#06 Study Hack: 経済学の論文のイントロを書くには?

大学3年生と修士課程1年生に読んでほしい記事を見つけた。論文を書かずに卒業できる大学もあるとはいえ、書かずに卒業するのはもったいない。どうせ書くなら出来の良いものを書きたいはずだ。そういう人向けに参考になるのがこれだ。とはいえ、英語なので読むのが面倒だろう(おいこらw)。また、開発の文脈で書かれているページなので、もう少し一般化してある程度内容をまとめてみた。

イントロダクションに書く内容は、流れも含めてだいたいこんな感じである。
1. モチベーション(1–2 paragraphs)
2. リサーチクエスチョン(1 paragraph)
3. アプローチ(1 paragraph)
4. 詳細な結果(25–30%)
5. 関連する研究との比較(原文には1–3 paragraphsと書いてあるが、多分足りない。25%程度は書いた方がいい気がする。)
6. オプショナルな段落: ロバストネスチェック、政策との関連性、限界
7. ロードマップ (0–1 paragraph)

この中でも特に書き方が難しいのはモチベーションと関連する研究との比較であるので、この二つについて焦点を当ててみよう。

モチベーションの書き方の戦略には以下の3通りの書き方がある。

第一の戦略は、ある大きな問題を提示し、その問題のある一面(=研究内容)について言及するというものである。わかりにくいと思うので一例をあげると、Muralidharan et al. (AER)は「発展途上国における、人的資本投資の時間面・金銭面の両面での生産性の低さ」を大きな問題として取り上げ、その問題のある一面として「カリキュラムから落ちこぼれた学生を支援する制度の不足」があるとしている。

第二の戦略は、多くの国or他の国が実施している政策について言及し、その政策が理論の論文であればどのように機能しそうかorなぜ機能している/機能していないのか、実証の論文であれば実際には機能しているかどうかを調べてみるというものである。

第三の戦略は、経済学上の大きな論争である。従来の理論に照らし合わせればこのようなことが予想されるはずなのに、実際はそれに反する事象が観測される、というようなケースがあれば、これは良い研究材料になる。たとえば、Hjort and Poulsen (AER)の書き出しはこうなっている。「伝統的な貿易理論に従えばグローバル経済への統合に際して途上国における格差が縮小することが予想される」はずなのに、「過去数十年のアフリカ、アジア、ラテンアメリカの多くの地域で貧しい労働者の経済成長は遅い」と。

関連する研究と比較する際には、付加価値を示すことが大事だ。つまり、「あなたは既存の文献を踏まえた上で、自分の書いた論文の中で何を新たに生み出せたんですか?」ということを書かないといけない。過去の研究や既存の文献の蓄積と自分の論文の間の相対的な位置関係を考える必要があるのだ。経済学史の講義に楽しみを見いだせないという人は理論・実証問わず特に数学の腕に自信のある人に多い気がするが、相対的な位置関係を考える練習になるという意味で経済学史を学ぶことはよい知的鍛錬になることだろう(これは先に書いたモチベーションの第三の戦略にもつながる)。

世界の問題や政治・政策に目を向けたり、経済学史を踏まえた上で経済学上の論争をきっちりおさえたりといった能力がイントロダクションで問われる。やはり、理論・実証問わず経済学を数学力だけでねじ伏せるわけにはいかないのだ(もちろんこれは数学力を鍛えなくても構わないということを意味しないのだが)。こう考えると、数学にそれほど強くない・それほど自信があるわけではないという人であっても少しは希望が見えてくるはずだ。

※当記事を大学のゼミや講義で利用することは大歓迎です。利用する際の連絡は不要です。

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