平田の業
男・おとこ・オトコ社会の中で、唯一の妻帯者であり、人の親である綱川はある意味稀有な存在だ。(※三角の細君は本編に登場しないため除外)
亡き平田ですら愛人止まりだった。尤も彼にとっては、女性も自身の甲斐性を誇示するため、箔をつけるためのお飾りに過ぎず、これほど “家族” が似合わぬ男もいない。よって、かの女性も愛人というより情婦に近い扱いだったのではないか。
が、その “お飾り” さえ酒巻なる末端組員に寝とられた。これも今際の際に残した悲痛な叫びに繋がるのだろうか。(『俺は奪われてきた』)ともあれ平田の怒りは凄まじく、危害は当時酒巻の子分であった七原にも及んだ。
彼の転落は三角への異常な執着に端を発している。組長まで登り詰めたものの、三角の寵愛は一貫して矢代、ホモフォビアの彼にとってこれは耐え難い屈辱だった筈だ。やがて心酔は憎悪に代わり、寵愛対象である矢代にその矛先が向く。そして非業の死へと真っ直ぐに舵を切ったのだ。
幼少期から奪われ続ける人生、それが人一倍強欲で不遜な性格を形成しまったのだとしたら何と不幸なことか。
矢代はいかにも薄幸で儚げで人の同情を誘う。反対に平田は泥臭い野心を露にして憎まれながら死んだ。ひょっとすると彼は、少なからず裏社会では人に恵まれた矢代よりずっと悲運な男だったかも知れない。
※思いつくままの駄文です。ご容赦願います。