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ニチアサの話がしたい vol,229


■今週のゴジュウジャー

・一撃必殺!ゴジュウダンス

 もう、この動画を1日に最低でも2回見なければ生きられない体になってしまった……

 というくらいツボに入りまくってしまった『ゴジュウジャー』のオープニング。ちょっとした風邪だったら聴いているうちに治りそうなWiennersさんの「WINNER!ゴジュウジャー!」の楽曲自体が持つパワーはもちろん、その景気の良さを更に盛り立てるダンスが本当に最高だ。近年でも稀に見る難易度とキテレツさを誇るこのオープニングダンスは、我らが彩木エリ先生が「覚醒」し「中途半端な状態では見せたくない。一撃ノックアウトしたい」と言ってプロデューサー陣にも途中経過を見せなかったというエピソードも残っているが、その気合いの入り方も頷ける、観る者の脳天に突き刺さるような「一撃必殺」ぶりだ。現に筆者も『超英雄祭2025』でダンスが初披露された際は「なんだこのダンス!」と、まさに「手を叩いて」大爆笑してしまったのをよく覚えている。田﨑竜太監督が「どうにか変身前と変身後と同画面に収められないか」と苦心して編み出したという等身大パネル演出も斬新かつにぎやかで楽しいし、前回「まさか初回放送のご祝儀的な計らいではないよね?」と若干心配していたスーツアクターさんの役名併記も、「通常OP」としては初となる今週の放送でもきちんと継続しておりホッと胸を撫で下ろすと同時に「マジでやっとスーツアクターさんの演じた役が毎回クレジットされる時代になったんだな」と改めて感慨に打ち震えてしまった。

 この采配に関してはプロデューサーの松浦大悟さんの独断とのことだが、それをことさらに「やってやりましたよ!」とアピールするのではなく求める声も沢山あったと思いますし、ことさら特別なことだという意識はないです。当たり前のことかなとと、実にフラットに捉えてくださっているのがスーツアクターファンとしては更に泣けるところだ。私の好きな言葉に、活動家で作家の松本哉さんの「革命後の世界を勝手に生きる」というものがあるが、古くからの慣習やしきたりを一様に「悪しきもの」として正義を振りかざし転覆させるのではなく、「そっちの方が今の時代、当たり前だから」と、「既に革命された世界」に先んじて「当然のものとして」生きることで、これまで誰もやれなかった、やらなかったことを成し得ていく松浦さんのスタンスにはすごく共感を覚えるし、いいなあと思う。もちろん、そうクールに振る舞いつつ裏ではたくさんの困難を振り払って実現してくださったことなのかもしれないが、とにかくこちらとしては「ありがとうございます」の一言に尽きる。

・怪力の竜儀、硬化のなつめ

 オープニングだけで長々語ってしまったが、本編の感想に入っていこう。今週第2話「ブン捕れお宝!オレの獲物だ」は、ブルーとイエローが正式に登場、そしてブライダンの「ノーワン」が人の願いを元にジェネレイティブ(生成)されて怪人となり、ゴジュウジャーたちと「ナンバーワンバトル」と繰り広げていくいう、これから番組が繰り返すひとつの流れが提示されていくわけだが、これをいわゆる凡庸なチュートリアル回にしないのが脚本の井上亜希樹子先生の手腕というところだろう。

