高島一精展@KCIギャラリー
京都新聞 2021年6月12日 掲載記事
黒一色で描かれた300点もの動物。ファッションブランド「Ne-net」(ネ・ネット)で、黒猫のキャラクター「にゃー」を生み出したデザイナー、高島一精によるイラストだ。ハローキティやミッフィーは、見る人に安心感を与えるために必ずこちらに顔を向けているが、?島が描く動物たちはやんちゃな眼をあちこちに向け、手なづけられない野生を感じさせる。
“着られるイラスト”もある。たぬきのシルエットが人体を覆うワンピース、長い手が耳をつかむナマケモノのマスク。人間の身体をジャックしているようにも見える。
高島は東京ポップカルチャーの「キモカワイイ」ブームに交わる個性的なデザイナー。2009年の秋冬のショーは後楽園ホールで開催し、モデルたちにプロレスラーのようなマスク姿で登場させた。冒頭にはバラク・オバマ大統領の就任時の宣誓の音声を流し、「強くならなきゃ!」とメッセージを放った。
ファッションはアートの斜め下にある別の世界とみなされているのだが、目指す表現はオーバーラップする。多くのアーティストは日常の事象をとらえ、感覚をずらしたり観客と共感を求めたりしている。気持ち悪い、異質なものを「可愛い」と思わせてしまうファッションもまた、観る人の愛情の許容度や価値観、美意識を拡張させている。
ファッションクリエイターたちのそうした表現は、ブランドの購買層以外にはほとんど伝わらない。それを見える化してきたのが、KCI(京都服飾研究文化財団)の展示活動だ。2019年に京都国立近代美術館などと共催した「ドレス・コード?」展は、国内ほかドイツでも開催された。
今展はKCIに高島の作品が収蔵されたことを記念したものだ。「可愛い」中のちょっとした違和感で日常をさざめかせる服やキャラクターが、今の空気を後世に伝える資料となる。(KCI=七条御所ノ内南町、ワコール京都ビル 7月30日まで、土日祝休、予約制)
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