小説 パパ活女子をわからせる
三限の講義が終わり、解放された喜びから伸びをする。いつも一緒に受講している恵が体調不良で休んでおり、退屈な一時間半だった。大学三年生になって受ける授業は減ったが、やはり授業は苦痛だ。周りがざわざわと次の講義に行く用意をしているので、私もバッグに先ほどの講義のレジュメとノートを詰める。
「香山、ちょっといい?」
軽やかなテノールボイスで聞き覚えのある声に話しかけられそちらを向くと、同じゼミの舛添くんがいた。
舛添くんはみんなのリーダー的な立ち位置にいる人物だ。身長は百八十センチほどの細身で、顔も目鼻がハッキリしていて女子からの注目の的。私も同じゼミなので関わりがないわけではないが、別世界の人物なので話すことはあまりない。せいぜいゼミの課題の進行具合について話すくらいだ。
そんな彼が一体、何の用だろう。
「突然なんだけどこのアカウントさ、香山のだよね?」
彼はそう言いながらスマホの画面をこちらに向けてくる。
瞬間、私は目を見開き固まった。
そこには「みみか@p活」という、見慣れたアカウントが表示されていたからだ。
「……なにこれ?違うよ?」
私は必死に取り繕って否定する。
なんで。どうして。どうやって。そんな疑問が頭の中を駆け巡る。心臓がバクバクと音を立てる。否定しきらなければ。
「俺、見ちゃったんだよね。おじさんと香山が高級なレストランに入って行くの。それで調べてみたら、このアカウント見つけて。このアカウントに載せてるバッグの画像と香山のバッグ同じだし、バッグ買い替えたって言ってた時期と一致する」
「そんなの偶然だよ」
「香山、別に俺は咎めたいんじゃない。周りに内緒にする代わりに一つお願いを聞いて欲しいんだ」
「だから私じゃないって!」
思わず大きめの声をあげる。これでは必死感が出て逆に怪しいのでは、と気づいた時にはもう既に声が出ていた。幸い、講義室からはほとんど人が出ていて、私の声に気づいた人はいないようだった。
舛添くんはそんな私の悲痛な叫びも無視して続ける。
「香山、俺とパパ活して欲しいんだ」
え? 思わぬ提案に私は口をあんぐりと開けて固まる。
「俺、仕送りももらっててバイトもしてるから金は余ってるんだ。だから、さ。いいだろ?」
「な……、なんで?」
そう言わずにはいられなかった。彼の思考回路が全く読めない。
「俺さ、香山のこと好きなんだよ。だからおじさんとそういうことして欲しくない。それとも、俺じゃ不満?」
「す……、好き!?」
彼の口から出てきた言葉に敏感に反応してしまう。どうしてそんなワードがさらりと言えてしまうのだろう。理解不能だ。舛添くんが、怖い。
「そう。だからお願い。あんまり脅したくないけど、香山がおじさんと腕組んでる顔つきの写真も撮ってあるから、俺の言うこと聞いてほしい」
彼は真剣な表情で、有無を言わさないといった様子でこちらを見つめてくる。
そんな彼の脅しに、私は屈するしかなかった。
そもそもパパ活を始めたのは、生活費に困っているからだった。両親との仲が良くない私は家を出て、東京の大学に進学するとともに上京した。親は世間体を気にするたちで、今時大卒でないなんてあり得ないと言い学費こそ出してはくれるものの、生活費に関しては全く援助してくれなかった。だが都心のアパートの値段は七万円と、普通のバイトで稼げるかどうかだ。そんな時に思いついたのがパパ活だった。
「みみか@p活」はパパ活の情報収集やパパ活の募集のために作ったアカウントで、最初はただ募集するだけだったのが、承認欲求から買ってもらったものの写真やご馳走してもらった料理の写真を上げてしまうようになってしまった。
それがまさか、舛添くんに知られるなんて思っていなかった。こんなことならパパ活なんてやめておけばよかったと、心底後悔した。
私は舛添くんにアカウントを消すように言われ、目の前でアカウントを消去した。これで本当に頼みの綱は舛添くんだけになってしまった。
「パパ活って、ご飯で一万円くらいなんだろ?相場教えてよ」
「う、うん……。それくらい……」
「香山は体も売ったことあるの?」
そんなわけがない。私が手をぶんぶん振って否定すると、舛添くんは
「良かった」
とだけ言って、ほくそ笑んだ。その笑みがなんだか、とてつもなく恐ろしいものに見えた。
「それじゃあ今日の放課後、パパ活な!俺、いい焼肉屋知ってるから付き合ってよ」
今日だなんて、急すぎる。確かに予定はないが、心の準備ができていない。同級生とパパ活なんて、したことないし聞いたこともない。
しかし、反抗したら何をされるか分かったものではない。私はただ、頷くことしかできなかった。
舛添くんが連れてきてくれたのは、大学から歩いて10分ほどの大衆向けの焼肉屋だった。黒いTシャツを着た店員さんたちが赤色を基調とした店内を忙しなく動いている。舛添くんが相手なら同級生に目撃されてもパパ活に思われないな、なんて考えながら、私は運ばれてくる肉をただ見つめていた。
「どうした?もっと食べなよ。それともダイエット中?」
「や、やっぱりおかしいよ。同級生でパパ活なんて……」
「まだそんなこと気にしてるの?細かいなあ、美緒は」
下の名前で急に呼ばれてドキリとする。どうやらパパ活中はそう呼ぶ、と彼の中でルールが決まったらしい。
「パパ活するからには、楽しませてもらわないと。じゃないとどうなるか分かってるよな?」
平然とした顔で怖いことを言いながら肉を焼き始める彼にただただゾッとする。
「まぁでも初回だし仕方ないか。こうやって向かい合うのも、多分初めてだもんな、俺たち」
ジュウウと美味しそうな音がする。それを聞くと私もようやく食べる気になって、おそるおそる肉を焼き始めた。
「美緒はさ、どうしてパパ活してるの?」
「生活費のためだよ。うちの親、仕送りとかしてくれないから」
「そっかー、大変だな。自慢じゃないけどうちは親が社長でさ、甘やかされて生きてるんだ。だから仕送りも月二十万もらってるし、マンション代も親が出してくれてる」
親が違うだけでこんなにも環境が違うのか。私は惨めさで泣きそうになった。人に与えられるだけの財産のある彼と、パパ活なんかしてまで金を稼がないといけない私。
「でも、俺それじゃダメになると思ってバイトしてるんだ。大学近くのカフェで働いてる。だからさらにゆとりがあるってわけ」
「そうなんだ、偉いね」
本当はそんなこと微塵も思っていない。親に甘えている時点でバイトなんて道楽だろう。私は色んなリスクと戦いながら孤独にパパ活をしてるんだ。今回みたいに知り合いにバレるリスク、無理やり連れ去られるリスク、体の関係を求められるリスク。ああダメだ、まるでパパ活が名誉あることのように自分の中で定義づけされている気がする。パパ活なんて、いくら体の関係がなくとも援助交際と変わらないのに。
そんな自己嫌悪に陥っていると、舛添くんが
「肉、焦げるよ」
と言ってきたのであわててひっくり返した。
「美緒は月にいくら必要なの?」
「十二万くらいかな。家賃が七万で、食費は一万、水道光熱費と携帯代が二万、あと二万が諸経費」
「食費が一万って安くない?」
「こうやってご馳走になってるから安く済んでるの」
「なるほど。欲しいものとかも買ってもらうのか」
「そうだね」
肉を口に運びながら答える。牛タンは噛むと柔らかくて美味しい。舛添くんがお勧めするだけあっていい肉を使った焼肉屋のようだ。
「舛添くんは、なんで私のことを好きになったの?」
逆にこちらから質問してみると、舛添くんは飲んでいたビールで咽せた。
「げほっ……、なんだよ、それ聞いちゃう?」
「うん、だって気になるんだもん」
「言っちゃえば顔と雰囲気。助けてやりたくなる感じ」
まさか本当に金銭面で助けを求めてるとは思わなかったけど、と舛添くんは笑った。
その回答を聞いて私は拍子抜けした。思いやりがあるところ、とか、誠実そうなところ、とか、性格で判断してほしい自分がいたのだ。好きになってくれた人にそれを求めるなんて、贅沢だろうか?
