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性悪女の忘れていた記憶
洗濯物が風で揺れている。
今日もいい天気だった。
昼間は暑いけど、夕方になると風が冷たい。
まだ朝夕の気温差が激しい。
冷蔵庫の中にある賞味期限切れの物や調味料を
片付けた。
結構、いつ買ったのか思い出せないくらい、
忘れ去られた物があってビックリした。
忘れてしまったこと。
遠い昔、高校生になって間もない頃、
新しく入った部活で忙しく、まだ友達もそんなに作れずに部室と自分のクラスを往き来するだけの生活をしていた。
たまたま、その日は自分だけ部活で最後になってしまって、ひとりで玄関に向かって歩いていたら、
誰かに声を掛けられた。
振り向くと、全然知らない男子が目の前にいた。
待ち伏せされていたらしく、唐突に告白された。
突然のことでビックリしたのと、
何て言っていいのかわからず、あたふたしてたら、
『返事待ってるから』
と言って去っていった。
その後、別のクラスの野球部の子だということが判明した。
人生で初めて告白されたことに戸惑っていた。
しかも、知らない男子。
今思えば、その気がないなら、すぐに断れば良かったのだが、どうしていいかわからず、友達に相談したりしているうちに夏休みに入ってしまった。
夏休みが明けたら、ちゃんと断ろうと思っていた。
夏休み中、楽しいこともたくさんあって、
すっかりその出来事は頭から離れていた。
が、偶然会ってしまった。
道端で彼と会ったとき、
わたしはあまりにもキョトンとしすぎていた。
彼が『この前のことだけど...』と話しかけられた。
急に記憶が逆回転する勢いで戻り、
恥ずかしさと断らなきゃという確固たる思いと、
動揺やら、ごちゃ混ぜな気持ちの状態でなんとかお断りをした。
夏休み明け、学校に行くと見知らぬ女子数人に呼び出しをされた。
わたしが通っていた学校は、野球ではそこそこ強い有名な学校だったので、当然ファンの子もそれなりにいたらしい。
寄って集って、
“何故振ったのか”
“すぐに返事をせずにもったいつけないで”
“最低!!”
“2度と近づくな”
“あなたのどこがいいのか理解できない”
散々言われた。
理不尽極まりない言われっぷりに
当時は頭にきたが、その子達から見れば、
男の気持ちを振り回している性悪女である。
確かに。
夏休みの楽しさに浮かれて出来事を忘れてしまっていたのも事実としてあるのだから...。
冷蔵庫の中の調味料を片付けながら、
幼かったわたしの心ない出来事を思い出してしまった。
願わくば、彼には1ミリも思い出さないで
忘れ去っていてほしい。
おしまい。
aiko 「Love letter 」