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ビル・フリゼールを見る、私の目を通して

どうもこんばんは。語りかけているのは平野でございます…イベント前後でバンド全体がバタついたところintonarumori (playing)がすっかり更新されておりませんでした…楽しみにしてくださっていた皆様申し訳ございませんでした、今日からまた再開です!どうぞよろしくお願いいたします!

さて、始めていきなりで恐縮でございますが…5月7日に開催されたSTYLO#3にお越しくださった皆様、本当にありがとうございました!3年ぶりの人前での演奏の機会、なのに当日はびっくりするくらい天気が悪くて大変ナーバス…だったのですが、たくさんのお客様に来てくださって頂き感無量でございます。こちらに関しては僕がまったりと反省文を書いているところですので、また別の機会にじっくり触れていきたいと思います。

また私事ですが、STYLO#3の振り返りも兼ねてマーライオンくん (a.k.a. プルート・ラブ・マッツォ)のポッドキャストにも出演しちゃいまして。てへへ。こちらもSTYLO#3のことに触れていたりいなかったりですので、喋り過ぎ感は払拭できないですが是非とも聴いてみてください!聴き始めると驚き、意外とスッと終わります。本当に!


さて、前回ののんちゃんの投稿で「STYLO#3よろしくお願いします」と言っており、約一ヶ月開いた今回は「ありがとうございます」な訳ですが、イベントが終わったからこそちょっとオープンできる話をしたいなあと思いました。

今回のイベントでは”ディック・ダイヴァー”という曲を初演しました。それは凡そ100年前に至るスモールコンボ - ビッグバンドのジャズのサウンドと80sのポストパンクのミックスを試みた楽曲です。この曲は扱ったテーマも含めて僕にとってかなり重要な曲、かつ単純にカッコ良いこともあって、ここからたくさん演奏する機会があるのではないかと思います。ということで、STYLO#3での演奏の模様を先日公開させていただきました。最近出来た僕たちの新しい仲間である渋谷くんが撮影・編集を担当してくれています。どうぞご覧ください!

併せて、かなり簡単にですがこの曲に対して考えていたほんの少しのことをインスタに書いてみました。こちらも是非に。


さてここで議題にあがってくることがひとつ。どれくらいの方が認識しているかはとても不明ですが、dysfreesia + mihauというバンドにジャズの影響は計り知れないということです。というと「嘘つけ」と言われそうですが…若干話が飛ぶと、先のポッドキャスト内で「元々はフォークをやるつもりだった」と発言したところマーライオンくんに苦笑いされたばかりですが…ともかく影響元のひとつにジャズがあることは間違いないんです!よ!

何を隠そう、ドラムのマキさんと僕は元々大学のジャズ研の先輩後輩の仲でした。マキさんは当時からかなりガツガツドラムを叩いていて、その真剣ぶりに見惚れていました。ですので、僕は僕でスタンダードとかを研究して…日々切磋琢磨…コード展開を読み取り…アドリブを練習しまくって…クロマチックアプローチ…ミクソリディアンスケール…となりそうなところ、そうならないのが安定のザ・ヒラノ・クオリティ。僕には当時から「捻くれている + 怠け者 + 面倒くさがり + 安定しないエンジン」の四拍子が揃っていたので、ジャズ研在籍時にジャズの演奏はほとんどせず、ビートルズばかり弾いていました。

なんですが、ジャズの影響はこの時から間違いなく大きく受けています。それは「音を聴く」という側面のこと。僕はジャズを通して「サウンドを聴く」ということを学んだのです。当時のインディロックやエレクトロニカ、アヴァンギャルドな諸々と同じようにクラシカルなジャズを並行して聴き始め、王道ブルーノートから…次第に現代へと向かったり…フリージャズに行ったり…という右往左往ぶり。ここには先に挙げたヒラノを構成する四拍子の様が顕著に表れているのですが、そうこうしている内に気付いたことが、「自分が好きなあらゆる音楽の真ん中にジャズを配置すると、その全てを繋げることが出来る」ということでした。

とまあ、この話はどうしたって長くなるルートにあるので割愛します。その代わりに、ここからは僕が受けたジャズの影響を「僕とギター」に絞って書いていきたいと思います。


ビル・フリゼールというギタリストがいます。始めに断っておくと、僕は彼のことがとても好きで、作品が出る情報で「おっ」と毎回思うけど、作品の全てを聴くほどの熱心なファンという訳ではありません。ビル・フリゼールと自分自身に共通点はあると思うものの、影響源かと言われるとちょっと違う。彼には一見すると雑多な、だけども見事に確立している文脈があって、その眼差しが自分と似ていた…ということになるかと思います。なので、大変おこがましいことを申し上げる次第ですが「ビル・フリゼールから影響を受けてこうなった」のではなく「自分にフィットする演奏の仕方を模索したら、そこにビル・フリゼール”も”いた」というのが実感です。この、”も”、というのがまたとても重要で、たくさんの偉大な演奏家がいる中、ビル・フリゼールもそこにいてくれた…ということにもなります。変に聞こえるでしょうか?