「でも幸せだな」
「なにが?」
「十二万も必要なら、月に十二回も美緒とこうやって食事して喋ることができるんだろ? 幸せだよ、俺」
そうどこか蕩けたような表情で言ってみせる舛添くんに、私はことの重大さを思い知った。
そうだ、舛添くんだけとパパ活するとなったら、月に十二回も顔を合わせることになるのだ。月の三分の一以上。そんなのまるで、
「恋人みたいだ……」
そう呟く私に、舛添くんは目を細めて笑いかけるのだった。
そうこうして一回目のパパ活が終わった。舛添くんは店の前で
「はい、これ」
と、一万円を渡してきた。
今までパパ活の実感がわかなかったが、現金を見ると一気にそれがわいてくる。果たして本当に受け取っていいものか……と私が悩んでいると、舛添くんは私の上着のポケットにそれをねじ込んだ。
「きゃっ」
思わず声が出る。しかし舛添くんは構わず
「次いつにする?俺は明日バイトあるから、土曜がいいな」
と平然とした顔で次の予定を決めようとしてきた。
「じゃあ……土曜で……」
私は流されるまま約束を取り付ける。
「オッケー、楽しみにしてる!」
彼はそう言うと、じゃあな、と言いながら手を振って帰っていった。
私はしばらく店の前で立ちすくみ、果たしてこの関係は本当に続けていいのだろうか、というかいつまで続くのだろうか、と考えていた。
「美緒ー! 昨日はごめんね! 生理痛が酷くてさー!」
パンっと手のひらを合わせ謝るポーズを取るのは私の高校からの親友である佐々木恵。
「もう、一人で授業受けるの心細かったよお」
そうわざと恵を困らせることを言うと、恵はごめんねを連呼した。
「お詫びと言ってはなんだけどさ、明日の土曜日、スイーツビュッフェ行かない? 奢るよ! 気になるお店があってさー」
土曜日、という単語に私はギクリとした。
「ごめん、土曜日はバイトだ」
私はパパ活する時間のことをアルバイトと言って誤魔化していた。土曜日は舛添くんとの約束がある。
「そっかー、残念! じゃあ別の友達誘うよ!」
何も知らない恵は天真爛漫にそう言う。彼女はハッキリとした性格をしていて、こういう約束を取り付けられないことがあっても全然気にしないタイプなので助かっている。
「そういえば今日のゼミ、発表の班決めらしいよー。誰と一緒かなあ」
「私、由麻ちゃんがいいな。なんでも仕切ってくれるから一緒にいると楽なんだよね」
「リーダー的な仕切り役と言ったら舛添くんもじゃない?」
私はまたも背筋がピンと張るような感覚がした。
「舛添くんね……。それもいいかもね」
「っていうか私、舛添くんのこと気になってるんだよねー! 美男子だし、明るいし! 狙っちゃおうかなー!」
なんということだろう! 私は自身から脂汗が滲み出るのを感じた。
ここで、実は私、舛添くんとパパ活をしているのなんて打ち明けたらどうなってしまうのだろう。私は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
だけど、頭の片隅にいた冷静な私が言った。恵と舛添くんがくっつけば、舛添くんとパパ活をしなくていいのではないかと。そうだ、名案だ! 私への興味が薄れれば、自然とパパ活をしなくなるだろう!
「舛添くん、いいんじゃない? 狙ってみなよ」
私は恵を利用することに内心罪悪感を抱えながら言った。
そして五限目になり、ゼミの時間がやってきた。
「お疲れー」
先に教室に入っていた舛添くんに、目を合わせないようにしながら挨拶を返す。
恵は私の隣の席に荷物を置くと、舛添くんのそばに行き雑談を始めた。
私は手持ち無沙汰になりスマホをいじる。すると舛添くんからメッセージが飛んできた。
『避けないでよ』
思わず舛添くんのほうを見ると、スマホを片手に恵と談笑していた。
『避けてないよ』
そう送ると、既読だけついて返信が来なくなった。それに不安を覚えるべきなのか安心を覚えるべきなのか分からないで講義開始を待っていると、その願いを叶えるかのようにチャイムが鳴り、教授が入ってきた。
「今日は日本の詩の変遷についてをやります。その前に、ゼミ発表のグループ分けを発表したいと思います。一班は櫻井、井田、佐々木、香山で、二班は舛添、山内……」
私は発表を聞いて心底ほっとした。恵も一緒だし、舛添くんとは違う班だ。ちらりと舛添くんのほうを見ると、特に異論はなさそうな顔でグループ分けを聞いていた。できれば恵と舛添くんに同じ班になってもらって親睦を深めてもらいたかったが、とりあえず気まずいのは避けられて嬉しかった。
そう思ってると、舛添くんからメッセージが届いた。
『避けても無駄だからね』
夢を見た。
私は1匹の黒い鳥で、高級なマンションのリビングらしき部屋で鳥籠の中に閉じ込められている。ばたばたと外に出ようとしてももちろん出られない。
私は助けて、と叫ぼうとするが、その声はただの鳴き声になり誰にも届かない。
「おなかが空いたのかな?今、餌をあげるからね」
そう声が聞こえ、リビングの扉が開く。
やって来たのは、舛添くんでーー……。
「いやっ!」
叫びながら飛び起きる。パジャマの中は汗をぐっしょりとかいていて気持ちが悪い。
金銭的に舛添くんに支配される不安。その不安から私は抜け出せないでいた。
呼吸を整えながら時計を見る。十時二十分。悪夢を見た割には結構寝ていたようだ。
朝食の食パンを食べ、シャワーを浴びる。パパ活で得たお金で出てくる水。パパに買ってもらったシャンプーなどの日用品。私の生活は、今まで複数のパパによって支えられていた。
パパを複数持つことは安心だった。月に一、二度会う関係性なので、恋愛対象として見られることはなかった。たまにそういった感情を持たれてしまうこともあったが、その時は切ってしまって、別の良識のあるパパを探せばいい。
だけど今回は違う。私を愛してる人だけと、パパ活をしなくてはいけない。
どうなってしまうのだろう。そういう漠然とした不安が、自分の中から消えなかった。
私はシャワーを浴びると、舛添くんに会うために化粧をした。お金をもらうのだからここで手を抜くわけにはいかない、と自分に言い聞かせて、アイラインの角度までぴっちり計算して顔を作る。こういう時に手抜きができる女だったら、舛添くんも失望してくれたのだろうか。
舛添くんが今日行きたいと言っていたのは、デザートビュッフェだった。なかなか高級なホテルのビュッフェらしいので、ちゃんとしたワンピースや靴を用意する。
これではまるで乗り気でデートに向かってるみたいだ。鏡に映った自分の姿を見て、私は自嘲した。
集合場所の駅まで向かうと、舛添くんは改札を出てすぐの柱に寄りかかっていた。
彼は黒いパンツにグレーのYシャツを着て、革靴を履いている。元から顔立ちがかっこいい彼にお似合いの大人っぽいスタイルだ。
「お待たせ」
私がそう声をかけると、彼はぱっとこちらを見たかと思うと、上から下まで舐めるように見てきた。
「可愛い」
思わず顔が熱くなるのを感じた。
「高級ホテルのビュッフェって聞いたからこういう格好してきただけ!」
私が必死に彼のためではないと伝えると、
「分かってる、分かってる」
と快活に笑った。
「じゃあ、今日の分、これね」
そう言って彼が渡して来たのはウサギ柄のポチ袋。
「前の時は現ナマだったろ? ちょっといやらしいと思ってさ。こういうのに包んでみた」
私はその気遣いは育ちの良さから来るものなのだろうと思いながら礼をして受け取る。
「じゃあ行くか」
そう言われ彼の後をついていくと、いかにも高級そうなホテルに到着した。
「ここの二十三階がビュッフェ会場」
彼に案内されるまま、エレベーターに乗る。
すると高級そうなビュッフェ会場に到着した。天井からはきらきらと光るシャンデリアが吊るされており、ピアノも置いてある。そして窓が全面ガラスで出来ており、綺麗な景色も見渡せる。
係員に案内され、席に着く。席も半円状のソファー席だ。
「よし、じゃあ取りに行くぞー」
そう意気込んで舛添くんは先にスイーツを取りに行く。私は彼の荷物を見ているべきか一緒に取りに行くべきか悩んだが、こんな高級なところでは盗みなんかには合わないだろうと一緒に取りに行くことにした。
お皿が適度に埋まるほどスイーツを取って席に戻ると、舛添くんは私が戻るのを待っていてくれた。
そこにシャンパンが運ばれてくる。
「え、これ舛添くんが頼んだやつ?」
「いや、ビュッフェのコースの中に入ってるやつ。シャンパン嫌い?」
「ううん、好き。いただきます」
そう言ってシャンパンを口に含むと、芳醇な香りが広がって美味しい。
素直に美味しいと伝えると、舛添くんはこちらを愛おしそうに見つめながらよかった、と言った。私はその熱のこもった視線を向けられて、思わず目を逸らす。
「ゼミの時間も俺の目見なかったね」
「見られないよ、そりゃ」
「なんで?」
「なんでって言われても……」
返答に困っていると、
「まあ、いいや。今日はなんの話しようかな」
と本人から話題を変えてくれた。
「そうだなあ、パパ活してきて買ってもらった一番高いものって何?」
高級な場で品のない話を……とも思ったが、今までのパパともそんな話をしたことがあった。
「三十万くらいのバッグかな。私には不相応だと思ったけど、プレゼントされちゃって。それがこのバッグなんだけど」
私はそのパパのことを思い出す。私に恋愛感情を持ち、勝手に暴走して高いものをプレゼントしてくるパパだった。最終的には体の関係を求められ、面倒になって連絡先を消した。だけどバッグに罪はない。デザインが気に入ってるのでありがたく使わせてもらっている。
「じゃあ、俺がそれより高いバッグ買うからそれ売ってよ」
「え?」
食べ物に集中していた視線を上げて舛添くんの表情を見ると、恐ろしいほどに冷たい目をしていた。
「売って。いい? それともその男に思い入れでもあるの?」
「な、ないよ! ガチ恋で面倒な人だなと思ってたし……」
「じゃあ、いいよね? 言うこと聞かないと、分かってるよね?」
口は笑っているが目は笑っていないとはこのことを言うのか。私は背筋が凍った。怖い。この人が怖くてたまらない。
「わ、分かった」
「じゃあ、今日これ食べ終わったら百貨店行こう! このすぐ近くにあるから」
そういつもの表情に戻る彼を見て、その表情の切り替えの早さも怖いと思ってしまった。
せっかくのビュッフェなのに、食べ物の味があまり分からなくなってしまった。
しかし、空腹は満たさねばならない。私は二巡目のスイーツを取りに向かった。
すると、
「あれ? 美緒?」
と聞き覚えのある声が聞こえた。
振り向いてみると、そこには恵がいた。
「え……、恵!?」
「今日バイトじゃなかったの?」
これはまずいことになった! 何がまずいって、同行者が舛添くんであることがまずい! 恵は舛添くんのことが気になってるのに!
