その辺りにも注目しつつ「ヴラム登場編」がどのように締め括られるのか楽しみに待ちたい。

■今週のスーアクさん

・壁からあふれる!ザクザクチップス!

 風を操る能力でスカーフを飛ばし、拾ってくれた相手を狙うという地道すぎる方法でヒトプレスを回収していたが、ショウマと絆斗によってその策略を封じられたチョールは街中で突風を起こし、吹き飛ばされてきた大量の人間を一斉にヒトプレスにする品質よりも量を取る作戦に出る。ヴラムという強力な用心棒を手に入れたチョールは戦いをヴラムに任せ、その隙に集めたヒトプレスを納品しようと空へ飛び去ろうとするが、「行かせるか!」と、それを追うガヴはふわマロ、ザクザクチップスとフォームを次々と入れ替え、空中と地上それぞれのバトルに対応する。

 特筆したいのはチョールに向かって投げ飛ばすも、翼の手刀で刃を粉々に折られて弾き飛ばされてしまったザクザクチップスラッシャーの持ち手をキックと壁に挟む形でキャッチし、そこから新しく生成したチップスの刃で追加攻撃を仕掛けるシーンだ。二次元風の見た目のザクザクチップスラッシャーは壁に押し付けらるとまるでお菓子の空袋のイラストように見え、そこからサクサクとポテトチップが溢れてくる演出はカートゥーンを観ているようですごく面白かった。ガヴの実力に怯み、またしても飛んで逃げようとするチョールにガヴはケーキングのホイップ弾を飛ばして撃墜させると「どうする?二度と闇菓子に関わらないか、それとも俺に倒されるか!」の決め台詞を放つ。それに「ハハハハ!闇菓子は最高だ!もっと人間を集めないと……!」ともはや清々しいほどの凝りなさを見せるチョールに「だったら……仕方ない」と哀しそうにつぶやいてからグッとガヴホイッピアを構えるガヴ。この時、「処刑」の始まりを告げるように複眼やガヴホイッピアを含む全身のイチゴパーツがギュン!と赤く発光し、白いホイップクリーム部分に落ちる影の色も一瞬だけ深く濃くなるのがめちゃくちゃにカッコいい。最期の最期まで闇菓子に焦がれ続けたチョールはケーキングの必殺技を受けてあえなく爆散。ガヴはチョールが納品しようとしていたヒトプレスを急いで拾い集めるが、そこにはぴぱれのご近所さん、タケシの姿は無かったのだった……。

・鍛治ヴァレンさんvs永徳ヴラムさん!

 そして、何といっても今週の目玉となるアクションシーンはヴラムvsガヴ&ヴァレンの再戦だ。変身し勢いよく飛び込んでくるガヴとヴァレンの攻撃を軽くいなすと、飛び乗ったパレットをガヴに向かって放り投げ、その上にどっかり座る(!)というサーカスの玉乗りクマもびっくりの曲芸を見せるヴラム。筆者はセクシーとトリッキーを優先させすぎた結果、普通の場所に普通に座れなくなってる変なキザが三度の飯より大好きなので、この時点でもう「ヴラムどこ座っとんねん!!」と大爆笑だ。ヴラムがダルがりながらとんでもないところに腰掛けるセクシープリン座り芸、まじで毎回やっていただきたい。その後、チョール追跡をガヴに任せたヴァレンはヴラムを引き受けると宣言。前回あれだけ痛めつけられておきながら、一切臆せず「お前の相手は俺がしてやるよ!」とタイマンを張るヴァレンの不屈の闘魂にひたすらグッとくる。

