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山川冬樹が「聞かせた」大島の歴史
瀬戸内国際芸術祭2019が開催中。今年は、3つの島だけ、駆け足(八艘飛びかな)で回りました。ハンセン病の患者が収容された国立療養所大島青松園がある大島には初めての訪問。
瀬戸内国際芸術祭の観客は、作品だけでなく島の歴史の展示もみることができる。その展示は撮影禁止。入園者が余暇に嗜んだ油絵ややきものなども展示されているが、そののどかな作品と「撮影禁止」の表示のものものしさとのギャップにとまどった。入園者のプライバシー配慮のためだ。
ハンセン病が恐れられた原因には、病気の進行で体の目立つ部分が変形することと、強制的な隔離が恐ろしい病気のイメージを増幅させたことがある。「見えること」と「隠されたこと」が忌まわしい病のイメージを作った。
園内を歩くと、あちこちから目の不自由な入園者を導く音楽が聞こえてくる。でもその入園者を見ることはなかった。ここにきて自分が知らなければいけないことが、かたく隠されているようで、想像力はうまく働かない。
展示の「撮影禁止」が示すように、ハンセン病患者、入園者のことを「見せる」ことは、理解の助けになるかもしれないが、入園者さんも傷つけかねない両刃の剣になる。
この悩ましさを「聞かせる」ことで救ったのは、山川冬樹の作品「歩みきたりて」だった。
終戦後、モンゴル抑留中にハンセン病が発覚し、大島で暮らした歌人、政石蒙。政石の足跡を巡って、モンゴル、大島、松野(政石蒙の故郷)を旅し、各地で撮影した映像と遺品によるインスタレーションを制作。
見るのではなく、耳をすませて、この島に暮らした歌人の見たもの、あらわしたものを想像した。感想をまとめることが今はできないけれど、今年の瀬戸内国際芸術祭で、一番心に残った作品だった。