「バイト……早く終わったから来たんだ」
「へー、誰と来てるの?」
「えっと……友達」
言葉を濁す私に不信感を抱いたのか恵はさらに聞いてくる。
「その友達って?」
「それは……、えーと……」
「あれ?佐々木じゃん」
終わった。私はそう確信した。
「え、舛添くん!? 美緒、どういうこと!? 舛添くん狙ってみなよって言ったの美緒じゃん!」
恵が悲痛な声をあげる。会場中からこちらに視線が注がれる。
「佐々木、違うよ。俺と香山はただの友達で、こういうところに男一人で来るのが恥ずかしいって言ってついてきてもらっただけ」
舛添くんがたしなめるように恵に言うが、恵の気持ちは収まらない。
「じゃあなんで美緒なの!? 美緒、舛添くんと仲良いなんて教えてくれたことなかったじゃん! 抜け駆けしようとしたの!? ひどい!」
「ち、違う……」
「違くないでしょ! 私たちずっと、嘘や秘密がない親友だったと思ってたのに! 美緒の嘘つき! 最低!」
恵はそう言うと自分の皿を持ちながら自分の席へ戻って行った。
私の心は深い絶望感でいっぱいだった……。体が急にずしんと重くなったような気分だ。
「なんか俺、最悪のタイミングで来ちゃったみたいだな。ごめん美緒、とりあえず席戻ろう」
ふらつく体を舛添くんに支えてもらいながら、私はソファにもたれかかった。
「違うの……、私、恵を裏切るつもりなんかなくて……」
「うん」
「だって、やってることはパパ活だもん……。デートじゃないもん……」
「そうだな」
「でも、そんなこと恵に言えない! どうしたら……!」
ぼろぼろと涙が溢れてくる。高校時代からハキハキとしていてかっこよかった私の親友。いつも物静かな私の代わりに意見を言ってくれた。大学だってお互いのために猛勉強して同じ大学、同じ学部に入ったのに……。
「俺がいるよ」
横からぎゅっと手を握られる。
「大丈夫、俺がいるから」
「なにを根拠に……」
だいたい、舛添くんがパパ活しようなんて言うからいけないんだ。そしたらこんなところ来なかったし、恵にも嫌われずに済んだ。舛添くんが憎い。
「もう、こんなことやめる……。パパ活なんてやめる……」
「それは無理だよ。こっちには証拠があるんだから」
なんて冷徹なんだろう! もう私はあの夢みたいに鳥籠に閉じ込められてるんだ。私が泣いても、この人は私を離してくれないんだ。そう思うともうなにもかもがどうでもよく感じられた。
「今日はもう帰ろう。バッグ買う約束は次でいいから」
「うん……」
シャンパンの酔いもあったのだろう、ふらつく体を舛添くんに支えられる形で私たちはホテルを出た。
「家までタクシーで帰って。もう電車乗る気力ないでしょ?」
そう言ってタクシー代一万円をポケットに押し込められ、タクシーに乗らされた。
帰ってから恵に連絡しても恵からの返信はなかった。恵は一度怒ると止まらない。もう絶交されてしまったのだろうか。そう思うと、また涙が出てきた。
月曜日がやってきた。
私が講義室に入ると、真ん中よりも若干後ろの席に、恵は座っていた。
しかし、その両脇は恵のサークルの友達に囲まれていた。
拒絶されているのだと分かった。私のそばにもう近づくなと、恵に言われてるのが分かった。
私は一人で講義を受けようと、前のほうの席に座った。
大学三年生にもなると、新しい友達作りなんて難しい。もう一人で授業を受ける以外の選択肢はなかった。
ゼミの時間でも、恵は私のことを徹底的に無視してきた。幸いにも発表に向けて共同で行うような作業はなかったからよかったけれど、恵はまるで人が変わってしまったようだった。
恵以外に友達と呼べる友達がいない私は、実質孤立してしまったのだった。
やっぱり、こうなってしまったのは舛添くんのせいだ。ビュッフェの件は偶然だったかもしれないけど、これからどんなトラブルがあるか分かったものではない。やはりやめよう。やめられないにしろ、別の策を考えなければ……。
あ。私はいいことを思いついた。そうだ、これなら舛添くんに依存しないで済む。
私は新しく、パパ活アカウントを作成した。
「家賃三万のところに引っ越した?」
大学の近くにある古き良き喫茶店。木を基調とした店内に、純喫茶特有の低いテーブルと低い椅子が並べられている。
そんな場所で怪訝そうな顔でコーヒーを飲む舛添くんに、私は言う。
「そう、四人でルームシェアするところに引っ越したの。これで家賃と水道光熱費が折半になるから、家賃が三万で、食費は一万、水道光熱費と携帯代が一万、あと二万が諸経費で、合計七万円で済むことになったの」
もちろん、そんなのは大嘘だ。引っ越しなんてしていないし、誰ともルームシェアなんてしていない。
「引越し代はどうしたの」
「私、パパ活の貯金があったからそれで……」
「どうしてそうしようと思ったの?」
まるで面接官に詰められているようだ。
「舛添くんの金銭的な負担を考えると恐ろしくなって来たからだよ。あとね、バイトも始めようと思って……月三万円稼ぐから、舛添くんは月四万だけ助けてくれればいいの」
私がそう伝えると、舛添くんは明らかに面白くなさそうな顔をした。
「それって月に四回しか会えなくなるっていうこと」
「そういうことになるね」
あくまでも平静を装う。
「……分かったよ」
まるで辛酸を舐めたかのような顔で舛添くんは同意した。
私は内心、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。これで舛添くんに依存することはない!
「でも、バッグ買う約束は守らせて。俺、俺が買ったバッグを持ち歩いてる美緒が見たいんだ」
「分かった」
舛添くんに依存しなくて良くなるならもうなんだっていい。
私たちは喫茶店を出ると、百貨店に向かった。外の空気はいつもより美味しく感じられた。
「美緒には水色か黒が似合うと思うんだ」
「いいね。水色も黒もどっちも好き。普段使いしやすいのは黒かな」
「そっか。すみません」
彼が店員を呼びつけると、洗練された雰囲気の店員がやって来る。
「なにかお探しでしょうか」
「三十万以上で、水色か黒のハンドバッグないですか?」
店員は一瞬顔を顰める。そりゃそうだと思う。大学生くらいのまだまだ若造が、三十万以上なんて値段を指定して買い物をしようとしているのだから。どっかのボンボンだと思われてるのだろう。実際、どっかのボンボンなんだけれど。
しかし店員はさすがプロ、すぐに元のにこやかな表情に戻り、
「ただいまお持ちいたします。どうぞ奥のお部屋でお座りになってお待ちください」
と奥の部屋に案内された。
「こんな部屋来るの、初めてだよ」
と私が素直に感動していると、舛添くんは嬉しそうに微笑んだ。
「お待たせしました。こちらなどはいかがでしょうか」
そう言って店員が持って来たのは三つのバッグだった。
一つはくすんだ水色のバッグで、形がちょっと芸術的すぎる。
二つ目は黒のシンプルなデザインのバッグで、アクセントとして金具がついている。
三つ目は黒のトートバッグで、ブランドロゴが入っている。
「どれがいい?好きなの選んでいいよ」
「じゃあ二つ目のバッグで……」
「いいの? ずいぶんシンプルだけど」
「普段使いしやすそうだから」
「そっか、じゃあこれください」
舛添くんが真ん中にあった二つ目のバッグを指差すと、店員はにこやかに
「かしこまりました。四十五万円になります」
と言ってトレーを差し出した。
舛添くんがそこにカードを置くと、店員は決済端末を持ってきて決済した。
四十五万円という数字を聞いて胸がきゅっとなる。舛添くんは私にそれほどの価値を見出してくれているのだ。そう思うと荷が重い気がした。だけどバッグを買いたいと申し出たのは舛添くんだし、私は関与していない。そう思い込むことにした。
「すぐ使うので、そのままでいいです」
「かしこまりました」
「じゃあ美緒、そのバッグから中身移して」
私は言われた通りに中身を全部移す。
「そのバッグ、持ってみて……。うん、そっちの方が似合ってる。気品があるよ。美緒にぴったりだ」
目を細めて笑う彼の、その瞳の奥にごうごうと燃える独占欲に、私はゾッとした。見た目と雰囲気が好きなだけの女にどうしてここまで尽くすことができるのだろう。彼が金持ちの家庭に生まれ、好きなものはなんとしてでも手に入れるよう教育されてきたからだろうか? 金持ちにそんな家訓があるのかは知らないが、とにかく、私はその燃えたぎる黒い欲望が怖かった。
「ありがとうございました」
そう言って頭を下げる店員に会釈をして、私たちは次にブランドバッグ買取店に向かった。
そして、前のパパがくれた三十万円のバッグを売りに出したのだった。買取値は十万ほどだった。
「その十万はあげる」
「え?いいの?」
「その代わり、今月あと一回はちゃんと会ってね」
「分かった」
そう約束して、舛添くんとは別れた。
舛添くんを見送ってから、私は前まで会っていたパパの元へ向かった。
「突然みみかのアカウントが消えちゃったからびっくりしたよ!でもそんなことがあったんだ。大変だったねえ」
高級レストランでスープを飲みながら、パパである吉住さんは言った。パッチリとした二重に高い鼻、ツーブロックが特徴的な三十四歳独身の経営者だ。
「そうなんです。金銭的にその人に依存したら危ないと思って、必死に言い訳考えたんですよ。ルームシェアするから家賃が安くなったとか、バイトをするからお金が貯まるようになったとか」
「うん、しかも脅されてるわけでしょう?そんな奴とだけパパ活するなんてあまりにも危険だよ。やめた方がいい」
そうですよね、と私も口にスープを運びながら言う。サツマイモをベースに作られたそのスープは甘くて美味しい。
「でもみみかが戻って来てくれて俺は嬉しいよ。今日は再会記念にお手当も弾んじゃおう」
「ありがとうございます!」
私は純粋に感謝の意を述べる。吉住さんは私が初めてパパ活をした相手だ。食事以外になにも求めてこないし、時間も長引かないし、変な詮索もしてこない。なにより知識が豊富で話していて楽しい。
「吉住さんは、本当に紳士的ですよね。どうしてですか?」
