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ニチアサの話がしたい vol,210


■今週のガヴ

・「改造」されたガヴ

 「仮面ライダー本郷猛は、改造人間である」
 初代『仮面ライダー』のOPの最後に差し挟まるナレーションでも分かるとおり、「改造」は仮面ライダーが背負ってきた重たい十字架であると共に、仮面ライダーのアイデンティティーそのものでもある。その後、時代の流れと共に人工移植手術がSFではなく現実の医療として広まり出したことなども受け、殊平成ライダー以降の「改造」の解釈はより広義なものとなった。『エグゼイド』や『ビルド』などライダー誕生の背景にガッツリ手術や実験が絡む作品もありつつ、どらかというと「人ならざる力をある日突然身につけた」という要素が「改造」の名残としてストーリーに組み込まれることも多くなった。が、令和ライダー6作品目にして、ついに「改造手術」という言葉が出てきたのが今週の『ガブ』5話「思い出がヒリヒリ」である。しかもそのことを、またしても空腹で行き倒れたショウマを拾った大叔父デンテ・ストマックが、いかにも陽気に「手術、成功しとったんか~!」「幼いお前のガヴを改造してやったじゃろ~!」と激白してくるのだからこちとら初手から面食らいまくりだ。いわく、人間の血を引いたショウマのガヴからは眷属を生み出すことができず、そのことを心配した父・ブーシュは「あの子にたくましく生きる力を与えてやってほしい」と当時ストマック者の技術者だったデンテに頼み、ガヴの改造手術をするに至ったという。しかし、人間の手術は初めてだったこともありなかなかうまくいかず、そのうちにショウマに愛情を持つようになったデンテは人間のことを学ぶために単身人間界に渡るものの、そこで出会った人間のお菓子の美味しさの虜になり、山奥の洞窟で隠居暮らしをしていたというのだ。

・命か、幸せか

 更に衝撃だったのは、デンテとショウマの会話から、ショウマの父ブーシュはスパイスの原料として人間界から攫ってきた人員のひとりだったみちるに一方的に惚れ込み、ショウマを身籠らせたと判明したことだ。ウ、ウワァ……!もうこれにはさしもの筆者もドン引きである。仮に出会いは「原材料と社長」だったとしても、せめてみちるさんとブーシュは種族を超えた愛で結ばれて結婚し、ショウマを授かった……とかであってほしかった……。これでは本当にショウマの出生に救いようがなさすぎて、いにしえの身振り「orz」を取らざるを得ない。

 更にブーシュは、人間のことをよく思っていないランゴ兄妹たちからみちるとショウマを守るため、また、幸せにしてしまうとスパイスとしての価値が上がってしまうために屋敷の中に幽閉していたというのだ。命か幸せか。残酷な2択を迫られたブーシュは2人の命を取り、そんな暮らしの中だからこそ強く生きられるようショウマに眷属を生むガヴを与えたがったということだろう。それをデンテは「ブーシュなりの愛情」だったと言うが、無論、そんな身勝手な父親の存在にも、それを「仕方なし」とするデンテの考えにもショウマは反発する。異世界で理不尽な目に遭わされ、苦しんできた母の姿を幼少の頃から目の当たりにし続けてきた彼にとっては受け入れ難くて当然だろう。その一方で、ブーシュやデンテが人間をただのスパイス以上の存在として愛し、彼らがグラニュート界で生きていけるよう何とかしてやりたいという気持ちを持ったのも事実であり、実際彼らが隔離したり手術をしなければ、今こうして仮面ライダーとして戦う力を持ったショウマはおそらく生き残ることすら難しかったわけで、一概に彼らを責めることもできないというのが複雑だ。(いや、そりゃそもそも人を攫うなというところに立ち返れば彼らが紛れもなく「元凶」ではあるのだが……)

・意外と経営がマトモ?!

 また、このデンテ。人間をヒトプレスに変える技術を作った凄腕の開発者であり、現在技術開発を担当とする次男ニエルブの師匠でもあるという。そもそも闇菓子はデンテの父、ショウマたちの祖父が生み出したもので、それが現在グラニュート界では「違法な嗜好品」として流通しているが、摘発される前に良質なスパイスを使った高品質な闇菓子で富裕層を取り込み、グラニュート界の掌握を狙っているというのだ。てっきりグラニュート界では闇菓子以外のお菓子は存在しないのかと思っていたので驚きだし、(街中で普通のお菓子を買う一般グラニュート人のジューマン感が可愛い)オブラートに包まずにわりと直球で現実のドラッグ市場とも重ね合わせられるシチュエーションであるところにもドキッとさせられる。その上でちょっと笑ってしまったのが、ショウマにちょっかいを出すことに夢中になり仕事をサボり気味のシータとジープにランゴが「家族であっても役に立たないならクビ」とビシッと宣言したところだ。ストマック家は、昨今不祥事が報じられることも多い所謂「家族経営の会社の危うさ」みたいなものが下敷きにあるのかと思いきや、ある日突然自社商品の原材料を見初めて子どもまで作ってくる父親が社長なのはヤバいと判断する常識人のランゴが社長をやっているため、事業内容はともかく経営は意外とマトモというギャップが笑える。