 ここから鍛治ヴァレンさんvs永徳ヴラムさんによる一騎打ちが始まるのだが、このシーンのお二人が本当にカッコ良すぎる。ヴラムは自身の専用武器ヴラムブレイカーの弓モード(正確にはボーガンに近い)で的確にダメージを与えつつ、一瞬の隙をついてヴァレンの懐に潜り込むとヤンキー蹴りでヴァレンの身体をベンチに押さえつけ至近距離で攻撃を放とうとするが、ヴァレンが右手でバスターを構えたのを察し、瞬時にブレイカーを持ち替えるとクールにそれを撃ち落とす。この何とも小洒落た反撃キャンセル方法がまさに「藤田AC監督流」という感じだ。バスターを弾き飛ばされたヴァレンは即座にベンチに手をついて強烈なドロップキックを放ち(この時の鍛治さんの両足の打点の高さがすごい!)ヴラムの手からもブレイカーを落とすことに成功。しかし、接近戦はむしろヴラムの得意とするところ。鋭い連続パンチを何とかすり抜けヴラムの腰に一発入れようと腕を伸ばすも何なくガードに阻まれる。そのまま触手の電撃攻撃をくらいぐるりと投げ飛ばされてしまうヴァレンだが、転がりながら先ほど落としたバスターを掴んで発砲。しかしヴラムもそれを側転で避けながらブレイカーを拾い弓攻撃をヴァレンに直撃させる。この間、わずか数十秒。鍛治ヴァレンさんのバイタリティー溢れる泥臭いファイトスタイルから迸るセクシーさと、気怠くもクリティカルで無駄のない永徳ヴラムさんから滲み出る円熟のセクシーがぶつかり合い、もう最高としか言いようがない。

 しかも更に燃えるのが、この後ヴァレンの一撃が初めてヴラムにマトモに入るのだが、それが何を隠そう「お前もストマックの一族なのか!?」と言われた怒りで思わず「はあ!?」と我を忘れた瞬間というのが人間臭くてたまらないではないか!これまで「だる……」しか言ってこなかったダウナーなヴラムがついに見せる激しい感情の昂りにドキッ!と胸が高鳴ったのは筆者だけではないはずだ。「俺があの一族……?冗談じゃねえ!!」と突如激昂すると、容赦なく必殺技を放ちヴァレンを変身解除まで追い込むヴラム。この番組、ヴァレンがやられてズタボロになった絆斗の引きで終わることが頻発しすぎだと思うのだが、ヴァレン及び絆斗は満身創痍が似合う、所謂「ダメージ男子」なので致し方ないのかもしれない。(可哀想なこと言うな!)鍛治さん、永徳さん、ブチ上がるバトルシーンをありがとうございました!ああああ〜〜〜!!かっっっこよすぎた~~~~!!!

■今週のブンブンジャー

・辛すぎる、レッドの苦悩

 ある程度、予測が着いた上で今週のブンブンジャー バクアゲ44「届け屋が届かない」の放送日を迎えたつもりだった。例えば、大也が幼い頃から憧れ続けた内藤の本性はドス黒く、ハシリヤンと繋がっているであろうこととか、ブンブンキラーロボはその名の通りブンブンを処刑するロボになるだろうなということも、これまでの放送を観ていればそれらは容易に想像が付くことであり、今週の放送内容も決して「衝撃の真実が発覚!」というような意外性があるものではなかった。が、それなのにどうしてこんなに辛いのだろう。きっと大也は裏切られる、ブンブンは再起不能になる。分かっているのに、目の前で悲鳴を上げ、血だらけで地に転がり、動かなくなったブンブンの肩をゆすり続ける大也の姿見に、はっきりと「もうやめてくれ」と思うくらい心揺さぶられてしまう。結局、いくら先のことを予測して「用心」していたとしても、目の前で実際にそれが起きてしまえばそんなものすっかりパーになってしまうものなのだ。『タイムレンジャー』に『シンケンジャー』『ルパパト』etc…これまで数多のレッドがクライマックスに追い詰められ試練を与えられ苦しまされてきたが、範動大也その中でもかなり上位に入る徹底的な痛めつけられ方だったと思う。辛すぎる……。

・「お兄ちゃん」な先斗の優しさ

 同時に、常槍が手綱を引く「官民一体となってブンブンジャーを無力化するフェーズ」が遂行され、メディアでは「ブンブンジャーは地球支配を目論む悪の組織」と報道され、未来は全てのバイトが「本社からの指示」でクビになるなど、射士郎が言った通りまさに「世界が敵に」なってしまう。最終回直前で世間の目の敵にされ高校を追い出された『メガレンジャー』を彷彿とさせる陰鬱な展開だが(奇しくも昨年の『ガッチャード』や『ウイングマン』も同様の展開であったため、なぜかここに来てヒーロー迫害祭りになってしまったのがまた嫌な偶然である)このシーンですごくすごく良かったのが先斗だ。