「吉住さんが紳士的なのはね、みみかが相手だからだよ。みみかみたいに生活費のために使ってるのが分かる女の子は、助けてやりたいと思うものさ」
吉住さんはたまに自分のことを吉住さんと呼ぶ。多分、偽名だからだろう。きっと自分の偽の名前を確認するために、そう言っている。
それにしても舛添くんといい、私には「助けてあげたくなる」なにかがあるらしい。幸が薄そうに見えるということだろうか。それは不本意ではあるが、パパ活をやっている上では非常に助かる能力だ。
「そうじゃない、私利私欲のための女の子には?」
「体の関係を求めるよ。だって彼女たちが欲してるのは大金だからね」
あっさりと吉住さんは言った。私は紳士的な吉住さん像が壊れて少しショックを受けるが、その欲望にまみれた視線が私に向けられてないことは知っているので、なんとかそのショックを抑え込んで笑う。
「それにしてもその舛添くん……、わざと親友ちゃんと鉢合わせるようにデザートビュッフェに連れていったんじゃないの?」
「え?」
次に運ばれてきた魚料理を食べる手が止まる。
「だって親友ちゃんはデザートビュッフェに行くっていうのはみみかに事前に伝えてあったんでしょ? その情報をゼミの時間に聞き出して、鉢合わせるのを狙ったんじゃないの?」
私は体温が下がっていくのを感じた。確かにそうだ。ゼミの時間に、恵と舛添くんは談笑していた。そこで恵がデザートビュッフェに行くという情報を彼に漏らしていたとしたら。
「じゃあ、舛添くんは私と恵の仲を引き裂こうとして……?」
フォークとナイフを持つ手がかたかたと震える。それに気付いた吉住さんは、
「あくまで邪推だから! そんなに真剣に聞くことじゃないよ」
と慌ててフォローしてくれる。
「でも、舛添くんならやりかねない」
舛添くんの私に対する独占欲は異常だ。自分とだけパパ活をして欲しいというのも、自分が買ったバッグを持っていてほしいというのも、普通ならあり得ない。学校で私を孤立させるようにし、舛添くんしか頼れる人がいないようにするというのだって、彼が考えそうなことだ。
私は改めて彼の独占力にぞくりとした。体が彼に包まれて、どっと体が重くなったような感覚に陥った。
「ま、まあ、こうしてその舛添くんと会う回数は減らせたんだから、いいじゃない。それよりもっと楽しい話をしよう。この前みみかが谷川俊太郎の話をしてたから、詩集を買ってみたんだ……」
吉住さんは懸命に場の雰囲気を変えようとしてくれたけど、私は心ここに在らずだった。
料理も頑張って食べたけれど、味がしなかった。
「おっと、そろそろ時間だね。行こうか。はい、今日のお手当。十万円ね」
「そんなに良いんですか? 私、今日、本調子じゃなかったのに」
「その慰めと、再会の喜びを兼ねて十万だよ。これで少しはその舛添くんに依存しなくて済むだろう?」
「はい、ありがとうございます!」
私はやはり吉住さんが好きだ。パパ活するような人であっても、大人として尊敬している。本名を明かさない危機感も交換が持てる。
私は吉住さんに別れを告げると、自分のアパートに帰宅したのだった。
明日は増田さんと吉岡さんと会う日だ。増田さんは経営コンサルタントをやっているという、四十代くらいの男性。太っていて、顔も一重に潰れた鼻をしている。卑屈なところがあるが、その部分が私にも共通していて話しやすい。吉岡さんは四十三歳の公務員。お手当を食事だけで二万円くれるが、拘束時間が長い。その代わり買い物に付き合ってくれる。
明日だけで三万円手にはいる。今日もらった十万円も入れて今月の目標は達成だ。でも貯金に回してコンスタントにパパ活を続けるか、それとも今月はもう休むか考えものだ。
いや、なにかあったときのためにパパ活をいつも通りのペースにしよう。そう決めた私は眠りについた。
次の日、昼に増田さんとコーヒーショップで待ち合わせした。ここは内装にこだわっていて、異国の壺や人形が飾られている。まるで異国に旅をしているような気分にさせてくれて、私は好きだ。
増田さんは見栄を張りたいとかそういった考えは持ち合わせてないようで、よく大衆店を選ぶ。私としてはそちらの方が緊張しないのでありがたい。
「お待たせ、みみかちゃん」
「増田さん、お久しぶりです」
「本当に。僕が嫌になってアカウント消しちゃったのかと思ったよ。あ、コーヒー一つとピザトースト一つ」
店員に流れるように注文してから、ふう、と汗をハンカチで拭う増田さん。
「そんなわけないじゃないですか。増田さんは大好きなパパのうちの一人ですよ」
「そんなこと言ってもお手当は増えないよ」
警戒するような様子で私を牽制する増田さん。
「嘘じゃないですって、ふふ」
私は頼んでいたサンドイッチを食べながら笑う。
「みみかちゃん、最近大学はどう?」
「実は、アカウント消したのにはそれが関係していてーー……」
私が事の経緯を話すと、増田さんは、
「それ、弁護士に相談すべきじゃない?」
と至極当たり前のように言った。
弁護士。そんな言葉、頭の中の辞書にはなかった。でも確かに私は舛添くんに脅されているのだ。弁護士を使う権利は大いにある。
「増田さん、それ、ナイスアイディアかもです」
これで脅しから解放される可能性が出てきた。舛添くんのスマホの中にあるという、私とおじさんが腕を組んでいる写真を消させればいいのだ。前の「みみか@p活」のアカウントは消したし、それさえできれば。
「でも僕のアイディアなんかがうまくいくかなあ……」
「いきますって! 私、増田さんのこと信用してるんですから」
私がそういうと、増田さんは小さな目をカッと見開いて驚いた顔をした。そして明らかにもじもじし始めた。
「みみかちゃん、あのさ、もちろん嫌だったら断ってくれていいんだけど」
「なんですか?」
「みみかちゃんは大人の関係って……」
そう言われて、さっきまでの信頼感が急速に萎んだ。
「私、増田さんと食事して、会話してるだけでも楽しいな」
私は笑ってそう言う。しかしきっと、目は笑ってないだろう。パパ活において、こういうことはよくある。よくあるのだが、毎回疲弊せずにはいられない。
「そ、そうだよね。僕なんかと大人、できないよね。ごめんね」
「増田さんには私なんかよりもっと相応しい人がいますよ」
この空気になってしまうと最悪だ。
「今日は帰ろうか」
「はい。でも増田さん、また会ってくださいね。私、増田さんとは一番話しやすいと思ってますから」
果たして次は来るだろうか。そう思いながら私はお手当を受け取り、増田さんの元を去った。
吉岡さんとは夕方六時の待ち合わせだった。
「みみかちゃん、お疲れ!」
そう小走りで近寄ってくる吉岡さんに会釈をする。
「じゃあ今日はどうしようか! 日用品買ってからそこらへんで夕飯にしようか!?」
吉岡さんはその場でパパ活の内容を決める。今日はあまり一緒にいる時間が長くならなそうだ。
「そうですね。じゃあ薬局行きましょうか」
私は吉岡さんになんでも買っていいと言われたので、遠慮なく柔軟剤やシャンプーの詰め替え、プチプラコスメなどをカゴに放り込んでいく。
「これから寒くなるし、ストッキングも買ったら!?」
吉岡さんは声の圧が強い。最初は怖かったけど、慣れればどうということはない。
私は吉岡さんに言われた通りストッキングやタイツも何着かかごにいれ、会計をお願いした。
六千二百円。私はこういうとき、ちょっと得した気分になる。
「じゃあ夕飯に行こうか! 何が食べたい!?」
「あそこにあるイタリアン、行ってみたかったんです」
本当は嘘だ。寒いからなるたけ歩きたくなかったのだ。
吉岡さんはそれに同意すると、交差点の向かいにあるレストランに向けてさっさか歩き始めた。吉岡さんは歩調も早い。全体的にキビキビしている。きっと仕事も早いのだろう。
席に着くと、吉岡さんはなんでも食べてね! と言ってくれた。
昼食が軽食だったのでお腹が減っている。私はペペロンチーノの大盛りを、吉岡さんはカルボナーラの大盛りを頼んだ。
「大盛り食べるなんて育ち盛りだね! いいことだね!」
「お腹空いてたんですよー」
「そうなんだ! ところで最近の調子はどう!?」
私は何度話したかわからない舛添くんのことについて話した。
すると吉岡さんは、
「大学生の恋だね! 熱いね!」
と検討はずれなことを答えた。
「私、彼にすごく悩まされてるんですよ?」
思わずそう突っ込むと、
「大学生くらいだとさ、ブレーキ効かなくてそうなっちゃうことってあると思うんだ! どうしても嫌なら……」
「どうしても嫌なら?」
「恋人を作るといいんじゃないかな!」
恋人を作る。考えたこともなかった。大学生活、男性に縁がなかったのだ。
「恋人作ったらその舛添くんとやらも諦めがつくんじゃないかな!」
「なるほど……盲点でした」
「みみかちゃんに恋人ができたらおじさんは寂しいけどね!」
ガハハと笑いながら彼は運ばれてきたカルボナーラを口に入れた。
恋人を作る。そういう手もあるのか……。でも確かにいざというときに守ってくれる人がいると心強いかもしれない。
やはりパパたちは私に様々な知見をくれる。私の頭になかったことを教えてくれる。パパが舛添くん1人だけじゃ、こうはいかないだろう。
私は問題解決の糸口が見えたような気がして、ペペロンチーノをおいしく平らげた。
「いい食べっぷりだったね! はい、これ!」
そう言ってお店の外で現金で一万円を渡される。
思い出すなあ。焼肉屋の時も、舛添くんは現金で一万円札を手渡してきたっけ。
私はそれを財布にしまうと、吉岡さんにお礼を言って別れた。
こうしてコンスタントにパパ活を続けていた私だったが、憂鬱な一日がやって来た。
そう、今月最後の舛添くんとのパパ活だ。
舛添くんのことを考えるだけで風邪でもひいたように体がだるくなる。
だけど、行かなければ。月に四回にまで減っただけ、ましなのだから。
私は舛添くんに買ってもらったバッグを身につけると、顔を二回パンパンと叩き自分に喝を入れた。
そして今日の集合場所である銀座駅に向かう。今日は銀座の高級料亭に連れて行ってくれるらしい。
「おまたせ、舛添くん」
「おう」
なんだか態度がそっけない。月に会う回数が四回にまで減ったことをまだ怒っているのだろうか?