 まずめちゃくちゃ面白かったのがゴジュウティラノに変身する暴神竜儀の登場シーンだ。下宿先の管理人である佐織を取り込んだトレジャーハントノーワン。彼が破壊したビルの跡地にやってきた吠の元に颯爽とグランドピアノを肩に担いで現れる竜儀。それだけでも驚きなのに、更にそれをドシンと地面に下ろすと「いやさか~いやさか~テガソードさま~♪」とその場で謎の歌を弾き語る始末。漫画『ハーメルンのバイオリン弾き』好きの筆者はこの時点で既に爆笑だ。(何を言っているのか分からないかもしれないが、『ハーメルンのバイオリン弾き』には常に500キロある金色のピアノを背負っているライエルというキャラクターが存在するのだ……)公式サイトによると竜儀はテガソードに向ける信仰心の強さゆえに家族から爪弾きにされた人物とのことだが、竜儀の「はぐれ者っぷり」を見せるために初手でカルト臭満載の宗教ソングを歌わせるというのが尖りすぎである。また、竜儀はテガソードと指輪の契約をした際、大きな岩や巨大な木でも軽々と持ち上げられる「ナンバーワン怪力」を得たそうだが、それについて本編中に何の説明もないまま、テガソードをシャベル代わりに使った吠に「何とバチ当たりな!」とキャンプ場の大岩や大木をバンバン投げ飛ばすシーンが来るのもヤバい。

 同じく「説明がねえ!」という話でいうと、前回第1話で堤なつめが変身するクワガタオージャーがマントを固くし、盾のようにして戦闘に使っており「クワガタオージャー、そんな技使えたんか!?」と驚いてしまったのだが、これも公式サイトによるとユニバース戦士のクワガタオージャーには「硬化(ソリッド)」と呼ばれる固有のアビリティがあるそうで、逆に言うと『キングオージャー』のギラが変身するクワガタオージャーには使えない技なのだが、これも特に本編中では今のところ言及されていない。どちらも「ちったぁ解説しろよ!」と思わずツッコミたくなるが、「実は私は怪力を授かっていて~」とか「ユニバース戦士にはそれぞれ特殊能力があって~」などという説明がいちいち入ったら入ったで冗長になってしまうだろうし、そういう細かい理屈は大人が公式サイトを観て補填すればいいだけの話であり、とにかく「クワガタオージャーのマントかっけ~!」「竜儀すんげ~力持ち~!」と観ている子どもたちに驚いたり笑ったりしてもらうほうがこの番組としては重要、というのもすごくよく分かる気もする。

・陸王の嘘はとびきりの愛?

 続いて登場する陸王も竜儀に負けず劣らずの強烈さだ。野外なのになぜか鮮やかな照明に照らされながらステージコスチュームで登場。一瞬で衣装替えをしながら落下し「SWEET PAIN ~甘美なる痛み~ 作詞:金 弘秋 作曲:葉手佐武朗」なるタイトルの関節技でトレジャーハントノーワンを締め上げる。それだけでも相当だが、元アイドルだという陸王の無法者さはこの後、吠、陸王、竜儀、ノーワンで行うことになったトレジャーハントナンバーワンバトルの中で更に明かされていくことになる。誰が一番多くの宝物をハントできるかを競う中で、このバトルに必要なのは情報力と人手と見た陸王は、地中や洞窟に埋まっているお宝どころか街の金属店で金塊を強奪するトレジャーハントノーワンの横暴ぶりを見て(2週連続で強盗が出る変な番組……)「ならこっちにも考えがあるよ」と微笑み、なんと自分のファンである裕福な老夫婦の元に赴き、罹患した喉の病気の治療費の工面に困っていると嘘をつく。「よし!そういうことならうちに江戸時代から伝わるこのなんかスゴイ壺を持って行ってくれ!」陸王に同情した爺のその言葉を聞いた瞬間の、陸王役 鈴木秀脩さんの「計算どおり!」という悪すぎる笑顔が見ものだ。バトルの後、陸王はこの壺に直筆サインを入れ、老夫婦にとって「このなんかスゴイ壺」以上の付加価値を付けた上で返却しているのでヒーローの倫理観的にはギリセーフ(?)と言えるのかもしれないが、「結果的に相手を喜ばせられたらオッケーじゃない?」とばかりに、息をするように嘘をつくところには吠にも竜儀にもない陸王独自のダーティーな部分やアウトローさが見え隠れする。オーディオコメンタリーでの田﨑監督の弁によれば、井上先生が陸王のキャラ造形で参考にしたのは『電王』のウラタロスとのことで、陸王のベースには「言葉の裏には針千本。千の偽り万の嘘。それでも良ければ僕に釣られてみる?」が流れているのかもしれない

