地震ともぐら

 ふと思い立ちエッセイを書いてみようとパソコンを立ち上げた。世界中のエッセイ賞を総なめにしてやるぞと思いキーボードを叩いていたのだが、あまりにも文章が進まない。そもそも世界にエッセイ賞があるのかもよく知らない。エッセイとは自分との闘いなのだなと言う事を知り、その格言を壁に貼るためにすずりを探していると、机が揺れた。地震だと言う事はすぐに理解できたので、机の下のスペースを雑誌たちと分け合って事なきを得た。この前おなかすいて乾パン食べちゃったな、などと思いながら窓の外を見ると地面が割れていた。非日常な光景に興奮した私は、値札のついたままのサンダルをひっかけて外へと出た。

 地割れの定義を知らないが、この地面の割れ方はいかにも地割れだなぁ、と思ったのでこの文章内では地割れと呼ぶことにする。その地割れ(便宜上)、近くで見てみたはいいものだが見れば見るほどただの地割れ(便宜上)でしかなく、しかし見させていただいてる手前何も感想を言わないのも失礼かと思ったので、とりあえず声をかけてみた。

 「許してくれます?」

 「許そう」

 許してくれたので良かった。久し振りに許されたので許された快感に心地よくなっていると、地割れ(便宜上)の間で何かが蠢いてるのが見えた。その蠢きを持ち上げてみると、それはもぐらだった。正確に言うと私には動物の知識がないのでわからないからもぐら(便宜上)ではあるが。人生で初めてもぐら(便宜上)を見た私は、とりあえず声をかけた。

 「許してくれます?」

 「きゅう」

 もぐら(便宜上)は鳴いた。おそらく許してくれなかったのだろう。まあ1-1なら好成績だな、と思い私は家に入り、エッセイ(便宜上)の続きをポチポチするのであった。

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