「バッグ、ちゃんと持ってきてくれたんだな」
「そりゃそうだよ。こうやって持ち歩くのが礼儀でしょ」
「真面目だね」
そんな会話をしながら彼の横を歩く。舛添くんは足が長いので急いで歩かないと追いつかない。あれ? 今までそんなことあったっけ?
「着いた、ここ」
着いた建物は外観こそ普通の小綺麗な飲食店だった。中に入ってみると、和をモチーフにした店内が広がっており、淡い暖色灯で店内が照らされている。
「個室で予約した舛添です」
「ようこそいらっしゃいました、舛添様。どうぞこちらへ」
そう言われ、二階の個室に通される。
「先にお飲み物を承ります」
「ビールでいい?」
「う、うん」
「じゃあビール二つ」
「かしこまりました」
店員が去っていく。私はなんだか重い空気を感じて、舛添くんに話しかけようとするが、先に舛添くんが言葉を発した。
「バイトの調子はどう?」
心臓がぎゅうと締め付けられる。
「まぁ、普通だよ」
「っていうかバイト先どこ?教えてよ」
「内緒。教えたら絶対来るじゃん」
我ながらよくスラスラと嘘が出るなと思う。パパ活で嘘をつくのに慣れすぎてしまったのだろうか。本名、大学、住んでいる場所。それらは己を守るために必要な嘘だ。これだってそう。舛添くんから身を守るための、必要な嘘。
「お待たせしました、ビールでございます」
店員がドアをノックして入ってきたので、とりあえず、乾杯をする。
「美緒は俺のバイト先教えたのに来てくれないよね」
「わざわざ行かないよ」
「美緒は俺のこと名前でも呼んでくれない」
「舛添くんは舛添くんだもん」
「俺、苦しいよ」
彼の顔を見ると、今にも泣き出しそうな目をしていた。縋るような、手を伸べてしまいそうな目。
「……」
でも、私は黙ってビールを飲んだ。同情してはいけない。先に卑怯な手を使ってきたのは舛添くんだから。
そして料理が運ばれてきた。様々な品のある懐石料理。
私たちは一言も発することなく、それを平らげた。
「今日美緒を個室のここに呼んだのには意味があるんだ」
食べ終わると同時に、やっと舛添くんが言葉を発した。
「これを見てほしくて」
舛添くんは黒いレザーのバッグから封筒を一枚取り出した。そこには「調査報告書在中」と書かれている。
「なに……?」
彼はそこから更に分厚いA4の紙の束を取り出した。その表紙にも「調査報告書」と明朝体で書いてある。
彼はそれをゆっくり捲ると……一ページ目には私がアパートに帰宅する写真があった。
「ひっ!?」
私は思わず声を上げる。
写真の下にはこう書いてある。「四人用ルームシェアマンションではない。不動産会社によると六畳の1K、風呂トイレ別の一人用の部屋である。住所は……」
「あ……あ……」
私の様子など気にせず、彼は冷たい目でページを捲る。白くて綺麗な手がページを捲る姿は絵になるが、今は最悪の状況だ。
次のページには、吉住さんと歩く私の姿と、吉住さんと食事をする私の姿の写真があった。
「パパ活の様子。相手は天童学、〇〇株式会社の経営者。34歳、現在独身。」
そしてまた次のページに行くと、増田さんと私が食事をしている画像が載っている。「パパ活の様子。相手は増田剛、〇〇株式会社で経営コンサルタントをしている。42歳、現在独身。」
「もうやめて!!」
思わずその資料を取り上げ、ぐちゃぐちゃに丸める。
「なにこれ、どういうことなの!?」
「興信所に見張らせてたんだ、美緒のこと」
俯いて答える舛添くんに、私は思わず本音をぶつけた。
「気持ち悪い! 最低! どうしてこんなことするの!? 私の家の住所や相手の情報まで調べさせるなんて気持ち悪い! 頭おかしいんじゃないの!?」
私は丸めた資料を舛添くんに投げつけた。それは彼の頭にこつんと当たった。
「先に嘘ついたのはお前だろ……美緒」
地獄から這いずり出してきたかのような声。
「なにがバイトだよ、なにがルームシェアだよ、なぁ? そんなに俺から離れたかったか? なぁ美緒、そうなのか?」
舛添くんが顔を上げる……するとそこには泣きながら歪に笑う舛添くんがいた。
「そんなに他の男が好きか? そんなにいろんな男とパパ活がしたいか? なぁ、答えてみろよビッチ!」
テーブル越しに肩を掴まれる。力強くて痛い。
「い……痛い、離して……」
「またそうやって俺を拒むのか!? なぁ! なぁ!」
肩にあった手が首へと移る。ぎりぎりと力は強まるばかりだ。殺される! 私は卓上の呼び出しボタンを咄嗟に押した。
「はいなんでしょうか……きゃあああ!! お客様! お客様!」
店員さんと私の手で、ようやく彼の手は離れた。
「本当に警察はお呼びしなくて構わないのですか?」
「はい、大丈夫です。ただの痴話喧嘩ですから。お店に迷惑もかけたくないですし」
私が笑顔を作ってそう答えると、店員さんはほっとしたような顔で、
「そうですか……。分かりました。またのご利用をお待ちしております」
と言って玄関先まで見送ってくれた。
帰り道をとぼとぼ歩く舛添くんは、もう茫然自失状態だ。
「舛添くん、私今回のことで決意したよ。私、あなたのこと訴える」
「うん……」
「これから病院行って、診断書書いてもらう。あなたのストーカー行為も、脅しも、全部弁護士さんに言ってなんとかしてもらう」
「うん……」
「そういうことだから。じゃあね」
「美緒……今回の手当……」
そう力無い声が聞こえたが、聞こえないふりをした。
病院に行って鏡を見せてもらうと、顔が内出血を起こしてプツプツと赤い粒が顔中に広がっていた。
「絞首による内出血ね……分かりました」
医者はそう言うと、診断書を書いてくれた。
首を絞められ体内の酸素が薄くなったからか頭がぼーっとする。今日はもう疲れた。タクシーで帰ることにしよう。私はタクシーを呼び止めると、自宅まで帰ってすぐにベッドに飛び込んだ。安いスプリングの音がギシリと鳴った。
朝起きて、コーヒーを淹れる。今日は弁護士事務所に行こうと思っていたのだが、どうにも昨日の舛添くんの態度が気になって仕方ない。
昨日の彼は、狂気の沙汰だった。大事なものを取り上げられたかのような子供みたいだった。自分でも自制ができなくて、おかしくなっているようだった。
本当に恨むべきは、舛添くんなのだろうか?
ふと、そんな疑問が浮かんだ。
彼はお金とパパ活の証拠で私を脅してきている。しかし、私はバイトなどを始めてパパ活を減らすことはできてもやめることはできない。
じゃあ、お金の方だ。お金の方がなんとかなれば……。
ここまで考えて私はハッとした。そうだ、これだ! こうすれば全てが解決する!
