yonigeメジャー1stフルアルバム『girls like girls』レビュー
yonigeの良さは歌詞にある。一度聴いたら忘れられないメロディーラインもさることながら、恋する女の子のつらさや怒り、ときにはずるさも、ストレートに書かれた歌詞はyonigeらしさと言える。一気にフェス常連バンドとなったyonigeの、ライブハウスのような閉そく感漂う歌詞を今一度確認しておきたい。
今回は、2017年9月にリリースされたメジャー1stフルアルバム『girls like girls』の中から3曲取り上げ、牛丸ありささんが書く繊細な歌詞を紐解いていく。
【ワンルーム】
遊びだったはずの彼のことを本気で好きになってしまった、23歳の女の子らしい1曲。
あげっぱなしの便器がやけにリアルで恥ずかしくなった
君を泊まらせた後の誰もいないワンルーム
こんな気持ちになるのは今だけなんだけどね
やけにずっと待ちわびてる0.2秒の振動を
本命ではない彼と本命にされていない彼女。2人はお互いに付き合っている人がいるか、他に好きな人がいるのだろう。しかし、わけあってうまくいっていない。だから2人は、何回か夜を一緒に過ごし、寂しさを紛らわせる関係だったと推測する。彼女は家に彼を泊めることが何度もあって、彼が朝帰っていく瞬間に少し寂しさを感じることもあった。それも一瞬のことで本当に寂しいわけじゃない、と思ってきた。
しかし、心の中では彼に対する好きな気持ちが大きくなっていた。「0.2秒の振動」とは“好きだ”と確信する瞬間の、心臓の鼓動なのではないかと思う。2番に入ると彼女はもう、彼のことで頭がいっぱいになっている。
ずぶ濡れになった洗濯物
じめっとした夏の匂い
数だけ増えてく約束が
倒れて潰されそうだ
懐かしいドラマ再放送
あれって独り言が響く
ねぇ、今何考えてる?
洗濯物や、じめっとした夏の匂いが気になる。こなせない約束も山積みで嫌になる。家で再放送のドラマを眺める。そこでふと思い出したのは、遊び相手だったはずの彼だ。彼が何をしているかではなく、今わたしのことを考えてくれているのかを知りたいくらいに、好きになっているのが分かる。
絶対なんて嘘だった
この「絶対」とは何だろうと考えた。きっと彼女は彼と初めて一緒に過ごした夜に、「何があっても絶対好きにはならないから」と言ったのではないか。付き合うつもりは全くなかったのか、それとも、心はすでに恋に落ちていたがそれを認められなかったのか。女の子は複雑だ。
小さなワンルームで起こったこの2人のドラマ。この曲を1曲目にしたということは、もしかしたらこのアルバムは、この彼に捧げたいのかもしれない。
【さよならプリズナー】
yonigeの曲には、大きく分けて2種類ある。どうでもいい男のことを歌った歌と、本気で好きだった彼のことを歌った歌だ。この曲は後者である。
なんにもないなんにもないなんにもないなんでもない日々です
なんにもないなんにもないなんにもないなんでもない部屋で
なんにもないなんにもないなんにもないなんでもない時間に
君がいただけだった
「なんにもない」と繰り返される歌詞は、「キャッチーだから繰り返した」と牛丸さんは話していた。「なんにもない」虚しい毎日を送っていたとき、運命の人に出会ったとしたら、人はきっと大きな幸せを感じるだろう。そんな大好きな彼を失った女の子は、出会う前よりも最低な毎日に突き落とされる。
どうせずっと愛されていると思っていたんだ
もう二度と人を好きになれない気がしている
この2つの言葉で、どれほど彼を愛していたかが伝わる。嫌いになることも、忘れることもできないほどの人に、「次に会うときは他人でいようよ」と精一杯の別れの言葉を言う。そんな彼女が救われますようにと、同じ女性として思う。
【沙希】
牛丸さんは、女の子目線の曲でも「僕」を使うが、この曲の「僕」は男だと思う。彼は彼女に夢中になっている。
夜、電気を消した暗い部屋のベッドに、2人で横になって話している姿が目に浮かぶ。彼らが住むアパートの横を車が通って、ヘッドライトの光が窓から入り、天井をなぞっていく。2人での生活が「世界で一番安全な場所」という沙希。彼にとって、どれほどいとおしい彼女だったろうか。
見慣れた横顔 テレビの照明に合わせて
色んな色に変わってった
人ごみでうるさい明治通りですらも
どこを見ても全部にきみがいるから困ったよ
夕日が照らしたあの日のきみは
ほとんど奇跡みたいで生きててよかったよ
彼は、彼女のすべてが目に焼き付いて離れない。どんな場面も二人なら、強く生きていける。そんな彼の気持ちが読み取れる。ただ最後には別れてしまっている。理由ははっきり書かれていない。でもきっと、彼女が何も言わずにアパートを出て行ったのだろう。「消えてしまう前に」「忘れてしまう前に」「離れてしまう前に」と何度も出てくるからだ。
ずっと変わらないでね きみのままでいて
別れた今も、これからもずっと彼は彼女を思い続けていく。そんな切なく温かい2人のストーリーが描かれている。
実はこの曲、又吉直樹さんの『劇場』に出てくる「沙希」のことを書いたのだそう。牛丸さんは映画や小説の知識があり、言葉や考え方が反映されている曲もいくつかある。それを知ると、よりyonigeの音楽は楽しくなるのだ。
メジャー初となるアルバムということで、メロディー、歌い方、歌詞とあらゆる面で新しさが見えた『girls like girls』。タイトルの意味は、文法的には「女の子らしい女の子」。しかし、「女の子が好きな女の子」、つまり「牛丸さんの恋愛観に共感する女の子たち」にむけたアルバムになっている。これからも、牛丸さんが描き出す憂鬱な恋愛物語は、“恋愛って最低で最高だな”と思わせてくれるだろう。
※歌詞検索サイト「UtaTen」お試し原稿用に書いたものです。
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