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諸事吉祥となる、祈願文

はじめに

今からご紹介する「パクパ・タシギェーパ」(聖八吉祥頌)という祈願文は、チベットでは大変ポピュラーです。

古訳ガギュルニンマ(ニンマ派)のお寺では、ツォク供養などの法要の際にはこの祈願文からスタートします。よって「般若心経」などのように、イヤでも行者が暗記する経文の1つといえます。

古訳派だけでなく、他の宗派(新訳派)でもこの祈願文は重視されます。
たとえばゲルク派の傑出した仏教博士ゲシェーであるラマ・ゾパ・リンポチェ(1945-2023)も、この祈願文を毎日唱えることを奨励しています。

1日の始まりに唱えてもよし。
就寝前に唱えてもよし。
仕事始めに唱えてもよし。
旅の出発時に唱えてもよし。 新幹線や飛行機の中でも


この祈願文には、日本でお馴染みの観音様や地蔵様、毘沙門天や帝釈天といった尊格も登場します。

聖なる八仏・八大菩薩・八供養妃・八大護法の善の力を呼び起こすことで、加護をいただき、あらゆる障害を祓う最強の祈願文が「パクパ・タシギェーパ」なのです。

しかも暗記さえすれば、唱え終わるのに1分もかかりません。

八吉祥をデザインした切手(ブータン王国)


チベットには有名な「八吉祥タシ・タギェー」という八つのエンブレム(上の画像)がありますが、この経文ではその「八吉祥」のみならず、上記の仏・菩薩・女神・護法とそれらの持ち物(仏教語で標幟ひょうし)を「八」という法数に集約させているのが、特徴的です。
「八吉祥」というテーマに幾重も意味を持たせているのが、天才的なのです。

この祈願文の作者は以前にこのnoteでも何度か登場した、「ロンチェン・ニンティク」の重要な先生、「三文殊」(文殊菩薩の化身)の御一人、ジャムグン・ミパムです。

この祈願文の福徳としては、以下が記されています:

  • 朝、目覚めた時に唱えれば、その日の目的はすべて達成される

  • 寝る前に唱えれば、良い夢が見られる

  • 勝負前に唱えれば、あらゆる点で勝つ

  • 計画開始に唱えれば、計画は成功する

  • 毎日唱えれば、寿命が延び、栄光・名声を博す

  • 富が増し、幸福は満たされる

  • 願い通りに目的を達成して幸福を得る

  • 罪業や障礙はすべて浄化される

  • 善趣に生まれ変わる

  • 涅槃に至る


現在は、チベット暦正月。
福徳を積む一年の始めにふさわしい経文として、翻訳を公開しました。

私の訳にはサンスクリット(梵語)の尊名を併記しています(おそらく世界初でしょう)。
この祈願文は、尊格の名が重要だからです。
もっといえば、尊格のおられる浄土の力です。

サンスクリットを大変重視されるジャムグン・ミパムだから、きっとこういうことだろうと浅慮する次第です。

とても加持力の強い経文ですので、毎日お唱えすることで、必ずや自と他の利益になることでしょう。



聖八吉祥頌(パクパ・タシギェーパ)

༄༅།།འཕགས་པ་བཀྲ་ཤིས་བརྒྱད་པའི་ཚིགས་སུ་བཅད་པ་བཞུགས་སོ།།

ལས་གང་ཞིག་བརྩམས་པའི་ཐོག་མར་འདི་ཚར་གཅིག་བརྗོད་ན་གྲུབ་པ་བདེ་བ་ཡིད་བཞིན་དུ་བྱེད་པར་འགྱུར་བས་ཅི་ནས་ཡིད་ལ་བྱའོ།།
何事なにごとも開始時にずこれを一回唱えるならば諸事は如意成就する、何時なんどきもこれを留意すべし。

<三宝への礼拝>

ༀ་ སྣང་སྲིད་རྣམ་དག་རང་བཞིན་ལྷུན་གྲུབ་པའི།
オーン ナンシー・ナムダク・ランシン・ルンドゥプ・ペー
オーン 顕れと存在が本来清浄、自性が任運成就する

བཀྲ་ཤིས་ཕྱོགས་བཅུའི་ཞིང་ན་བཞུགས་པ་ཡི།
タシ・チョクチュー・シンナ・シュクパ・イー
十方の吉祥浄土に安住せし

སངས་རྒྱས་ཆོས་དང་དགེ་འདུན་འཕགས་པའི་ཚོགས།
サンギェー・チュータン・ゲンドゥン・パクペー・ツォク
諸仏と聖法と僧伽の聖者衆の一切に頂礼せん!

