⑭彼はタバコを吸う
彼は喫煙者だった。
私はタバコを吸う人が大嫌いだった。
なぜなら、父親が喫煙者で、小さい頃から、顔に煙を吹きかけたれたり(赤ちゃんの頃からされていたらしい)、家でも車の中でも食事中もずっと吸っていて、そのせいでいつも体調が悪かった。
吸いたい時に吸えなければ機嫌を悪くして怒鳴ったりした。
家の中は常にヤニだらけで壁紙は黄色かったし、吸い殻が灰皿に溜まれば、ゴミ箱に捨てず食事用の食器にぶちまけた。
散々嫌な思いをしてきたから、私はタバコが嫌いだ。
でも、彼は喫煙者だった。
嫌だったけど、彼だから許した。
私の家では、一応台所の換気扇の下で吸う。
自分の家でも、母親が嫌がるから台所で吸わされて、肩身が狭いんですよwと言っていた。
でも、灰はコンロやその辺に撒き散らし、換気扇の下でも臭い煙は部屋に漂った。
毎回、大量の吸い殻はそのまま私の家に残して行った。
肩身が狭いのはどっちなのか。
若い頃から吸っているのかとおもいきや、聞けば、職場で周りが喫煙者だらけで、30代くらいから自分も吸い始めたと。
外でよく歩きタバコもした。
彼はカッコつけて携帯灰皿を持ち歩いて、人目のあるところでは携帯灰皿を使った。
でも私以外の人目のない時は平気でポイ捨てした。
道端の排水溝とか、塀の向こう側とか、見えないところに隠して捨てればいいと思っているらしかった。
彼が好きだったから、タバコのことも、ポイ捨てのことも、気にしないようにして、吸いたいなら好きなだけ吸うが良い、と思ってきたけど、ある時点から、彼のことが好きな度合いと、タバコ含め彼のことが許せない度合いが逆転した気がする。
タバコを吸うせいで(酒もコーヒーも飲む)彼は口臭がいつもドブのにおいがしたし、歯の裏は真っ黒だった。
タバコを吸う時、わざわざ換気扇をつけて気をつかってますよ、という態度も私の気に障った。
だったら吸殻も全部持って帰れや。
毎回大量に残される、異臭を放つ山盛りの吸い殻を見て、彼のカバンの中に全部ぶちまけてやろうかとふと思った。
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