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ニチアサの話がしたい vol,219



■今週のガヴ

・「双子の片割れ」トレンド入り

 クリスマスを待たずに衝撃展開を迎え、見終わってからもしばらく呆然としてしまった今週の『ガヴ』第14話「奇跡の覚醒!ケーキング」。放送終了後「双子の片割れ」がトレンド入りまで果たしたガヴ対シータ&ジープの戦いは、なんと「シータに庇われ、ジープだけが生き残る」という世にも残酷な結末となった。例えやられてしまうとしても、「最期は2人手を繋いで一緒に」だとばかり思っていた筆者は驚愕し、もし公式が路上を歩いていたら「エクスキューズミー、Where is a 人の心?」と尋ねているところだ。確かに私は「シータとジープは大変良いキャラなので年内退場は勿体ない」と思ったし、この連載にもそう書いた。が、だからと言って「ですよね!なのでまずジープを助けるためにシータには彼の目の前で死んでもらいます!そしてジープは発狂しながら消えた片割れと同じ髪型になり、一人で二人の『双子』の復讐鬼として年明け以降も大活躍してもらいます!」が待っているとは微塵も思わなかった。鬼かよ。

 もちろんシータとジープはショウマの母 みちるを始め、罪もない人間たちをヒトプレスに変えてきたれっきとした悪人であり、それはもう文句なしに御されるべき存在と言えるのだが、一方で、先週ショウマの視点で回想されていたストマック家での誕生日パーティーのシーンには「サイド・オブ・シータ&ジープ」とも呼べるもうひとつの悲しい物語があることが明かされ、とてもじゃないが「悪い双子をやっつけられて良かったね!」だけでは済ますことはできない、何とも痛ましい余韻を残す一話にもなっていた。

・「姉さん」「兄さん」ではなく

 兄弟でひとつのテーブルを囲み、豪華な料理やバースデーケーキ、プレゼントでお祝いをされるシータとジープ。ショウマが窓の中から見かけたその誕生日パーティーは、一見すると幸せそのものであったが、実際には兄や姉たちは乾杯だけ済ませると「もうちょっといてよ」という双子の言葉も聞かず、早々にそれぞれの仕事に戻ってしまっていた。その場に顔を出すことすらしなかった父 ブーシュは「お父さん」と甘えてきた彼女たちの手を邪険に振り払い、ショウマの強化に没頭。幸せにならぬよう幽閉されているショウマの部屋を覗けば、そこには自分たちとは違い母親に日々愛されながら暮らしているショウマの姿が……。

 あんなに大きなバースデーケーキが用意されながらも、結局自分たち以外とは誰とも分け合うこともできなかったシータとジープ。そこから生まれた寂しさや嫉妬心は、彼女たちにショウマの花を踏みつけさせ、さらには「ジープはずっと一緒にいてね」「シータだけは一生離れないでね」「「何があっても俺たち、私たち二人は永遠に……」」と互いに共依存関係を深める原因にもなっていったというわけだ。先週の「ニチアサの話がしたい vol,218」で「二人が幼い頃からショウマを疎んできたのは『人間との混血だから』だけではなく、ショウマの何かが彼女たちのコンプレックスを猛烈に刺激させるからなのではないか」という仮説を立てたが、それが不幸にも的中してしまったかたちとなる。人間なんて闇菓子の材料でしかないくせに、「赤ガヴ」は私たちと同等になんかなり得ない出来損ないのくせに、それなのになぜか彼には母親がいつもそばにいて、自分たちの父親にもいちばん関心を持ってもらえていること、そのことがふたりぼっちの双子には悔しくて疎ましくて羨ましくてたまらなかったのだ。「俺たちにはもう、私たちしかいないのに!お前はそれすら奪う!」泣き叫ぶようにショウマを糾弾するシータとジープ。ここまで懇切丁寧に、いかに彼女たちが理不尽と寂しさに耐えてきたかを説明されてしまっては、さすがにこちらとしても「この子たちもある意味、ストマック家という呪われた血筋の被害者なのでは……」とかなり情緒がグラついてしまうのだが、しかし、これで怖気付くほどショウマはもう弱くはない。「俺が奪った?母さんの人生を奪って、たくさんの人間の命を奪い続けたのはお前たちだろ!」と、ぐうの音も出ない正論で毅然と立ち向かい、「シータ、ジープ!ここで決着をつける!」と、これまで名前の後ろにつけていた「姉さん」「兄さん」という敬称を外し、目の前の二人は「倒すべき敵」なの覚悟を決めるショウマの精神力の強さが眩しい。