・お宝にぎりと碧の宝物

 ファンを騙して高価な壺をゲットした陸王と、バチ当たりな吠をキャンプ場でシバいてる途中に偶然埋蔵金を見つけた竜儀に引きかえ、何のお宝もハントできず焦る吠だったが、近所を散策中にカツアゲに遭っている碧を助け、そのお礼に彼の好物が全部入っている「お宝にぎり」なるおむすびを半分分けてもらう。常にぶっきらぼうで愛想の悪い吠だが碧といる時は表情も柔らかく解け、観ているこちらも思わず優しい気持ちになるワンシーンだ。

また、碧を演じる子役の湯田幸希さんのお芝居も素晴らしい。弱冠9歳にして既に芸歴5年目で、数多くのドラマが映画に出演している実力の持ち主であり、吠に「(自分の宝物は)ずいぶん前になくしちまった。お前はなくさねえようにな」と言われ、吠には何があったのだろうと心配と好奇心の混じった瞳で彼の背中を見つめるカットや、その会話の延長線上で母親である佐織の居所を少し不安げに吠に聞いてみるくだりなどはもう名演技がすぎるといったレベルである。ここで「お前の母さんは怪人に取り込まれている」という残酷な真実は伝えず、絶対にお前の「宝物」を取り返してやるからな、という意味も込めて「すぐ帰ってくる」と敢えて軽い口調で言って後ろ手に手を振りながら去っていく吠役 冬野心央さんの芝居もすごく良いが、この冬野さんの頼もしさはまさに湯田さんが引き出した「宝物」なのではないだろうか。

 そんな第2話随一といえるこの名場面だが、このやりとりを経て吠が気付いたことが「本当の宝物とは母親が息子に握ったおむすびのようなものであり、お金に換えられるものではない」ではなく「お宝が見つけられないなら持ってる奴からブン獲ればいい」なのだから本当にビックリだ。この流れでカツアゲ側から学びを得るパターンってあるんか!?だが、まあこれが『ゴジュウジャー』らしさと言われれば確かにそうなような気もしてくる。不思議だ。

・差し出される救いの手

 そんなこんなでトレジャーハンターノーワンの金塊、陸王の壺、竜儀の埋蔵金を奪取した吠は見事トレジャーハントナンバーワンバトルの勝者となり、トレジャーハンターノーワンに取り込まれた佐織も無事に救い出す。「手を貸せ!テガソード!」そう言ってトレジャーハンターノーワンの腹部を貫き、「掴め!」と佐織に手を差し伸べるゴジュウウルフの場面が印象的だ。テガソードは単なる武器やロボではなく、闇に囚われた者を光ある方へ導く「救いの手」そのものであるという示唆が胸にじんわりと余韻を残す。崩れ落ちる佐織をヒロイックに抱き止めるゴジュウウルフの背で大爆発が起こり、そこに影山ヒロノブさんが歌う挿入歌「愛が正義」が朗々と流れる一連は、キャラクターパートを締めくくるにふさわしいドラマティックさだった。

 
その後、「近くにいたほうが何かと都合がいい」という理由で竜儀と陸王が吠の下宿先一階の喫茶店を「テガソードの里」なるコンセプトカフェにしてしまうというCパートに笑いつつ、今週はここまでか~と油断していたのだが、最後の最後に吠から返してもらったハンバーガー代250円分の50円玉5枚を紐で繋いで肌身離さず持ってる堤が「遠野さん……いずれまた、時が来れば戦おう……」と、しっとりと呟いて去るというサプライズがあり、大いに沸き立ってしまった。三途の川を渡る六文銭には一文足りないそれをポケットに押し込み、堤は一体どこへ去ったのか。それは謎のままだが、ひとつだけ確かなのは、これから物語が続き、いよいよ堤が再登場となった際にはきっとファンダムが最高にバクアゲになってしまうということである。たった2話だけの登場でここまで番組と視聴者の心に爪痕を残していった堤役 井内悠陽さんのずば抜けたスター性に拍手を送りつつ、禽次郎、角乃も合流する次回第3話を楽しみに待ちたい。さて、今日もオープニング映像を観るか……。

■今週のスーアクさん

・優美に、艶やかに!塚越ゴジュウレオンさん!

