【🇫🇮ポスドク】マリーキュリーアクションとSYS-LIFE について
先日、私がメンバーに選出されたポスドクプログラムSYS-LIFEのオリエンテーションに参加した。
SYS-LIFEはEUが創設した研究奨学金制度:マリー・スクウォドフスカ・キュリー・アクション (MSCA)とトゥルク大学の共同出資ポスドクプログラムである。
MSCAは欧州の学術界において最も競争力、権威あるフェローシップの一つであるが、日本ではあまり知られていないように思う。
そこで今日は、MCSAおよび私が参加しているSYS-LIFEについて紹介したい。
マリー・スクウォドフスカ・キュリー・アクション (MSCA)とは?
MSCAは欧州の研究活動や研究者育成を支援する、EUが設立した活動である。
女性で初めてノーベル賞を受賞、さらに生涯でノーベル物理学賞と化学賞を両方受賞した唯一の人物であるマリー・スクウォドフスカ・キュリーの名を冠し、あらゆるキャリア段階の研究者を支援し、学際的研究と国際共同研究を推進している。
MSCAの枠組みは5種類ある
Doctoral Networks (DN)
博士課程の学生を支援するPostdoctoral Fellowships (PF)
博士研究員のキャリア形成を支援するStaff Exchanges (SE)
研究者の移動、共同研究を支援するCOFUND
応募施設とEUの共同出資で、地域、国を超えて移動し、国際共同研究とキャリア形成を促進するプログラムMSCA and Citizens
研究者と一般市民の交流を支援する
今回私は、MSCA-COFUNDに採択されたトゥルク大学のプログラムSYS-LIFEのメンバーとして活動できることとなった。
MSCA-COFUNDの特徴
MSCA-COFUNDを特徴づけるキーワードに “mobility rule” “interdiciprenary” “intersectional” がある。
Mobility rule(移動原則)
研究者の移動を促すため、受け入れ施設のある国に過去3年間で12カ月以上居住していてはならないという規則がある。
Interdisciplinary(学際的)
近年の学術界で推進される概念で、異なる研究領域にまたがって行われる共同研究のことを指す。
既存の一つの学術領域の中だけでは、革新的な研究は生まれにくく、異なる領域の知が交わるときにイノベーションが起こりやすいことが分かっている。そのため、MSCA-COFUNDでは学際的なプロジェクトが推奨されている。
Intersectional(交差性)
ここでいう交差性とは研究が行われるアカデミアと、その知を使う企業や個人などのアカデミアの外の移動を促進することを指す。
そのため、SYS-LIFEでは企業でのインターンや、行政、病院などアカデミアの外での活動を含むプロジェクトを推進する。
私は、このinterdisiplinaryとintersectionalはこの制度に冠されている、マリー・キュリーに対する表現でもあると考える。
マリー・キュリーとの関連
マリー・キュリーは2度のノーベル賞受賞からも分かるように、一つの学術領域にとどまらない画期的な研究結果を生み出している。マリーは女性が大学に進学することも許されなかった時代に苦学し、物理学と数学の学士号を持っていた。複数の学術分野の知識を広く深く持っていたマリーだからこそ、画期的な研究成果を挙げたのだろう。これは学際的な研究が目指す優れたイノベーションの最たる例である。
さらに当時の最先端機器であったレントゲン設備を載せた車両を、自ら運転免許および自動車整備の技術を習得したのち、第一次世界大戦で負傷した兵士のいる病院に設置して回った。これは大学内の知識を大学外で応用するintersectionalityの例である。
SYS-LIFEとはどんなプログラム?
SYS-LIFE (Systemic approaches to improve cardiometabolic and brain health during lifespan:生涯を通じて心代謝と脳の健康を 改善するための全身的アプローチ )はトゥルク大学医学部がMSCA-COFUNDの枠組みの中で獲得したポスドクプログラムである。
目的は、人間の健康における画期的な進歩、科学の刷新、そして心代謝と脳の健康分野 における将来の指導者の育成だ。
プログラム期間中に22名の博士研究員に資金を提供し、任期は3年だ。
研究員は
国際的に優れた研究プロジェクトを遂行すること
プロジェクトの成果を様々な方法で普及させること
さまざまな研修に積極的に参加すること
が求められる。
研究員は給与の他に、旅費、研究費、研修費が支給される。
求められる研究プロジェクトは、心疾患もしくは脳疾患に関するテーマで
interdisciplinary(学際的)
intersectoral(学内外をつなぐ)
systemic(全身的な視点をもつ)
longitudinal(縦断的なタイムポイントの)
な研究が特に推奨される。
私の研究プロジェクト
トゥルク大学に残留する方法を模索していた私は、22名ものポスドクを雇用するプログラムがEUに採択されたと聞き、学内説明会に参加した。
MSCA-COFUNDはmobility rule が適用されるため、現段階でフィンランドに居住するポスドクは応募ができないと聞き、これはチャンスだと感じた。私がフィンランドに居住していたが、期間は一年未満であったので応募可能だったのだ。
研究テーマは心疾患か脳疾患に関連していなければならない。さらに学際的、全身的、学外にインパクトのある、長期的な視点の研究が要求されていた。
説明を聞きながら、私は直感的にいけると感じた。
私は歯科医師であるが、全身麻酔をかける歯科麻酔を専門としている。さらに私の研究分野は心理学と疫学に関連する歯科不安である。
私はこれまでの知見から、歯科治療に恐怖心を感じやすい人は、歯科受診を避け、その結果歯周病等の口腔内疾患を介し、冠動脈疾患のリスクが高まると仮説を立てた。この仮説をトゥルク大学、オウル大学が行う出生コホート研究データを用いて検証する計画だ。
この結果がわかれば、心疾患のリスクを下げるために歯科不安に対処することが必要かどうかが明らかとなる。
私の研究計画は3人の評価者によってレビューされランキングされた。私は前期募集の11名の中に滑り込んだ。
SYS-LIFEの感想
私がSYS-LIFEが優れているなと感じる点は、
3年間というポスドクにしては比較的長期間の雇用期間である
給与に加え、旅費や研究費が支給される
メンタリングプログラムなど教育的な研修制度が充実している
同じ立場の仲間に出会える
である。
これから後期募集(11名)が始まるそうなので、興味がある研究者がおられれば、チャレンジされてみてください。トゥルクは住み良い街ですよ。