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お葬式の曲

 3度目の緊急事態宣言。 

 ほぼ外に出ず人と接していないのに、静かに蝕んでいると実感する。 多趣味の私だが意欲が湧かない。まとまった時間の睡眠が取れていないからか、いつも眠い。ダラダラとゲームしたりスマホを見たりドラマを観たり、気がつくと1日が終わっていて焦る。 書き溜めた文章や詩もiPhoneのメモから移動することなく何ヶ月も過ぎた。 

 そんな先の見えないコロナ禍の中、我が家の息子達がハマっているのが「マイプレイリスト」を作ることである。 好きな曲を好きな順番で並べて聴いているだけの事なのだが、私も昔よくカセットに好きな曲ばかり集めて録音し、友達に渡したりしていた記憶がある。レンタルCDが貸出中だった時の悲しさといったら…今は兄の方はSpotifyなど使ってるので便利になったなあと思う。(弟は小学三年生なので、私が彼のいうままAppleMusicで作ることになる) 

 前置きはさておき。それで思い出したことがある。 私が大学で演劇芸能という専攻で入学した年、作家の中上健次さんがスペシャルゲストとして来られた。中上先生はその年に亡くなられたので数回しか授業を受けることができなかっだのだが、演劇の授業に畏怖と緊張ばかりしていた私(おそらく他にもいる)に先生の指導は遊び心満載のいい意味で力の抜けた授業だった。 

 夏休みが明けた時には先生は他界されていて私はお葬式に参列しなかったのだが、お葬式の間に流れていた中上健次先生が愛した曲達を授業で聴くことができた。 お恥ずかしいことに曲名は全然覚えていない。ジョン・コルトレーンや都はるみの曲があったことは覚えている。そのいくつかの曲を聴いて先生の優しさの色や温度や人柄が感じ取れた。 そしてその流れで自分のお葬式の曲を5分でまとめて発表するという課題が出た。 5分に編集するのは簡単ではなく、聴かせたい部分を拾ってMDに録音する。唐突に曲が変わる違和感。フェードインフェードアウトしたいのに家のデッキでは限界がある。拘って拘って作った。のに。最近の大掃除でMDを全部捨ててしまった…浅はかすぎる。 

 記憶では西村由紀江さんのLyrismeというアルバムのピアノの曲を2つとブルーハーツの「人にやさしく」とケイト・ブッシュの「This Woman's Work」 ともう一曲くらい入れたと思う。 今思えばブルーハーツだけ浮いている。好きやったんやなあブルーハーツ… 

 中上先生の時は人柄が滲み出てた、とか思っていたのに、今思えば自分はこの曲好きやねん、ってアピールするだけのものになっている。 息子達が互いに「俺が選んだ曲は入れるな」「これ知らんやろ」とか兄弟でマウントとりあっている姿を見ると、あまり私も変わらんなあと思うのだけど、私もお葬式のプレイリストを作ることにした。そしてできるなら毎年作ろうと思っている。変化してもそのままでも。 

 と、ここまで書いていた翌日、今日4月28日、一緒に中上先生の授業を受けていた友達が他界した。最後に会ったのは6年前、彼が大阪マラソンに出場する為に大阪に来た時だった。友達で集まって完走を乾杯した。その時はすでに病気は患っていたという。 彼がどんな曲を選んでいたのか全く覚えていないけど(もちろん他の人のも覚えてない)、今日ある音楽を聴いていたら久しぶりに涙が出た。それは彼の死と、今までの思い出と、今の世の中と、様々な事で張り詰めたものが溶けるような気がして、なんだろう。静かに泣いていたい。 誰にも邪魔されたくない。

 お葬式のプレイリストはまたそのうちこの場を借りて文字に残すと思う。