ナイフ
彼は素敵なナイフを持っていた。
刃のの反射や柄の装飾も美しく、持ち心地も良かった。
そしてよく切れた。
彼の星では法律上も宗教上も、そのナイフを所持することも振り回すことも問題ではない。人を殺さなければ。
彼はそのナイフを軽く振り回してみる。
でも誰も彼のナイフの素敵さに気づいてくれなかった。
時々そのナイフに関心を示す人がいても、それはいくらで買ったのかとか売ればいくらになるとか金銭的価値についてのみであった。
彼女は他の惑星の人であった。
法律も宗教も彼の星とは違っていた。
彼女もそのナイフはとても素敵だと感じていた。
そのナイフを彼が所持している時が一番輝いていることを知っている唯一の人であった。
でも彼女は、彼がそのナイフで遊ぶことはあまり好きではなかった。
彼はいつものようにそのお気に入りのナイフで遊んでいた。
彼女はそれを黙って眺めていた。
「彼がそのナイフで遊ぶことを楽しいと思っているならしょうがない」
「彼の好きではないところも含めて全部受け入れよう」
そんなことを考えながら眺めていた。
彼はしばらく遊んでいたが、ふとした拍子に手元が滑り彼女を傷つけてしまった。
ちょっとした傷だった。
彼女は少し痛かったが、彼の星では法律上も宗教上も問題はない。
だからそれほど気にしていなかった。でも痛いものは痛い。
その痛みが表情にでた。
彼はその顔を見て気になった。心配になった。
「どうしてそんな顔をするの?」
彼は痛い理由を尋ねた。
色々な質問してその傷を調べはじめた。
傷はどんどん広がっていった。
彼女は少し辛かったが、彼が知りたいのなら…と思って耐えた。
彼はしばらく考えて言った。
「俺は悪くない」
彼女は家に帰り、その傷を癒すため一人ベットに入った。
数日して傷は癒えた。
でもその日から彼女は家から出てこない。
彼に会うために外に出たいと思っても体が動かなかった。
彼女は今日も彼を想いながらじっと横たわっている。