 今回はやはり初変身となったレオンとティラノの2人のアクションが目玉であったが、ここではひとまずゴジュウレオンの話をしたい。「ああいうバカは死なせておくにはもったいない」と吠の無鉄砲な闘争心に興味を示した陸王が加勢して始まるレオンのアクションは、スーツアクターさんの長い手足が伸びやかに宙空に舞う様子をより美しく、よりカッコよく映してみせる福沢アクション監督のカメラワークと相まって、とにかく優美で艶やかだ。「始めるよ!僕のライブ!」という陸王ならではの戦闘開始の合図にふさわしく、見る者の視線を奪う華やかなアクションに思わずため息が漏れる。中盤、レオンはブンレッドへのゴーカイチェンジ……ではなくエンゲージも果たす。ブンブンハンドルを操作し、銃撃を自在に操るブンレッドの能力に「ふふん」と満足げに笑ってハンドルをトントンと肩で叩いてみせる仕草が何とも陸王らしくて良い。その後、背中のタイヤを回転させて後ろ側に飛行しながら敵を一掃するシーンにはワイヤーアクションが取り入れられているが、抜群の安定感で高く高く飛翔するレオンの姿には、アクターさんの経験と実力の厚み如実に見て取れる。

 そんなゴジュウレオンのスーツアクトを担当するのは塚越靖誠さん。普段TVでしか特撮ヒーロー番組を観ていない人からするとあまり聞き馴染みのない名前の方かもしれないが、彼こそ昨今のシアターGロッソの「絶対的エース」と呼ぶにふさわしい超大人気アクターさんなのである。

 (※まず先に釈明させてもらうが、今から書くGロッソの出演情報は、実際に舞台を見た私の憶測であり、公式発表されているものではないので役名のあとに「(多分)」と付け加えさせていただくことをご容赦願いたい)塚越さんは戦隊やライダーのTVシリーズで主に怪人などでキャリアを積まれたのち、2021年からシアターGロッソで始まった『ゼンカイジャーショー』にて追加戦士のツーカイザー役(多分)を好演。この時既に、その抜群のスタイルの良さや難易度の高いアクロバット技を次々とこなす技術、キャラを崩さないまま行うお茶目なアドリブ、細やかで手厚いファンサなどで人気を博し、翌年『ドンブラザーズショー』ではついに主役であるドンモモタロウ役(多分)にご登板。豪胆でエネルギッシュ、何を考えているか分からないところにやや狂気すら垣間見せつつ、しかし心根は誰よりも愛情深いという異端のレッドを一年間エネルギッシュに演じ切ってみせた。2023年『キングオージャーショー』では再び追加戦士のスパイダークモノス役を2~3期まで(多分)を担当し、ミステリアスでセクシーでノーブルな塚越さんのクモノスに多くの観客が骨の髄まで魅了されまくった。Gロッソのステージツアーが開催された際、ショーオタクの友人数名と塚越さんが劇中で寝転んでいた台を「これが塚越クモノスさんがお休みになっていた台……!」と完全に国宝を見る目で拝んだ日が懐かしい。塚越さんがメインキャラを担当するようになってから、Gロッソには明らかに塚越さんそのものをお目当てに来場するお客さんが急増し、以前は親子連れがメインで参加していた握手会に大人のファンも多く並ぶようになり、握手券自体が早々に売れ切れるようになったのも塚越さんの人気から端を発しているのはと思えるほどだ。塚越さんの演じるキャラクターが出てくるだけで悲鳴にも似た黄色い歓声が沸き上がるGロッソをこの目で見てきた身としては、カリスマアイドルの陸王が変身するゴジュウレオンを塚越さんがご担当されると聞いた時はもう「納得」の一言だった。塚越さんがTV本編に行ってしまわれたため、しばらく生の塚越さんのアクションを見ることができないのはちょっぴり寂しい気持ちはあるが、ひとまず塚越さんのレオンご登板を心から祝いたい。塚越さん、おめでとうございます!

