劇的・妊婦生活④~人生の岐路 選択編~
16週の命がお腹に宿っている、と言う事実。
枕元に置いてたエコー写真。
まだ、自分の選択が定まらない頃、私は普通に生活してた。
殺陣の稽古にも行き、いつもと変わらない日常。
でも、頭の隅で、命の選択について常に付きまとう。
決めるのは私だと、そこだけはわかっていたので、
まだ親にも話さず、一人だけ友人に話していました。
その子も、話は聞いてくれた上で、それでも決めるのは私だし、どちらを選んでもいいと思う、と見守ってくれていた。
産む
産まない
まずは、この選択。
のんびり考える暇はない。
けれど、人生最大の選択の時。
本来、愛おしい命のはずだけど、
私はまだ愛情を向けれずにいた。
どちらを選ぶかわからない中で、情をかけれない。
ぐっと抑える。
産みたい
と思ったけど、
朝目覚めた時に、それがいかに身勝手なことか
という現実がどっと押し寄せてきた。
産むとなれば、シングルで育てることになる、
相手の人との結婚を望んでいない、
実家に頼ることになる。
15歳で女優になりたいと上京し、今までずっと支えてきてくれた家族に、
更に負担をかけることなる。
そんな身勝手なこと、許されるわけない。
現実的に考えれば、無理だ。
産みたいなんて、私のわがままだ。
目を覚ませ。現実を見ろ。
諦めることにした。
その瞬間、涙が止まらない。
心が、身体が、胸が、引き裂かれるような痛み。
友人に連絡する。
その子は、言った。
それでもいいと思う、でも一つだけ伝えたいことがある、その子はとてもキラキラしたものをもってるよ。あなたのことが大好きだから、諦めたとしても、恨んだりはしないよ。また逢えるよ。
自分の心の中の、真実を見つけられたらいいね。
否定も肯定もせず、友人はそう言った。
心の中の真実。
現実ではなく、真実。
もう少しだけ、自分の心に問いかけてみることにした。
目を瞑る。
心を穏やかに。
深呼吸をする。
子どもと手をつないでいるビジョンが浮かぶ。
お日様の元、
手をつないで
並んで、歩いてる。
これは、私の理想?夢?願望?
そのビジョンが消えない。
散歩することにした。
とにかく頭を空っぽにする。
空気、音、匂い。
近所の神社へ行った。
大好きな、よくお参りに来ている神社。
お参りをする。
自分の心の真実に出逢えますように。
本殿の脇に小さな分社があって、
そこでもお参りする。
その時、力強く背中を押された。
それでいいんだよ、と。
神様が、応援してくれたような気がした。
その日と、その翌日、
誰にも会わず、ひたすら頭を空っぽにして、散歩して、
現実的なことは一切考えず、
心穏やかに過ごした。
あのビジョンが、揺るぐ瞬間がくるのか、
こなかった。
心の中に、あのビジョン以外、浮かんでこなかった。
それが、私の真実なんだな。
少しだけ現実的なことに目を向ける。
だとしたら、まず親に話さなきゃ。
仕事も、どうなるかわからない。
役者業を離れることになる、殺陣もしばらくできない。
この先、やりたいことできなくなるかも。
それがどうした。
この子は、私が気付かない16週もの間、
一人で、たくましく、成長していた。
お酒も飲んでた。不摂生いっぱいしてた。風呂場で寝落ちしたり、不規則な生活続きだった。
舞台の公演があったし、殺陣やらアクションやら、ガンガン身体動かしてた。台詞で「こいつを殺せ!!!」とか叫びまくってた。朝まで打ち上げにも参加してた。
いつ、流産してもおかしくない状況だった。
それを、この子は乗り越えた。
それだけ、生きたいということ。
そんな命の逞しさを目の前に、
自分のやりたいことなんて、なんてちっぽけなんだ。
しかも、それらはできなくなるわけじゃない。
本当にやりたいことなら、いつか必ずできる。
でも、この子の命は、今この瞬間。
この道は、どんなに辛いことがあっても乗り越えられる。
けど、この道以外を選んだら、取り返しがつかない後悔が一生付きまとう。
心は決まった。
この子に逢いたい。
逢う。
産もう。
次回は、母との電話。
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