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野球場の恋

2007年8月、仕事終わりで慌てて駆けつけた超満員の東京ドームの立見席は観戦できる余裕が全くなく、ぎゅうぎゅう詰めで人の波を避けながら前に進むのも困難だった。

ちょうどこの時、ご贔屓のドラゴンズは主催側のジャイアンツと優勝争いの真っ最中で、優勝できるかできないかが決まる試合だったと記憶している。

見やすい場所を探すにしても難しそうだから、いちばん後ろで雰囲気だけでも味わえればいいかと場所探しを諦めたところで、一人の男性に声をかけられた「仲間と一緒に観戦しているんだけど、良かったら一緒に観戦しませんか?」と。

普段の私なら見ず知らずの男性のお誘いには全力で断るのだけど、この日は彼のご厚意に甘えることにして彼を含む数人と観戦を楽しんだ。結果的にドラゴンズは負けてしまい、優勝が少し遠のいてしまった感があり、みんな悔しがり帰り支度をしながらの解散となった。

解散後、球場を出ていちばん近い喫煙所で当時喫煙者だった私はタバコを吸いながら、試合の興奮を冷まそうと少しぼんやりとしていると先ほど声をかけてくれた男性が私の視界に入ってきた。

試合の感想やらお互いドラゴンズに対する思いをひとしきり語って盛り上がった後に彼から「良かったら連絡先を交換しませんか?」という言葉が飛び出した。彼の紳士的な態度や穏やかな話し方もありすっかり警戒心もなくなっていたので快く応じて連絡先を交換して、次の観戦予定の日にまた会おうと約束しその日は別れた。

球場で観戦したり何度か食事をしたりするうちに、いつの間にか彼に対して真面目で誠実な人なんだなという印象を次第に持つようになっていた。

気が付けばドラゴンズは、リーグ優勝は逃したもののクライマックスシリーズで優勝し日本シリーズへ出場することになっていた。そんな時彼からある言葉が投げかけられた「ドラゴンズが日本一になったら結婚しようか?」半分冗談で半分本気と取れるプロポーズの言葉だった。聞いた瞬間は「へっ?」と思ったものの半ば面白がって「そうしよう」と口にしていた。

2007年11月1日、ドラゴンズが見事日本一に輝いた。彼と出会った時は、元夫と離婚して半年が経っていて一人になった気楽さと充実感、何よりDVが離婚の原因だったので暴力や怒鳴り声に怯えなくてもいいという開放感に満ち溢れていた。誰かを好きになったり、一緒に生活することなんてしばらく先の話だとぼんやり思っていた頃だった。

バツイチ同士で、どことなく気が合っていたしお互い未来に対して過大な期待も持っていなかったというところがとても居心地が良く、いつの間にか気楽に過ごせる相手になっていた。そして何より優しい彼の性格が私の苦しかった思い出を全て洗い流してくれていたのだった。そうして翌年2008年11月1日私達は入籍した。

それから12年。

今年の11月1日は名古屋で野球観戦をして過ごした。今年はコロナウイルスの感染流行により開幕が遅れた影響で普段なら終了しているはずのレギュラーシーズンが長引いたため、結婚記念日に遠征して観戦することができた。

あの時全てのタイミングが狂っていたら、こうして夫とは知り合って無かったし、もしかすると再婚せず一人で過ごしていたのかも知れない。人との縁って本当に不思議だし時にドラマよりも劇的だったりするんだなと、結婚記念日が近くなる度にそう思うようになった。

結婚生活の特に最初の5年は山あり谷ありで大嵐の時期も当然あったけど、そんな苦しい時期も支えてくれたこと、私のやりたいことや興味のあること好きなことには寛大でいてくれることには、いつも感謝している。

私がその分を返しているのかどうかは疑問だし、支えになっているかどうかも分からないけど、この先も同じ道を同じ方向を向いて共に歩いていけたらと思っている。

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