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INUって初めて聴いた時に戸惑わなかったか問題

こんばんは、登板され始めて2回目の投稿でございます平野です。

今年はハードコアパンクばかり聴いていた影響もございまして、今回はタイトル通り「INUって初めて聴いた時に戸惑わなかったか問題」について論じたいと思います。まず前提として、INUについておさらいしておきましょう。以下WIkipediaから引用します。

"INU(イヌ)は町田町蔵を中心として構成された日本のパンク・ロックバンド。1979年に結成され、1981年にアルバム『メシ喰うな!』を発表。同年のうちに解散した。"

もうひとつ補足しておきます、こちらもWikipedeiaより「町田康」の項目です。

“町田 康(まちだ こう、1962年1月15日 - )は日本の小説家・ミュージシャン。旧芸名は町田 町蔵(まちだ まちぞう)。本名は町田 康(まちだ やすし)。大阪府堺市出身。1981年、バンド「INU」のボーカリストとしてアルバム『メシ喰うな!』で歌手デビュー。同バンド解散後もさまざまな名義で音楽活動を続けるかたわら、俳優としても多数の作品に出演。1996年には処女小説『くっすん大黒』で文壇デビュー。2000年に小説『きれぎれ』で第123回芥川賞受賞。以後は主に作家として活動している。"

さて、つまりINUとは”現在作家として活動している町田康氏が昔組んでいたパンクロックバンド”ということが分かると思います。さあここまでを踏まえて、実際に聴いてみましょう!










どうでしたか?













戸惑いませんでした?














事前情報に対して聴こえてくるサウンドに色々と違和感がありませんでした?














僕は初めて聴いた時にすごく戸惑いました。
ではここから、僕たちが共有したに違いない戸惑いポイントをいくつか挙げて考えていきましょう!レッツ・シンキング!

①パンクにしてはなんか異様に軽くないか?問題

分かる。特に序盤の曲は異様に軽いし躁っぽいと思います。

冒頭のカラッとした曲は「なんとも軽い!軽過ぎるぞパンクロック!」という感じですが、僕にとってはこの軽い曲が存在することの方が遥かに怖い…と言うのは、僕が一番初めに聴いたINUの曲は次にご紹介するものでしたので、これを聴いてからだと序盤のテンションが逆に薄気味悪かったのでした。

最高にクールです。その辺のメタルよりもよっぽどヘヴィで重苦しい。詩も本当にすごくて、10代後半-20代前半くらいでこの曲を聴いた僕は完全に影響受けました。これ、グランジですよね。カート・コバーンの世界観を80年代の日本でひと足さきに提示していたのが町田康であって、この詩にパンクロックの歴史も未来もまるまるっと凝縮して詰め込まれている。ということで全部引用します。


俺の存在を頭から打ち消してくれ
俺の存在を頭から否定してくれ
あのふざけた中産階級のガキ共を
ぶちのめす為に

町には色とりどりの花を持った
貧乏そうな顔つきの国鉄の客
人の海、人間

おまえらは全く自分という名の空間に
耐えられなくなるからといってメシばかり
喰いやがって

メシ喰うな


初めはこの”メシ喰うな”だけが作品全体から突出しているように感じていたのですが、よくよく注意深く聴いていくと全体的に不穏で「何かが起こりそうで起こっていない」感じ。詩だけが終始その存在を示し続けているのですが、”メシ喰うな”に至ってそれが音楽的にも「起こってしまった」。ふつふつと内側で蒸留されていく怒りの存在って怖くないですか? いつも笑っている人がさらっと小さな声で言う「殺す」の一言みたいな? このギャップの意味合いが分かった瞬間の恐怖感、これってポストパンクの不穏さとも共通するものがあるように感じます。続く。

②そもそもパンクなのか?問題

町田さんは自分の音楽経歴について必ずと言って良いほど「パンク」という言葉を使う方です。その彼のバンドですからそりゃ頭の中にパンクロックを描くのは当然、だけれども実際の音楽性はパンクよりニューウェーブ / ポストパンクに寄っていますよね。音楽性はバンドメンバーの影響も大いにあると思いますが、陳腐な言い方だけれども町田さんはマインドがパンク出身なのですね。

それがそのままINUの不安定さ、”メシ喰うな”のえげつない破壊的なギターと"フェイド・アウト"や”つるつるの壺”の軽やかなビートの同居=80年代におけるパンクロックと音楽全体の受容・スタイルの変化と途上を示している。かつ、今となっては音楽観としては完全に分離したと言って良い「ニューウェーブ」と「ポストパンク」の境目もまだはっきりとしていない、そんな揺らぎがそのまま残っているようにも思います。序盤で聴こえるコーラスを多用したモジュレーションギターはパンクを通り越してネオアコみたいですしね。このサウンドの感じはちょっとトーキング・ヘッズ並びにエイドリアン・ブリューを彷彿とさせたりもします。それにしてもすごい80sロック感満載。

③パンクだとして、上手くないか?問題

分かる。すごく上手いんですよね。パンクロックの重要な要素とされている初期衝動よりもブラッシュアップされている感じ? でも昔から思っているのは、パンクロックの人たちも上手いんだよな…と言うこと。本当に下手だったのってシド・ヴィシャスくらいだったのでは…これは想像のお話。