 地球も惑星ブレキの二の舞になってしまうのではと憂う玄蕃に「何シケたツラしてんだ若旦那」とわざと軽口を叩いて絡みに行き、自分たちが悪者扱いされているニュースを見てどんどん顔が青くなっていく未来からサッとスマホを取り上げ、これ以上彼女がショッキングな映像を観ないようにすると「おいおい、どこのどいつだよ?こんなデマ流しやがって」と、報道が「デマ」だと言い切ってみせる。自分の資産や特許を取り上げながら、最終承認をしていない内藤と「話してくる」と深刻な顔で車に乗り込もうとする大也にも一言だけ「行こうか?」と声を掛けてやるなど(「一緒に行こうか?」ではなく「行こうか?」だけなのがまた…!!)まるで下の子たちを守り、励ます一家の長兄のような優しさを見せてくれるのである。10歳で地球を飛び出した先斗の精神年齢や趣味趣向は確かに幼いままのところがあるが、それでも地球人の年齢で言えば最年長。こういう肝心なところで「お兄ちゃん」をしてくれる先斗が本当にカッコ良すぎて、先斗推しとしてはたまらない気持ちになるシーンだった。

・醜い大人とササラモサラ

 かつて夢を語り合った思い出の場所で内藤に会う大也だったが、そこに居たのは長年憧れ、目標にしてきた「代表」ではなく、支配欲と利権に取り憑かれた醜い「大人」だった。さらにそこに謀ったようにスピンドーが現れ、ブンブンをおびき寄せるために、大也や彼を助けるために駆けつけたブンブンジャーたちを完膚無きまでに痛めつける。

 と、ここでやや閑話休題だが、このシーンでスピンドーが言った「聞け!ブンの字!あたしゃお前の仲間は誰一人殺さねえ。苦しめて泣かせてぐっちゃぐちゃのササラモサラにしてやるわ」という台詞、「ササラモサラ」って一体何だ?と思った視聴者も多いのではないだろうか。調べたところ、「ササラモサラ」とは広島弁で「めちゃくちゃ」の意らしいのだが、その言葉を知る人がほぼ「『仁義なき戦い』でしか聞いたことがない」と言っているので、もはや仁義なき戦い弁に近い気がする。私も実はこの放送で初めて聞いた言葉で、シリアスな展開に唾を飲みつつ「ササラモサラ……?」となっていたので大変勉強になった。 

・最悪の虐待の連鎖

 窮地に追い込まれた仲間を救うため、ついにブンブンはガレージを飛び出しスピンドーの前へ姿を現してしまう。それを狙っていたかのようにスピンドーはブンブンキラーロボに乗り込むと全てのブンブンカーをカージャックし、彼をなぶり続ける。ブンブンの悲鳴が響く中、内藤は「承認」ボタンが表示されたスマートフォンの画面を掲げ「このボタンを押せば君の資産や権利は全て私に譲渡され、君はかつてのように悲鳴に駆けつけることができなくなる。その代わり、今彼を助けに行かせてやろう。選択肢は2つだ」と大也の目の前にブンブンチェンジャーを落とす。無論、大也はこの2択で迷うような人間ではない。「ボタンを押せ!全部くれてやる!」大也のその叫びに内藤は勝ち誇ったように顔を歪めてこう返し、承認ボタンを押す。「バクアゲだなあ!少年!」と。承認ボタンが押されるやいなや、大也は自分を押さえつけていたグランツの手を振り払いブンレッドにチェンジすると、飛び上がり瀕死のブンブンに手を伸ばす。「ブンブン!」それに気づいたブンブンもまた「大也……!」と手を伸ばすが、その瞬間、ブンブンキラーロボから発射されたゲキトツバスターが無慈悲にもブンブンの胸を貫くのだった……。

