朝日ウルルン滞在記〜ベトナム編〜EP2 フートでの生活
暫しお暇いただきます。
と言ってみたものの、車は猛スピードで走るし車線なんてあってないようなもの。目に入る景色はくるくると変わるものだから、お暇といえるほど甘っちょろいものでは無さそうだった。
高速道路を走る中でナムは様々なものを紹介してくれた。
「カワじゃねぇよ。スイロスイロ。畑に使う水。」
川かと思うくらいでかい。多摩川くらい。
「あれホテルね!キャバクラ!ちがうか。有名なやつ。バイシュンフ。」
バイシュンフって!どこで覚えたの!笑笑
「ここらへんはホアットの実家ね。」
ホアットとはまだ日本で働いているベトナムの仲間。
あれよあれよとベトナムの情報が入る。世界は広いなんてよく日本から出たことのない私がいえてたもんだ。ベトナム一国だけで私はここまで刺激を受けているのに。
途中サービスエリアでココナッツの実にストローをさしてジュースをのみ、(もはやジュースの概念が変わる。これは果汁だ)高速道路を出た。
ついに辿り着いたフート。ナムの実家がある村だ。
テレビの世界、が目の前で広がっていた。道端に座って果物を売る人、カラフルな看板と日に焼けた屋根。ゴミが至るところに落ちていて、車線はない。皆無。
村にある家は、一戸建てのこじんまりとしたお家なのだが、一言で言って"可愛い"。シルバニアファミリーのおうちが大きくなったかのようなのだ。屋台などが並び、路面店は掘立小屋なのに、黄色、水色、赤、様々な家が立ち並ぶ。商店街のような道を行けば、頭上には色とりどりで三角が連なった装飾があり、店同士を繋いでいる。
可愛い!を連呼しすぎて、ナムの友人トゥンくんがカワイイ!を覚えた。
とにかく目につくものは全て珍しいのだが、特に子供の多さに驚いた。中学校からでてくる人数や幼稚園にいる子供、道端で遊ぶこども。日本にいる子供がどれだけ少ないのか実感した。
小さな道を進むと現れたのが、ナムの実家。黄色の可愛らしいおうち。
門をあけて中に入るとお母さんが出迎えてくれた。
とりあえず。言葉は分からないけど。ハグ。
笑顔。カムーン。ありがとうの意。
部屋に入って裏へ回ると、犬、猫、いつかさばかれるであろう沢山のにわとりたち、そして、
さばかれ中のにわとり。
うわあああ!思わず目を覆った。しょっぱなから衝撃的すぎる光景。
ナムのお兄さんのお嫁さんがニコニコ挨拶しながら鳥をさばく。
「オレもできるよ。みいもやる?」
ナムにからかわれた。
Oh...No...
ナチュラルなオオノー…なんて人生ではじめて口に出した。
一通りコミュニケーションが済むと、ナムはバイクで夕飯の買い出しに行こうと言った。
ヘルメットをつけない後ろの席はなんて気持ちがいいんだろう。すれ違うベトナム人たちは物珍しそうに私の顔を見た。フートは田舎なので外国人観光客があまりいないため、動物園のパンダをみているようだった。
にこっとほほえめば、照れたように笑う老若男女。
もう。好き。告白しちゃうぞ。
ある店に着いた。屋台のような市場のような、とにかくベトナムにある店は外と内の概念がない海の家のような場所だ。
何かを串刺しで焼いていた。いい匂い。
ナムと親しそうな店員は、私を紹介されて笑い、ベトナム語で話しかけてくる。分からない。のでとりあえず笑顔で会釈と握手。
ああ、なんて素敵な場所なんだろうか。美味しい匂いと屈託のない笑顔の人々。最高!
「今日これたべるよ。」
ナムは私にそういうとにやにやしている。
「やったぁ!何の肉?」
「イヌ。」
イヌ?
イヌ?
「犬。ドッグ。」
その夜、私は犬を食べた。家族みんなと一緒に用意をした沢山のおかずの中には
犬。がいた。
朝日美陽。ワンちゃん。大好きです。
飼ったことはないけれど、志村動物園もいきものにサンキューも大好きです。
けれど私は可愛い可愛い犬を食べます。
そんな日がくるとは夢にも思っておりませんでした。
ゴザの上にみんなで座って食卓を囲む幸せな時間。食前酒。沢山の薬草。よくわからないソースたち。
そして。
焼いた犬肉。蒸した犬肉。犬の内臓。
あああああいああいいいいああああ。
食べて!食べて!
家族みんな、七人が言うもんだから。
意を決して。食べました。
う、まい。
?
うまい、とはいい難いけど、薬草や辛いソースにつけて食べれば大丈夫。馬肉みたいな感じ。
固め。歯に挟まる。
ああ、私はいま命を頂いている。このお肉のつぶらな瞳をあえて想像して食べてみる。
そんな風にして食事をしたことはあっただろうか。食卓に並ぶ全てのたべものに、カムーン。でいっぱいだった。
そして、お母さんとリンとナムのお兄さんのお嫁さんとみんなで片付けをした後、近所のカラオケへバイク四人乗りで向かった。ケラケラ笑いながらお母さんに抱きついてまっくらな道を進んだ。
カラオケにはキャバ嬢や田舎のヤンキーもいたけど、みんな私に話しかけてくれた。
どの土地に行っても、その道の人たちはいるが、ベトナムの人はみんな優しい。
ナムのお母さんは酔っ払ってベトナム語でペラペラ話して一人で笑うし、ナムは真っ赤になって腹を出す。
そんな夜を終え、私は眠りについた。
次の日の朝。
ナムのお母さんと一緒にお昼ごはんの準備。一日いてなれた私は炒めものをしたり、でかいタバコを吸ったり、フートのお昼をずっと笑って過ごした。
食卓には、昨日のお肉のアレンジ料理が並んだが、私は躊躇いもなくパクパクと食べていた。
慣れは恐ろしいものだ。
洗い物をし、洗濯物を干し、食後のお茶を飲んだ。もう、フートに住み着いちゃいたいなんて、実際には出来ないだろが、甘い幻想を抱いてしまうほどであった。
ナムはトゥンくんと首都ハノイで独立生活をしているため、私も一緒にハノイへ向かうことに。
ナム家の生活は一泊二日で終わりだ。
とても短い時間だし、カムーン、しかちゃんと言えなかったけど、ナムの家で過ごしたエピソードは書き切れないほどになった。
「絶対またくるんだよ。」
ナムのお母さんは私にベトナム風おにぎりと沢山のフルーツを持たせた。
お母さんは世界共通。なんでも食べさせたがり、持たせたがり、心配性だ。
ナムのお父さんは恥ずかしそうに、Thank youとハグをしてくれた。ナムに似ている。
朝日ウルルン滞在記。フートにいるだけで十分なくらいに与えられるものを持ち帰れたよ。
ナムの家族は見えなくなるまで手を振ってくれた。
ブーン!!!!
高速道路へ向かう。フートの街は、もうすでに私の目と心に馴染み、また帰ってくる日を待ち遠しく思っていた。
「みぃ!今日寺いくぞ。」
ナムはそれだけ私に言ってトゥンくんは車を飛ばす。リンちゃんはベトナム語で捲し立てるようにナムと喧嘩中。
まだまだ、この旅は終わりそうにない。
次回へ続く。