そう考えた私は、早速パジャマから着替え、弁護士事務所に向かった。
「井田法律事務所」とそう書かれた看板の前で、私は深呼吸した。
親身になってくれなかったらどうしよう。パパ活をしているお前が悪い、と言われてしまったらそれまでだ。だが、ここで立ち止まっていては仕方がない。
「すみません、予約してないんですが……」
そう言うと、コーヒーを飲んでいた社長デスクらしき机に座っていた小太りで丸坊主のメガネをかけた穏和そうな先生が、
「どうぞどうぞ、ちょうど空いている時間ですから」
と迎え入れてくれた。
「私、相手に興信所を使ってストーカーされたんです」
「ほう」
「あと私、パパ活をやっているのですが、その証拠を握られて脅されたんです」
「……ほう?」
先生の眉毛がぴくりと動くのが分かった。
「パパ活をやっている私が悪いとお思いですか」
「いえいえ、ただ意外だっただけですよ。あなたのような大人しそうなお嬢さんがそういったことをやられていることにね。私はなんとも思いません、それぞれ事情があるでしょうからね」
私はほっと一息をつくと、話を続けた。
「証拠をばら撒かない代わりに、自分とパパ活をしてくれと相手は言い出したんです。脅してくる人とパパ活をする。それがどんなに怖いことか……」
「なるほど、それでここまでやってきてくださったわけですね」
事務所の社員であろう女性がコーヒーを運んできてくれる。私はそれに会釈してから、
「でも、訴えたい相手は彼じゃないんです」
と言った。
「ほう?面白くなってきましたな」
先生はそういうと、自分のマグカップに入ったコーヒーを啜った。
私はやりたいことの説明をすると、先生はうんうんと頷いた。
「なるほど、なるほど。不可能ではありませんな」
「それでは、その方向でお願いします」
「ただ、そうなると相手も弁護士を用意してくるかもしれませんね。損害賠償はそんなに期待できないでしょう。訴え損の可能性もある」
「大丈夫です。きっと、そんなことはしません」
「ほう。それではこれで進めてみましょうか」
私はそう言われると、あのとき回収しておいたぐちゃぐちゃの調査報告書と、医師の診断書のコピーを渡した。
そして決して安くはない依頼料をパパ活で貯金してあった現金で払うと、颯爽と事務所を出た。
うまくいくだろうか……。いや、うまくいってくれないと仕方がない。
事務所の外には雑居ビルたちに塞がれた青空が広がっていて、雑居ビルが幸せの前に立ちはだかる壁のようなものに見えた。
そんな時、スマホの通知音が鳴った。誰かと思い見てみると、舛添くんからだった。
『月が変わったけど、今月は一二回パパ活してくれるよな? あくまで俺はまだ証拠を持ってること、忘れないで』
と書いてあった。私は脅迫することでしか愛を伝えられない彼に同情しながら、
『分かったよ』
とだけ送った。計画が進行するのを待っている間は、大人しく彼の言うことを聞くことにした。
「この前はごめん。首絞めたりなんかして……痛かったよな」
「診断書書いてもらったから大丈夫だよ」
そう言うと、舛添くんは愕然とした。
「本当に俺のこと、訴えるつもりなの?」
流石に訴えるという言葉には弱いのか、舛添くんは目尻を下げて聞いてきた。
「いや、訴えるのはやめた」
「は……はは、そうだよな。だって訴えるって分かった瞬間に俺、パパ活の証拠写真ばら撒けるもんな」
「醜くて、可哀想」
「へ?」
「舛添くんって、醜くて可哀想」
ガタッと席から立ち上がる舛添くん。しかし、すぐ我に返ったのかゆっくり座り直した。
「どこが」
「脅しでしか愛を伝えられないところが。金で全て解決できると思ってそうなところが」
舛添くんは顔を真っ赤にしてプルプルと震え出した。
「美緒ってそんなキャラだった? なんか変わったよ」
「誰かさんのおかげでね、強くなれたの」
そう言って飲み慣れたコーヒーを飲む。ここは大学近くの喫茶店。前にも何度も訪れたことがある。舛添くんとも来たことがあったっけ。
「もっと楽しい話しようぜ。飯田がこの前さ、講義中に寝てたんだけど「はっけよい!」って大声出して起き上がって、みんな大爆笑!」
「あはは。私、そういう話をしてる舛添くんが好きだな」
「美緒が大人しくしたがってくれれば、この俺でいるよ」
急に真顔になって低い声でそう言う舛添くん。私はそれに怯むことなく、
「じゃあ言うこと聞いておこうかな」
と微笑した。舛添くんは怪訝そうな顔をしたけど、すぐに笑顔に戻った。彼のお気に召したのだろう。
それからというもの、私と舛添くんは何度もパパ活をした。まず、四万払ってもらって一緒にテーマパークに行った。同じ耳のカチューシャを着けて、服の色も揃えて、まるでデートのようだった。途中からさりげなく舛添くんが手を繋ごうとしてきたから、私はそれに応じてあげた。
「俺、すっげー嬉しい。夢みたいだ!」
その時に笑う舛添くんの笑顔はきらきらしていて、この世のすべてを手に入れたかのような幸福感に満ち溢れていた。
かと思えば、学食でパパ活をすることもあった。
「バイトとの折り合いがつかなくて……学食なんかでごめん!」
「こだわりないから大丈夫だよ。それに私、学食のチキンカレー結構好きなんだ」
「そう言ってくれると助かるよ」
次は高級焼肉奢るから、と言う舛添くんに、私は期待してると返事した。
三ヶ月ほど経った頃だろうか。私は弁護士の井田先生から連絡を受けた。
「例の件、片付きましたよ。書類をお送りしますね」
「ありがとうございます、先生。大変だったでしょう」
「いえいえ、あまりにも簡単に事が片付いたからびっくりしたくらいですよ」
電話を切った後、私は自分の口座の貯金を確認した。確かに事が片付いたようだ。
これでやっと、解放される。
運命の時が来たのだ。
しかし、神様は酷なことをする。今日は舛添くんとのパパ活の日なのだ。わざわざ今日にするなんて……本当に神様は残酷だ。
舛添くんに会う準備をする。今日はいつもはストレートの髪を巻いて、お気に入りのワンピースを着た。化粧もいつもよりアイラインを長く描き、コンシーラーで丁寧にニキビ跡を消して念入りにした。
そして、舛添くんが買ってくれたバッグを持って、お気に入りの靴を履いて出かけた。
集合場所の駅に着くと、舛添くんが暗い顔で待っていた。
そういえば舛添くんは、私を待たせると言うことが一度もなかった。そう言う点において、彼は紳士だったななんて思う。
「舛添くん、お待たせ、待った?」
「いや、待ってないけど……」
「どうしたの? 暗い顔して」
「理由は後で話す。行こう」
こうして舛添くんと向かったのは高級焼肉店。焼肉店なのにハープの奏者がいて、なんだか変な感じだ。
「舛添くん、食べないの?」
「あ、ああ……」
ああ、優位に立つってこんなにも気持ちいいのか! 私はずっと優位に経っていた舛添くんを羨む。しかし、それも過去のことだ。
「美緒、実は……俺、もうパパ活できないかもしれないんだ」
「……なんで?」
「美緒、なんでそんなにこやかに聞いていられるの?」
いけない。口元が笑ってしまっていたようだ。
「ごめん。それで、なんで?」
「親父から今日電話があって……、家賃以外の仕送り止めるからバイト代で生活費賄えって……」
「それは大変だね」
「なんでそんな悠長でいられるんだよ! 美緒とパパ活できなくなるんだぞ!? 美緒だって困るだろ! 俺以外とパパ活できないのに、俺とパパ活できないんじゃ生活が……」
「そのことだけどね、私もうパパ活する必要なくなったの」
「は?」
明らかな動揺を見せる舛添くん。箸を持つ手はカタカタ震え、目は大きく見開かれている。
「舛添くんのお父さんに、大学在学中の生活費払ってもらったから」
「は……?」
信じられない、といった表情でこちらを見つめる舛添くん。
「私は考えたの。舛添くんは脅しとお金でしか人に愛を示せないって。じゃあ、お金がなくなったらどうなるんだろう? って考えた。お金がなくなったら私とパパ活できないよね。じゃあ俺とパパ活しろって脅せないよね。お金を断つためにはどうしたらいいだろう? って考えた時、舛添くんのお父さんが思い浮かんだの。自分の息子にとことん甘いお父さん」
舛添くんはなおも目をかっぴらいてこちらを呆然と見つめている。
「だからお父さんに舛添くんが私の首を絞めたことと私を脅してることを弁護士経由で伝えたの。こっちは訴える覚悟もできてるってね。そしたら舛添くんのお父さん、すぐ条件を呑んでくれたみたい」
「条件……?」
「一つ目は、舛添くんが大学在学中は家賃以外の仕送りを止めること。二つ目は、私に絞首と精神的苦痛の慰謝料として二百八十八万振り込むこと。この数字は十二万掛ける二十四ヶ月ね。これで舛添くんは私にパパ活のお金を払う事ができなくなるし、私もパパ活をしなくて良くなる」
私は一通り説明を終えると、舛添くんに分かったかどうか聞いた。
「どうして……どうしてそこまでして俺から逃げようとするんだ……?」
それが彼の最初の一言だった。
「逃げようとしてるんじゃない、脅しとお金でしか人を愛せないあなたを助けたかっただけなの」
はっきりと、私はそう言った。
「舛添くんが本当はいい人なの、知ってるよ。でもお家の教育方針かなんか知らないけど、お金で解決できるって思っちゃってたんだね。今までも、そうしてきたんだね。だから、それを取り除いたの。どう?気分は」
「なにしていいか分からない……。俺、じゃあ、なにで美緒を繋ぎ止めればいいんだ……?」
ひっくひっくと泣き出してしまう舛添くん。
網の上の肉はすっかり焦げてしまっている。
でも私はそれを処理せずに、舛添くんの目を見た。
「繋ぎ止める必要なんてないんだよ。繋ぎ止めるってことはリードを持ち続けなきゃいけないってこと。リードを持ち続けるなんて、疲れちゃうよ」
「疲れてもいい!! 疲れても、どんなに疲弊しても、俺は美緒と一緒にいたいんだ……」
「その気持ち、すごく嬉しいよ。ここ数ヶ月、舛添くんに逆らうのが面倒くさくて聞こえのいいことばっかり言った気がするけど、これは本当の気持ち」
「美緒……美緒……助けて」
そう言って舛添くんは、震える手で私の手を握った。
腕が網の上を通っていたから私は舛添くんの横の席に座り直すと、その手を握り返した。
「友達からまた始めようよ。パパ活から始まる関係なんて、やっぱりおかしいんだよ。歪な関係にしかならないんだよ」
「友達……?嫌だよそんなの……!美緒が、誰かに取られるかも……」
「私、男の子と全然喋らないから大丈夫だよ」
「美緒、俺のこと好き……?」
「パパ活してる舛添くんは嫌い。でも、友達の舛添くんは、まだ分からない」
嫌い、と聞くや否や条件反射でさらに泣き出してしまう舛添くん。背中を撫でてあやしてやる。
「美緒……嫌わないで……」
「じゃあ友達になろう、舛添くん。今、この瞬間から」
「友達……」
「うん、友達」
「そうしたら俺のこと、好きになってくれる……?」
「それはまだ分からないよ。友達になった舛添くんのこと、まだ知らないもん」
「そっか、そうだよな……」
舛添くんはしばらく黙り込んでから、
「じゃあ、なろう、友達」
と呟いた。
「うん!これからよろしくね……大輝くん!」
私がそう言うと、大輝くんは目を見開いて私を見た。
「な、名前……覚えててくれたんだ」
「そりゃ覚えてるよ、同じゼミだもん」
「嬉しすぎる!俺、嬉しすぎるよ!」
いつもの調子に戻った大輝くんに、
「ほら、肉食べよ!最初に焼いた肉、もう炭になっちゃったよ!」
と笑いかけるのだった。
「そういえば聞きたい事があるんだった」
「なに?」
学食で向かい合わせでご飯を食べる私と舛添くん。学食は昼時なのもあってか混雑していて、席を取るのにも一苦労だった。
「恵とのビュッフェ事件、あれって仕組んでやったことだったの?」
「うっ」
大輝くんが明らかに気まずそうな顔をした。これは……やったな?
