イギリスNHSで娘を出産しました

このたび、ロンドンの病院にて第一子となる娘を出産しました。

イギリスの国民保険サービス、NHSを利用しての出産でしたので、産前の健診から分娩時の費用、産後のケアも全て無料でした。日本の手厚いサポートと比較して不満を持つ方もいるようなのですが、私としては納得のいくお産となりましたので、NHSの出産について私の経験を綴っていきたいと思います。


産前の健診について

妊娠検査薬を使用し、陽性反応が出たらまずはMaternity Unitのある病院に連絡して登録をする必要があります。私はまずGP(かかりつけ医のようなもの)に連絡をし、いくつか近所の病院を候補に挙げてもらいました。ちなみに登録する病院は居住エリアなどは関係なく好きに選べ、各病院のウェブサイトからSelf-referral formを簡単に提出できます。私は特にこだわりがなかったので家から一番近い病院にフォームを提出したところ、3日後に病院から電話があり、初めてのミッドワイフとのアポイントメントを1か月後に設定してもらいました。
NHSでは基本的に医師ではなくミッドワイフが妊婦のケアを担当し、定期的に面談を行います。私は家の近くのChild centerに通っていました。ここでできる検査は尿検査・血液検査・血圧・腹囲の測定・心音のチェックなど限られたもので、エコー検査など本格的な医療行為は産院に出向く必要がありました。もし妊娠が順調で特に異常がなければ、エコーは12週と20週の2回のみに限られています。日本だと妊娠が分かればすぐにエコーで様子を見てもらえるようですが、こちらでは12週まで待たなければいけません。正直、12週間も胎児の状態が見られないというのはとても不安だったのですが、一定確率で発生する染色体異常による早期の流産は現代医療では防ぎようがなく、いくら早くエコー検査をしたところであまりメリットがないようなので、NHSのシステムは合理的なのではないかと思います。
また、12週のエコー検査が素晴らしいのは、コンバインドテストというエコーと血液検査を組み合わせた出生前診断ができる点です。もしここで染色体異常の確率が高いと判断されると、より精密なNIPTという検査も無料で受けることができるようです。私はコンバインドテストのみ受けましたが、それぞれのテストの内容についてや結果の見方など、オンラインで医師の講義があり、非常に手厚くサポートされていると感じました。
20週のエコーでは性別が分かり、成長度合いなども詳細に記録してもらいました。
この間にもミッドワイフとの面談が定期的にあり、ワクチンを受けるようにアドバイスされ、百日咳・RSV・インフルエンザ・Covidのワクチンを無料で受けたり、尿検査でGBS(B群溶血性レンサ球菌)が検出され抗生物質を飲んだりと忙しく過ごしていました。
38週目のミッドワイフの面談で、お腹がやや小さいということで追加のエコーをオファーされ、予期せず3回目のエコー検査を受けましたが、胎児は約3kgと順調に育っていることが分かり安心できました。
40週目のミッドワイフ面談では、分娩を誘発するためMembrane sweep(卵膜剥離)を行いました。この時点で子宮口はfingertip-sized/約1㎝のみ開いていたようです。Sweepが効いたのか、この日から3日後、ちょうど41週目になる日に出産をすることとなります。

出産時

時系列など、第三者視点での詳細は夫が分かりやすくブログにまとめてくれましたので、こちらを参考にしていただければと思います。

出産をどのように進めたいかについては、事前にBirth Planを準備させられており、どこで出産したいか(自宅or病院)、痛み止め(水中出産、笑気ガス、無痛分娩など)の使用の有無、付き添う人、へその緒を誰が切るかなど全て妊婦主体で決定します。私はEpidual(硬膜外麻酔)を使用した無痛分娩、夫の立ち合いを希望しました。

