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「山口ゆめ回廊博覧会」船越雅代の浸透するサイトスペシフィックアート

「山口ゆめ回廊博覧会」は山口市、宇部市、萩市、防府市、美祢市、山陽小野田市、島根県津和野町、古くから結びつきの深い7つの市町が食、祈り、産業など7つのテーマの「回廊」で繋がるイベントの集合体。開催:2021年7月1日(木)〜12月31日(金)

「芸術の回廊」「知の回廊」には、メディアとテクノロジーに特化した山口情報芸術センター(YCAM)と連携した作品も出品される。プレイベントでは、山口出身の雪舟の庭を背景にした坂本龍一、高谷史郎のインスタレーションが展示された。

 地方の芸術祭のみどころのひとつが、土地の文化や記号をモチーフにしたサイトスペシフィックなアートだが、「ゆめ博」には、食を通した実験的な体感型作品が企画されている。企画、監修、料理を手がけるアーティストは船越雅代。これまで国内外各地で自然、歴史、民俗、文化人類学的なリサーチから食のインスタレーション/パフォーマンスを創り上げてきた。船越が山口での調査を経て見出したテーマは『OSMOSIS滲透』。11月のリハーサル上演で、そのワークインプログレスが一部関係者に公開された。

会場は山口のシンボル、国宝瑠璃光寺五重塔を望む芝生の公園。特設された円卓のテーブルセッティングは、グラスを伊藤太、やきものは間鍋竹士、漆のカトラリーは柏良治・冨田潤二と、地元アーティストの作品でキュレーションされた。

日が落ち、満月が輝く中でディナーはスタート。Cosmic Wonder前田柾紀の白装束をまとったスタッフが、月明かりを頼りに酒と料理を無言でサーブする。メニューには宇部の自然栽培米、萩の青のり、美祢の美東ごぼう、津和野町の鮎、地元の食材が駆使されているが、暗闇の中、その色・形を見ることはできない。最後の一皿だけが、小さなライトで照らされて運ばれてきた。水晶のように輝く透明なゼリー。山口の地下水を固めたものだ。

 視覚が遮られると、感覚は方向を失い、味覚は受け身になる。船越は、観客の舌と体に土地の滋味が静かに浸透してゆくような食の体験へと導いた。それは、あたかも水の浸透を受けとめつづける大地や植物の細胞と共振するような経験だったのかもしれない。OLAibiによるトランシーな音楽に包まれ、芝生で寝そべって満月を見上げながら、鍾乳洞が美しい姿を形作るまでの何万年という時間に思いを馳せた。

地球上の生命の源であり、その環境によって様態を変化し流動する水。豊かで多様な水を湛えた山口と、その美しい水によって育てられた自然の造形、作物。滲透、というその言葉に導かれ、水のミクロの視点に近づき、滲透していくその細胞に意識を近づけてみる。(船越雅代)
ニューヨークPratt Instituteで彫刻を専攻後、料理に転向。「ブルーヒル・ストーンバーンズ」のダン・バーバー、「ユニオンパシフィック」のロッコ・ディスピリト、「WD50」のワイリー・デュフレーヌなど、先鋭的なシェフたちの薫陶を受ける。オーストラリアの客船のシェフ、バリのプライベートホテル Tandjung Sariのシェフを務め、2012年から拠点を京都に移し、2018年より京都 Farmoon主宰。 東アジア文化都市 2016(奈良市)Nara Food Caravan、 土祭(益子) 2018 招聘アーティスト

2020年に開催の「山口ゆめ回廊博覧会」プレ事業(〜12月31日)から。

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山口情報芸術センター特別企画:坂本龍一+YCAM InterLab《Forest Symphony》

常栄寺雪舟庭を背景としたインスタレーション作品。世界各地の樹木から採集した電位データを、坂本龍一が音楽に変換。樹木が生息する環境情報を高谷史郎氏が視覚化した。

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山口情報芸術センター特別企画:坂本龍一+高谷史郎《water state 1》

YCAM InterLab が開発した、大量の水滴を自在に落下させる装置を用いて、坂本龍一が自然や環境をテーマに制作。水滴、波紋の微細な動きにあらわれる静と動の美意識は、現代のヴァーチュアルな「庭」。雪舟の水墨画の気韻とも響きあう。




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