さて、ビル・フリゼールとはこういう音楽を演奏している方です。このメガネのさり気ないお洒落さと柔らかい雰囲気、素晴らしいのよねえ。

途轍もない浮遊感で形成されている、かなり不思議な音楽に聴こえるのではないでしょうか。彼の音楽性はジャズ + フォーク・ブルース・カントリーなどアメリカの民俗音楽 + 電子音響の組み合わせとして表現できます。今では一定の音楽的な共通言語として通じるこの独特なバランス感覚ですが、この言語の地平を切り開き整備してきた人こそがビル・フリゼールかなと思います。

じゃあ、少しずつ区分けして話してみましょう!

①サウンド

僕は自分のことをギタリストだとはあまり認識していないのですが、その理由のひとつは「ロックじゃないから」です。エレキギターを手にした皆様がまず痺れるであろうディストーションのサウンドは僕も好きは好きなのですが、それを中心にした価値観に自分がしっくり来ていないところが大きくありました。特にハードロックやメタルの感じ。あれは間違いなく自分のものではないと感じていました。じゃあ僕のサウンドってどこにあるんだろう…という朧気な問いに対するひとつの解答がジャズにありました。

ケニー・バレルやグラント・グリーンのサウンドがそれでした。彼らのサウンドはちょっと湿り気があってブルージー、だけど洗練されていてクール。それでいて自然体でナチュラルでもあり、総じて実にジャズな感じなのですが、今の耳で聴くと彼らはポストロックでもあります。

ビル・フリゼールは彼らの作り上げた価値観をアップデートしてきた人でした。基本のサウンドはケニーさんグラントさんのそれに近しいですが、彼はそこに積極的にエフェクトを加えていきます。歪んだギターの激しさや、宙を舞いこだまする空間的な響き、その多彩さを受け止めてもこれはビル・フリゼールのものだと感じることが出来るのは、核となる自分のサウンドが中心にあって、その発展とバリエーションとして様々なトーンが扱えるから。

結構これ、大事ですよね。僕も自分自身の自然なトーンがクリーンな位置にあることを掴んでから、ようやく歪んだギターの音やノイズなどを構成することができるようになりました。ジャズを経由してようやくソニック・ユースへ行けた!!という。あんまり伝わらない気がしますが…でもそういうルートだったんですよね本当に。この発見は嬉しかったんだよなあ。

②演奏の仕方・メロディの感覚

ジャズギターのバシバシ流麗なソロを弾く価値観から彼は離れていて、淡々と、抒情的に演奏を繰り広げていきます。技術的には間違いなくテクニックに比重の寄った演奏も出来る人なのですが(初期は割とそういうアプローチも聴けたりします)、年齢を重ねていけばいくほどビル・フリゼールの世界観は枯淡とし、派手ではないけど恐ろしく深い音の連なりによって構成されるようになっていきました。メロディへ傾倒した、という言い方でも間違っていないと思います。実際、一時期の彼はジョン・レノン楽曲自身の幼い頃のポップスを扱った作品を作っていたりしました。

ビル・フリゼールから僕が感じるのは、彼は実に「フォーキー」であるということ。僕はフォークが好きなのですが、その理由を突き詰めると、どんどん装飾を削ぎ落としていくとそこには結果シンプルなメロディだけが残るということ、そのささやかな美しさに行き着きます。民俗音楽の多くが記述ではなく口述で引き継がれていったことが理由だと思いますが、ミニマルに構成された世界だけれど豊かである…というこのフォークの真髄は、ビル・フリゼールの音楽観にも間違いなく反映されているように感じられるのです。

③雑食性

ビル・フリゼールの音楽観を指し「アメリカーナ」と表現されることはよくありますが、このアメリカーナという単語こそかなりぼんやりとした、アブストラクトで感覚的なものに違いありません。