11日午前3時過ぎに陣痛が始まりましたが、間隔が5分ほどになるまでは病院に行っても家に帰されると聞いていたので、12日の午前0時過ぎまで家で耐えてから病院に向かいました。着いてすぐパテーションで区切られた待機部屋のようなところに通され、心音と陣痛の波のモニタリングをされながら子宮口が5cmまで開くのを待っていました。Epidualが使用できる病室が緊急外来で埋まっており、準備に時間がかかっているともいわれ、子宮口の開きが不十分だから待たされているのか部屋の都合で待たされているのか、陣痛の痛みで朦朧としながらよく分からず、笑気ガスの吸いにくさに数呼吸で使用を諦めたり、夫が愛用しているTENSマシンを腰に当ててみたり、Co-codamolという強力な鎮痛剤をもらったりと色々していましたが、とにかく陣痛が辛くて早く麻酔を入れてほしいという一心でした。
午前4時頃、ようやく分娩を行う病室に車椅子で移動しました。アドレナリンの分泌により体の震えが止まらず、酷い陣痛のときは瞳孔が開き虚ろな表情をしていたようです。病室に移動した後も、麻酔の準備や諸々で結局1時間弱待たされ、この時が痛みのピークでした。1-2分間隔の陣痛のなか、「これはEpidualの副作用などについての説明書ね、読んでこのまま進めていいか確認してね」と紙を手渡されたものの全く読む余裕がなく、夫に目を通してもらいました。もっと早く渡してくれればちゃんと読めたのに・・・。 
ようやく5時頃に麻酔医が到着し、背中に大きなテープを貼られ、脊髄に3本ほど注射をしてもらいました。腰に鈍い痛みが走ったので、針先が誤って硬膜内に入ってしまったのではないかと不安になりましたが(私にとってこれが無痛分娩の最大の恐怖でした)、正常な痛みだと説明してもらい、安心するとともに陣痛の痛みがみるみるうちに引いていくのを感じていました。お腹の圧迫は感じるものの痛みはなく、24時間以上苦しんだ痛みから解放されようやく一息つけたという感じでした。しばらく夫と会話したり写真を撮ったりしていましたが、疲れですぐに寝入ってしまいました。数時間おきに助産師さんに起こされ、人工的に破水を行ったり、尿道にカテーテルを入れられたりしていましたが、結局9時ごろまで寝ていました。おそらくEpidualのおかげで出産が長引いていたため、8時半頃には出産を加速させるホルモンの注入も始まっていました。9時40分頃に助産師さん3人+夫の4人がかりで足を支えてもらい、いきむ体制に入りました。正直この頃はおなかの張りもピーク時に比べると非常に緩やかになっており、いきむタイミングも分かりにくくなっていたのですが、助産師さんがモニターを監視しており、みんな口々に"Push it!!" "Harder!!" "One more!!"などと声をかけてくれたので非常にやりやすかったです。皆に励まされ必死に頑張っていたのですが、いきむ力が不足していたのか、会陰切開を勧められ了承しました。麻酔がきいているため痛みも全くなく、切開後は一気に出てくるスピードが加速したようです。数時間前まで壮絶な痛みで放置されて苦しんでいたのに、今や痛みのない中で皆に囲まれて、ただトイレで大きいものをしているような感覚なのに、口々に励まされたり褒められたりしてなんだか嬉しいような照れくさいような不思議な心持ちでした。笑
そのうち頭が見えた!と皆が騒ぎ出し、頭が出てきた!と言われ、さらに体をひねりだし、すぐに可愛らしい産声が上がりました。時刻は10時12分、最初の微弱陣痛の開始からおよそ31時間が経過していました。

赤子を出産したあとも、なかなか胎盤が下りて来ず20分ほどへその緒を引っ張られたりいきんだりしていました。胎盤が出た後、子宮脱を起こしていたようで、助産師さんがぐいぐいと力任せ?に手で押し込んでており、そんな感じでいいんだ…と思った記憶があります。切開部分の縫合はとても丁寧に行ってくれ、縫合だけで30分くらいかけてくれたように思います。おかげで今のところ綺麗な状態で治癒しています。

産後、病院にて

体重の測定やビタミンKの注射などを済ませた後、娘を抱いて車椅子でPostnatal wardに移動となりました。
この病室は4人の相部屋だったのですが、この部屋で過ごした時間は出産時と大きく異なり、事務的な管理で非常に辛かったです。正直、その時まで出産後のことをあまり考えておらず、「じゃあごゆっくり~」と言われお世話になった助産師さんにお礼と別れを告げ、赤子と夫と3人で相部屋に残されてから、「ああ、母子同室なんだな」と理解しました。私はGBSが陽性だったため、産後24時間は経過観察のために病院に滞在することが決まっていたため夫には一旦帰宅してもらい、初めて娘と二人きりになりました。
この相部屋では、赤ちゃんのチェックをする人、血圧と体温を測る看護師さん、産褥シーツを変えてくれる人、ごはんの配膳の人など様々な役割を持つ人が次々とやってきてあまり落ち着ける雰囲気ではありませんでした。しかも同室にスピーカーでサッカーを観戦している人や、いびきや咳がめちゃくちゃうるさいパートナー、大声で長電話をする人など、ロンドンらしく様々な人種・価値観の人が一つの空間に滞在しているため、疲れ切っていた私はさらに疲弊してしまいました。耳栓とノイズキャンセリングのイヤホンも持っていたのですが、娘の泣き声を聞き逃したくなかったため、騒音の中なんとか目を閉じていました。夜になると外の音は静かになってきたのですが、はじめての授乳とおしめ替えに一苦労、特に産後初めての特大No.2のおしめ替えはどう対処していいか分からずナースコールを押しました。
最初の晩は母子ともに疲れでほとんど寝入っていました。この間、ずっと尿カテーテルと、いつでも薬品が投入できるような器具が手首につけられており、非常に身動きがとりづらく大変でした。翌朝になり産後24時間が経過したため帰宅できるのかと思ったら、カテーテルを外した後に2回トイレ(小)の量をチェックしないと帰れないと言われ、居残りが確定しました。カテーテルを外すから着いてきて、と言われ恰幅の良いナースにトイレに誘われ、溜まっていたものを流してもらった後、下着を着用している上から躊躇なくチューブを引っ張って雑にカテーテルを引っこ抜かれたのには驚きました。こういうものなのでしょうか、思わず声が出るほど痛かった・・・。
その後なかなかトイレが出ず、やっとの思いで2回出したものの、量が少ないから3回目もチェックすると言われ、もう一晩の滞在が決定しました。
この2晩目はおそらく空腹のため娘の夜泣きが酷く、何をしても深夜まで泣き止ませることができず精神的に参ってしまいました。ナースコールを押し相談の上、ミルクをもらってなんとか落ち着きましたがこの先やっていけるのか不安になりました。今から振り返ると、産後すぐで母乳の量が少なく、おしめの取り換えや着替えも慣れない中、いきなりワンオペで二晩過ごすのが大変なのは当然だったかと思います。