ともかく、INUってすごく上手なバンドだと思っています。ベースの西川さんは結構縦乗りのがっしりしたビートの感覚が強くある方、だけど元々は鍵盤奏者だったらしいですね(Wiki情報その1)。この楽器の乗り換え方法はパンク感が過ぎる。ギタリストの北田さんは専門的にギターを習得していた方とのことで(Wiki情報その2)、確かにタイム感といい音作りといいすごく上手い。ギターだけでもパンクロックから頭一個抜けている感じで、顕著にインプットが多い印象です。INUの楽曲の色彩感には北田さんの貢献が非常に大きい気がします。

でもパンクロックの上手下手って難しいよねえ…下手なことが味であるケースは割とあるから、うまきゃ良いって話でもないっていう。ジョイ・ディヴィジョン / ニュー・オーダーのスティーヴン・モリスは分かりやすく上手いのに対してバーナード・サムナーのギターはめさんこヘロヘロですが、どちらにもパンクロック感満載。でもでもパンクロック感ってなんだろうか…にひとつ関係ありそうなのは「演奏の癖 ≒ 下手」という方程式。これの極点はThe Shaggsですね…所謂「パンク」では無いですが、ヘナヘナで演奏もなんじゃこりゃだけどすごく良い。難しい話だねえ。

④パンクだとして、変に整っていないか?問題

分かる分かるよ君の気持ち。この問題に関連するのは、パンクバンドと当時のメジャーレーベルの相性とは果たして…問題でもございますわね。『メシ喰うな!』のリリースはWax Recordsというパンクロック専門の名門レーベルからでしたが大元は徳間ジャパン、ということでメジャーレーベルからのリリースでした。尖ったパンクロックのバンドたちをメジャーレーベルが挙ってリリースしていた時代の話です。

そうすると不思議な現象が起きてくる訳です。例えば。NYパンクの象徴であるラモーンズは当時の演奏を観るとすごく早いし衝動的なんだけど、1stアルバムでは少しスローになった上にジョーイの声のテンションが落ち着いていて、それによって本来の持ち味からバランスが変わっている感じがする。だからバンドそのものを知っている人たちからするとすごく変な感じがする、みたいな。客観的な聴きやすさの追求だとか製作過程上の都合(楽器をバラバラに録る…録り直す…)によってバンドが通常行うアプローチとは違う手法を扱うから不思議な味付けが発生してくるのでしょう。ラモーンズの場合は、ビートルズが好きだったからスタジオアルバムでは敢えてそういうアプローチをしたのかもですね。

さて、このアルバムはどうでしょう。やっぱり変じゃないですか…? 当時の音源や映像を確認していると演奏技術自体はすごくあるのですが、サウンドは至って粗暴。パンクだしね。全部音おっきいし。対するアルバムは非常に整っていて丁寧に作られている印象が強く、サウンドのカラーも80sの立体的(で部分的にはちょっと過度)なプロデュースがされていて、全体的にモコッとして空間的。ステレオ感もかなりあって演出されているし、”夢の中へ”はギターの逆再生サウンドでタイトル通り思いっきりドリーミーだし。よくある「3日間で全部録ってミックスした」みたいなパンクロックスタイルとはだいぶ違いますね。丁寧で手が込んでいるのがよく分かるプロダクションだから、音響面だけでいうとハードロックやプログレ、80sのAORみたいな方向に流れていく。パンクロックが本来否定したかったものに接近していくのは実に悲しい話でもありますが、でも面白いですよね。

この点、セックス・ピストルズのアルバムと似ている気がします。パンクの要素を抽出して綺麗にまとめているような、そんな感じです。ピストルズのスティーヴ・ジョーンズとか、サウンドだけでいうとハードロックみたいですしね…本人もフェイセズとか好きらしいです。INUにはハードロックな要素はあんまりないけど、でも乗っている土壌は同じ。

⑤パンクだとして、INUってなんやねん?問題

分かる。なのですが、ずっとINU=犬だと思っていたんですけど、もしかしたらINU=居ぬだったのかな、とか思いました。パンクロックのバンドって短命なものが多いですけど、それを象徴しているような自虐的でも社会的でもある言葉。ですけど、INUの後に町田さんが組んだバンドはFUNAだったので、まあINUも犬ではあったんでしょうね。それにしてもFUNAってなんやねん。FUNAだったらこのアルバムは名盤にならなかった気がします!犬に「メシ喰うな」と言われると恫喝されている感じがしますが、鮒に言われても「だからなんじゃ」となりますしね。


色々な点から問題提起しましたが、まとめるとこれってこの時代でしか生れ得なかったということでありまして、それだけでマジックを感じる。こう言うの楽しいよなあ…と思えるくらいには僕も大人になりました。今でも聴くと発見が多いアルバムです、レコードで聴くと楽しいよ!ジャケットカッコいいし!黄色いし!町田さんの眼光に痺れる!

この眼!この眼だよ!こういう眼をしてみたい!

毎回短めに…と思うけど、短く書けないんですよね。困った困った。
とか言っていたらこの項で今年の投稿は終わりみたいです。
今年もお付き合い頂き、皆さまどうもありがとうございます。
また来年もよろしくお願いいたします!

来年一発目は「い」です、
それではどうぞ健やかで良いお年を。

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