ニチアサの話がしたい vol,216
■今週のガヴ
・カミホリ監督ってスゲェ
「カミホリ監督ってやっぱすげぇ……」と感動しきりの30分だった。『リバイス』の頃からカミホリ(上堀内)監督が撮影に選ぶロケーションの素晴らしさについては度々この連載でも書いてきたが、今回監督として初参加となる『ガヴ』でもそれは健在であった。ショウマがアルバイト代を貯めてやって来たという「ちょっといい、でも高級すぎないお寿司屋さん」のチョイス。ネットで知り合った「彼氏」との逢い引き場所となる、古びたビルの2階にひっそりと佇む喫茶店。そこへと続く不安と好奇心を掻き立てる迷宮めいた螺旋階段とダイヤ模様の床。ランゴと幸果がすれ違う、やけに空ばかり広い屋外の通路……選び抜かれたロケ地が醸し出すドラマティックな空気感と、そこに立つキャストの表情の機微を捉えるカメラワークからなる抜群に美しい映像。藤田AC監督による工夫を凝らされた大迫力のアクションシーンとの相乗効果で、今週のガヴ11話「あまい言葉にご用心!」は、さながら劇場版のような完成度であった。
冒頭のお寿司屋のシーンはロケ地も素晴らしいが、キラキラと輝く新鮮なネタが乗った寿司をこの上なく美味しそうに食べるショウマ役知念英和さんの顔も凄く良いし、寿司ランチをペロリと完食したショウマが「次は何にしようかなあ~」と言いながら「おいしいものノート」に書かれた食事のリストを蛍光ペンでチェックしているシーンも感慨深い。3話で筋元にお菓子だけではなく食事もしっかり食べろと言われたショウマがその教えを守り、また生活の楽しみとして食事を楽しんでいるというのも、お菓子だけで空腹を満たそうとしていた初期の彼から比べるとずいぶん人間的な成長が見えてグッとくるというものではないか。その後、ショウマは最近「彼氏」ができたという姉・栄美と、姉はロマンス詐欺に引っ掛かっているのではと心配する妹・葉奈に出会い、何と「何かお困りのことがあればお手伝いします」とその場で営業をかけ(ショウマくん、すごいぞ!)姉妹ははぴぱれで栄美の彼氏、ニワについて探ってもらうことに。ここで番組としてはアバンからOPに移行するのだが、なんと今回からラストカットのゴチゾウが増員していて「増えとる!」と驚いてしまった。しかもショウマたちの後に着いていこうと飛び上がったザクザクチップスゴチゾウが顔面から地面に落ち、それを避けようとしたグルキャンゴチゾウが地にズッポリ埋まってしまうなど、相変わらず「可愛い」の中に一匙の「可哀想」を入れてくるところが効いている。
・ロマンティックハンティー
栄美は件の「彼氏」のニワとはネットで知り合い、これまではメッセージのやりとりしかしていなかったが、ついに明日デートの約束をしたという。しかし、ニワから「僕の写真です」と言って送られてきた画像はどこからどう見ても絆斗そのものでショウマと幸果は仰天する。ウブな栄美はニワから送られてくる愛の言葉にメロメロにされており、端から見れば歯の浮くのようなそのポエミーなメッセージを送るニワの様子が、夜景をバックにタキシードでキメた絆斗の姿でみんなの脳内に再生されるのだが、絆斗役 日野友輔さんの振り切った芝居も相待って三度の飯より様子のおかしいキザが好きな筆者もさすがにゾワゾワしながら笑ってしまった。「僕の心は砂漠も同然だった。そこへ栄美さん、君というオアシスが現れた。辿り着いたそのときにはたちまち花が咲き乱れ、森を超えて海へと変わるだろう!」と壮大になりすぎたポエムのシメに、「コイツ何の話してんの?」と容赦ないツッコミを入れる幸果も、「栄美さんと辛木田さんって実は情熱的だったんですね!」と明後日の方向に勘違いしているピュアすぎるショウマの反応もそれぞれで楽しい。結局のところ、実際にはぴぱれに絆斗が呼び出されたことで、ニワはネットに上がっていた絆斗の画像を無断で使い、自分の顔写真と偽って栄美に送っていたと明らかになり、詐欺ではないかもしれないものの外見を偽装するような人は「やめとけ案件」だと言われた栄美はしょげる。そんな彼女の姿を心配そうに見つめるショウマの姿がやや長めに入るところも、登場人物の感情の移り変わりを大切にするカミホリ監督ならではの筆者のお気に入りカットだ。
