推しと密着ツーショット!〜前編〜
私には、24歳の推しがいる。
その愛しき推しと、ツーショット写真が撮れるというイベントに当選してしまった。
イベント当日。
余裕ぶっこきすぎて時間がなくなりバッタバタで準備を進めることになってしまった。
子供たちのことは全て夫に任せ、もう恋する乙女mikaへ全集中だ!
急げmika!
まずは化粧だ!
いつもより念入りに化粧水をパタパタする。
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ
あイタッ!
なんか、痛いぞ。
眼球に違和感。
眼球に違和感極まりない。
なんだ?
確認してみる。
短ーーーーいまつ毛が目の中に入っていた。
もうーーーー!!!なんでこんな時間がない時にまつ毛が目の中に入るんだ!!!
もうーーーーーーーーーーー
もうーーーーーーーーーーー
なっかなっかとっれないこの子ぉぉぉ
痛い。これは、とっておかないとまずい。
チラッと時計を見る。
時間がない!
急げmika!
なんとかまつ毛を取り出し、化粧をする。
顎下のニキビが気になる。
前回のファンミの時に仲良くなった推し友と約束している電車の時刻が迫りに迫る。
焦る。
次はなんだ!髪の毛だ!
髪の毛にヘアアイロンをかける。
今日は天気良好。
私のクルンクルンの癖っ毛もおとなしい。
髪の毛をトゥルントゥルンにするべく、かけてかけてかけまくる。
そういう時に限って、一箇所だけピョンと跳ねた癖が全っ然なおらない。
ちきしょう!
かけてかけてかけまくる。
仕上げにバームをもみ込み完成だ!
迫る時間。
急げmika!
(なんか、最近いつも急いでるな)
ヨシッ!着替えるぞ!!
階段をドタバタ駆け上がる。
決めていた服を出してみたら、シワだらけだった。
うそーん、と思いながらドタバタ階段を降りリビングでアイロンをかける。
そして着てみたら、なんかめっちゃ変だった。
うそーん、と思いながらまたドタバタ階段を駆け上がり、着ていた服をポーンと放り投げ別の服に着替える。
鏡を見る。
ヨシ、これで行こう!
・・・って、カバン!!!
カバン準備してなかったーーー!
迫る時間。
嗚呼!なぜなぜ、準備しておかなかったんだ!!
バカバカmikaのバカ!
前回のファンミの時は、事前に夫の前でファッションショーまでして、カバンだってちゃんと準備していたというのに!
急げmika!
いつものリュックから前回購入した小さいカバンになんやらかんやら詰め替えるところからだ!
嗚呼そうだった!長財布がカバンに入らなかったんだったーー
私はクレジットカードと運転免許証とお札を何枚か小さいジップロックに入れてカバンに詰めた。
もうバッタバタで家を飛び出し、電チャリをかっ飛ばして駅に向かった。
どけどけどけーぃ!
自転車をガッ!と停めて全速力で駅のホームに向かう。
ぜーはーぜーはー
2分前に到着。
な、な、なんとか間に合った・・・。
もう、汗だく。
余裕ぶっこいていた自分に喝を入れたい。
無事に推し友と電車内で合流し、マシンガントーク炸裂であっという間に渋谷駅に着いた。
集合時間までまだ時間があるので、会場近くのスタバで時間を潰すことにした。
推し友は、私より1時間早い集合だったので先にスタバを出発した。
「じゃあ、あとでね!」
と握手を交わし、推し友のドキドキしている背中を見送った。
さて。
ここから1人であと1時間待たなければならない。
推し友が、推しがつけているのと同じ香水を手首にシュッとしてくれた。
私はその匂いをクンクン嗅ぎなら、心を落ち着かせ・・・・
られるわけがない!
余計ドキドキするわ!
胸が高鳴りすぎて、頼んだチョコレートスコーンとコーヒーが全く喉を通らない。
余裕ぶっこいてた頃が既に懐かしい。
そんな時、チロリンとLINEが届いた。
米粉ちゃんだった。
(米粉ちゃん=私と推しのファンクラブに一緒に入会してくれた女神。私に新しく推し友ができたのを見届け今は退会している)
私の心臓はもうドキドキ越えのメガバクバク。
手が震え出し、ひとりではこの緊張を処理できず、米粉ちゃんに助けを求めた。
もうこのままでは心臓がもたないと判断し、少し早いけど会場に向かうことにした。
この高鳴る鼓動に身を任せ、私は推しのいる会場へと駆けて行こうとしたその時!