 最悪だ。最悪すぎる。つまり、これまで内藤が大也に知識や智慧を与え、「余裕のある大人」に育ててきたのはこれが目的だったのだ。彼が十分に資産や技術を蓄えたところで、彼の一番大事なものを人質に取り、それを丸ごと強奪する。性的なものではないにしろ、未成年の子どもに近づき、長期間に渡って親しくすることで信頼など感情的な結びつきを築き、手懐け、その人物を支配するのは明らかにグルーミングと呼ばれる虐待の手口であり、内藤はかつて隣家で行われていた幼い子どもの悲鳴を耳にしつつ何もできなかった大也のトラウマを利用し、グルーミングによって彼をもまた虐待児にさせたのだ。内藤が最初から大也を騙すつもりだったことは、成長してもなお大也を「少年」と呼び続け、遠回しに彼を「圧倒的な大人の力の前では無力な子ども」扱いを続けてことからも明らかだろう。そしてさらに全てを投げ打って行かせたブンブンの救出を失敗させることで、大也の心に二つ目の「聞こえていたのに、手が届かなかった悲鳴」を刻んでやるという周到さ。正直、ここまで生々しい児童虐待描写を令和のスーパー戦隊の「盛り上がり」に使われるのは、日々小さな甥っ子の子育てに関わっている身からすると、決して手放しで「ブンブンジャー攻めてるな~!」と喜ぶことができない部分もあるのだが、「自分のハンドルは自分で握る」が信条のドラマで「外圧や環境など、自分より大きな者による力や支配により、自分のハンドルを握らせてもらえない時」にどうするかという問題を避けることはできないというのは充分に理解できるところである。

 ハシリヤンから資源と技術、宇宙の恩恵を受ける代わりに80億の地球人が直面している全ての問題を解決せず「現状維持」に徹し、地球を常に悲鳴の絶えない「ギャーソリン工場」として提供するなど、これまでのスーパー戦隊史上最も「大人の汚さ、悪どさ」を全面に出しているといえる敵陣営は間違いなく『ブンブンジャー』の特徴のひとつと言えるが、やはり今週一番印象深かったのはスピンドーだ。番組ラスト、ブンブンの悲鳴を吸い取った彼の衣装は白く変わり実質上のパワーアップを果たすのだが、集まってくるギャーソリンの愉悦で身悶えるその姿を見て、やはり彼の本質はただのギャーソリン中毒者であることが伺えて心底ゾッとしてしまった。スピンドーがブンブンに執着してるのは事実だが、彼にとって最も大切なのはブンブンを痛めつけることで放出される最高のギャーソリンを味わうことであり、ブンブンの存在は自分の快楽を増幅させるための「お気に入りの道具」以上でも以下でもないというのが本当に悪辣で、これは製作陣の意図そのままであろうからむしろ褒め言葉であるが、常槍、内藤、スピンドーと三者三様に徹頭徹尾「大人がキショすぎる」のが凄い。

 目から灯りが消え、動かなくなったブンブンのボディに落ちる無機質な雨音と大也の慟哭。これで次回が最終回だったらもう速攻で「ブンちゃんは治ります!キショイ大人はブッ飛ばします!」となるところだろうが、何とあと4回放送があるので、もうしばらくこの絶望が続くのかと思うと本当に気が重い。が、一方で何があっても(今は裏入りのポジションについている射士郎でさえ含めた)仲間を信じ、頼り、「あんたの考える本質がどうであれ俺は、あんたたちの言いなりになんてならない!聞こえた悲鳴には必ず駆けつける。それが俺のハンドルだ!」と啖呵を切る大也の勇ましい姿には涙がこぼれるほど胸が熱くなった。大也役 井内悠陽さんと、その懸命な生き様で着ぐるみキャラクターを超えてひとつの生命体としての葛藤と躍動を見せてくれたブンブン役藤田洋平さんの名演技に拍手を送りつつ、次週45話「地球の敵」を迎え撃ちたい。

▲噂のVoice Bar DonDon で見かけたスーパー1のポスター、かっこよすぎる…!!



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桐沢たえ
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