ཀུན་ལ་ཕྱག་འཚལ་བདག་ཅག་བཀྲ་ཤིས་ཤོག
クンラ・チャクツェル・ダクチャク・タシ・ショク!
我らにとって諸事吉祥あらんことを!


<八善逝(仏陀)への礼拝>

། སྒྲོན་མེའི་རྒྱལ་པོ་རྩལ་བརྟན་དོན་གྲུབ་དགོངས།
ドゥンメー・ギェルポ・ツェルテン・ドゥンドゥプ・ゴン
燈明の王ドゥンメー・ギェルポ」仏(プラディーパラージャ)、「一切の意義を成就する堅実で力強いツェルテン・ドゥンドゥプ・ゴン」仏(パラクラマスティラシッダールタサムディ)、

བྱམས་པའི་རྒྱན་དཔལ་དགེ་གྲགས་དཔལ་དམ་པ།
ジャンペーギェン・タン・ゲダク・ペルダンパ
慈の荘厳で光輝あふれるジャンペー・ギェン」仏(マイトラーランカラーシュリー)と、「徳で知られる神聖な光輝あふれるゲダク・ペルダンパ」仏(プンニャキールティパラマシュリー)、

ཀུན་ལ་དགོངས་པ་རྒྱ་ཆེར་གྲགས་པ་ཅན།
クンラゴンパ・ギャチェル・タクパチェン
一切への気遣いで広く知られるクンラゴンパ・ギャチェル・タクパチェン」仏(ヴィシュヴァチンターヴィスタラキールティ)、

ལྷུན་པོ་ལྟར་འཕགས་རྩལ་གྲགས་དཔལ་དང་ནི།
ルンポ・タルパク・ツェルタク・ペル・タンニ
須弥山の如き神聖と威力で知られる光輝あふれるルンポ・タルパク・ツェルタク・ペル」仏(メールカルパールヤパラークラマキールティシュリー)と

སེམས་ཅན་ཐམས་ཅད་ལ་དགོངས་གྲགས་པའི་དཔལ།
セムチェン・タムチェー・ラ・ゴン・タクペー・ペル
一切有情を気遣うことで知られる光輝あふれるセムチェン・タムチェーラゴンタクペー・ペル」仏(サルヴァサットヴァチンターキールティシュリー)

ཡིད་ཚིམ་མཛད་པ་རྩལ་རབ་གྲགས་དཔལ་ཏེ།
イーシン・ゼーパ・ツェルラプ・タクペル・テ
願いを最も強力に叶えることで知られる光輝あふれるイーシン・ゼーパ・ツェルラプタクペル」仏(マノーラタパリプーラナパラークラマキールティシュリー)、以上の

མཚན་ཙམ་ཐོས་པས་བཀྲ་ཤིས་དཔལ་འཕེལ་བའི།
ツェンツァム・トゥーペー・タシー・ペルベル・ウェー
御尊名を拝聴するだけでも徳と吉祥がいや増す

བདེ་བར་གཤེགས་པ་བརྒྱད་པ་ཕྱག་འཚལ་ལོ།
デワルシェーパ・ギェー・ラ・チャクツェル・ロ!
これら八善逝に対し、頂礼せん!


<八大菩薩への礼拝>

འཇམ་དཔལ་གཞོན་ནུ་དཔལ་ལྡན་རྡོ་རྗེ་འཛིན།
ジャンペル・シュンヌ・ペルデン・ドルジェ・ズィン
文殊童子(マンジュシュリー)、光輝あふれる金剛手(ヴァジラパーニ)、

སྤྱན་རས་གཟིགས་དབང་མགོན་པོ་བྱམས་པའི་དཔལ།
チェンレーシク・タン・グンポ・ジャンペー・ペル
観自在(アヴァローキテーシュヴァラ)と、守護尊弥勒(マイトレーヤ)、

ས་ཡི་སྙིང་པོ་སྒྲིབ་པ་རྣམ་པར་སེལ།
サイ・ニンポ・ディクパ・ナンパル・セル
地蔵(クシティガルバ)、除蓋障(サルヴァニヴァーラナヴィシュカンビン)、

ནམ་མཁའི་སྙིང་པོ་འཕགས་མཆོག་ཀུན་ཏུ་བཟང་།
ナムケー・ニンポ・パクチョク・クントゥ・サン
虚空蔵(アーカーシャガルバ)、聖尊普賢(サマンタバドラ)は

ཨུཏྤལ་རྡོ་རྗེ་པད་དཀར་ཀླུ་ཤིང་དང་།
ウトパル・ドルジェ・ペーカル・ルシン・タン
(文殊が)青蓮華、(金剛手が)金剛杵、(観自在が)白蓮華、(弥勒が)ナーガ樹と(を携え)、

