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【FF7二次創作小説】 COPY and PASTE !?

生き物は死ねば肉体は土に還り、精神はライフストリームへ還る。生きている間に得た知識を携えて…
星の内部を巡るライフストリーム、そこは知識の坩堝である。その知識が結晶化したものを、人はマテリアと呼ぶ。

「新作のマテリアだと? このコマンドマテリアが」
胡散臭そうに手の中の黄色のマテリアを眺めるクラウドの目の前には、得意げな顔でふんぞりかえるユフィの姿があった。広いとは言えないガレージの中で見る彼女は、いつにも増して鬱陶しい。無駄に手を振り回してバイクの整備用品を落としたりしないといいのだがとクラウドは思った。
「そう! 神羅が戦闘用マテリアを人工合成していたでしょ。あの技術を応用してウータイ独自のマテリアを作ったってわけ」
「へえ、そうか。すごいな」クラウドはくるくるとマテリアをもてあそぶと、それをユフィに向かって放り投げる。「よし。じゃ、帰れ」
「ちょっと! 大事に扱ってよ! なんだよ。せっかく見せに来てやったのに」
難なくマテリアをキャッチしたユフィはじろりとクラウドを睨む──がすぐさまその口がニヤリと笑う。
「……いいのかなあ。このユフィちゃんにそんな口きいて」
ユフィを見下ろすクラウドは、軽く肩をすくめた。
「今日は予定が詰まってるんだ。一緒に遊んでやる時間はない」
くるりと背を向けたクラウドは、油の染みた革手袋をはめ直すと工具箱をがちゃがちゃと鳴らしながらそう言った。ユフィの相手よりも愛車の整備だ。そろそろエンジンオイルを交換してやらないと。馴染みの店に行って、今日こそいつもよりいいオイルを買うんだ。プレミアムなやつを──
作業を続けるクラウドの背に向けてぼそりとユフィがごく小さな声で呟く。
「分身……」
記憶の仄暗い部分を刺激するその単語に、クラウドの肩がぴくりと動いたのを、ユフィは見逃さなかった。手応えあり。
「このマテリア、ウータイ秘伝の忍法・分身の術を簡単に扱えるようにしたものなんだ。それでも興味ない?」
ユフィも詳しくは知らないが、なんでもライフストリームの中は時空間の流れが違うことを利用しているらしく、ライフストリームの結晶たるマテリアを媒介に、対象者の過去の姿を呼び出すことができるのだとか。
箱の中を引っ掻きまわす音がやんだ。もうひと押し。ユフィはほくそ笑む。ユフィは忘れていなかった。星を救う旅の合間の何気ない会話を。
「はあ、やれやれ…。あんた今、ティファがいっぱいいたらどうなるんだろうって想像したっしょ? あの時とおーんなじ。全然変わってないねえ……」
ユフィの挑発めいた言葉に、クラウドがようやく振り向く。渋面を作ろうとはしているものの、口元が微妙に緩んでいる。
「おっと、何も言う必要はないよ。なんでもできる、そう。マテリアならね。心配ご無用。このユフィちゃんにお任せあれ」
クラウドは喉をごくりと鳴らし、黄色いマテリアをじっと見た。ユフィはこくりと頷き、ずいと前に出ると、懐からマイクを取り出した。ピッと小指を立てスーッと息を吸う。
「好きな子を分身させる! その男の願望、見事叶えてあげましょう!!」
「わー! ばか! でかい声で言うなっ!」
クラウドは大慌ててユフィからマイクを奪うと、恐る恐る背後のドアの向こうの気配を探る。ガレージに隣接するダイナー・セブンスヘブンの店内ではティファが食材の仕込みをしているはずだ。数秒間じっとドアを見つめたのち、クラウドはほっと小さく息を吐いた。よかった、ユフィの厄介なセリフは聞こえていないようだ。防音性能に気を使っておいて本当によかった。
「で、どうする?」
にししと笑ってユフィが差し出したマテリアを、クラウドは言い値で買う他なかった。さらば、プレミアムエンジンオイル。だが、悔いはない──!
クラウドは一点の曇りもない瞳で、妖しく煌めくマテリアをバングルに装着すると、店へと続くドアに手をかけた。