一方、勝手に顔写真を使われた絆斗は「お返しに取材して記事にしてやンだよ」と意気込み、明日の待ち合わせに潜入すると宣言。転んでもタダでは起きないところがバイタリティー溢れる彼らしい。しかし、翌日絆斗が待ち合わせの喫茶店に行くとそこにニワらしき人物はおらず、「好きになったのは彼の言葉だから、本当のニワに会ってどんな人が確かめたい」とニワのもとへ向かった栄美とは、その途中で連絡が取れなくなってしまうのだった……。
・テーブルの下の、手と手
ショウマたちの物語はここから栄美を攫ったグラニュートとのバトルシーンへと展開していくのだが、筆者が今週もうひとつ物凄く記憶に残ったのは、「10日で赤ガウを始末し、質のいい人プレスを5ケース用意する」という約束を守れなかったシータとジープのシーンだ。ランゴにクビを通達され、そればかりかそれぞれ政略結婚の駒になるよう命じられてしまった二人は「結婚しろってのか?どっかの知らねえ偉いやつと!?」「私たち、離ればなれになっちゃうじゃない!」と悲鳴のような声を上げる。妹たちの叫びに「そのくらいは役に立てるだろ」と冷たい嘲笑で返すランゴに、呆然としながらもテーブルの下でギュッと固く手を握るシータとジープを見た瞬間、彼女たちの「俺たちは、私たちは、離ればなれになんて死んでもならない」という悲痛な覚悟が伝わってくるようで、なんだかもう胸の中がぐちゃくちゃになってしまった。ショウマを「出来損ない」と蔑み、人間を見下し、全てをケラケラと笑ってきたシータとジープだが、そんな二人のたったひとつの願いは「ずっと二人一緒にいたい」ということだけだったのかと思うと本当につらい。彼女たちとって唯一の生きる望みがあろうことか実の兄によって絶たれようとしている今、シータとジープはどんな行動に出るのだろうか……?
・覆されたランゴのイメージ
そして今週はランゴが人間界に赴く展開も見どころのひとつだろう。居なくなった栄美を探す幸果は偶然繁華街の路上でランゴを見かけるが、その圧倒的なオーラで自然と雑踏が避け、すれ違っただけの幸果も鳥肌全開になってしまうシーンはまさにランゴ役を務める塚本高史さんの存在感あってこそ成立したものと言えるだろう。彼の周りだけ時が止まったように不協和な電子音が一定の音程で流れ続けている音響演出も不気味で、とても印象的なシーンに仕上がっていた。また、これまでは何があっても眉ひとつ動かさない冷酷な人物のようにも見えたランゴだが、ショウマの戦いを視察しに来た際、ショウマになぜここにと問われ「ん~?シータとジープをクビにしたからなぁ」と、リビングで家族と話すようにのんびりとした口調で返したり、自分だけでなくシータ姉さんたちまでそんな扱いをと憤慨するショウマに「お前が言うか?誰のせいだと思ってんだ。お前のせいだろ!」と、かなり「ごもっとも」な反論をしたり、戦いを終えたガヴを見て、なるほどねとばかりに「ウン」と何度か軽く頷いてみせたりなど要所要所でかなり人間臭く、このあたりの匙加減はカミホリ監督のディレクションなのか塚本さんのアドリブなのかはわからないが、これまでのランゴのイメージをいい意味で覆してもらったシーンであった。番組構造的には「悪の親玉」のポジションであるランゴだが、「社長」であり「長兄」でもあるという彼の魅力はまだまだ計り知れない。
■今週のスーアクさん
・路地裏セットアクション!
今週は路地裏のバトルがとにかく素晴らしかったので特定のスーツアクターさんの話というよりアクションシーン全体の話をさせてほしい。いやマジで凄かったよ!!何だあれ!?劇場版か???
