性感染症予防啓発は予防啓発は誰のため?広報と書籍から考えるこれからの性教育 (振り返り)
2022年12月11日にTOKYO AIDS WEEKS(12月1日の世界エイズデーの前後に、様々なNGOやグループが行うイベントの情報発信を行っています)に参加して、オンライン講座を開催いたしました。
この講座は、私が雑誌「シモーヌ(Les Simones)」VOL.7【特集】生と性 共存するフェミニズムに寄稿した「性感染症予防啓発は誰のため?――広報ポスターから考えるこれからの性教育」に関連して構成したもので、「広報編」と「書籍編」に分けて、「広報編」を事前収録で行い、「書籍編」では広報編の内容をダイジェストで紹介しながら、「シモーヌ」の特集・「生と性」について編集者の山田亜紀子さんにお話しいただきました。
広報編では、大学の授業などでも話しているHIV/AIDSや性感染症の広報や、エイズ・パニックの時代のアートアクティヴィズム、世界各地の性感染症予防啓発発動のあり方を比較しながらお話しして、ぷれいす東京でボランティアスタッフとして活動している臨床検査技師の安孫子陽一さんに聞き手になっていただきました。医療現場で働く現場の中で感じておられる「伝え方・コミュニケーションの課題」について、安孫子さんからお話を伺うこともできました。また、書籍編では山田亜紀子さんから、優生思想や広く生と性に関わる様々な問題を取り上げた特集を編まれた観点からお話していただきました。
オンライン講座は、「広報編」「書籍編」ともにYouTubeで公開し、TOKYO AIDS WEEKSのアーカイブページにも掲載していただいていますのでぜひご覧いただければと思います。
このオンライン講座を企画しようと考えた理由はいくつかあります。一つには大学などで授業として話していることを、広く公開し、HIV/AIDS・性感染症予防啓発の活動の中で微力でも何か貢献できればと考えたこと、また性に関わる重要な課題であるがゆえに、自分が調べたり話したりしていることの中に、認識として不足していることやバイアスがあれば、まずは自分を振り返り、それを是正していく機会を設けることが必要だと考えたからです。
二つ目としては、性教育への関心があります。私は1980年代から1990年代に思春期、青年期を過ごし、その中で性教育を受けた経験が本当に乏しく、(中高一貫の女子高で過ごしたことも関係しているかもしれませんが)自分が親として子どもに接する中で、自分たちの世代の方にこそ性教育、ジェンダー教育の学び直しが必要であり、そのことなしには次世代の育児や教育が立ち行かないだろうという思いがあります。HIV/AIDSは現在、予防法や治療法が向上し、投薬などにより充分に健康を保って生きることができますが、エイズ・パニックの時代に植え付けられた「致死的な感染症」という認識を持ったままでいる人が同世代にも、その子どもの世代の中にも多くいることに驚かされもします。知識・認識は自然にはアップデートされません。意識して調べたり、学ぶ機会を作ることが必要です。
私の友人知人にもHIVウィルスのキャリアである人は何人かいます。以前HIV/AIDSに関連する同様のオンライン講座を企画した時に参加してくださったHIVウィルスのキャリアの方は、「匿名の状態で視聴できたことで安心して話を聞くことができた」と感想を寄せて下さいました。顔や名前を公表する必要のないオンライン講座だからこそ、視聴できたり、コミュニケーションを行うことができるという利点もあると思います。対面のイベントではないからこその伝え方があるのだなと、実感もいたしました。
このテーマに関心を寄せるようになったのは、2000年代前半ごろだったと記憶しています。エイズ・ポスター・プロジェクトのウェブサイトを見たことがきっかけで、当時、非常勤講師として教えに行っていた大学でも少し紹介したことがありました。ティーチングアシスタントをしていた大学院の学生が授業の後に、HIVに感染していることを伝えてくれたことがあります。感染判明が分かってまだ時間が経っていない頃で、親にどのように伝えたら良いのか悩んでいると言っていました。彼が、伝える相手として私を選んでくれたことに感謝しています。(20年近く経ちますが、今頃どうしているでしょうか。適切な医療やケアに繋がって、健やかに生活していて欲しいです。)
感染症のみならず、生きることに伴う困難は様々にありますが、私が語ること、聞くこと、調べること、書くこと、その小さな営みの積み重ねが、まだ見ぬ他者に何かを伝え渡す何かの一助になり、お互いが手を差し伸べあい、支え合うための手がかりになりますように、そう願っています。