・愛を斬る、家族を斬る

 幸果とケーキを分け合って生まれた新たな力、ケーキングフォームの力は圧倒的で、ショウマは双子を追い詰めるとケーキングゴチゾウをガヴホイッピアにセットし、必殺技の構えに入る。ホールのショートケーキと生クリーム絞り器をモチーフにした、まるで魔法少女が妖精かた授かるような可愛らしい見た目からは想像もつかない高エネルギーが充填される中、ショウマの脳裏にふと「もしも」の景色がよぎる。もし、あの時二人が自分の差し出した花を受け取ってくれていたら、一緒に誕生日をお祝いできていたなら、そうして一緒にテーブルに着いて「これ美味しいね」と笑い合って、そんな風に「あんたたちとも、一緒にケーキ食べられればよかったのかもな……」と。無論、ショウマはみちるからストマック家で作るお菓子は決して食べぬよう言われていたわけだし、そんな未来はいささかもあり得なかったわけだが、それでもそう思わずにはいられないところが、「彼らは家族ではなく敵」と腹を括りながらもどこか冷酷になりきれないショウマの温情、人間らしさがよく出ている。

 ガヴホイッピアから放たれた衝撃波がジープに迫る中、シータは寸出のところで彼を突き飛ばし、「良かった……」と呟くと自分だけが爆破の犠牲者となる。このシータの今際の際の言葉が「良かった……」だったのがほんとうにしんどい。「良かった……」って……全然良くねえわ!!そこにはもしかしたら「残されるのが自分でなくて良かった」というニュアンスが無いでは無いかもしれないが、それでも大部分としては、自分の命よりも大切な人を守ることができて「良かった」という安堵なわけで、そういう誰かを思いやる心や愛情をきちんと持っている相手を、家族を、斬らねばならないのが仮面ライダーガヴというヒーローなのだという宿命があまりに苦い。

・同じ2人のたったひとつの「違い」

 「シータ……ウソでしょ……?」最愛の人を跡形もなく消し去った炎がまだくすぶる中、燃え残ったシータの遺品を震える手でゆっくりと握りしめ、それらに顔を埋めて「嫌だ……嫌…ア、アアッ……!」と、認め難い現実に嘆き悶える、ジープ役酒井和真さんのお芝居が息を呑むほど凄まじい。その慟哭を目の当たりにし、追撃をつい躊躇してしまう縄田雄哉さん演じるガウの複雑な表情も切ない。弾けるように「うわぁああーーっ!」と叫んでその場を走り去ると、絶望の雨に打たれながら町中を彷徨い続けるジープ。『ずっと一緒に』と誓ったはずの自らの半身は、最後の最後でその約束を破り先立ってしまった。何もかも同じはずだった彼女たちだが「ジープだけでも生き残ってほしい」という願いは、この世でたったひとりシータしか持ち得ないものであり、それが双子の唯一の「違い」だったのというのがあまりにも酷だ。その事実を未だ受け止めきれないジープは「シータ……どうして!シータぁあ……!」と狂乱しながら短剣を手に取り、美しく手入れされた自らの黒髪を荒々しく断ち切る。それは精神的なストレスから逃れるための、自傷行為としての断髪にも見えるし、あるいはシータと同じ髪型にすることで、自分の中に彼女の存在を取り戻そうとするようにも見えて痛ましい。やり直しがきかない一発撮りという緊張感の中、ジープの狂気と激しすぎる悲しみを体当たりで演じ切ったジープ役古賀瑠さんの怪演が、放送を見終わった後もいつまでも脳裏に焼き付いていた。

・ケーキってすごい

 と、ここまでは「自分たちがどんな厳しい状況であれ、人を妬んだり、誰かの善意(ここでは誕生日に渡されたショウマの花がその象徴)を踏みにじるような『誰ともケーキを分け合えないような人』になるといつか不幸が帰ってきますよ」という教訓が多分に含まれているシータとジープの話をしてきたが、ここからは彼らとは逆に「ケーキを分け合った人たち」であるショウマと幸果の話をしていこう。

 前回ラストで崖から落ちたショウマは持ち前の頑丈さで一命を取り留め、探しに来た絆斗と共にはぴぱれへと戻る。ボロボロのショウマの姿を見て事情を聞こうとする幸果に「俺またすぐ出なきゃいけないかもしれないから、早く一緒に食べたいんだ」と冷蔵庫に入れたままだったケーキを差し出すショウマ。幸果は戸惑いながらもそれを受け入れ、共にケーキを食べることに。そして一口食べてびっくり。「クリームもスポンジもいい感じでガチうま!ウマーショ天才!」そんな幸果の弾けるような笑顔に「ほんと!?」と安堵の表情を浮かべたショウマは自分でも一口。ここから初めて大切な人と一緒に作って分け合ったケーキの感動が、やや長めのショウマのモノローグで語られる。ここまであけすけな独白はもしかしたら子ども番組ならではと言えるのかもしれないが(通常の映画であれば「それを芝居だけで伝えろよ!」となるため)香村先生の言葉が持つ文学性も相待って、個人的にはとても好きなモノローグなので、一度ここで全文引用させていただきたい。

おいしい……
でもなんだろう?この感じ今までと違う
おいしいって感動だけじゃない
何か、あたたかい力が俺の心と体に満ちてく
ケーキってすごい
作るってすごい
一緒に喜んでもらえるって、すごい!