「美緒を孤立させたら俺のところに依存してくれると思ってたの!当時のバカな俺は!」
「嫌われてるから依存されるはずないのに」
「そうなんだよねー!」
黒歴史だから思い出させないでくれと騒ぎ立てる大輝くんに、
「でも恵との友情を奪ったのは一生恨むからね」
と低い声で脅してみせると、
「じゃあ、仲直りすればいいじゃん」
と軽々しく述べた。
「それができないから困ってるの!」
「じゃあちょっと待ってて!」
そう言って学食を抜け出す大輝くん。なんだろう、嫌な予感しかしない……。
「おまたせ!」
大輝くんが連れてきたのは案の定恵だった。
「み……美緒!?」
「恵……」
「なぁ恵、あのときは悪かったよ。実は美緒は、恵と三人でビュッフェに行こうって提案してくれてたんだ。だけど俺が美緒のことが好きで勝手に二人で予約して『恵は体調不良』ってことにしたんだ!」
「えー!?そうだったの!?」
恵は大輝くんの嘘にまんまと騙され、あんぐりと口を開く。
「舛添くん、美緒のこと好きだったのかー!失恋したわー!」
大袈裟にリアクションを取る彼女に、ほっと胸を撫で下ろす私。
「美緒、そうとは知らないで一方的に無視しちゃってごめんね」
「ううん、私もうまく説明できなくてごめん……」
「これからは授業一緒に受けようね!」
「うん!」
恵は他に用があるようで、ばいばーいと元気に手を振り去っていった。舛添くんに失恋したことはあんまり気にしてないようでよかった。
「ありがとう大輝くん」
「いいんだよこれくらい、償いなんだから」
「それでも……恵は大事な親友だから」
「じゃあさ、お願い一つ聞いてくれない?」
私はお願い? と首を傾げて聞く。
「今度俺んち来てよ」
「えっ……!!それって……!!」
「やらしい意味じゃないから!ただ……」
「ただ……?」
「いや、やっぱりいやらしい意味かもしれない……」
そう照れる彼に、ちょっとだけ愛着がわいてしまって、自分でもどうかしてると思うけれど、
「じゃあ、行こうかな」
と言ってしまったのだった。大輝くんは飲んでいた麦茶を勢いよく吹き出した。
「ま……マジ?」
「マジ」
「俺たち付き合ってないよね?」
「たまにはそういうのもいいんじゃない?」
私がそう言ってのけると、
「やっぱり美緒キャラ変わったよなあ」
となんとも言えない表情で返されたのだった。
それから五、六限目の必修が終わり、校門前で彼を待っていた。もうすっかり冬になり、空は灰色をしている。そういえば私が待つのって初めてかもしれないな、と思い、なぜだかにやけてしまう。
「お、お待たせ」
黒のチェスターコートにベージュのマフラーを巻いて彼は現れた。
「寒い中待たせてごめん。俺んちすぐ近くだから、行こう」
二人して歩き出すと、徒歩三分くらいの大きなマンションに着いた。
十階のボタンを押してエレベーターを待つ。
「最上階じゃん、すごい」
「たまたまそうだっただけだよ」
そんな会話をしながらも、内心ドキドキしながらエレベーターで上がる。
そういえば今日下着の上下一緒だったけ……とか、脱毛し損ねて毛生えたりしてないかな……とか、それに関することばかり考えてしまう。
大輝くんもそうなのだろうか、エレベーター内では無言だった。
エレベーターのドアが開く。そこから降りて右方向に進んだ角部屋が大輝くんの部屋だった。
「どうぞ」
「おじゃまします」
中に入ると、一人じゃ持て余すだろうというくらい広い2LDKの部屋がそこにあった。
「一番奥がリビング」
「はーい」
リビングの扉を開けると、これまた広いモノトーンで統一されたオシャレな部屋が広がっていた。
「コーヒー出すから、ソファ座ってー。荷物は適当なところ置いてくれればいいから」
「あ、ありがとう」
他人の部屋だからか、そういうことをするからか、妙に緊張する。
ソファの横に荷物と上着を置かせてもらうと、大輝くんがコーヒーを淹れるために湯を沸かす音が聞こえる。うちみたいなインスタントじゃなくて自分で淹れるのか、感心する。
そして五分ほど経ったあと、コーヒーが提供された。
「あ、おいしい」
「そうだろ? 一応カフェで働いてるからな」
「今度行ってみようかな」
「来い来い!」
会話が途切れる。
「……する?」
私がそう聞くと、
「え? もう!?」
と驚かれる。
「これ飲み終わったら」
「それにしても早くね……今日の美緒、おかしいぞ」
「大輝くんのこと好きになっちゃったのかもね」
私がそう言うと、大輝くんは咽せる。
「おま、冗談でそんなこと言うなよ!」
「冗談じゃないかも」
そう、冗談ではないのかもしれない。恋をしたことないのでよくわからないが、今の大輝くんになら身を委ねてもいい気がする。パパ活をしていたころの大輝くんと違って、よく笑い、よく喋る彼が、今はとても愛おしいのだ。
「……それ、本気?」
「うん……きゃっ」
コーヒーをソーサーに置いた瞬間、押し倒される。
「嘘なら許さないよ。殺しちゃうかも」
「首絞めて?」
「うん」
私はぎらぎらした大輝くんの目を見る。パパ活をしていた頃は怖かったこの瞳も、今なら嫌じゃない。
「好きだよ、大輝くん」
次の瞬間、唇を奪われる。噛み付くような、獣のようなキス。口を開けると舌がねろりと侵入してきて、口内を蹂躙される。上顎を舐められ、思わず甘い声が出る。
キスは五分以上は続き、やっと解放される。二人の舌と舌の間には糸が引いていて、いやらしさを増長させる。
「コーヒー飲み終わるまで待てねーわ」
手を引かれ、ベッドルームに通される。セミダブルサイズのベッドにまた押し倒されて、トップスを上までずり上げられる。
「ブラ水色だ。やっぱり似合うな、水色」
でもそのブラジャーもずり上げられ、平均的なサイズの胸を揉みしだかれる。その頂点に吸い付かれ、ひゃ、と声が漏れる。もう片方の頂点を摘まれ、きゅっとねじられると、またも声が出てしっまう。ちょっと痛いはずなのに、それが気持ちいい。
彼はそれでもう満足したのか、次は下半身に手を伸ばされる。
「シャワー浴びたいよ……」
「いや、俺もう我慢できない」
スカートを脱がされて、足の先から太ももまでするりと触られるとぞわぞわした感触が私を襲う。
あ、下着、ちゃんと上下でお揃いだったな、なんて考えながら、脱がされるのは恥ずかしいので自分で脱ぐ。
「足、M字に広げて」
そう言われ手で陰部を隠しながらおすおずと足を開くと、手を避けられた。
「痛くないように、濡らすから」
そう言われたかと思うと、大輝くんは秘部に顔を近づけた。
「に、においとかしそうだからやだ……」
「美緒の匂いは全部好きだ」
小陰唇の中に舌を突っ込まれる感触。
「あっ」
その感覚にぞくぞくとしてしまう。中を舌でかき回されるたびに体が痙攣を起こす。
そうされたかと思うと、次は敏感な先の尖りに舌を這わせられる。
「その裏側、やばいっ……あッ」
「裏側がいいのね、男と同じだ」
キャンディーを舐めるように上下に舐められ、時たま全体を口に含まれ舌でぐるぐると回される。
「あっ、嫌ッ、も、だめ、いきそ……!」
「イッていいよ」
「ああああッ!」
惨めな声を上げて私はエクスタシーに達した。
はぁ、はぁ、と放心状態で呼吸を整えていると、口元に男性のソレが差し出される。
「舐めて」
まるで自分が支配者であるかのように振る舞う大輝くんには、パパ活していたころの大輝くんの面影が見え隠れする。なのになぜ今はこんなに愛しいのだろう?あんなに嫌だったはずなのに。
私は従順な犬のように四つん這いへと体勢を変え大輝くんのそれを舐める。こんなことしたことがないから要領がわからず、おずおずと咥えて舐めていると、頭を撫でられた。
「裏筋をちゅーっと吸いながら舐めてみて。吸われると気持ちいいから」
言われた通りにしてみると、大輝くんはくっ、と声を上げた。痛かったのかと思いやめると、続けて、と言われるので続ける。
