共通の先生
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ロービジョン者となったトモは、節目のたびに、眼科に通います。
求めているのは「治療」ではなく、自分を信じなおして、また次の目標に向かうこと。
トモとパートナーとして歩み出して
一番驚いて、一番嬉しかった出来事は、
「トモの主治医から講義を受けていた」と知ったとき。
東京生まれのトモが藁をもすがり、よく分かんなくなった見え方のまま、福岡まで出てきて出会った眼科医。
「俺こんな遠くまでこないといけない病気なのか」と気持ちをフツフツさせていたトモの、背中を最初に押した人。
命の恩人のように紹介される眼科医の名前を聞いて「それ、ちょっと待て」、と。
ファイルした大学時代の資料に書かれている名前と一致する。メモを見返しながら、「こんなことあるのか」と、驚いたのを覚えています。
二人の共通の先生。
講義資料には修正途中の自分のレポートもあった。そこにはこう書いていて
あの頃の拙い文章だけど、言いたいことは分かる。
自分なりに、「中心暗点(中心視野の欠損)」に目を向け、イメージして書き出していたんだろう。
先生が教えてくれていた。
保有している視機能を最大限使える工夫を伝えることで、ロービジョン者は「見える」自信をもって人生を営むことができる、と。
裏には殴り書きの文章で、書き足しがあった。
これらの訓練は決して楽なものではなく(略)家族は、当事者を励まし、勇気づけ、希望を共有しながら歩んでいく姿勢を心がけるべきである。
あの頃はまだ、家族なんて想像もついていなかったけれど
書き残していて良かった。
先生の講義があったから、戸惑わず、希望をもって、トモを受け入れることができた。
そして、医者である先生は、教育者である自分と相通ずる姿勢も伝えてくれた。
「ロービジョンケア」を行う眼科医の基本姿勢の一つ。
ロービジョン者のパートナーであり、特別支援学校の教師である自分にとって、必要な知識、大事な姿勢を伝えてくれた先生。
二人の先生だからこそ、
「おかげさまで、幸せです」と喜びと笑顔を見せにいくことが、恩返しになると信じている。