・「幸せになっていい」と信じられる強さ

 自分たちの苦労も知らずに勝手なことばかり言うデンテにたまらない気持ちになったショウマは肩にかけられた大叔父の大きな手を振り払い、外へと駆け出す。「いつか一緒に人間の世界に戻ろうね。あっちで幸せになろうね」そう涙ながらに抱き合った母の温もりに思いを馳せていると、どこからか子どもの泣き声が。見るとそこには側溝網の隙間にお気に入りの人形を落としてしまった少年と、側溝網を外そうとするも力が足りず諦めそうな母親の姿が。困り果てる2人に、ショウマは一瞬だけ「この2人も、幸せにしてしまったらスパイスとして価値が上がり、また危険な目に遭わせることになってしまうのでは」と思い巡らすが、泣き続ける子どもを放っておくことなど彼にはできず、自慢の腕力で側溝網を持ち上げて人形を拾ってやる。満面の笑顔でお礼を言いショウマに手を振りながら去る親子。その様子を見ながらショウマはあるひとつの結論に至る。「そうだよ、幸せにしちゃいけないんじゃない!人間をスパイスにする方が悪いんだ!!」もう「それはそう!」の一言である。

 かつ、ここでシナリオの積み重ねが丁寧だなと思ったのは、前回仲村夫妻の元に帰らなかった自分の行いは、「わざと不幸にして大切な人の命を守る」という、かつての父親が自分と母に対してやったことと同じだということをショウマに気付かせた上で、「幸せになることは人が持つ当然の権利であり、幸せな人の命を一方的に奪う方に全ての非はある。経緯はどうあれ、彼らに対抗する力が今自分にあるならば、自分が人間を守り奪われた幸せを取り返そう」と彼自身の力で問題解決の糸口を掴ませたところだ。ショウマの境遇や今置かれている状況は生半可な辛さではないが、かつて母とそう約束したように「自分はこの世界で人間と一緒に幸せになるんだ!」と、つまり「自分は幸せになるべき存在なんだ」と信じられる強さを持ってるのは、突然連れて来られた異世界でも懸命に「母」を全うしてくれたみちるの強さを受け継ぎ、彼女にとても愛されて育った証拠に他ならないと思う。武部直美プロデューサーが『ガブ』は「混沌としてしんどい世の中において、子どもたちや大人に1人で考えて1人で生き抜く力を持ってほしいという番組」だと「スタートアップ !!仮面ライダーガヴ ディレクターズボイス」で明言しているが、それはただ単に「孤独に強くなれ。誰にも頼らなくてもいいように逞しくなれ」ということではなく「どんな状況でも自分は幸せになっていいと信じられる強さを持ってほしい」ということでもあるのかもしれない。

・コイツは、仮面ライダーだ!!

 また、このショウマくんの精神的な成長を祝福するように絆斗という存在が彼の前に現れるという展開もめちゃくちゃ良い。絆斗はゴチゾウに導かれて見つけたエージェントたちがヒトプレスを所持しているのを見て、思わず彼らに石を投げ込んで自ら囮になるという道を選んでしまう。「何してんだ俺……これっぽっち時間稼いだところで、意味なんか……」そうつぶやく絆斗はエージェントの銃撃の衝撃で頭を打ち、すぐに気を失ってしまうが、その「これっぽっちの時間稼ぎ」のおかげでショウマはその場に駆けつけることができ、絆斗のちいさな勇気は「意味なんか、ありまくった」ことになるのがアツすぎる。

 デンテからもらったピリ辛ポテトチップから生み出されたヒリヒリチップスゴチゾウの力で火炎を纏ったザクザクチップスラッシャー。そのアツアツヒリヒリな攻撃でエージェントを追い払ったガヴは、絆斗と協力してヒトプレスにされた人々を元の姿に戻す。無事に解放されたはいいものの、目の前に立つ謎の仮面の生き物に「バケモノ!!」と怯える人々。またこうなってしまうのか……とショウマも視聴者も私たちも肩を落としかけたところに、まるで雲の切れ間から光が射すような絆斗の声がこだまする。

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