もぐもぐヤギさん
「ラッキーとポッキーが庭木を食べてしまいました」
施設長からの連絡を受けて、岐阜県大垣市にある“長屋門うつぐみ”へ。そこは、医療と介護を同時に受けながら滞在できる施設。どの木をどのくらい食べたのだろう。ヤギたちが目を細めてむしゃむしゃする様子を想像して笑ってします。
「築130年の古民家を活かした施設に、庭を作ってほしいのです」
ある日、開所3ヶ月前の”長屋門うつぐみ”からメールが届きました。病気や重い障害があってもその人らしく過ごすためには、野菜や花を育てる場所は欠かせないと。
庭を一周できる園路を作ろう。その縁には、良い香りのハーブを植えよう。車椅子でも耕せる高さのある畑を作ろう。これまでの経験を活かせるのが嬉しくて、すぐにこの仕事を受けることにしました。「ヤギを二頭飼い始めました」とメールにあったので、毒のある植物を植えないように気をつけながら計画を進めます。
施設オープンの3日前、造園屋さん、石屋さん、大工さんの協力を得て、なんとか庭が完成。大きなしだれ桜が咲く丘を、広い園路が囲む。ヤギたちは丘を登り、草をゆったりと食む。これからの毎日、患者さんとスタッフは、お茶を飲みながらニコニコと庭を眺めるに違いない・・・と思ってい他ですが。
「庭木が美味しすぎるみたいで、リードを付けることにしたのです」
“長屋門うつぐみ”につくと、施設長から言われました。その悲しそうな顔をみて、ヤギたちが自由に遊べるのを何より優先することにしました。その上でこの庭に似合うヤギたちが食べても安全な植物を探せばいい。ヤギと植物と患者さんの共生をめざすのです。
しかし、本にもインターネットにも情報はありません。自分たちの手で、一つ一つ見つけるしかありません。ツワブキは、跡形もなく食べられてしまった。人間にとってもおいしいのだから仕方ありません。ミモザは、高い枝は残して綺麗に食べた。アガパンサスは無傷だ。味見すらしていない。ローズマリー、タイムも食べていない。匂いが嫌なのだろうか。そうだ、これからはハーブをたくさん植えよう。
かじられた痕をノートに記録しながら、庭をうろうろと回ります。「こんな仕事なら、どんなに忙しくてもいいよ」と奥田さん。新しい植物を植える前には、まずヤギに味見してもらい、食いつき具合を観察します。「なんだか楽しくなってきた」と、帰り際には、施設長も笑顔になっていました。
さて、今日は何を食べてるかな? インスタをチェックすると、地面に顔を近づけてもぐもぐと反芻する動画とともに一言。「美味しさに目覚めたようです」。
そうか、ハーブも美味しかったか!