21. 彼が携帯を忘れていった話 3
私は悩んだ。
悶々として、どうにかなりそうだった。
Nさんのこと。
彼の携帯のメールから分かった以外の時にも会っているのかもしれない。
私と彼が会わない週末、彼からメールがこない週末、彼とNさんは会ってるんじゃないか。
相変わらず、彼のSNSの投稿に、Nさんは毎回コメントを付けていた。
私が彼に会おうと誘ったのに、音信不通になって返事すらくれなかった週末、1人きりの部屋のベッドの中で、彼のSNSを見ていたら、急に、ある考えが浮かんだ。
Nさんにメールしよう。
そしてそのまま勢いでメールしてしまった。
「私は○○の彼女です。
彼にしつこくするのはやめてください。迷惑です。」
送信した直後、激しい後悔が襲ってきた。
Nさんは全く悪いことはしていないのだ。
私が感情をぶつけるべき相手は、Nさんではなく彼だ。
その時夜中だったのに、Nさんからはすぐに返信が来た。
「事情はわかりませんが、迷惑をかけてすみません」と。
私はすでに後悔していたし、こんなことをしたのだから当然怒られるだろうと思ってたのに、予想外のやわらかい返事が来たことでさらに申し訳ない気持ちでいっぱいになり、
「本当にごめんなさい。思いつめてしまって変なメールをしてしまいました。どうか忘れてください」
と返信した。
他人を巻き込んでしまった。
常識から外れた事をしてしまったと思った。
ぐちゃぐちゃの感情の中で、考えた。
Nさんは、このメールのことをきっと彼に言うだろう。
彼は、誰の前でも、彼女などいないという態度をしているんだし、Nさんは、私からの「彼女です」という言葉は一切信じていないだろう。
そもそも、本当の彼女なら、こんなメールをするはずもない。
こういうメールが来ましたよということは彼に報告するだろうな、と思った。
もう、彼とは会えないだろうと覚悟を決めた。
取り返しのつかない事をしてしまったんだから。
このせいで彼に完全に愛想を尽かされて、二度と会えなくなっても仕方ないと思った。
彼に「こんなことをしてしまった」と知らせることは考えなかった。
嫌われるから、というより、彼には関係ないと思った。
関係あるのに。
でも彼は私を怒ったり、かばったりもしないし、私がしたことに対して何もコメントはないだろうし、私が嫌がるからという理由で今後Nさんと会わないようにするということもないだろうと予想できた。
Nさんは彼が好きなんだろうと思ったし、Nさんが彼の投稿に逐一コメントを付けたりしている様子は、かつて私が彼を振り向かせようと躍起になって頑張ってた時のことを思い出させた。
全くおなじだと思った。