1人残されたユフィはほくほく顔で銭勘定を終えると、温まった懐を愛おしげに撫でた。その時、はたとあることを思い出し、額をぴしゃりと叩く。
「いっけね。あのマテリア、成長前のやつだった」
マテリアにもレベルが存在する。成長するにつれ、ファイア、ファイラ、ファイガとより強力な魔法を操れるようになったり、毒のみの治療からあらゆる状態異常を無効化できるようになったりと、その変化はさまざまだ。
さて、クラウドに売りつけた「ぶんしん」のマテリアはと言えば──
ユフィはこれから起こることを頭の中で計算し、しばし考え込む。おもろは捨てがたいが、命も惜しい。
「退散っ! 雲隠れの術〜!」
煙玉を足元で炸裂させると、ユフィは煙の中に姿を消した。


何やら言い争うような声が聞こえた気がして、厨房に立つティファはふと鍋から顔を上げた。耳を澄ませてみるが、特に何も聞こえない。ガレージでの作業音だったのかもしれない。気を取り直すと、ティファは大鍋をレードルでかき混ぜた。ほわりとした湯気とともに、煮えていく野菜の匂いが立ち上る。仕込みはこれでひと段落だ。
「うん、いい感じ……って、クラウド!? いつからそこにいたの!」
味見用の小皿を取ろうと体の向きを変えたティファは、予想外の光景に驚いた。ガレージでバイクの整備をしていたはずのクラウドが厨房と店内を仕切るカウンターのすぐ向こうに立っていたのだ。クラウドは妙に落ち着き払った態度でティファをじっと見ている。
「もう、声くらいかけてよ。びっくりしちゃった」
困ったように言ったティファは、ほんの少し眉をひそめる。どこか様子のおかしいクラウドの右手首に防具であるバングルが鈍い光を放っていた。その表面には黄色に輝くマテリアが一つ。モンスター退治にでも行くのだろうかとのんきななことを考えたティファは「ちょうど手も空いたし、手伝おうか?」と何気なく言った。それを聞いたクラウドがゆらりと顔を上げる。
「いいのか…?」
「う、うん」
やけに鋭い眼光に若干の嫌な予感を覚えつつ、ティファは小さく頷いた。

その瞬間、クラウドの脳内に存在しない記憶が溢れ出す──ミントグリーンのワンピース姿のティファが大人になった俺を憧れの眼差しで見つめている。カウガール衣装に身を包んだ15歳のティファが勝ち気な瞳を恥ずかしげに逸らす。再会したばかりの20歳のティファが戸惑いながらも俺の胸に身を委ねる。あれ、そういえばチャイナ服も着ていた気もするな…いや、紫色のミニドレスだったか?ウータイ風の着物だったかも…ええい、全部乗せだ!どんとこい!

「ぶんしんっ!!」
びしっとティファに人差し指を突きつけたクラウドが渾身の気合を込めてコマンドを放つと、あたりに怪しい煙が立ち込めた。その煙は一斉にティファに向かう──かと思いきや、詠唱者であるクラウドの体を包み込む!
「はっ?」という間の抜けた声を発したクラウドは、自分の中からいくつもの自分が引きずり出されるような感覚を味わった。もしや俺の願望が形になるのか──そう思った瞬間、ティファが声を上げる。
「な、なんで!?」
口をぱくぱくとさせながらティファが目をまんまるに見開いて、こちらを凝視していた。徐々に晴れていく煙の中に人影が一つ、二つ、三つ。

チャイナ服! チャイナ服! チャイナ服!

クラウドは強く願いを込めながら、自身を包む煙の奥に眼を凝らす。ようやくはっきり見えてきたシルエットは、頭のてっぺんがやたらに尖っている。残念だがあれはお団子ヘアーではない。というか…少し、いや、かなり見覚えのある特徴的なその姿に、クラウドの中である予感が膨れ上がっていく。まさか、そんな──クラウドはぶるぶると首を振る。
「ええー!? ク、クラウドがもう3人〜!?」
ティファの叫びがクラウドの予感を決定的なものにした。そう、煙の中から現れたのは、3人のクラウドたちだった。