 ショウマ役 知念英和さんの幸果やケーキを眺める幸せそうな眼差しと、「すごい」と三回連続で言ってしまうくらい、心の底から自然と湧き上がってくるショウマの喜びの純度、それが伝わってくる真っ直ぐな声。そしてそれら全てを穏やかに、あかるく包み込む坂部剛さんの劇伴のきらきらとした旋律。(しかもこの劇伴のタイトルが「母さんのいた世界」というのがまた……!)ショウマにとってこの瞬間がいかに大切なものかが分かる映像であると同時に、そこには番組を観ている子供たちに対する「誰かと一緒にものを作るってとっても楽しいことなんだよ」「目の前のちいさな幸せをしっかり味わえる子になってね」というようなやさしいメッセージが込められているようにも感じられ、何度見返してもじわ~っと涙が滲んできてしまう。

・笑顔で返す、「母さんのいた世界」を守る

 また、筆者は心から思うのだが、ショウマに「絶対帰んなきゃ……幸果さんと約束があるんだ!」「幸果さんには元気もらってばっかりだ。ここでやられて悲しみで返すわけにはいかない。これからもっと笑顔でお返ししていくんだ!」とまで言わせながら、けれど彼が幸果に抱いている気持ちは決して恋愛感情ではないというのが本当に素晴らしいと思うのだ。幸果はヒロインでありながらライダーシリーズにおける「おやっさん」枠も兼ねているというちょっと珍しい存在だが、自分に元気をくれる幸果に笑顔で恩返しすることが、結果的に喪ってしまった母への弔いであり、この世界を守ることに繋がっていくというのがすごく素敵だと思う。また、お菓子を食べるだけでなく、お菓子作りの楽しさに気付いたショウマを観ながら、『アギト』好きの私はついつい「ショウマ、最終回でお菓子屋さんを開いたらいいんじゃないかな」などと夢想してしまった。

 そして最後に絆斗推しとしては(ここではちゃんと言ってなかったかもしれないが、筆者は絆斗&ヴァレン推しです)前回街中のキャンペーンで「ラムネどうぞ」と渡され、甘いものが苦手なのにも関わらず断りきれなくてついコートの内ポケットに忍ばせてしまったそれが結果的に崖下で瀕死の状態だったショウマを救うことになったり、事情を明かせない幸果にとっさに「ショウマは散歩に出たら喧嘩に巻き込まれた」と方便を使ったり、SNSの書き込みにショウマが自分とは違う何かを読み取ったことを悟り、それが母親の仇に関することだと分かると深く理由は聞かないまま「けど俺とも約束しろ。やられんじゃねーぞ!」と拳と拳を合わせてショウマに「帰る理由」をもうひとつ与えてくれたりと、「絆斗がとにかくイイ奴」だから何とかなった局面が多いところも記しておきたい。(でも、絆斗は結局、ショウマが作ったケーキは勧められても一口も食べておらず、そこは「分け合ってない」んだよな、という一抹の不穏もまたミソな気がする)

■今週のスーアクさん

・荘厳なる白き王、ケーキング!

 人間界で爆発事故を起こすという卑劣な手段を使って自分を誘い出したシータとジープと再戦するショウマ。まずもって最初のホッピングミフォームに変身した後、俯いた状態からゆっくりと顔を上げ、双子を睨みつける縄田ガヴさんに痺れてしまった。もうGIFにして100回観たいくらいカッコいい。そして「昨日あんなに痛めつけたのにもうこんなに回復してる!」とショウマの回復力に衝撃を受けつつ、アクロバットな動きで応戦する五十嵐睦美シータさんと、酒井ジープさんの身体能力にも引き続き驚かせられる。(特に酒井ジープさんの、側転からの2回半捻りみたいな跳び技が凄すぎる……トランポリンもない場所でどうやったらあんな曲芸ができるのだ……)「今戦えてるのは幸果さんと一緒に作って、一緒に食べたケーキの力だ」ショウマがそう悟った時、彼のガブから新たな眷属「ケーキングゴチゾウ」が誕生。それを使うことでガブは「ケーキングフォーム」へとチェンジするのだが、まずこのケーキングフォームのビジュアルが文句なしにカッコ良すぎる。

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