一人二役の、超えられない境界線のハナシ。
一人二役、全然違和感ナシ!
テレビ朝日の夏ドラマ『伝説の頭・翔』が面白い。高橋文哉が伝説のヤンキーの頭(ヘッド)・伊集院翔と、いじめられっ子のアイドルオタク・山田達人という対極の人物を一人二役で演じている。『仮面ライダーゼロワン』で共演した井桁弘恵(刃唯阿/仮面ライダーバルキリー)、中川大輔(迅/仮面ライダー迅)をはじめ、ニチアサ出身のキャストが多いのもうれしい。
驚いたのは、翔と達人が同じ部屋にいるシーンでも全く違和感がないこと。知らない人が見たら一人二役と気づかないかもしれない。さすが令和6年にもなると合成技術の進化を感じる。
そっくりさん回について
かつては時代劇でも頻繁に見たものだ。『桃太郎侍』では高橋英樹が桃太郎と松平備前守の二役をやったし、『水戸黄門』や『大岡越前』のような長寿シリーズでは、レギュラー出演者が一人二役で別の人物を演じることは定番だったと言っていいだろう。私はこれを「そっくりさん回」と呼んでいる。
さて、このテレビ時代劇における「そっくりさん回」で私が長年疑問に思っていることがあった。それは同じ顔の二人が一つの画面に写るシーンでのこと。二人の間には絶対に境界線が存在するのである。この時点でピンと来た人は、時代劇にも撮影技術にも詳しい方だろう。
それであの境界線って、結局何なの??
そもそも何と呼べばいいのかすらわからないその“境界線”について、尊敬するkmrtさん(@kmrtwit)に聞いてみることにした。kmrtさんはかつての職場で大変お世話になった方で、時代劇や無声映画にもとても詳しい私の心の師匠である。(今度サインください)
鈴峰らんか(以下、鈴峰) kmrtさん、時代劇の「そっくりさん回」で必ず見られる“切れ目”について伺いたいんですが…。
kmrtさん(以下、kmrt) 切れ目とは、カットが変わるということを指している?
鈴峰 いえ、フィルムの切れ目かなと思っています。
kmrt 同じ俳優が二役、それが同一画面に写っている場合は、二つの撮影物を合成しているか、片方は代役の後ろ姿か、どっちかですよね。
鈴峰 そうですね、そうなんですけど、そういうときに二人が対峙した場面では絶対に縦線が入っていると思うんです。
kmrt なるほど、障子や柱のような線があると合成が楽ですね。撮るときの目印にもなるし。
鈴峰 それのことです!! 通じてよかった!!
kmrt これは「フィルムの切れ目」ではないです。そこでフィルム切ってない(笑)。はじめにこれ(※1)を撮って、
カメラ位置をそのままでこっち(※2)を撮ります。
その後でこの二枚を重ねる、という合成をやっているんです。
動画だから、役者にも「その柱の線から出るな」とか指示しやすいわけですよ。おそらく芝居場の床はバミってありますよ、芝居で動く範囲がわかるように。
鈴峰 私、てっきりその柱や障子の線でフィルムをハサミで切ってくっつけてるものだと思ってました…。
kmrt さすがにフィルムを縦に割いて貼り付けたりはしないです。
鈴峰 思い込みってこわい! 絶対境界線のところでチョッキンしているものだと…。
kmrt 実物を知らないからです。しょうがないです。
鈴峰 (やっさし~)
kmrt 撮り方ですが、撮った二枚をそのまま重ねると顔に背景が重なってしまうので、撮るときにレンズの前に黒紙を置いて半分を隠します。もう片方を撮るときは、逆の半分を隠して撮ります。そうすると、一度片側ずつ写っているものを現像して、それを重ねたときに顔に背景が重なりません。
鈴峰 なるほど、撮影の段階から半分は隠してあるんですね! だから重ねるときの目印として縦線があることが多いのか~!
kmrtさん、ありがとうございました!!
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とはよく言ったものである。聞かなければずっと障子の線でフィルムをぶった切ってセロテープでくっつけていると思い続けていた。
ちなみに以前書いた記事(下記リンク参照)について、必殺の本を何冊か書かれている方にXで「ほかにも技術的な証言は怪しいところが多いです。」と厳しいリプをいただきプチ炎上したのだが、こちとらフィルムをちょん切っていると思っていた程度の人間なのでそのあたりは生暖かく見守ってほしい。ヘヘッ!
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