素直になれない頑なさを瞳にのぞかせる幼いクラウド、一般兵の制服姿で困ったように辺りを見回すクラウド、そしてソルジャー服に身を包み大剣を背負った自信満々のクラウド。
「ねえ、ここどこ?」
「神羅ビル、じゃないよね」
「興味ないね」
「エミリオたちの仕業じゃないだろうな」
「困ったなあ、訓練中だったのに」
「興味ないね」
クラウドは頭を抱えてしゃがみ込んだ。こんなはずじゃなかったのに──
「ど、どうしよう…?」
おろおろと狼狽えるティファを落ち着かせようと、クラウドは立ち上がった。
「マテリアの誤作動だ。そのうち消えるだろう」
「さっき『分身』ってきっちりはっきり言ってなかった?」
「それはまあそうなんだが。それはひとまず置いておこう。とにかく今はこの状況をなんとかするのが先だ。なあ、ティファ」
いい声でクラウドがそう言った瞬間、3人のクラウドたちが一斉にこちらを向く。
「ティファ!!?」
わらわらとティファに群がるクラウドたち。
「お姉さん、もしかして大人になったティファなの?」
「わ、わあ…ヘルメット被らないと…」
「ティファには…興味あるね」

「ティファに触るのは許可しないぃいいい……!」
地の底を這うような声で、クラウドは言い、3人の前に立ち塞がった。
その肩にちょいちょいと触れ、ティファは苦笑を浮かべて「ねえ、クラウド。みんな自分自身じゃないの」と囁いた。
「嫌なんだ…それでも嫌なんだっ」
クラウドは膝をつき、腹の底から絞り出すようにそう言った。その様子に若干引きつつ、「私、外してようか」とティファは言った。
「そうしてくれると助かる」
ほっとした表情を浮かべたクラウドの肩を力強く掴むと、ティファは底の知れない笑みを浮かべて囁いた。
「分身の件はまた後で話そっか」
「はい…」
項垂れたクラウドを後に残し、ティファは店の外へ出て行った。

その様子を眺めながら、3人はヒソヒソと言葉を交わす。
「なあ、大人の俺ってなんか想像してたのと結構感じ違うな。もっとクールでかっこいい奴かと思ってたのに」
少年クラウドがぶつくさ言えば、一般兵クラウドも同調するようにうんうんと頷いた。
「ティファはあんなにかっこいいのにな」
元ソルジャークラウドがボソリとこぼすと、残りの2人も力強く同意する。
「かっこよさがすごい。強そうだし」
「しかもめちゃくちゃ美人」
「その上可愛らしさも積み上がってる」
グッと拳を握りしめたクラウドは心底悔しそうに頷いた。
「ティファを褒めるのは…許可する……!」
「うわ、大人の俺だ」
「いつの間に輪に入ってたんだ…?」
「なあ」と棘のある声を上げたのは元ソルジャークラウド。「なんでティファがあんたと一緒にいるんだ」
他の2人も興味津々と言った顔でこちらを見ている。
「それは──」クラウドは顔を伏せると、しばし考え込んだのち、言葉を続けた。「お前たちもいずれわかることだ。俺からは言わないでおく」
呼び出された過去のクラウドたちに本来知るはずのなかった情報を教えることで、彼らの未来を変えてしまうことを案じたわけではない。そうではなく、彼らが各々の道を自分の足で歩いていけば、ちゃんと辿り着けることをクラウドは知っていた。だが…まあアドバイスくらいはしてやってもいいかもしれない。顔を上げたクラウドは、分身の術で現れたクラウドたちに順繰りに目を向けた。
「お前、喧嘩ばっかりして母さんに心配かけるな。ティファの誘いは素直に受け取れよ。
そこのヘルメット被った一般兵。もっと自信を持て。堂々としてろ。
それからお前! 強さってのは誰かから借りるものじゃないんだ。きっと大丈夫だから…信じろ。自分を。自分を信じてくれるティファを」
わかったな、と言いたげにクラウドは微笑みを浮かべ、深く頷いた。
なんとなくいい雰囲気になりかけた中、3人のクラウドたちは顔を見合わせると、口々に言い募る。
「あんたに言われる筋合い、ない気がするんだけど」
「なんとなくだけど、あんたは感謝が足りないんじゃないのか?」
「まだリブニットが好きなんだな」
「寄ってたかって痛いところを突くなっ!」

やいのやいのと盛り上がるうちに4人はすっかり意気投合し、「どのティファも最高」という結論に到達しましたとさ。

めでたし。めでたし。


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