長い夜が明け朝になり、3回目のトイレも済ませて一刻も早く帰りたいとなり、訪れる看護師さん全員にいつ帰れるのか聞いていたのですが、朝勤の新顔の看護師さんに「あなた1回しかトイレしていないからまだ帰れないわよ」と言われ即座に「もう3回やりました!!!」と叫び、そのあとようやく退院のための書類の準備が進み始めました。
たくさんの看護師さんがおり業務の引継ぎがスムーズではないようで、これ以外でも頼んだ水が来なかったり、カテーテルは本来初日に取るべきものだったようなのに一晩放置され翌朝の担当者に「なぜまだ付けてるの?」と聞かれたり、手首に刺さりっぱなしの器具が痛くて外すように頼んでも、一人目には退院までつけないといけないと言われ二人目に頼んだら外してもらえたりなど、まぁイギリスらしい適当さと俗人的な感じで、要求を強く伝え続ける重要さを痛感しました。

ちなみにNHSのサイトで出産時の持ち物が記載されているのですが、私の経験上、追加で必要だったものと不要だったものを記しておきます。

必要なもの

・おしり拭き
Antenatal Classで、「赤ちゃんのお尻は繊細です。薬品が含まれているWipeではなくコットンボールを水に浸して優しく拭きましょう♪」 と習いましたが、とてもコットンボール程度では対処しきれないので個人的にはWipeが必須だと思います。
・ワンピースタイプの服
カテーテルがつけられている間はズボンが履けないのでワンピースがおすすめです。私は一着しか持って行かなかったので血塗れの服をずっと着ていました。
・飲み口がついている液体ミルク
特に初産婦さんは産後すぐには母乳が出にくいかと思います。赤ちゃんに吸わせることで徐々に増えていくようですが、病院では追加でいつでもあげられるよう数本持っていけばよかったと思います。

不要だったもの

・シャンプー等のアメニティ
カテーテルがつけられている間はシャワーに入れません。同室の女性陣も、2日間で誰もシャワー室を使用していませんでした。長期で滞在するケースは別かと思いますが、短期滞在だとシャワーをする気力はないかと思います。
・コットンボール
Wipeさえあればいらないかと思います。

日本では産後6日程度は病院に滞在するようで、2日後に退院したというと驚かれることも多いですが、私としてはもっと早く帰りたかったです。笑
退院の書類を手にした時の解放感は忘れられません。

退院後のサポート

退院翌日、生後3日目にヘルスビジターが家に来て、赤ちゃんが快適に過ごせる環境が整っているかどうか、母乳のあげ方、会陰切開の状態などをチェックしてくれました。生後5日目にはミッドワイフとの面談が組まれ、Child Centreで娘の体重測定や血液検査を行い、黄疸の可能性があるのでまたすぐ来るように言われました。翌週の生後8日目、黄疸は改善し問題ないものの体重が軽いということでミルクを足すよう指示があり、10日目に再度体重検査、順調に増えていることを確認してくれました。17日目となる来週にもまたミッドワイフとの面談が入っています。
上記でお分かりいただけるかと思いますがとにかくサポートが手厚く、これまで大人が病院にかかろうとしたときに長々と待たされる経験をしていたのでびっくりしました。

まとめ

Postnatal wardでは少々辛い思いをしましたが、皆が親身に相談に乗ってくれ、NHSに加入していればこれらのサポートが全て無料というのは非常に素晴らしいと思います。日本での出産を体験していないので比較はできませんが、NHSでは押さえるべき医療のポイントをきちんと押さえており、妊婦が主体となってどのように出産を進めていくか決めることができるのはとても良いと思います。出生前診断や無痛分娩、水中出産など無料で選択でき、妊婦の希望が優先されるのもよいですね。
今後も娘の成長に応じてNHSにお世話になり続けると思います。医療従事者の皆様に大感謝です。

新しい家族を迎えた2025年、皆が健康で幸せに過ごせますように!!
最後までお読みいただきありがとうございました。








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