・この絆☆フォーエヴァー

 最後に、今週のアクションシーンで忘れてはならないファイヤキャンドルの腹心、カシオス・ベアーの話をしておきたい。カシオスはトレジャーハントノーワンの加勢をしに巨大ロボット、アイアイザー・クロサンドラに乗ってやってくる、いわゆる「ロボ戦担当キャラ」だが、敬愛するファイヤキャンドルと撮った「この絆☆フォーエヴァー」と落書きされたプリクラを貼っており、散り際にはそのプリクラに触れながら「我が忠誠心はフォーエバ~~!!」と叫んで爆散していくなど、もう2話は「カシオス回」だったのでは?と錯覚するほどのインパクトを残していったキャラクターであった。ゴジュウジャー、兵隊が幹部とのツーショットプリクラを死戦場に持参したり、堤が吠から返してもらった250円分の50円玉紐で繋げて持ってたりして『ブンブンジャー』とは違う方向で湿度設定がおかしい戦隊である。

■今週のガヴ

・仲違いって200色あんねん

 21話から始まった「ビターガヴ編」。その中でも先週と今週の2話は謂わば「ソルベブリザード&チョコルド誕生回」といったところだろうか。自らの出生の秘密を打ち明け、やっと絆斗と仲直りできたかと思いきや、その直後に思い出した絆斗の母親の死の真相がきっかけで再び自分の元から離れていってしまう絆斗。何もかも正直に話しさえすれば分かり合えると思ったのに、今度は何もかも正直に話したからこそ溝が生まれてしまうというのが皮肉すぎる。「お前は悪くない。頭じゃ全部分かってる!でも……悪ィ。今俺、お前のこと無理だ」というどこまでも理性的で、だからこそ「お前のこと無理」という生理的な拒否感が際立つ絆斗の言葉は、ある意味「お前のせいで母ちゃんは死んだんだ!許さねえ!」と罵られるよりも深くショウマ(と私たち視聴者)の心をえぐる。以前、『ガヴ』を観ていると「孤独って200色あんねん」と心の中のアンミカ氏が語りかけてくるとこの連載に書いたが、今回も「仲違いって200色あんねん」と再び脳内にアンミカが登場するはめになってしまった。辛い……。

・ラキアの聡明な視野の広がり

 絆斗と再度溝が生まれてしまったショウマの体調不良はストレスによりさらに悪化。2体目のビターガヴが街で暴れ始めたという一報を聞きつけ戦いに赴くも、力が出ずロクに戦うことができない。倒れ込みながら変身し、四つん這いになりながらも応戦しようとする縄田ガヴさんの必死さが胸に痛い。そこに駆けつけるのがラキアなわけだが、「こういう時はさっさと呼べ……ダルい」と、手持ちのツンデレサブライダー翻訳機を通すと「私を頼ることを遠慮しないでください。あとはどうか任せてお休みください」と変換される台詞をため息と共に吐いてビダーガヴに突っ込んでいくラキアがもうカッコよすぎてズルい。