「うん、上手……。もういいよ、出ちゃいそうだから」
そしてついに、本番がやってきたのだ。私は仰向けになり、大輝くんはベッドサイドテーブルの中から新品のコンドームを取り出すと、箱を開け、袋をちぎり、それを装着した。
「男の子ってコンドーム常備してるもんなの?」
「そうなんじゃない?俺は美緒を好きになってから買ったけど」
気が早いな、と突っ込む前に、彼は集中モードに入ったようだ。
「言っておくけど私、初めてだから痛いかもしれないよ」
「美緒の初めてもらえるの嬉しいよ。痛かったらすぐ言って。ローションもあるから」
つぷ、と多分平均サイズより長めのそれが入ってくる。私は深呼吸をしてその違和感に慣れようとする。
「ゆっくり挿れるから」
言葉通り、ゆっくり入ってくるそれに、体が順応していくのが分かる。肉をかき分けられる感触が、気持ちいい。
すると一番奥にぐにぃと当たった感触がした。それがあまりにも気持ちよく、
「あっ」
と声が出る。
「大丈夫?痛かった?」
「違う、逆……気持ちいい」
「じゃあ次、動かすよ」
中を肉棒が出入りする感覚に、体が悦んでいるのが分かる。奥を突かれるたびにだらしのない声が出る。
「あッ、うぅ、やぁっ、んぅッ」
「可愛い……美緒、好きだ……好きだ……」
「わ、たしもっ、好きぃッ」
そう言った瞬間、キスをされ、ガンガンと腰を振られる。
あまりの衝撃に意識が飛びそうになるが、キスで舌を動かすことで耐える。
私はまた絶頂の訪れを感じ、大輝くんにしがみつく。
大輝くん、好きだよ。
私はそんなことを考えた後、絶頂に達した。
ぴくぴくと痙攣している中を感じ取ったのだろう、大輝くんも
「もう出る……ッ、愛してる! 愛してるよ美緒! うっ!」
と叫び、ぎゅううと呼吸ができなくなりそうなくらい私を精一杯抱きしめながら絶頂した。
私を抱きしめる力が弱まる。良かった、呼吸困難で死ぬところだった。
「はぁ、ごめん美緒、大事に抱けなくて……」
「そうだった? 最初ゆっくりしてくれてたし、全然痛くなかったよ」
「それならいいんだけど……。あ、水飲む? 持ってくるよ」
「うん、お願い」
終わってみると意外とあっさりしているものだ。
「はい、水」
と一リットルのペットボトルの水を一本まるまる差し出してくる大輝くん。
「こんなに飲めないよ」
「共同で飲むの」
今更間接キスで驚くような仲じゃない。だって、最後までしてしまったんだから。
「いただきます」
一リットルあるのでがぶがぶと体が求める限り飲む。
ぷはっと口を離すと、いい飲みっぷりだと茶化された。はい、と大輝くんにペットボトルを渡すと私以上に飲んで、残りはあと三センチくらいになってしまった。やっぱりセックスは男性側が動くから男性側の方が大変なのだろうか……なんて考えてると、
「今日、泊まっていくでしょ?」
と聞かれた。
「いいの?」
「逆になんでダメなの」
「すっぴん見ることになるよ」
「いいよ別に」
大輝くんはけらけら笑う。本当にいいのだろうか。顔が好きなら、メイクしたままの顔のほうが愛せるんじゃないだろうか。
「じゃあ遠慮なく泊まりたいし、遠慮なくシャワーを浴びたい。今すぐに」
笑いながら言うと、いいよ、と言われたので脱ぎ捨てた衣服を持ってシャワー室に向かう。
「洗濯機に入れて洗っていいよ。乾燥機能ついてるから明日までには乾く」
「ドラム式乾燥機付き洗濯機なんておぼっちゃまだねぇ」
「今はバイト代だけで暮らす貧民ですけどね」
「貧民はこんな部屋に住まないの。私みたいな1Kの駅から十五分歩くアパートに住むの」
「じゃあここで暮らせばいいじゃん」
ぱっと大輝くんの顔を見たら真剣そのものだった。
「気が早すぎ」
「早くない。いずれは結婚するんだから」
「考えておくよ」
ん? 今結婚するって言った? 言ったよな? 彼いったいどこまで私との将来を考えてるんだと思うとゾッとして、私はシャワー室に逃げ込むのだった。
そして体と髪と顔、全て洗ってから
「すっぴんおばけだよー」
と彼の前に現れたら
「やっぱり可愛いわ」
と言われて、こっちが恥ずかしくなってしまった。
その後は二人で映像配信サブスクのドラマを観たり、彼が得意だというゲームを一緒にやってみたりした。
そして夕飯の時間になって、
「今日はウーバーするか」
とおぼっちゃま気分が抜けてない彼を叩き起こして二人で大学前のコンビニまで食べ物を買いに行った。
そんな時、
「あれ!? 舛添くんと美緒じゃない!?」
と声をかけられ、見てみると恵の姿があった。
「あれ、恵! 偶然だね?」
「ねー! 今サークル終わったばっかりでさ、帰りにからあげクンでも買って食べようとしてたところー。美緒は?」
恵はそう言ったあと私のぶかぶかのシャツとハーフパンツ姿を見て、
「あっ、そういうことかぁ〜! 邪魔しちゃってごめんね! じゃ!」
と一人でからあげクンを買って帰って行った。
「……学校が近いと、こういうことがあるんだね……」
「だからウーバーがいいって言ったのに」
「ウーバーなんて使ったらお金すぐなくなるでしょ!」
そんな会話をしながら大輝くんのマンションに戻っていった。
食事を終え、私たちは二回目のセックスをした。付き合いたてのカップルは狂ったようにセックスするというけど、本当なんだなと思った。
そしてその後はシャワーも浴びず、うとうと寝てしまった。
夢を見た。
私は1匹の黒い鳥で、大輝くんの部屋でぱたぱたと羽ばたいている。
私は開けられた窓から外へ羽ばたく。
「こらー、帰ってこーい」
そう窓の方から声が聞こえ、自分の意思でその声の元へ帰っていく。
私を呼んでいたのは、大輝くんでーー……。
「んぅ……」
「おはよう、目ぇ覚めた?」
ゆっくり目を開けると、視界に映ったのはこちらを見ている大輝くんの顔だった。
「おはよ……」
「朝ごはん、今から作るよ。なにがいい? 俺のおすすめはフレンチトースト」
「じゃあそれで……」
大輝くんは服を着ると朝食を作りに行った。
私も睡魔と戦いながらぐだぐだと服を着て、彼のいるリビングに向かった。
「ちょうどフレンチトーストできたよ」
「ありがとう! うわぁ、美味しそう。いただきます」
大輝くんの作ったフレンチトーストは味が染みていて美味しかった。
「俺、今日は朝からバイトなんだけど、いつまででもいていいから。荷物も持ってきていいし、いつ住み始めてもいいから」
「うん、考えておくよ」
「真剣に考えてくれよな! まずは半同棲でもいいから! ご馳走様! じゃあ俺、シャワー浴びて支度するから」
「そっか、じゃあ私は二度寝させてもらうね」
「うん!」
私はベッドに戻りスマホをいじる。
あ、そういえば。
私は新しく作ったパパ活アカウントを消去した。良い人たちに出会えたいい思い出が蘇るが、私にはもう必要ない。
そして、私は夢のことを思い出していた。過去に見た夢では、鳥籠にとじこめられたまま出られなかった。今日の夢は、自由にどこへでも行けたはずなのに、自分の意思で大輝くんの元へ戻って行った。
ずいぶん彼への印象が変わったのだな、と思う。
それもこれも全部、お金が関わっている。彼を狂わせたのもお金だし、私をパパ活女子に堕としたのもお金だ。私と彼の関係を対等にしたのもお金だし、私の経済事情を解決したのもお金だ。
「世の中金」なんて汚らしい言葉だと思っていたけれど、そう考えるとそうなのかもしれない。
でも、お金からの呪縛から解放された大輝くんは見ていて清々しいし、そんな彼が好きだ。
どうか、この先も彼がお金の呪縛に囚われませんように。彼が前のように狂いませんように。そして黒い鳥がどうか、二度と囚われませんように。
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