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真の国際人

由紀さおりさんと、アメリカのジャズグループ、ピンクマルティーニが作ったアルバムが世界20ヶ国以上でCD発売、配信され、全米ジャズ部門のチャートで一位を獲得したことが日本でも評判になっている。
なぜ!なぜ!
どうして!
なぜ、今!
そう思われた方も少なくはないだろう。


実際、この本人も
「嬉しいけど、何だろなと不思議な気持ち。世界が狭くなった」と、仰っている。
とても、素直な言葉だと思う。
1969年発売の由紀さんのファーストアルバムのレコードが、アメリカ、ポートランドの古レコード店に置かれていたこと。
そして、マルティー二のリーダー、トーマス・M・ローダーデールがそのジャケット写真に心惹かれたこと。
赤ぃ糸で結ばれていたかのような両者の出逢いは、偶然と偶然の重なりだったかも知れない。
しかし、トーマスが心惹かれたジャケットの歌手が、由紀さおりさんであった!という一点だけは、神様の将来の計画だったように思える。
 
 
もう、二十六、七年も昔のことだが、妙にしっかりと覚えていることがある。
由紀さおりさんと初めてご一緒した時である。
公開の番組だったのだろう、用意された楽屋は由紀さんと、もうお一方先輩の歌手、そして私が使う相部屋だった。
音合わせを終えて、にこやかに楽屋へ戻って来られた由紀さんの後ろから一緒に入って来たのが初老の音楽評論家の先生だった。

そして、その人が由紀さんに面と向かってこう言った。

「由紀さおりって人は、不思議な人なんだよなぁ。
歌が上手いってのはともかくとして、品がある。
日本人の品だな。
貴女みたいな人、他にいないよ」。

二十才になるかならないかという年齢(とし)の私の胸に、この「品」という言葉が、そのとき由紀さんが着ていらした白いドレスの色とともに鮮やかに響き、残った。

その時の評論家の先生の言葉の通り、神様は由紀さんに星印をつけ、時を待っていたに違いない。
そして、今、この時とばかり、神様の付けた星が輝き始めたのだ。
 
日本に歌手は、沢山いる。
私も、その一人である。

しかし、日本人の品を持ち合わせた歌手は、そういるものではない。


写真は近年番組で共演した際のモノ
 

MFC「こころの中の旅」 2011年12月号より 

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