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没後75周年アンソール回顧展~In your wildest dreams - Ensor beyond impressionism, KMSKA in Antwerpen
今年、没後75年を迎えた画家アンソールにちなんだ展覧会が、ベルギーのアントワープで4箇所同時開催されています。
そのなかで中心的な役割を担っているのが、アントワープ王立美術館の「アンソールの果てしない夢~印象派を超えて」(Ensors stoutste dromen. Het impressionisme voorbij)です。
これまで、なんとなく「仮面をたくさん描いた、不思議で変な画家」という解像度の低い理解しかできていなかったけれど、彼が仮面の画家になる前に焦点をあてた展覧会構成のおかげで、アンソールを深く理解できたと感じました。
展示室へ
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このおしゃれな入口から美術館の展覧会へ情熱と力の入れようが伝わってきます。
アンソールの横顔の形にくり抜かれた場所にたっぷりとドレープを寄せたカーテンの一部が開いていて、そこから展覧会の世界へ、アンソールという不思議な画家の内部へと足を踏み入れます。
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最初の部屋はビデオから始まります。
アンソールが描いた仮面たちが常にこちらを覗いていて、落ち着きませんでした(笑)
アンソールと印象派
展覧会のタイトルは「アンソールの果てしない夢」(オランダ語からの意訳)、副題には「印象派を超えて」とあります。
この展覧会タイトルからも分かるように、今回の展覧会のキーワードは「印象派」です。私はアンソールと印象派が結びつかなかったので、この展覧会で新しいアンソールを知れると思ってとても楽しみにしていました。
アンソールは1860年にベルギーのオーステンドに生まれ、19世紀末に活躍しました。
一方、印象派の画家たちは1873年にフランスのパリで第1回印象派展が開催して以降、それまでとは違った色彩表現を用いた作品を描き、当時の権威であったサロンに対抗する新しい芸術を生み出していました。
アンソールはベルギーを代表する前衛芸術家となるために、新しい芸術であるフランス印象派の作品を自分の芸術に取り入れつつ、自らの芸術を発展させようとしました。
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上の2枚の作品はどちらもアンソールの作品です。
左は50歳(1910年)、右は21歳(1881年)のときに描いたものです。
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若き日のアンソールは19世紀の写実主義の伝統にのっとり現実を描いています。
居間に差し込む光を見てください。
窓は明るく輝き、光はまぶしく、光が届かない場所は暗く沈み空間に奥行きを与えています。この初期の頃のアンソールにとって、影は光の描写と同じくらい重要でした。
アンソールは1886年から87年にかけて、フランス印象派のクロード・モネやピエール=オーギュスト・ルノワールなどのフランス印象派を研究し、暗い影を白いキャンバスに直接塗られた混じり気のない色によって置き換えていきました。
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上の作品は、アンソールが約30年後の50歳の時に描き直したものです。家具の配置から絨毯の模様まで同じなのに、全く違う印象を受けます。
上のふたつの作品の間に、アンソールは印象派の研究を行い、自分の色彩やスタイルを確立させました。
展示室では、アンソールが印象派から何を学んだのかがわかるようにフランス印象派の作品とアンソールの作品を並べて展示されていました。
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これは1882年、アンソールが22歳の時に描いた意欲作で、研究者の間ではベルギー初の印象派絵画とみなされています。
左から差し込む光の表現や、ブルジョワの家庭で一人で牡蠣を食べている女性(アンソールの妹)というモティーフも当時のベルギー美術界では珍しいものでした。
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アンソールの作品と比較するために展示されていたマネの作品。
バーで働く名もない一般女性が描かれています。
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レモンの黄色が映えるマネの静物画。アンソールの《牡蠣を食べる人》でもレモンの黄色が印象的でした。
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ルノワールがモモとブドウを描いた静物画。
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アンソールの作品では、絵の具の盛り上げやマチエールへの執着はありますが、全体の色彩の構成や光に満ちた画面は印象派のものを踏襲しています。
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穏やかな色彩に満ちた展示室です。
ま特製の絨毯やソファ、壁紙、たっぷりとしたカーテンが使われていて、美術館のこの展覧会への力(資金)の入れようわかります。
地獄への招待
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1892年にパリのモンマルトルの一角に「Cabaret de l'Enfer」(地獄のキャバレー)がオープンしました。この劇場型カフェは、訪れる人々にスリリングで不気味で興奮する体験を人々に与えましたが、その体験は悪魔の大きな口をくぐって店内に入るところから始まっていました。
19世紀末のモンマルトルのキャバレーの演劇的でエキサイティングな雰囲気は、アンソールの絵画や版画にも反映しています。
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カーニバル(謝肉祭)で実際に使われた仮面がこちらを見下ろしています。
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アンソールの作品に描かれていた仮面と似ているものもちらほらあります。
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マジック・ランタンと呼ばれる機械です。