栄美とニワが待ち合わせをした喫茶店の近くで本を読んでいた小学生男児。彼こそがニワの正体であり、栄美をヒトプレスに変えたグラニュート・アーリーであった。(まだ年端もいかぬ少年の口から迫力満点の田中美央さんの声が飛び出してくるギャップもいいし、何よりカミホリ監督も太鼓判を押したそうだが、この小学生を演じる加藤岳くんの芝居がめちゃくちゃに上手すぎてビックリだ)ランゴが生み出した二体のエージェントとアーリーはガヴに変身したショウマに襲いかかるも、ガブの構えから迸る殺気で、一瞬気圧されるという導入がまず超カッコ良い。三対一という数だけで見ればガヴの方がどう見ても不利な状況だが、袋小路かつ足場が複数存在する路地裏という地の利を活かし、軽快な身のこなしで立ち回るガヴ。室外機を踏み抜き、窓枠をブチ抜き、二階バルコニーの手すりごと敵を突き落とすド派手なアクションに圧倒されつつ「さすがにこんなに自由にやらせてくれるロケ場所はねぇだろ!」と思った通り、この場所は撮影所内の通路に建てられたセットとのこと。渋谷あたりの裏道を彷彿とさせるグラフィティーアートがそこらじゅうに描かれ、生活感のあるゴミ袋やパイプ椅子に始まり、業務用の資材や段ボール、ビールケース、果ては看板、コインロッカー、自動販売機に至るまで、リアルな路地裏を表現するために大小さまざまな様々な物品が所狭しと配置されており、見れば見るほどその作り込みの凄さに感動してしまう。屋外に立て込まれた凄まじい完成度の美術セットといえばドラマ『HiGH&LOW』シリーズなどが有名だが、東映特撮で(しかも週一放送のTVシリーズで!)見られるとは思わなかったので興奮しきりだ。単管パイプから垂れ下がった電線に足を絡ませ、中空でガヴを翻弄するエージェント役のスーツアクターさんの機動力も素晴らしく、栄美のヒトプレスを持って逃げ仰せるアーリーを追おうとしたガヴの体に自動販売機を倒して押し潰すシーンなども、ただ足止めするだけではない凝った演出にテンションが上がる。桁違いの戦闘を持つランゴのエージェントに苦戦するガヴはゴチスピーダーに乗せたチョコダンを使い敵の注意を引くと(エージェントに足蹴にされ、号泣しながら彼方まで吹っ飛ぶチョコダンちゃんがまた可哀想で可愛い……製作陣にキュートアグレッシャーでもおるんか!?)グルキャンフォームにチェンジ。ブルキャンガトリングを放ち、どうにか二体のエージェントを撃破するのだった。
・「あまい」言葉にご用心
その頃、別ルートで栄美を探していた絆斗は、ショウマから逃げる途中のアーリーを発見。その手にまだ無傷の栄美のヒトプレスが握られているのを見て「まだ間に合う!」とヴァレンに変身する。チョコの銀紙をまるで羽根のように散らしながら走る姿は美しく、そのままアーリーに渾身のドロップキックを決めるヴァレンの相変わらずの全力投球っぷりが気持ちいい。「赤ガヴ!?じゃない!」と驚くアーリーに「後輩のヴァレンだ!よろしくな」と軽口を叩きながらヤンキー感ある蹴り技を繰り出し、威勢よくヴァレンバスターを撃ち込むヴァレンだが、防御力の高いアーリーには一向に通用しない。それでも不屈の根性でアーリーに喰らいつき続けるヴァレンは、わざとアーリーに自分の体を噛み付かせ、その隙に栄美のヒトプレスを奪い返す。文字通り、「肉を切らせて骨を断つ」捨身の戦法が、もう二度と師匠の二の舞はごめんだというヴァレンのヒロイックさを引き立て、もうちょっとウルッとくるくらいカッコ良かった。「ヴァレン!」「先輩!」そう言ってヴァレンから託された栄美のヒトプレスを解放するガヴ。ここで皮肉なのは、「好きになったのは彼の言葉だから、本当のニワに会ってどんな人が確かめたい」と、大切なのは内面であり外見は二の次だという主旨の発言をしていた栄美が、ガヴ見るなり悲鳴を上げ「近寄らないで……!」と怯えることだ。どんなに綺麗事を並べても、実際にその状況になってみると自分の言ってることとやっていることが真逆になってしまうこともある。もしかしたら栄美が一番「用心」しなくてはいけなかったのは、ニワが囁く愛のポエムではなく、そんな自分自身の「あまさ」だったのかもしれない。「近寄らない……だからあっちに逃げて!」と叫ぶが混乱し動けない栄美に、「あーもう!」と言ってわざと近づき、彼女を走らせるショウマの悲しいやさしさ。逃げ去っていく栄美の背中を見送りながら、胸をギュッと傷ませる縄田ガヴさんの横顔もほんとうに切なかった。
・やってきてしまった「その時」orz