例えば、この記事にはこんな風に記載がされています。

"アメリカーナ・ミュージック協会が定義する「アメリカーナ」とは、“カントリー、ルーツ・ロック、フォーク、ブルーグラス、R&B、そしてブルース等さまざまなアメリカン・ルーツ・ミュージック・スタイルの要素を包含した結果誕生し、元々吸収してきたジャンルの純粋な形とは全く異なる、独自のルーツ志向サウンドのコンテンポラリー・ミュージック”

確かにアメリカーナは「ジャンルが確立されている現在」からの視点ではその言葉が示すものがよく分かるのですが、過去の時点から現在を見つめてみると全くもってよく分からないはずです。ブルースはブルースだし、カントリーはカントリーでしょ。というね。ここにはその当時における「このジャンルはこの人種が聴く」というステレオタイプも関わっているかと思います…ですが、それがまさにステレオタイプであったから現在にアメリカーナという言葉が存在しているのでもありますね。実際は多くの人が音楽を色々と聴いていたのであり、そうすれば当然あらゆるものは溶け合っていくのです。

この溶け合いの先にあった「アメリカーナ」という知覚の立役者であり、それを見事に表現してみせるのがビル・フリゼールその人だということに異論はないと思います。彼のサウンドや演奏の選択の仕方(フレーズもそうだし、演奏上のコードもボイシングもそう)から彼の音楽性とジャンルを検討すると、「ジャズである」というよりは「A・B・C・Dの要素が綺麗に混じり合っていて、結果ジャズと位置付けるのが最も妥当である」という表現の方が正確だということに至るはず。

この雑食性って実に現代的だと思うんですよね。いまこの世界において「俺は50sのブルーノートしかジャズと認めない」とか「ロックとは80sのヘアメタルだけだ」みたいな観点の音楽好きは絶滅危惧種なはずで、大枠におけるジャンルの好き嫌いはさておいても「こういうフィーリングの音楽は好き」という尺度でポップスもロックもジャズもヒップホップも等間隔で触れていると思います。こういう一種の「自由さ」を体現してきた人のひとりがビル・フリゼールなんだよねえ。というのが僕の視点です。


これだけ語ると、ビル・フリゼールを聴きたくなっちゃいますよね当然。ジャズギターを…というファーストチョイスはもちろん、優しい手触りの音楽が聴きたいとか、音響が素晴らしい音楽が聴きたいなど、様々な局面でビル・フリゼールの音楽はあなたにフィットするのではないかと思います。

ここでは簡単に触っておきますが、ポスト・ビル・フリゼールとしてヤコブ・ブロという名手も活躍しております。彼の方がよりアンビエント的な音響を得意としていて、アメリカーナの雰囲気が希薄なのが特徴かなと思います。ヤコブさんはこんな感じの演奏をしています。ため息が出ますね…

影響は受けていないと言いつつ、聴けば聴くほど自分と通じるものを感じずにはいられません。こういうこともまさに音楽の面白さだなあと思います。どこにどの影響が表れているかを感じ取るアンテナはそれぞれ違いますので、皆様のアンテナには何が受信されているのか、是非教えてくださいね。

チャールズ・ロイドのバンドにいるビル・フリゼール。これ最高。

最後に、dysfreesia + mihauは6月25日に開催される〈シンガポール祭りVOL.3〉に出演いたします!付き合いは長いのにライブはなんと初共演なマーライオンくん、チームFOLKY FOAMYのFuminaさんとシンガポール在住のサシャくんによる遠距離バンド=Chiriziris、リリースされたシングルだけでも既に素晴らしくライブがとても楽しみなPuff、そして名前が気になって仕方のないDJ karaagechanとの共演です!

"ディック・ダイヴァー"もやると思います、加えて新しい新曲も演奏すると思います。間に合えば!バンド的にはこれでライブは一旦終了、また地下に潜ることになります。潜る前に一度会いにきてください!楽しみにしております!


6/25(日) 〈シンガポール祭りVOL.3〉
下北沢リヴハウス
OPEN 18:30 START 19:00
チケット代3000円 学割1500円

▼出演
マーライオン
Chiriziris
Puff
dysfreesia + mihau

▼DJ出演
karaagechan

▼ご予約フォーム
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfkUxb08E1iOVSF_Xx-TNN7FgqH2J9WKD-tbrHpNHIOI_-11w/viewform


では今日はここまで、次は「て」でお願いいたします!

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