【量子力学】 演算子法による, 調和振動子のエネルギー固有値の導出
調和振動子$${^{*1}}$$の場合, Hamiltonianは
で与えられ, これに対するエネルギーは,
となることが示せる. 今回は, 解析的に解ける調和振動子 (型のポテンシャル) について見てゆく.
$${^{*1}}$$バネや振り子などのように (単) 振動するものを, より一般化した表現のこと. $${\hat{x}}$$ は位置演算子, $${\hat{p}}$$ は運動量演算子, $${m}$$ は振動子の質量 [kg], $${\omega}$$ は角振動数 [rad/s] であり, (古典的な振動子の) バネ定数 $${k}$$ と次の関係がある.
$$
\omega =\sqrt{\frac{k}{m}}
$$
導出
§1. 昇降演算子の導入
まず, 次の演算子を導入する$${^{*2}.}$$
当然, エルミート共役をとれば,
が得られる$${^{*3}.}$$これらの積を考えると,
$$
\begin{equation*}
\begin{split} \hat{a}^\dagger \hat{a} &=(\sqrt{\frac{m\omega}{2\hbar}}(\hat{x}-\frac{i\hat{p}}{m\omega}))(\sqrt{\frac{m\omega}{2\hbar}}(\hat{x}+\frac{i\hat{p}}{m\omega})) (\because \text{(3)})\\
&=\frac{m\omega ^2}{2\hbar}\hat{x}^2+\frac{1}{2m\hbar \omega }\hat{p}^2+\frac{i}{2\hbar}[\hat{x}, \hat{p}]\\
&=\frac{1}{\hbar \omega}(\frac{\hat{p}^2}{2m}+\frac{1}{2}m\omega ^2 \hat{x}^2+\frac{i\omega}{2}i\hbar) (\because \text{正準交換関係 }[\hat{x}, \hat{p}]=i\hbar)\\
&=\frac{1}{\hbar \omega}(\hat{H}+\frac{i\omega}{2}i\hbar) (\because \text{(1)})
\end{split}
\end{equation*}
$$
$$
\tag{4}\therefore\hat{H}=\hbar \omega (\hat{a}^\dagger \hat{a}+\frac{1}{2})
$$
という関係が得られる!
$${^{*2}}$$これは, 後で (4) を得る上で計算を楽にするための結果論的な表式である. $${\hat{a}^\dagger}$$ を上昇演算子, $${\hat{a}}$$ を下降演算子と呼ぶ. 今はとりあえず天下り的に導入するが, 他の分野でも生成・消滅演算子に名前を変えて登場する. なお, $${i}$$ は虚数単位.
$${^{*3}}$$$${\hat{x}}$$と$${\hat{p}}$$ はエルミート演算子なので, $${\hat{x}^\dagger=\hat{x}, \hat{p}^\dagger=\hat{p}}$$ となることを用いた.
§2. 個数演算子の導入
先ほど考えた $${\hat{a}^\dagger \hat{a}}$$ を新たに$${\hat{N}}$$ と置いておく.
実は名前がついていて, 個数演算子と呼ぶ. これは, エルミート性を満たす.
$$
\begin{equation*}
\begin{split} (\because) \hat{N}^\dagger &=(\hat{a}^\dagger \hat{a})^\dagger \\
&=\hat{a}^\dagger \hat{a} (\because \text{積のエルミートは, エルミートをとって, 積の順番が入れ替わる.})\\
&=\hat{N} \blacksquare
\end{split}
\end{equation*}
$$
すると, (4) より, Hamiltonianは,
というように書ける. 今, Hamiltonianの固有状態を考えると,
$$
\hat{H}\varphi=E\varphi.
$$
ここに, (6) を代入すれば,
$$
\{\hbar \omega(\hat{N}+\frac{1}{2})\}\varphi=E\varphi\\
\therefore \hat{N}\varphi=(\frac{E}{\hbar \omega}-\frac{1}{2})\varphi\equiv n\varphi
$$
となり, この $${n}$$ は明らかに定数なので, $${\varphi}$$ は $${\hat{N}}$$ の固有状態にもなっている$${^{*4}.}$$
なお, 後々のために敢えて $${\varphi}$$ に添え字 $${n}$$ を書き加えておいた. また, $${E}$$ と $${n}$$ について, 次の
という関係も得られた (同様に添え字を加えた).
$${^{*4}}$$(6) の時点で, $${\hat{H}}$$ と $${\hat{N}}$$ が互いに線形の関係になっていることから自明ではある.