 また、このシーンの前に描かれた、ラキアが闇菓子を生んだ張本人であるデンテを倒しにいこうとするシーンもとても印象的だ。「やるなら一思いに」と言いつつ、勝ち目の見えない兄たちとの戦いに、人間界を守るため一人身を投じるショウマの勇姿を見ているうちに、自分も兄たちにきちんと意見していれば、お菓子でみんなを幸せにする世界が作れたのではないかと「ちょっと」反省していると語るデンテを前にラキアは構えた刃をしまい、変身を解除する。これまでの登場人物の中でもぶっちぎりでデンテをブチのめす権利があるのはラキアなはずなのに、相変わらず優しい男だなと思ったが「あいつは怒りに飲まれず、もっと先の目的のためあのじいさんを仲間にした。思った以上に強いやつなのかもしれない」というラキアの台詞を聞くに、デンテを討たなかったのは甥のショウマに対し愛情を向ける彼に慈悲を与えたからというより、戦力的にも環境的にも圧倒的に不利な状況の中、デンテを懐柔して人の利を得たショウマの軍師としての才、あるいは心の強さに感銘を受けたからのようだ。人間界に来た頃のショウマと同じく、孤立無縁の状況に我が身を置きながら新しい出会いの中で徐々に自らの視野を広げていくラキアの聡明さが豊かに光る。(それにしたってデンテ爺はラキアに一発くらい殴られて然るべきだとも思うが……)

・傷だらけ大逆転、チョコルド!

 逆に、先の見えない暗闇に突き進んでいるのが絆斗だ。ショウマとの心の距離を旧友・加太郎で埋めようとするも(この表現は演者である日野友輔さんご本人がXのポストでされていたものだが、絆斗の寂しさやが伝わってきて何ともやるせない気持ちにさせられる)たった3万円で加太郎に売られてしまった絆斗は、かつて絆斗が倒したオタケの友人だというグラニュート・スミールに仇討ちと称して一晩中嬲られ続ける。上から下まで全身に墨を塗りたくられ(衣裳部さん大変そう……!)蹴られ殴られ血だらけになって地に這う絆斗。ちょっと目を覆いたくなるほどの痛ぶられっぷりだが、だからこそ、それでも反撃のチャンスを伺い、闘志をにぶらせない絆斗のタフさや泥臭いカッコ良さが際立つように思えるのは筆者だけではないだろう。「う……諦めてたまるか!」世界広しと言えども、ここまで過酷な状況でも諦めないのはプリキュアか辛木田絆斗くらいのものではないだろうか。

 硬化作用のあるスミールの蛸墨に動きも変身も封じられる絆斗は窮地に陥るが、バレンタインに酸賀から渡されたチョコルドゴチゾウが墨から抜け出し、自らヴァレンバスターに飛び込んだことで絆斗は仮面ライダーヴァレン チョコルドフォームに変身。スペックで比較してもガヴのホッピングミやヴラムのプリンカスタムすら上回る強烈な強さでスミールを返り討ちにする。チョコルドが面白いのは、ヴァレンがいかに「強くなったか」という表現を、例えばCGエフェクトの派手さやスーツへの追加パーツでするのではなく、あくまでアクションの演出とヴァレンのスーツアクトを担当する鍛治洸太朗さんと、受け手であるスミールのスーツアクターの井口尚哉さんの芝居だけで見せていることだ。ヴァレンの持ち味であるがむしゃらさや勢いはそのままに、銃撃やキックの一発でスミールが吹っ飛び、机がブッ壊れる、その映像がどんな説明よりも説得力を持ってこちらに向かってくる。壁の穴越しに「ま、待て!俺が悪かった!許してくれ!」と命乞いをするスミールに「遅えよ……」と呟いてゼロ距離でヴァレンヴァスターを放つ、いつもよりちょっとだけヴァイオレンスでビターなヴァレンがカッコ良い。絆斗は「酸賀に助けられたな」と今度ばかりは彼に感謝していたが、この驚くべきほどのパワーが何のリスクと引き換えなしで絆斗に与えられているとは到底思えない。「これさえあれば一人でも……ショウマに頼らなくてもグラニュートを倒せる!」と意気込む絆斗が足元に広がるドス黒いものに身を浸し切る前に、どうかショウマたちの声が、手が、間に合ってほしい。