ནོར་བུ་ཟླ་བ་རལ་གྲི་ཉི་མ་ཡི།
ノルブ・ダワ・レルディ・ニマ・イ
(地蔵が)如意宝珠、(除蓋障が)月輪、(虚空蔵が)剣、(普賢が)日輪という

ཕྱག་མཚན་ལེགས་བསྣམས་བཀྲ་ཤིས་དཔལ་གྱི་མཆོག
チャクツェン・レクナム・タシー・ペルギ・チョク
標幟ひょうしを優雅に携え、吉祥を授ける至尊となれる

། བྱང་ཆུབ་སེམས་དཔའ་བརྒྱད་ལ་ཕྱག་འཚལ་ལོ།
ジャンチュプ・センパ・ギェー・ラ・チャクツェル・ロ!
これら八大菩薩に対し、頂礼せん!


<八供養妃への礼拝>

རིན་ཆེན་གདུགས་མཆོག་བཀྲ་ཤིས་གསེར་གྱི་ཉ།
リンチェン・ドゥクチョク・タシー・セルギ・ニャ
殊勝なる宝傘(シタータパトラ)、吉祥の黄金魚(カナカマトスヤ)、

འདོད་འབྱུང་བུམ་བཟང་ཡིད་འོང་ཀ་མ་ལ།
ドゥージュン・ブムサン・イーオン・カマラ
如意宝瓶(ニディガタ)、極めて美しい蓮華カマラ(パドマクンジャラ)、

སྙན་གྲགས་དུང་དང་ཕུན་ཚོགས་དཔལ་བེའུ།
ニェンダク・ドゥン・タン・プンツォク・ペルベー・ウ
妙音の法螺貝(シャンカヴァルタ)と、円満の吉祥結(シュリーヴァトスヤ)、

མི་ནུབ་རྒྱལ་མཚན་དབང་བསྒྱུར་འཁོར་ལོ་སྟེ།
ミヌプ・ギェルツェン・ワンギュル・コルロ・テ
不滅の勝幢しょうどう(クンダドゥヴァジャ)、全能の金輪宝こんりんほう(スヴァルナチャクラ)、以上の

རིན་ཆེན་རྟགས་མཆོག་བརྒྱད་ཀྱི་ཕྱག་མཚན་ཅན།
リンチェン・タクチョク・ギェーキ・チャクツェン・チェン
八つの至高の吉祥宝たる標幟ひょうしを手にして

ཕྱོགས་དུས་རྒྱལ་བ་མཆོད་ཅིང་དགྱེས་བསྐྱེད་མ།
チョクドゥー・ギェルワ・チューチン・ギェーキェー・マ
あらゆる方角・時間に住まう諸仏に供養して喜びを生み出す

སྒེག་སོགས་ངོ་བོ་དྲན་པས་དཔལ་སྤེལ་བའི།
ゲクソク・ンゴウォ・デンペー・ペルベル・ウェー
嬉女ゲクパマ(ラーシャー)〔鬘女テンワマ(マールヤー)、歌女ルーマ(ギーター)、舞女ガルマ(ヌリティヤー)、花女メトクマ(プシュパー)、香女ドゥプーマ(ドゥパー)、燈女ナンセルマ(アローカー)、塗女ディチャプマ(ガンダー)〕等、憶念するだけでも徳と吉祥がいや増す

བཀྲ་ཤིས་ལྷ་མོ་བརྒྱད་ལ་ཕྱག་འཚལ་ལོ།
タシー・ハモ・ギェー・ラ・チャクツェル・ロ!
これら八吉祥天女に対し、頂礼せん!


<世間の八大護法への礼拝>

ཚངས་པ་ཆེན་པོ་བདེ་འབྱུང་སྲེད་མེད་བུ།
ツァンパ・チェンポ・デンジュン・シメー・ブ
大梵天(ブラフマー)、自在天(シヴァ)、遍入天(ヴィシュヌ)、

མིག་སྟོང་ལྡན་དང་རྒྱལ་པོ་ཡུལ་འཁོར་སྲུང་།
ミクトン・デン・タン・ギェルポ・ユルコル・スン
帝釈天(インドラ)と、持国天王(ドゥリタラーシュトラ)、

འཕགས་སྐྱེས་པོ་དང་ཀླུ་དབང་མིག་མི་བཟང་།
パクキェーポ・タン・ルワン・ミクミ・サン
増長天(ヴィルーダカ)と、龍王広目天(ヴィルーパクシャ)、

རྣམ་ཐོས་སྲས་ཏེ་ལྷ་རྫས་འཁོར་ལོ་དང་།
ナムトゥー・セーテ・ラゼー・コルロ・タン
毘沙門天(ヴァイシュラヴァナ)、以上(の八尊の各々)が神宝である

