【量子力学】 フェルミオン, ボゾンとは?
更新 2024/12/25
以下の内容は既知としないが, 知っておいた方が理解しやすいだろう.
1. 量子力学では2つの同じ粒子を区別できない
ここに質量が等しくで, 電荷も等しいという全く同じの2つの粒子があるとしよう. 量子力学では, この2つを区別できない$${^{*1}}$$.
我々の日常では同じ2つの球があったら, 違うものなのでそれぞれに名前をつけるのは普通なのだが, 量子力学の世界ではそういうことはできない.
$${^{*1}}$$これらの質量や電荷, スピンなどを量子数と言い, その2つの粒子がもつそれらの量子数が全て互いに等しいということ. こういう互いに区別できない粒子のことを同種粒子という.
2. 入れ替える演算子の導入
2つの粒子が区別できないということは, 互いに位置が入れ替わっても分からないということになる.
そこで, この入れ替えに注目し, 2つの粒子の位置を入れ替える $${\hat{P}}$$ という演算子$${^{*2}}$$を導入してみる.
なお, 位置 $${\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2}$$ にいる2つの粒子の波動関数について $${\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)}$$ とした$${^{*3}.}$$もちろん入れ替えるということは, 2回入れ替える, つまり $${\hat{P}}$$ を2回かければ元に戻るわけなので,
$$
\tag{1}\hat{P}^2\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)= \psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)
$$
となるはずである. ここで, $${\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)}$$ が $${\hat{P}}$$ の固有状態
$$
\hat{P}\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)=p\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2), p\in \R
$$
であるとすると$${^{*4}}$$,
$$
\tag{2}\hat{P}^2\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)=p^2 \psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)
$$
というようにも書けることになる. よって, (1), (2) より, 固有値 $${p}$$ について,
となる. そして, $${p=1}$$ となる粒子のことをBoson, $${p=-1}$$ となる粒子のことをFermionとそれぞれ名付け, 呼び分けることにする$${^{*5}}$$.
$${^{*2}}$$そういう入れ替える操作を考えていて, そのことを $${\hat{P}}$$ をかけることに対応させているといっても良い. ちなみに $${\hat{P}}$$ はHamiltonian $${\hat{H}}$$ と交換することが示せる (Appendix 1.). だから, $${\hat{P}}$$ とその固有値について考えることは非常に意味がある.
$${^{*3}}$$もちろん名付けられないという話をしたばかりだが, 入れ替える操作を考えるために, 1番2番と敢えて呼び分けている. また, 量子力学では波動関数でその粒子の状態を表す.
$${^{*4}}$$$${\R}$$ は実数 (の集合) を表す.
$${^{*5}}$$BosonはBose粒子, FermionはFermi粒子とも言う. また, $${\psi(\textbf{\textit{r}}_2, \textbf{\textit{r}}_1)=\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)}$$ となることを対称, $${\psi(\textbf{\textit{r}}_2, \textbf{\textit{r}}_1)=-\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)}$$ となることを反対称であると言う.
3. まとめ: この世界にはBosonかFermionしかいない!
2つの粒子 (の状態) を表す波動関数について, 2つの粒子の入れ替えを考えたとき, 以下のどちらかの対称性を必ず満たすことが示された.
つまり, この世界に存在するあらゆる粒子は, 必ずFermionかBosonのどちらかであるということだ!
そして, 粒子は必ずスピン $${s}$$ という量を持つのだが, これがBosonだと整数, Fermionだと半整数であることも知られている$${^{*6}}$$.
さらに現在では, 物質を構成する粒子 (電子など) は全てFermion, それらを繋ぎ止める力の粒子 (光子など) は全てBosonであることが知られている.
$${^{*6}}$$これは, スピン統計定理という難しい理論による帰結.
Appendix
A1. PとHが交換する
$${(\because)}$$ まず, $${\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)}$$ が $${\hat{H}}$$ の固有状態である, つまり
$$
\tag{A.1}\hat{H}(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)=E\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)
$$
とする. (A.1) の両辺, 左から $${\hat{P}}$$ を作用して,
$$
\begin{equation*}
\begin{split} \tag{A.2}\hat{P}\hat{H}\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2) &=E\hat{P}\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)\\
&=E\psi(\textbf{\textit{r}}_2, \textbf{\textit{r}}_1). (\because (0))
\end{split}
\end{equation*}
$$
一方, Hamiltonianについて, 2つの粒子について同種であれば対称性があり,
$$
\tag{A.3}\hat{H}(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)=\hat{H}(\textbf{\textit{r}}_2, \textbf{\textit{r}}_1)
$$
と考えられ, それは波動関数についても同様なので, (A.1) について,
$$
\tag{A.4}\hat{H}(\textbf{\textit{r}}_2, \textbf{\textit{r}}_1)\psi(\textbf{\textit{r}}_2, \textbf{\textit{r}}_1)=E\psi(\textbf{\textit{r}}_2, \textbf{\textit{r}}_1)
$$
と書くこともできる. さらに, (A.4) の左辺について, (0) より
$$
\tag{A.5}\therefore \hat{H}(\textbf{\textit{r}}_2, \textbf{\textit{r}}_1)\hat{P}\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)=E\psi(\textbf{\textit{r}}_2, \textbf{\textit{r}}_1)
$$
となる. よって, (A.2) と (A.3), (A.5) より,
$$
\therefore \hat{H}(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)\hat{P}\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)=\hat{P}\hat{H}(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)\psi(\textbf{\textit{r}}_1, \textbf{\textit{r}}_2)\\
\therefore \hat{P}\hat{H}-\hat{H}\hat{P}=\hat{0}
$$
となり, 題意は示された $${\blacksquare}$$.
交換するということは, つまり同時固有状態であるということを意味する. その証明は, 以下を参照↓.
A2. Pauliの排他律
Fermionの場合, 2つの粒子が同位置にいる場合, つまり
$$
\textbf{\textit{r}}_1 =\textbf{\textit{r}}_2 \equiv\textbf{\textit{r}}
$$
という場合を考える. このとき, 両者の位置を入れ替えても何も元と変わらないので,
$$
\tag{A.6}\psi(\textbf{\textit{r}}, \textbf{\textit{r}})=\hat{P}\psi(\textbf{\textit{r}}, \textbf{\textit{r}}).
$$
また, Fermionの場合, 波動関数は反対称性を満たさないといけないので,
$$
\tag{A.7} \hat{P}\psi(\textbf{\textit{r}}, \textbf{\textit{r}})=-\psi(\textbf{\textit{r}}, \textbf{\textit{r}})
$$
でもある. よって, 結局 (A.6), (A.7) より
$$
\therefore \psi(\textbf{\textit{r}}, \textbf{\textit{r}})=0
$$
となる. これは, 確率が $${0}$$ であることを意味するので, 2つのFermionが互いに同位置に重なれないこと, つまり同じ状態をとれないことを表している. このことをPauliの排他律という.
A3. 2つの統計
FermionについてはPauliの排他律より, 1つの状態に1個までしか居れない. 対してBosonは, 何も制限なく1つの状態に何個でも (無限個まで) 居れる. すると,
ということになる!そして, 前者が従う統計をFermi-Dirac統計, 後者のそれをBose-Einstein統計という.