車の窓越しに東京タワー
真っ暗な空ににょきっと生えたスカイツリーを横切りタクシーは走った。カラオケの時間と引き換えに終電は無くなったが朝まで歌う体力は残っていない。明日を考えるとここはタクシーに乗るのが一番いい手段だ。
スカイツリーを過ぎ、高速道路に入ると、周りを高い建物が囲む。"夜景"なんてもんじゃない。まるで荷物の積みあがった倉庫の中をさまよっているみたいだ。このタイミングでnoteを書いてしまおうと画面を見たら、だんだん気持ち悪さが止まらなくなってきた。酔うまで飲んでないし、なんならさっき水も飲んだ。それでも今日のコンディションと車の揺れ具合は相性が悪かったようだ。
車の中から“倉庫“の景色を眺める。灰色のビルは無機質で、なんだか現実では無いような気がしてくる。目をつむって少し眠ろうかと考えた時に、オレンジ色の光が飛び込んできた。東京タワーだ。
建物の間から、小さく見える東京タワー。不気味だったスカイツリーとは一転して、温かく光輝いている。チラチラと見え隠れする東京タワーを眺めて、不思議と帰ってきた安心感がよぎり、「あぁ、この建物が好きだな」と思った。
社会人になりたての頃は、「東京タワーが見えるレストラン」が憧れだった。東京の代名詞のように思っていたその建物を見ながら、大事な人とレストランで食事を取る。それが「東京で生きていくこと」だった。
何度かそんな体験もして、気軽に東京タワーが見れる距離に住むようになって、いつの間にかそんなことは忘れていたけれど、胃のあたりに違和感をもちながらぼんやり見たその光で、過去の出来事が一気にフラッシュバックしてきたのだった。
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眠ることなく家の近くまで到着し、メーターを見ると想定料金の2,000円もオーバーしていた。ただでさえ高い金額なのに……このお金を稼ぐのに、土日を使って1記事は仕上げる必要があるぞ……なんて考える。けれど時間は終電で帰った時と同じくらいだから、これで楽しい時間も、休む時間も買えたと思えば納得いくだろう。
会社の近くに住んでしまえば、補助も出るし飲み会後が楽だ。ここと比べれば家賃もだいぶ違う。けれどやっぱりここが好きだと思う理由の一つは、東京タワーにあるのかもしれない。