多摩川より

2022年11月23日 21:16

ポレポレ(東中野にある映画館)の通りに面したテラス席あたりはなんか不思議だ。
私にとっては多摩川にゆかりの深い人とそこで出会して話し込んでまたさようなら。って私以外みんなまた多摩川に戻っていくかのような。
そんな人たちとは実際に多摩川でもお会いする。
多摩川の河川敷で会って別れると、それもまたあの広大な空と大きな流れのもとで少しだけお互いの時間が交差して、またさようならってみんな自分の場所に戻っていく。
多摩川が戻る場所の人もいれば、もう戻らない人もいて、一期一会という言葉を実感する。
映画「たまねこ、たまびと」
村上浩康監督
ポレポレ東中野で本日上映後に馬頭琴の演奏と監督とトークショーでした。
なんで私が呼ばれたかというと、村上さんが今作の主人公小西修さんを撮ろうと決心したのが、3年前の春に多摩川河川敷でやった小西さんの多摩猫写真展と馬頭琴ライブにお客さんとしてきて、橋桁に展示されたねこたちの写真をみたからという成り行きだった。
小西さんは丸子橋の橋の近くでかつて暮らして亡くなっていった猫たちの写真を展示していた。
写真に添えられた文章を読むと、ねこたちがどんな風に生きて死んでいったかが記されている。
わたしも背中にねこたちの存在を感じながらの演奏だった。
あの日の風と光はいまでもよく覚えている。
奇跡のような時間だった。
あの時ホームレスのおいちゃん達に少しでも楽しんでもらえたらいいなと思って行ったのに、おいちゃん達は在らん限りにおもてなしをしてくれたのだった。
そのお礼にってお土産もって多摩川に行くと、またおもてなしの繰り返し。
映画の中で小西さんが、あの人たちは慈悲深いですから。って言っていた。
本当にそう。
まっさらな白い敷布を敷いてくれて、クーラーボックスの上には綺麗なタオルを敷いてくれて、ここにどうぞって演奏用に舞台を設えてくれていた時には、どんな王座よりも素敵で光栄だと思った。
半分手作りのようなカートに沢山の飲み物と紙コップを用意して、ドリンクバーですって、他から来たお客さんをもてなしていた。
おいちゃん達はお客さんのために椅子をたくさん客席のようにしつらえて、自分たちはいっこうにその席に座ろうとしなかった。
その時の中のお二人(一人は映画にも登場している。)
はもうこの世にいない。
自分たちのご飯やお金は一番に河川敷に捨てられたねこ達にあげてしまうおいちゃん達。
そんなねこ達もたくさん天にかえった。
小西さんは30年もほぼ毎日多摩川の捨てられたねこ達とおいちゃん達のお世話をしている。
写真家としての仕事もしながら、たまねこ達も撮っている。
あんまり詳しく話すと映画のネタバレになるからと思うので、このへんで。
でもねわたしはほんの一瞬かもしれないけれどあの日もてなしてくれたうちのお二人が突然亡くなって、個人情報で詳しいことは誰にも知らされず、もちろん私たちはお葬式(恐らく無い)にも参加できず、なんだか悔しいんです。
だから思いきって今日来てくれた小西さんと村上監督にまた春にゲリラ橋桁写真展とライブしましょうって。
偲ぶ会をしたいです。と。
ほぼ小西さんに丸投げで小西さんは大変には違いないんですけど。
おいちゃん達を思う時、私はクリスチャンではないけれど、聖書の句を思い出すのだ。

金持ちが神の国に入るのはラクダが針の穴を通るより難しい。

同じ人間なのに、一方では沢山のみんなのお金が使われ大きなお葬式があり、一方では亡くなったことすら公にされないなら、私が多摩川の空に向かって奏でる。
ありがとう。
また会いましょうと。
「たまねこ、たまびと」
多摩川に暮らす猫達は私たち人間というものを教えてくれる。
多摩川大世界は多摩川だけの物語ではなく、今を映している。
そこに気づく時、自分も人間なんだと知らされる。だから
人間としての物語を生きていく。
多摩川より

在りし日の多摩猫橋桁写真展

撮影小西修