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真夜中のいちばん深いあおを探して、ある国の不眠姫のおはなし
このnoteは架空のホテルをテーマにした"お菓子とことばの展示"の企画に寄せて執筆したショートストーリーです。11月10~11日に開催する「 #HOTELmoshica 」の展示にて、物語の世界に遊びにいらしてください。
とある小さな国に、不眠のお姫さまがおりました。
ぼんやり窓から夜空を見つめ、うとうとと眠気に包まれるのもつかの間、意識の輪郭がはっきりしてくるのです。王様とお妃様も心配して、あれこれ手を尽くすもお姫さまはなかなかぐっすり眠れません。
王様は世界中のまくら職人に呼びかけ、最高のまくらをつくらせました。お姫さまのもとに届くまくらは、厳しい検査を合格したわずかな数でした。
それでも月に2〜3個、いかにも清潔な白く真新しいまくらがやってきました。
世界中のまくら職人は小さなお姫さまがどうかぐっすり眠れるようにと、祈りを込めてつくりました。
+ + +
夢を見たことのないお姫さまは、王様とお妃様が知らないことを知っています。
真夜中は真っ暗だと教えられていたけれど、ほんとうはそうではないこと。星と月と、惑星が輝く夜は、たくさんの光の粒が夜空に浮かんでいます。
お姫さまは考えます。「夜空には、なぜ色の名前がないのかしら。太陽がでている空は青空、月や星がまたたく空はみんな夜空。こんなにいろんな色があるのに、不思議だわ。」
次の夜にお姫さまは気づきました。「きっと、みんな夜には眠ってしまって、夜の青空を見たことがないんだわ。」
光があるから、色がある。
夜にだけ姿をあらわす、光がある。
真夜中のいちばん深い青まで、あと何分?
お姫さまだけが知っている、夜の青空。
+ + +
枕職人のあいだでもっぱら噂だったのが、国ざかいに位置する名無しの森にあるホテルでした。
客室にあるまくらが、とびきり素晴らしく、「そのまくらで寝ると幸せな夢をみながらぐっすりとよく眠れる」という話でした。
このホテルについて少しばかりご紹介させていただきましょう。と言っても、噂話をかき集めたような断片的な情報ですが......
国と国の境にある、名無しの森。昼でも暗いこの森を抜けると、草っぱらがのんびり広がり、そよ風がまばらな木立の間をすり抜け草花をなぜています。さらさらときらめく小川が湖に注ぎ込み、鏡のように澄んだ湖畔にぽつりと佇むのが「moshicaHOTEL」です。
数十年前にぽっとあらわれて、ほんとうに存在するのかすら、知る人は少ないと言います。
この「moshicaHOTEL」には不思議な訪問者、いえ宿泊客が集う、なんていう話も耳にします。
不眠のお姫さまのために、まくら職人が眠れるまくらを探しに訪ねた、という記録も残っています。他にも変わった客人が、どうも誰かに話したくなる物語を残していったそうで。また、別の機会に登場していただくとしましょう。
「moshicaHOTEL」の主人のノートには、いやはや興味深い記録が多いこと、多いこと。
ここまでは、主人に支えるホテルの従業員がお送りしました。こんなにベラベラ話して大丈夫かって?ユーモアが大好きな「moshicaHOTEL」の主がどこかでニンマリ口角をつり上げているところが想像に容易いですね。
それでは、11月に会いましょう。
このnoteは全文読むことができます。購入していただいた金額はこのnoteをテーマにした個展「HOTELmoshica」開催費用にあてさせていただきます。
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