番組終盤、アーリーの火炎攻撃をモロに喰らったヴァレンは意識を失い、変身解除されてしまう。煙の中から現れた絆斗の姿に「え……辛木田さん?」と衝撃を受けるガヴ。先週「縄田ガヴさんと鍛治ヴァレンさんの仮面芝居が見れるなら、このままずっと身バレしなくてもいい!」と書いた翌週にこれかい!と思わず古の身振り「orz」を取ってしまったことは正直にここで告白しておこう。そりゃ確かに絆斗とショウマが行動を共にし始め、さらにガヴとヴァレンが共闘するようになったとなれば、お互いに身バレしてしまった方がドラマを作る上で色々なことがスムーズになるのは分かるし、身バレしてから更に深まっていくショウマと絆斗の関係性や物語ももちろん楽しみだ。それでも私は変身するとヴァレンに対してちょっと大人ぶってカッコつける縄田ガヴさんが好きだったし、それまでショウマの世話を焼いてきたお兄ちゃん気質の絆斗がひとたび変身すると「先輩!」と駆け寄ってくる感じもめちゃくちゃ可愛いと思っていただけに、「あと2ヶ月……いや、クリスマスくらいまではこのままでいてほしかった……!」と涙を呑まずにはいられなかった。ああ、神様仏様香村先生。もし良ければ、身バレ後もガヴとヴァレンの仮面漫才をまたたまにやってください。どうか、人助けだと思って……お願いします。
■今週のブンブンジャー
・ブチ抜き!平成セクシービンゴ!
何度観てもカッコいい、そして何度観てもやっぱり“変”な回だった今週の『ブンブンジャー』バクアゲ37「二人のスパイ」。今回の感想も「射士郎のスパイ仲間ステアが現れるが、現在の相棒である大也との絆の強さでその策略を跳ね返す、スパイアクション満載のクールでアダルティーな魅力いっぱいな一話」という「オモテ」の話だけして終わらすこともできなくはないが、どーしても、どーーしてもそれだけでは終わらせられない要素が多すぎる。羽根!鎖で両手拘束!顎クイ!ニセモノ!目と目で通じ合う二人!互いのアイテムを合わせて同時変身!秘技「ズルいんだよ」返し!今この時代に古のビジュアルマガジン『HERO VISION』が健在だったら、射士郎と大也は手錠で繋がれて薔薇の花びらが舞い散るシルクのベッドシーツの上に転がされていただろうなと思わず考えてしまうほどに「平成セクシー」のビンゴの穴を全部ブチ抜いていく感じも笑ってしまったし、ニチアサで今やれる限界の「男と男の艶気」満載のシーンを全てその顔面の良さと芝居で、どこか爽やかささえ残しながら見事に演じ切ってしまう射士郎役 葉山侑樹さんと大也役 井内悠陽さんのポテンシャルの高さに改めて唸らせられた。
ところで、『ボウケンジャー』23話「あぶない相棒」でも元スパイであるブルー最上蒼太のかつての相棒が現れるという今回の話と似たようなエピソードがあるが、蒼太の場合は元相棒が男性であるのに対し、今回登場するステアは女性である。本作のモチーフになったと考えられる『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』に登場する女スパイ、イルサからイメージされたキャラクターだからステアの性別は女性になっただけで、他にとくに理由はないだろうが、好色家気質だった蒼太に比べ、「大也が大好き」と公式から発表されている射士郎の場合「昔の女」が出てくるより「昔の男」が出てきた方が状況的に(あと視聴者的に)は混乱したと思うので、ステアを女性にしたのはいろんな意味で英断だったと思う。
そんな全体的にしっとりした大也と射士郎のシーンとのバランスを取るためか、「もうすぐコツが掴めそうなんです!」「ずるい!5分やったら交代って言ったじゃん!」と、まるでゲーム機を取り合う兄弟のようにブンブンカーのコントローラーを奪い合う錠と未来。あるいは試食のソーセージを「うまぁ!なんだこれ!めっちゃウマ!」と気に入る先斗と、先斗が喜ぶならと大也の財布でそれらを爆買いするビュンディーなど、いつも元気なメンバーたちがいつも以上にキッズ感マシマシで描かれていたのもキュートで、特に敵を倒した射士郎を「かっこいいよ~!」と両手で作ったカメラフレームに収めたり、ミッションに失敗したステアがISA上層部に始末されてしまったと知って、重いムードになった瞬間に射士郎の頬をつねりに行き「やっぱホンモノだ!このテンション!」とみんなを笑顔にさせるCパートの未来などは、やはり彼女の明るさあってのブンブンジャーだな~とじんわり胸が暖かくなった。
・美貌の女スパイ「ステア」内藤好美さん!