ཏྲི་ཤུ་ལ་དང་མདུང་ཐུང་རྡོ་རྗེ་ཅན།
ティシュラ・タン・ドゥントゥン・ドルジェ・チェン
(大梵天が)輪と、(自在天が)三叉戟と、(遍入天が)短槍、(帝釈天が)金剛杵を

པི་ཝཾ་རལ་གྲི་མཆོད་རྟེན་རྒྱལ་མཚན་འཛིན།
ピワン・レルディ・チューテン・ギャルツェン・ズィン
(持国天が)琵琶、(増長天が)宝剣、(広目天が)仏塔、(毘沙門天が)勝幢しょうどうりて

ས་གསུམ་གནས་སུ་དགེ་ལེགས་བཀྲ་ཤིས་སྤེལ།
サスム・ネース・ゲレク・タシー・ペル
三界に善と吉祥がいや増す

འཇིག་རྟེན་སྐྱོང་བ་བརྒྱད་ལ་ཕྱག་འཚལ་ལོ།
ジクテン・キョンワ・ギェー・ラ・チャクツェル・ロ!
世間の八大護法に対し、頂礼せん!


བདག་ཅག་དེང་འདིར་བྱ་བ་རྩོམ་པ་ལ།
ダクチャク・デンディル・チャワ・ツォンパ・ラ
我らが今まさに事を為さんとするにあたり

གེགས་དང་ཉེ་བར་འཚེ་བ་ཀུན་ཞི་ནས།
ゲクタン・ニェ・ワル・ツェワ・クンシ・ネー
一切の障礙や邪魔が悉く鎮まり

། འདོད་དོན་དཔལ་འཕེལ་བསམ་དོན་ཡིད་བཞིན་འགྲུབ།
ドゥードン・ペルベル・サムドゥン・イーシン・ドゥプ
順縁はいや増し所願は如意成就し

བཀྲ་ཤིས་བདེ་ལེགས་ཕུན་སུམ་ཚོགས་པར་ཤོག
タシー・デレク・プンスム・ツォクパル・ショク!
吉祥と徳がいや増しことごとく円満ならんことを!


後書き

ལྡང་ཚེ་བརྗོད་ན་དེ་ཉིན་དོན་ཀུན་འགྲུབ། །ཉལ་ཚེ་བརྗོད་ན་རྨི་ལམ་བཟང་པོ་མཐོང༌། །གཡུལ་དུ་འཇུག་ཚེ་བརྗོད་ན་ཕྱོགས་ལས་རྒྱལ། །བྱ་བ་རྩོམ་དུས་བརྗོད་ན་འདོད་དོན་འཕེལ། །རྒྱུན་དུ་བརྗོད་ན་ཚེ་དཔལ་གྲགས་འབྱོར་ཤིས། །བདེ་ལེགས་ཕུན་ཚོགས་བསམ་དོན་ཡིད་བཞིན་འགྲུབ། །སྡིག་སྒྲིབ་ཀུན་བྱང་མངོན་མཐོ་ངེས་ལེགས་ཀྱི། །དོན་ཀུན་འགྲུབ་པ་རྒྱལ་བ་མཆོག་གིས་གསུངས། །
「朝、目覚めた時に唱えれば、その日の目的はすべて達成される。寝る前に唱えれば、善い夢を得られる。勝負前に唱えれば、あらゆる点で勝つ。仕事始めに唱えれば、意のままに事が運ぶ。毎日唱えれば、寿命が延び、栄光・名声・財・吉祥といった暫時もしくは永遠の幸福を得て所願成就する。罪業や障礙はすべて浄化され、善趣に生まれ変わり、涅槃を得るといった諸事が達成される。」以上は釈尊が説かれたことである。

རབ་ཚེས་མེ་སྤྲེལ་ཟླ་བ་གསུམ་པའི་ཚེས་གསུམ་གཟའ་ཉི་མ་དང་རྒྱུ་སྐར་རྒྱལ་གྱི་དུས་བཟང་པོའི་ཆ་ལ་འཇམ་དཔལ་དགྱེས་པའི་རྡོ་རྗེའི་ཡིད་མཚོ་ལས་བྱུང་བའི་ནོར་བུའི་དོ་ཤལ་ཆེན་པོའོ། །
この祈願文は(チベット暦)火猿年(西暦1896年)三月三日の日曜、吉祥なる星宿の配置時に、ジャンペル・ギェーペー・ドルジェ(=ジャムグン・ミパム)の意識の湖より生じたる大宝飾なり。

©migyur, 2024.




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