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「好きなものは何ですか」に正解はあるか

「好きなライターや作家さんはいますか?」の質問に、慌てて言葉が出なかった。

質問されたときは、もちろん頭の中に何人か思い浮かんだ。けれど言葉が出なかったのは、相手がこれから関わるかもしれないメディアの編集長だったからだ。「ここでは何を言うのが正解なのだろうか」と考え込んで、結局とんちんかんなことをしゃべって終わってしまった。

「好きなものは何ですか」などのパーソナリティなことを聞かれたときも、ついその人・その場所に合わせた回答をしようと考えがちである。個人的にはちょっと重たい雰囲気の、夜の空気をまとう文章や、感覚よりも論理重視で書かれた文章、または冒険が始まるかのようなワクワクする文章が好きだ。

逆にじんわり温かい気持ちになるような恋愛小説だったり、エッセイだったりはこれまであまり、好んでは読んでこなかったように思う。けれど(勝手に思っているだけかもしれないが)自分はエッセイ寄りな文章を書いているような気がする。そして、そういう仕事も好んで引き受けがちだ。

好きな文章と書いている文章のテイストが違うような気がしているため、「好きなライターは誰ですか?」と聞かれて、正直な回答が出てこなかったのである。

正解を探してしまう理由の一つに、「私が興味のあることは周囲の人はそうでもない」もある。最近もまた、自分の感性を怪しむ時があった。

GWに一番行きたい場所「恐山」の情報収集のため本屋へ行ったが、女子向けのガイドブックに一切情報が載っていない。おそらく別のターゲット向けガイドブックを見てようやく、見開き1/4で紹介が載っていた。個人的には学生の頃から、「青森と言ったら恐山」というくらいにビッグ観光地で、いつか行ってみたい場所だったのに……あれ、みんな恐山いかないの……?と、そこで自分の興味と、周囲の人の興味が少しずれているのかもしれないと悟った。

知らないうちにずれているので、「あなたはどうですか」に本気で答えても、なんだかその人に届かないような気がする。それならばいっそ、その人が好きな回答を渡したい。あなたにとって、期待通りの私でいたい。そんなふうに思うようになっていったのかもしれない。

もちろん場合によっては相手に話を合わせたほうが良い時もある。けれど困って変なことを言ってしまうくらいなら、正直に話したほうがよかったのかもしれないなぁと、激しく後悔しながら歩くこと30分、ようやく家についたのだった。

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もりやみほ
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