§3. nに対する条件
(8) まで得られたが, あと一歩 $${n \in \R}$$ に対する条件がまだ決まっていないので, それについて考える. では, まず $${\hat{a}^\dagger\varphi_n, \hat{a}\varphi_n}$$ に $${\hat{N}}$$ を作用させてみよう.
$$
\begin{equation*}
\begin{split} \hat{N}\hat{a}^\dagger\varphi_n &=\hat{a}^\dagger\hat{a}\hat{a}^\dagger\varphi_n\\
&=\hat{a}^\dagger(\hat{a}^\dagger\hat{a}+1)\varphi_n (\because [\hat{a}, \hat{a}^\dagger]=1)\\
&=\hat{a}^\dagger(\hat{N}+1)\varphi_n\\
&=(n+1)\hat{a}^\dagger\varphi_n
\end{split}
\end{equation*}
$$
ここで用いた $${[\hat{a}, \hat{a}^\dagger]=1}$$ という交換関係の導出は, A.1を参照. 同様に,
$$
\begin{equation*}
\begin{split} \hat{N}\hat{a}\varphi_n &=\hat{a}^\dagger\hat{a}\hat{a}\varphi_n\\
&=(\hat{a}\hat{a}^\dagger-1)\hat{a}\varphi_n (\because [\hat{a}, \hat{a}^\dagger]=1)\\
&=\hat{a}(\hat{a}^\dagger\hat{a}-1)\varphi_n (\because \text{1度展開して, 左から括り直し})\\
&=\hat{a}(\hat{N}-1)\varphi_n\\
&=(n-1)\hat{a}\varphi_n
\end{split}
\end{equation*}
$$
どちらも $${\hat{N}}$$ に対して固有状態になっている. さらに, (7) と見比べて $${\hat{a}^\dagger}$$ は固有値を1つ上げ, $${\hat{a}}$$ は1つ下げていることも分かる. これこそが, 昇降演算子と呼ばれる所以である. つまり, 以下のように
$$
\hat{a}^\dagger\varphi_n\equiv c^\prime\varphi_{n+1}\\
\hat{a}\varphi_n\equiv c\varphi_{n-1}
$$
と書けるということだ (これら $${c, c^\prime}$$ の値を求めるのは, A.2を参照). 今度は, $${\hat{N}}$$ の固有値について考えると,
$$
\begin{equation*}
\begin{split} n &=\int d^3r \varphi_n^*\hat{N}\varphi_n\\
&=\int d^3r \varphi_n^*\hat{a}^\dagger\hat{a}\varphi_n\\
&=\int d^3r |\hat{a}\varphi_n|^2\\
&\geq0. (\because \text{ノルムになっているので, 必ず非負})
\end{split}
\end{equation*}
$$
よって, 0以上となる. さらに,
$$
\begin{align*}
\hat{N}\varphi_n&=n\varphi_n \\
\hat{N}\varphi_{n-1}&=(n-1)\varphi_{n-1}\\
& \vdots\\
\hat{N}\varphi_{n_f}&=n_f\varphi_{n_f} (n_f \text{: 最終固有値})
\end{align*}
$$
となり, $${0\leq n_f\leq1}$$ という固有値が存在することになる. すると,
$$
\hat{a}\varphi_{n_f}=0
$$
とならないといけないので,
$$
\hat{N}\varphi_{n_f}=\hat{a}^\dagger\hat{a}\varphi_{n_f}=0
$$
と, これは $${n_f}$$ が0であることに他ならない. 故に, $${n=0, 1, 2, \dots}$$ という (非負) 整数でないといけない. 最後に, 基底状態 ($${n=0}$$) でのエネルギー固有値は,
$$
\begin{equation*}
\begin{split} \int d^3r \varphi_0^*\hat{H}\varphi_0 &=\int d^3r \varphi_0^*\{\hbar\omega(\hat{N}+\frac{1}{2})\}\varphi_0\\
&=\hbar\omega(0+\frac{1}{2})\\
&=\frac{1}{2}\hbar\omega
\end{split}
\end{equation*}
$$
となる. 以上より, 題意は示された. $${\blacksquare}$$
A. 付録
A1. 昇降演算子の交換関係の導出
$$
\begin{equation*}
\begin{split}(\because) [\hat{a}, \hat{a}^\dagger] &=[\sqrt{\frac{m\omega}{2\hbar}}(\hat{x}+\frac{i\hat{p}}{m\omega}), \sqrt{\frac{m\omega}{2\hbar}}(\hat{x}-\frac{i\hat{p}}{m\omega})] (\because \text{(3)})\\
&=-\frac{i}{2\hbar}[\hat{x}, \hat{p}]+\frac{i}{2\hbar}[\hat{p}, \hat{x}] (\because [\hat{x}, \hat{x}]=[\hat{p}, \hat{p}]=\hat{0})\\
&=-\frac{i}{2\hbar}(i\hbar+i\hbar) (\because \text{正準交換関係 }[\hat{x}, \hat{p}]=i\hbar)\\
&=\hat{1} \blacksquare
\end{split}
\end{equation*}
$$
なお, 正準交換関係についての導出は, 例えば以下を参照↓.