そして今週のトピックスとして忘れてはいけないのは、射士郎のスパイ仲間ステア役に『ウルトラマンブレーザー』のアンリ隊員役の好演が記憶に新しい俳優の内藤好美さんがご登板となったことだ。極真空手黒帯参段師範代の資格を持つ内藤さんはなんと作中のアクションを吹き替え無しで担当。長い黒髪を靡かせながら、数々の修羅場を潜り抜けてきたであろうステアのスパイとしての実力が垣間見えるキレッキレのアクションをこなす姿がほんとうにカッコ良かった。また、アクションパートで言うとカメラグルマーが「焼き増し」をして作ったニセモノの射士郎の吹き替えをされていた方のアクションも素晴らしかった。背格好も葉山さんに似ており、倉庫でステアの銃撃をスピーディーに避けながらドラム缶の向こう側に飛び去るシーンや、射士郎が仲間たちと合流する直前の見事な落っこちなどはアクターさんの身体能力の高さが感じられ、思わず「おお〜!」と声が出てしまった。
射士郎の腕は買っているものの、敵となれば容赦ない冷酷さを見せるステアだが、その一方でブンブンジャーロボチャンピオンで見事カメラグルマーを撃破する様子を見て、ポツリと「イシロウ……」と射士郎の本名をつぶやくシーンは意味深で味わい深い。出会い頭では「今はなんと呼べばいいのかしら?」と、射士郎とコードネーム以外で呼び合うことは無いような素振りを見ていた彼女がなぜ射士郎の本名を知っていたのか。彼女の方が一方的に調べて知ったのか?それともかつては射士郎とお互い本名で呼び合う仲だったのか……?様々なパターンが考えられるが、その余白も含めて、同じ裏社会の「仲間」だと思っていた射士郎が、いまやブンブルーとしてキラキラとした新しい「仲間」と強い結びつきを持っていることに、射士郎の前では「ヒーローごっこをしているなんてガッカリ」と皮肉っていた彼女だが、その胸の内では言いようのない羨望のような感情と一抹の寂しさを覚えていたのだろうな、と察せられる内藤さんの美しく儚げなお芝居が心に残る。
・早く大人になりたい「少年」
また今週、短いシーンではあったが大也がなぜ「悲鳴」にこだわるのか、そのきっかけ(というかトラウマ)になった事件についても語られた。「製作陣の中では一応設定がある」としつつ、事件の詳細は描かず「当時の無力感や悔しさが今の大也を作った」ということをメインに伝える内容になっていたが、大人が観れば一発でかつて大也が両親と住んでいたマンションの隣室で子どもの虐待死があったことが分かる作りになっているところが苦しい。(死かどうかは定かではないが「取り返しのつかない出来事」という公式の文を見るに、やはり死亡事故だった可能性は高い)大也は日頃から壁越しに子どもの悲鳴を聞いていたが幼い彼にはどうすることもできなかった。そんな彼の苦しい胸中を知ったマヒロ先生が言った「大也くんのせいじゃない。私たち大人こそその声に動かなくちゃいけないの」という言葉を聞き、「僕は早く大人になる」と決意した大也。
番組当初から、クールでお金持ちで何でもできる、歴代の中でも珍しいくらい「大人」なレッド役に、オーディション時まだ10代だった井内さんを起用したのは意外な人選だと思いつつ、井内さんが時折見せる年相応の純粋な表情がまた「範動大也」という人間の奥行きを作っているなと思っていたが、まさか最初から「早く大人になりたい少年」という設定込みで彼を選んでいたのだとしたら……などと考え始めるともう普通に情緒がオーマイガッシュである。しかも、内藤はその過去を知りながら大也を「少年」と呼び続けているのも、大也の心を無力だった暗黒の子ども時代にいつでも引き戻せるように掌握するためではと思えてならない。「大人戦隊」と呼ばれて久しいブンブンジャーだが、大人とは何なのか、子どもと大人は何が違うのか、子どもは一体いつ大人になるのか……そんなことも『ブンブンジャー』は私たちに問いかけているのかもしれない。