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ないしょの穴のはなし

私には、多くの人が持っていない穴がひとつある。

何かに集中したり、

逆に手持ち無沙汰になるといじってしまって

さらにその指のにおいをこっそりかぐ。


穴には大袈裟な名前がついている。

「先天性耳漏孔(じろうこう)」

耳の付け根にあるピアスの穴のように見える小さな点。

画像1(お借りした画像)

母親の胎内で耳が形成されるとき、

本来塞がるべきだったのに塞がらなかった穴。

国や地域にもより諸説あるが、日本では5%の人が持っていると言われているから

学校のクラスにひとりくらいはこの穴の持ち主がいる計算になる。


皮膚の下で袋状になっていて、

皮膚の上で穴に見えているのが袋の口だ。

ネットで画像検索すると、膿んで腫れたりしてしまう人もいて

そんな場合は手術をするみたいだけど

私はうまれてこのかた、特に手術を要するような症状に陥ったことはない。

ただ冒頭に書いたように、

いじっているとたまに汁みたいなのが出てくる。

ついつい嗅いでしまうんだけど

これがまた、いいにおいなのだ。

犬の肉球のにおい的といったら分かってくれる人もいるかもしれない。

くせになるというか、どうしても鼻に持っていかずにはいられない。

最初にこの穴に気づいたのは小学校3~4年のころ。

クラスメイトの女の子に

「ねえ、このピアスの穴みたいなのなに?」

と聞かれたのがきっかけだ。

「え?なにそれ?」

それから家で鏡を駆使して確認。

触っているとくさい汁が出ることも発見した。

母に耳鼻科に連れていかれたが

「これくらいなら手術の必要はないでしょう」

とのことだった。

それから私はひまつぶしや、集中しているときに

左手で左耳の付け根を触るのがくせになった。

今でも止められないくせだ。

長時間いじっても何も出てこないときもある。

ちょっと触れただけで出てきてしまうときもある。

どちらにしても耳元で

パリパリという不思議な小さな音を出す。


中国にすんでいた頃

お手頃価格だったから全身マッサージに通っていた。

頭皮マッサージのときに

仰向けになった私の頭をマッサージ師が両手で包み込む。

そのとき、人差し指と中指の間に私の耳を挟み

高速で両手を上下させてめちゃめちゃ摩擦してくるんだけど毎回、

「汁が…、汁が出ちゃう~っ!💦」

と気が気じゃなかった。

だって私にとってはいいにおいでも

ふつうにくっさいだもん涙。

いまもしそんなシチュエーションになったら

事前に説明して人前で汁を出さないように予防くらいはするだろうけど、

恥ずかしくてそんな穴の説明したくなかった。


ところでクラスにひとりかふたりはいるはずのこの穴の持ち主に

ずいぶん長いこと私は出会ったことがなかった。

だが10年前、奇跡的な形でめぐりあう。

夫だ。

付き合っていたころ、髪を短く切ってデートに現れた夫。

エスカレーターで前後になり、

むき出しになった耳がちょうど私の目に入った。

「あっ。耳のところに穴が空いてる~!」

つい声をあげると

「お、よく気づいたね」

と言うので

「だって私にもあるから」

左の髪をかきあげ耳を見せた。

夫は驚いた顔で

「えー、そうなんだ!」

と言いながら

「俺はこっちにもあるよ」

と反対側の耳を見せてきた。

「えー、どっちの耳にもある人もいるんだ!」

今度は私が驚いた。

それから結婚して出産し

生まれたての長男を見た夫は

「…気づいた?ジロウコウあったね。右だった」

となぜか声を潜めて報告してきた。笑

1年7ヶ月後に生まれた次男は

私が夫の先手を打ってチェック。

「ねえ、今回は両耳にあったよ」

「うそや。うちジロウコウ多すぎやろう」

と夫は笑っていった。

ないしょの穴の持ち主率、

我が家は100%になってしまった。

4人家族に穴6つ。

画像2

そして、私は

引く人もいるかもしれないけど…

息子たちのジロウコウのにおいもたまにかいでしまう😅

夫のはやらせてもらえない笑

そのうち息子たちにも嫌がられることだろうけど、

自分以外のにおいであっても案外いいにおいと感じるものだなあ、とくんくんしてしまうのだった。

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