つぎに, Hamiltonianとの交換関係を考える.
$$
\begin{equation*}
\begin{split} (\because) [\hat{H}, \hat{a}^\dagger] &=[\hbar\omega(\hat{a}^\dagger\hat{a}+\frac{1}{2}),\hat{a}^\dagger] (\because (4))\\
&=\hbar \omega [\hat{a}^\dagger\hat{a}, \hat{a}^\dagger]\\
&=-\hbar \omega [\hat{a}^\dagger, \hat{a}^\dagger\hat{a}]\\
&=-\hbar\omega( \hat{a}^\dagger[\hat{a}^\dagger, \hat{a}]+[\hat{a}^\dagger, \hat{a}^\dagger]\hat{a})\\
&=\hbar\omega\hat{a}^\dagger[\hat{a}, \hat{a}^\dagger]\\
&=\hbar\omega\hat{a}^\dagger (\because (A1)) \blacksquare
\end{split}
\end{equation*}
$$
途中, 以下の公式を用いた↓.
$$
\begin{equation*}
\begin{split} (\because) [\hat{H}, \hat{a}] &=[\hbar\omega(\hat{a}^\dagger\hat{a}+\frac{1}{2}),\hat{a}] (\because (4))\\
&=\hbar\omega[\hat{a}^\dagger, \hat{a}]\hat{a} (\because \text{同様})\\
&=-\hbar\omega\hat{a} (\because (A1)) \blacksquare
\end{split}
\end{equation*}
$$
A2. a†, aの固有値
$$
\tag{A4}\hat{a}^\dagger\varphi_n\equiv c^\prime\varphi_{n+1}\\
\hat{a}\varphi_n\equiv c\varphi_{n-1}
$$
よって, $${\hat{N}}$$ の固有値について,
$$
\begin{equation*}
\begin{split}
n &=\int d^3r \varphi_n^*\hat{N}\varphi_n\\
&=\int d^3r \varphi_n^*\hat{a}^\dagger \hat{a}\varphi_n\\
&=\int d^3r \varphi_{n-1}^*c^* c\varphi_{n-1} (\because A4)\\
&=|c|^2 (\because 規格化されているので, \int d^3r |\varphi_{n-1}|^2=1)
\end{split}
\end{equation*}
$$
$$
\therefore c=\sqrt{n} (\because c>0とした)
$$
同様に,
$$
\begin{equation*}
\begin{split}
n+1 &=\int d^3r \varphi_n^*(\hat{N+1})\varphi_n\\
&=\int d^3r \varphi_n^*\hat{a}\hat{a}^\dagger\varphi_n (\because A1)\\
&=\int d^3r \varphi_n^*(\hat{a}^\dagger)^\dagger\hat{a}^\dagger\varphi_n\\
&=\int d^3r \varphi_{n+1}^*{c^\prime}^* c^\prime\varphi_{n+1} (\because A4)\\
&=|c^\prime|^2 (\because 規格化されているので, \int d^3r |\varphi_{n-1}|^2=1)
\end{split}
\end{equation*}
$$
$$
\therefore c^\prime=\sqrt{n+1} (\because c^\prime>0とした)
$$
以上よりまとめると, 昇降演算子について,
参考文献
[1] J. J. Sakurai, J. Napolitano. 桜井明夫訳.『現代の量子力学 (上)』第2版 (吉岡書店, 2014).