「走るな!mika!」
という天の声が。
そう、私は最近沿道で派手にズッコケてしまい、負傷した肘がようやくかさぶたになってきたばかりだ。
ここは大都会渋谷。
こんな所でズッコケて血だらけになって推しに会いに行くわけにはいかない。
私は走り出したい気持ちをぐっと堪え、一歩一歩大地を踏みしめながら会場へと向かった。
米粉ちゃんが奥深く応援してくれている。
私は大きく深呼吸をして、ひとり、イベントスペースへ向かった。
まだ、前の回が終わっておらず、私たちの回は整理番号順に外階段に並ぶことになった。
私は、168番だった。
後ろの方だ。
「何番ですか?」
と、ファンの人たち同士で声を掛け合い、番号順に並ぶ。
ひとりで来ている人が多く、みんな緊張を紛らわすために近くの人たちと話し出す。
私も、後ろの方に話しかけた。
「ドキドキしますねー」
すると、その周りにいた人たちも会話の中に入りあっという間にみんなと仲良くなった。
同じ人を推す者同士の結束力はすごい。
その時、先に会場入りした推し友からLINEがきた。
撮ったばかりのホヤホヤの推しとのツーショット写メに続き、気になるポーズの詳細が書かれていた。
ポーズは2つ。
どちらか、好きな方を選ぶ。
2つめやばい。
こ、れ、は、
やばい
そして、結構話してくれるよ、との情報も。
え、推しと話せるの
周りの人たちにもシェアすると、みんな落ち着きがなくなり途端ソワソワし出した。
同じく遠くでソワソワしている米粉ちゃんからLINEがきた。
米粉ちゃんにポーズの詳細を伝えた。
そんなこんなで米粉ちゃんとLINEしているうちに列が動き出した。
ついに私たちの回が始まった!
イメトレ開始。
写真を撮るとき、目をつぶることだけは何としてもあってはならない。
私はよく目をつぶる。
っていうか、それよりもたちの悪い半目状態の時が多い。
それはそれは残念な感じになる。
もしこの先、推しがブレイクして売れちゃったら、こんなツーショット写真なんてチャンスないかもしれない。
絶対目を見開く!
なんなら瞬きしない!
そんなイメトレをしていたら、どんどん列が進み、あっという間に推しがいる部屋に入った。
奥の方にパーテーションが見える。
きっとその奥で推しが待っているんだ。
ドキドキドキ
「あーどうします?どうします?」
「何話します?」
ファン同士で声を掛け合う。
時間的にどのくらい話せるのかな。
私の推しへの狂った愛は、「禁断の果実2024〜あなたへの想いは止められない〜」と心で叫びながら、ファンレターに綴ってある。
手紙はBOXに入れるようだ。
私には、どうしても直接伝えたいことがあった。
どうしても。
そのことを伝える時間はあるだろうか。
話せるといっても、きっと一瞬だ。
ミスは許されない。
口の中が緊張でネバネバする。
笑うと唇が乾いて歯にくっつき、ビーバーみたいになる。
どんどん列が進む。
ドキドキドキドキ
私は何度も頭の中で伝えたいことを繰り返す。
伝えたい。
伝えたいどうしても。
パーテーションに近づくと、推しの声がかすかに聞こえてきた。
ああ、あのパーテーションの向こう側に推しがいるんだ。
先ほど外階段で仲良くなった方の番がもうすぐだ。
その方と目が合う。
『ドキドキする!』のジェスチャーが送られてきた。
私は、『頑張って!』のガッツポーズを送った。
ついに、最後の列のところまできた。
高鳴る鼓動。
推しの声がはっきり聞こえてくる。
もう、すぐそこだ。
ドキドキドキドキドキドキドキ
手鏡を出し、前髪チェック。
顎下のニキビが気になる。
あと少し進むと、パーテーションと壁の間から撮影している所が見えそうだ。
先ほどジェスチャーを送り合った方が先に撮影を終え、パーテーションから出てきた。
もう放心状態でフラフラしていた。
かっこ良すぎて何を話したか覚えていない、と言いながら預けた荷物を忘れて行こうとするので、スタッフの人が呼び止めていた。
そんな放心状態の彼女を見て、さらに緊張感が増す。
列が進む。
ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ
ついに壁まできた。
私の前に3人。
私は壁に張り付き、パーテーションと壁の間から向こうを見た。
推しが登場せぬまま、今回もまさかの後編に続く!