見出し画像

言語とアイデンティティ:”I like your idea.”

ロンドンの中心地にあるレスタースクエアの駅を出て、友達との待ち合わせに向かう途中だった。コヴェントガーデン方面にわき目を振らず歩いていた時、通りすがりの白人女性が私に声を掛けた。

"Hi! I like your skirt!"

"Thank you."と答えながら、その時に初めて気づいたことがある。イギリス人は"Your skirt is good!"とは言わない。主語には"I"を用いる。全く言わないことはないのかもしれないが、思い出せる限りでは、誰もが"I like ~."を使っていた。


例えば、みんなで何かの相談をしていて、良いアイディアに出会った時、あなたなら何と言いますか?

「良いアイディアだね」

私の感覚では、多くの日本人は、「もの・こと」に焦点を当てた言い方をします。もちろん、英語でも同じように"It's good idea."と言うことが出来ます。しかし、私がパワーワードだと感じるのがこのフレーズです。

"I like your idea."

「私は」好きだ。

他人の感想は関係なく、自分がそう思っている。likeというのは好意を示す言葉ですので、どんな形であれ他人から示される好意というのは嬉しいものです。その嬉しさというのは、自分と言う人間を認めて貰えた喜びに紐づいているように思います。それと同時に、言葉を発した本人も自分自身の自己肯定感を得られるのではないでしょうか。

もちろん日本語でも「私はそのアイディアが好きだ」という言い方をしますし、そもそも言語としての性質が大きく異なる二つの言語を比較するのは無理があるかもしれません。しかし、主語をどのように用いるかというのは、その言語を使用する人のアイデンティティに大きな影響を与えているように思います。

"Your skirt is beautiful."
"It's a beautiful skirt."
"I like your skirt."

いずれも文法的に正しいのですが、自然と3つ目の表現が使えるようになりたいですね。自分を主体にした表現を使うことは、時には勇気の要ることかもしれません。でも、"I like"という表現を使うと、自分の中に芯を感じるだけでなく、自然と相手の表情も和らぎ、ほんの少し距離が縮まった気がします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?