コミュニケーションに開く陶、木田陽子展
京都新聞 2024年 9月7日掲載
ほぼ同寸で並んだ10点の陶の彫刻。釉薬ではなく土を塗って本焼成した素朴な風合いだ。窪み、盛り上がり、カットが不規則に組み合わさり、それらが丸みでまとめられている。有機的な形は、小動物のようにも、大きな植物の種にも見える。
文字をかたどった、半具象の陶オブジェ
一見、抽象的なオブジェ陶のようだが、木田陽子が取り組むのは、文字をかたどった半具象の陶作品だ。今回は全てアルファベットの「m」をモデルにしている。言葉にならない鼻歌「mmm…」を表現する文字だ。
多彩な形だが、手びねりで、まず土を袋状に成形し、それを破って口を開くという成形プロセスが共通している。どの作品もゆったりと空洞をはらんでいるのは、そのためだ。線でしかないmが、木田のイマジネーションと手の中で、三次元へと膨らんでいった過程を想像すると、面白い。
「自然を題材に」、「気持ちで作れ」という陶芸指導への違和感
文字を形に用いたきっかけは、大学で「自然を題材に」という課題が出た時に「花も動物も、自分にとっては身近じゃないと感じた」から。その感覚は、多くの現代の観客にとっても同じだろう。また、自由課題での抽象造形を「気持ちで作れ」と指導されたことにも、違和感を感じたそうだ。
オブジェの形を閉じずに、「穴をあける」意味
作品の形が文字から作られていると聞くと、子供も大人も「読み解き」に夢中になる。作家の気持ちを閉じ込めた個人表現ではなく、観客とのコミュニケーションに開かれた作品なのだ。
それを象徴するように、木田は作品のどこかに穴を開けている。
(恵風=丸太町通東大路東入ル、8日まで)