のぞいてみると…
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こちらをあざけるように見つめる悪魔の顔がアップで迫ってきます。
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仮面と骸骨のパレード
ここから、アンソールの不気味な骸骨や仮面を描いた作品が続きます。彼が描いた仮面や骸骨の絵画を通じて、彼の視点を深く理解することができます。
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アンソールが初めて仮面を描いた作品です。
左の大きな鼻の仮面と右の鷲鼻の老婆の仮面はお気に入りだったようで、このあとも繰り返し何度も描かれます。
19世紀末に仮面を描いていたのはアンソールだけではありませんでした。しばしば装飾的な要素であったり、人の身元を隠すための謎めいた方法でもあったマスクは、ドイツ人画家エミール・ノルデなどの画家たちにのっても魅力的でした。
しかし、アンソールは仮面で身元を隠すためではなく、実際に人間の本性を現すために使いました。これは彼の発明であり、他のどの画家よりも多くの仮面を絵画に描きました。
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ここはアンソールのアトリエです。
アンソールが多用した仮面とともにアンソールの絵画によくみられる小道具がちりばめられています。そのなかに女性ものの靴や洋服、そして、たくさんの頭蓋骨を見つけられます。
まるで、骸骨がこの部屋で生活をしているようです。
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窓の外が夢のような穏やかな景色。頭蓋骨がごろごろと転がる室内の雰囲気と大きなギャップがあります。
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骸骨たちは食べる必要はないのに、乾燥ニシンを口にくわえています。
このニシンはアンソールがアルター・エゴ(もうひとりの自分)としてよく用いたものです。
この記事を書いていて気付いたのですが、左の赤い洋服を着た骸骨、くぼんだ右目の奥にもうひとつ目がありますね!もしかして、だれかが潜んでいるんでしょうか。
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EnSOR(アンソール)のサインの近くに絵の具のパレットや筆が置かれていて、画家としての存在がほのめかされています。
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仮面がいっぱい。
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ここでアンソールは印象派の色彩で仮面を描いています。
コミカルなものと不吉なもの、洗練されたものと野蛮なもの、ブルジョワの富裕さと内面の貧しさなどを光あふれる色彩で描いています。
不気味な仮面や骸骨が明るい色彩で描かれることで人間の醜さの風刺に軽快さと喜劇的なユーモアを与えています。
展覧会名「アンソールの果てしない夢~印象派を超えて」の副題がここで回収されました。印象派は豊かさを手に入れたブルジョワの美しく余裕のある生活を描いていますが、アンソールはその光に照らされる人間の苦悩や醜さというものを描き出しました。
自画像
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おそらく1883年に一度完成し、1883年に帽子部分に手が加えられたと思われる作品。19世紀の写実的な部分と、印象派的な明るく生き生きとした描写が同居しています。
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1936年に描いた自画像。彼と仮面との関係がよくわかる作品です。
アンソールが左にかかった仮面を絵筆でからかっています。
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鼻先をこちょこちょ。
上に配置された仮面が興味深そうにのぞきこんでいます。
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最後の展示室にはこんなものも。
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窓を覗くとなかはアンソールのアトリエになっていました。
映像で写したされたアンソールはなにやら熱心にスケッチしています。
描いている先を追ってみると…
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暖炉の近くを浮遊する骸骨が 笑
この骸骨、暖炉から生まれて犬におもちゃにされて、「もう、たまらん!」という感じで天井の方へと逃げいていました。
展覧会の締めくくり
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「アンソールの果てしない夢~印象派を超えて」は、アンソールの芸術を深く理解し見識を深めることができた展覧会でした。副題が「印象派を超えて」というのも納得でした。
ミュージアムグッズなど
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カラフルなピアスがたくさんありました。アンソールがたくさん描いた頭蓋骨のモティーフや、
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《牡蠣を食べる人》をモティーフにしたピアスです。
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In your wildest dreams - Ensor beyond impressionism
2024年9月28日~2025年1月19日
アントワープ王立美術館
Koninklijk Museum voor Schone Kunsten Antwerpen (KMSKA)
Leopold de Waelplaats 1,
2000 Antwerpen
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![ミイル、オランダ在住のアート好き](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/138283416/profile_56e6f82bac784adfafd1abbd848c7806.png?width=600&crop=1:1,smart)