チンチン!
チンチンはKがよく言う言葉です。
おチンチンの意味ではありません。
イメージとしては昔の路面電車がならすベルのような感じです。
どんな時に使うかというと、母がKの何かを注意したり、諭したりする時に、その言葉をはじくようにチンチン、チンチンと連呼し、防御のバリアを張ります。
なので、母が注意したことが彼に届く様子はありません。
ごはんの時、いただきますの前にフライング気味に箸を手に取りむさぼりつくK。
「箸をおいて、みんなでいただきますしましょうね」
「チンチン、チンチン」
「よく噛んで食べようね」
「チンチン!チンチン!」
マナーだとか、体にいいとか言っても腹落ちしないK。
楽しい食事にただただ水を差されている気分なのであろう。
「うるさいよ」とか「好きに食べさせてよ」とかのことばの代わりに「チンチン、チンチン」がかえってくる。
母の対応能力不足のせいか、息子の理解力不足のせいか、想いはなかなか伝わらない。
それでも母はあきらめたくない事ばかりで、攻めているわけではないという思いもこめて精一杯優しく言ってみても、無情にも鉄壁の防御チンチンが返ってくる。
ありとあらゆる場面で伝家の宝刀みたいにチンチン、チンチンを浴びせられると、母もどこかでチンチンの飽和状態を迎え、絶望感に言葉をなくす。
言葉にできない思い、処理しきれない感情が体の中に渦巻いく。
やがてその渦巻きはわたしのコントロール下を離れて膨張する。
わたしはその渦巻きを収めきれず吐き出す。「チンチン、チンチン。」
冷静に考えるとKはいつもこんな思いでチンチンチンチンと繰り返しているのかもしれない。