拝啓 大好きだった人
だんだんと涼しくなり、秋服の季節になってきましたね。
私は可愛い秋服をたくさん買ったので、着るのが楽しみです。この頃よく香る銀杏の潰れた臭いには、少し眉を顰めますが。あなたはどうお過ごしですか?
大学1年生の頃、私にとってのあなたは、Sくんのことを相談できるいい先輩でした。話を聞いてくれて、飲みに連れて行ってくれるのが嬉しくて、あなたを先輩として慕っていたのを覚えています。
それが恋心に変わったのはいつのことでしょうか。自分でも曖昧です。気付いたらあなたのことを恋愛対象として見ていました。
でもあなたには好きな子がいましたね。学年で一番可愛くて、小さくて、目が大きくて・・・、私にないものを全部持っている女の子でした。
不思議と嫉妬はしませんでした。私がいくら頑張ってもあの子になることはないって分かってたから。でも、それでも、私はあの子に近づきたかった。だから私は、大金を払って自分の目を二重にして、発達した蒙古襞を取りました。あの子になれるわけがないのに、バカな女だったと思います。でもね、本当はそれだけじゃなかったの。私はあなたに罪悪感を植え付けたかった。「自分のせいで美香が自分の顔にメスを入れた」という罪悪感を、あなたに植え付けて、あなたに心配して欲しかった。嫌な女だと思いますか?そう、私はとことんひねくれていて、最低な女です。あなたに構ってもらうためなら、心配してもらうためなら、私は自傷行為だってするし、それをあなたが見ているSNSに公開もします。全部、あなたに構ってほしいがための行動です。
私ね、あの子だけじゃなくて色んな女の子に嫉妬していたんですよ。あなたがネタでじゃがいもを誕プレにあげていたあの子にも嫉妬して泣いたし、あなたを気さくに「ちゃん」付けで呼ぶ後輩たちにも嫉妬していました。
私には、大学生時代に何人か彼氏ができたけど、それでもあなたを忘れることはありませんでした。気持ち悪い話ですが、私は元彼にあなたのふりをしてセックスしてもらったこともあります。あなたの名前を呼びながら、愛してると言われながら、犯されるのはなんとも耐え難い背徳感がありました。
ねぇ、私はね、一生あなたを忘れられないと思います。なんでこんなにあなたに執着しているのか自分でも分からないけれど、とにかく私は夫ができた今でもあなたのことが好きです。
私は、あなたの一番の後輩になりたかった。あなたが私を人生のパートナーに選んでくれないとしても、私は…、私は、あなたとずっと仲良くしていたかった。2人で飲みに行って、お笑いの話や読んだ小説の話、下ネタ話なんかを話して笑い合える、そんな関係になれたら、私はあなたが誰かとお付き合いをしても、結婚をしても、涙を一生懸命隠して「おめでとうございます」と笑顔で言えたのに。
でも、あなたにとって私は、「好きでも嫌いでもないどうでもいい後輩」なんですね。私が目にメスを入れたのも、電話であなたに好きだと泣きついたあの夜も、全部全部、私の独りよがりだった。
正直、とてもショックです。死んじゃいたいとさえ思います。旦那がいなければ実際に死んでいたでしょう。私のしたことは全部全部、無駄だった。あなたに捧げたすべての感情、ぐちゃぐちゃの感情も、あなたには届いていなかった。あなたは最初から私のことなんて見えてなかったんですね。
じゃあなんで私と一夜を共にした夜、好きだなんて言ったの?なんて残酷な人なの。嘘でも言わないで欲しかった。雰囲気づくりのための戯言だったのかもしれないけど、私にとっては心臓がおかしくなりそうなほど衝撃的な言葉だったんですよ。謝れ。謝れよ。…嘘、謝らなくていいです。割り切れない私が悪いから。私にとってあなたは神様で、すべてが正しいのだから。
あなたの一番仲のいい後輩になれないくらいなら、あなたと2人で出かけることもできなくなるのならもう、私はあなたを忘れることにします。すぐには無理です。あなたと納涼で撮った唯一のツーショットは消せてないし、まだ消す勇気もありません。でも、ちょっとずつちょっとずつ、忘れられるようにします。物理的距離もある今なら可能かなと思っています。
本当に…、本当に、あなたには全く届きませんでしたね。正直、死にたいくらい悔しい。ODしたけど、そんなもんじゃ足りないくらい悔しい。あなたを忘れるために、私は自傷行為に近いセックスをいっぱいするでしょう。中に出すのを懇願し、痛めつけてほしいと懇願するでしょう。あなたが何も感じないとわかってはいるけれど、私にはそうするしかできないし、そうやって穢れていくたびあなたが遠のいていくのが、沼の底に落ちていくのが、私にとっては幸福なのです。
ねぇ、私一生幸せになれないよ。あなたのせいですよ?ねぇ、助けてよ。今すぐ抱きしめに来て。助けて、苦しい。…嘘です。嘘ですよ。嘘。私、生きていけますよ。大丈夫。きっとね。
幸せになってって言ったけど、嘘。本当は誰にも渡したくない。あなたの魅力が分かるのは私だけでいい。一生独り身のままでいればいいんだ。それで、人生の最後にふと私のことを思い出して、手放さなきゃよかったって、思ってくれたら…最高だな。ひどい女だと思いますか?でも、あなたがそうしたんですよ。
私だってこんなどろどろした感情抱かずに、あなたと陽だまりの当たる道を歩いていたかった。いい先輩後輩として、仲良くしていたかった。大好きだった。大好きだったんですよ、あなたのことが。
幸せになんて、ならないでくださいね。私もあなたを覚えてる限りは、幸せになんてなりませんから。
それでは、さようなら。
敬具
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