江戸のホラー映画。「絵金祭り」大阪ポップアップに、ワックワク
「幕末土佐天才絵師 絵金」あべのハルカス美術館 2023年6月18日まで
幕末の土佐で活躍した「絵師の金蔵さん」、略して絵金。
ラッパーみたいな名前ではないですか。
絵金が主に描いたのは「芝居絵屏風」。歌舞伎のシーンを、二つ折りの大きな屏風に、ほととど等身大で描いたものだが、そのシーンがよりすぐりに猟奇的。
この血みどろのホラー屏風を、夏祭りの数日間、夜の闇の中で、和蝋燭の灯りの下、鑑賞することが、高知の風物詩となっている。「絵金祭り」だ。
血みどろ屏風を神社に奉納。地元の誇り「絵金」
映画のない時代、かなり刺激的だったと想像できるが、これは「ご当地悪趣味イベント」では決してない。
絵金の絵は、神社や地域に奉納され、絵金祭りで「絵馬台」と呼ばれる櫓のような台にうやうやしく掲げられた。毎年7月の高知市朝倉・朝倉神社の夏祭りでは、これが参道に6台も組み上げられるという。
ほかにも、「絵金祭り」は民家や商店街の軒下が展示会場となって開催され、観光客も集めている。
「魔をもって魔を制する」。絵金のホラー屏風は魔除けだった
老いも若きも、血みどろ屏風を眺めながら、ほっこり夕涼み。
いったい高知の人はどうなっているのか?
これは、高知の人が流血表現に鈍感だったということではなく、「絵金さん」の絵が「魔除け」になるとも信じられていた。ゆえに競って神社に奉納された。
「面白い絵で魔除け」って、いいよなあ。これは神様も喜ぶやつだ。
絵金の過去については「武家のお抱え絵師だった」とも伝わっているが、絵金がメインストリームの美術の世界に登場することはなく、ずっと町の人のための町の絵師として愛された。その愛の深さは、作品が神社、公民館、氏子さんたちによって、江戸時代から今にいたるまで、地域で大切に守られていることからもわかる。ご当地では子供が上手な絵を描いたら「絵金さんになれるね」と誉めたそうだ。
この展覧会、高知県外では約50年ぶりの大規模展だそうだが、「絵金といえば祭り」という地元のジョーシキを踏襲し、「祭り仕立て」で盛大に展開されている。
いつか行ってみたかった、あの絵金祭りが大阪に。だいぶトクした気分だ。
絵金の再評価は、ここにきて高まっている。
平成17年に、絵金が暮らした高知県の香南市赤岡町(こうなんしあかくらちょう)に絵金の作品を保存公開する「絵金蔵(えきんぐら」」が設立され、平成21年、赤岡の芝居絵屏風は、高知県の保護有形文化財に指定された。
絵師の再評価には、「お芸術」のハクをつけようとする「圧」がかかりがちだが、絵金さんと絵金祭りは、「お芸術」と「そうでないもの」の区別が引かれる以前に、普通の人たちがどんなふうに絵を楽しんだかを教えてくれるという点で、大変に貴重な文化財だと思う。