・命をつなぐアイスクリーム

 そして、今週最大の見どころといえば新フォームとなる仮面ライダーガヴ ブリザードソルベだ。本来、夏の風物詩であるアイスがモチーフになったフォームを(おそらく販促的な事情で)真冬にどう登場させるのか楽しみしていたのだが、単に「冬のアイスも美味しいよね!」というだけではなく、弱ったショウマのために幸果が「アイスだ!ウマショー!体調悪い時でもアイスなら食べられるってことあるから試して」と差し出すという導入を見て「なるほど!」と膝を打ってしまった。嚥下や咀嚼が難しい時でも比較的容易に水分と糖分の両方が同時に取れ、なめらかさや氷のシャキシャキ感で食の楽しさも味わえるという利点から、医療、介護、保育の分野で氷菓が活躍しているというのは知識としては知っていたが、それをブリザードソルベのエピソードとして関連付けてくるとは意外だった。「アイスってね、つらい体も心も助けてくれるの」幼い頃風邪を引いたショウマに母ミチルが語った言葉がカットインし、あの頃は想像することしかできなかった「復活のひとさじ」に時を超えてショウマの手が届くという演出が泣かせる。「というかむしろ、これがやりたいからショウマはここのところずっと具合が悪かったんだな!と今更ながら納得してしまった。

 幸果がくれたラムネ味のアイスクリームから生まれた新たなゴチゾウでブリザードソルベフォームへと変身するガヴ。ワッフルコーンを彷彿とさせる格子模様のアーマーにマント、青と白のツートンカラーが爽やかな造形は、ガヴらしいポップさとクールさのいいとこ取りといった感じだ。ダイヤモンドダストのようなラメや紙テープが黒背景に舞い散る、別撮りのスタジオカットがさらにその麗しさをドラマティックに引き立てる。拳を握るとこのままコーンにスクープされたアイスクリームに見える腕をペロリと舐め、冷気を放ちながら戦うというアイスフォームならではのファイトスタイルはスーツアクターの縄田さん考案とのこと。すごい!

 目を見張るのは大掛かりなCGを使ったビターガヴとの決戦シーンだ。氷菓というだけあって、氷を自在に操れるブリザードソルベの能力はまるで『アナと雪の女王』のエルサ級。あっという間に空に伸びる氷の坂を作り、その上でビターガヴと激しく戦い合う。途中、カメラがぐるりと位置を変え、彼らの戦いを氷の下から見上げるかたちになるシーンはまさに「氷の戦い、下から見るか、横から見るか?」という感じで美しい。アイスならではの「アタリ」判定や使用後はゴチゾウごと溶けてなくなってしまうなども演出楽しく、何よりものすごくアイスが食べたくなったバトルであった。あ~~誰か買ってきて!ワッフルコーンのやつ!!オーディオコメンタリー曰く、藤田アクション監督は相変わらず余裕のないスケジュールの中、少しでも視聴者に楽しんでもらえるものをと日々アクション作りに大奮闘してくださっているらしく、もう藤田さんの家の方向(知らんけど)に向かって日に3回感謝の礼拝を捧げるしかない。

 見事2体目のビターガブを撃破したショウマたち一行は初めてラキアもはぴぱれに招き、お疲れ会と相なる。グラニュートである自分にも物おじせず腹パンをかまし、あまつさえ「ラキアン」なるあだ名までつけてグイグイと来る幸果に「お前、怖くないのか?」と驚きと呆れの混じった表情で尋ねるラキアのやりとりが微笑ましく、異種族かつ天真爛漫と世話焼きクールのカップルが好きな私は「もしこの二人が今後恋仲になったりしたらどうしよう!」などと考えてはニヤニヤしてるうちに今週一週間が終わったことをここに告白しておく。いや、恋仲にならずとも、幸果さんのセコムになるラキアン、見たくないですか……!?!?

▲ブンブンジャーショ−第4弾行ってきました!「最高」の一言に尽きる……!必見!

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桐沢たえ
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