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新規事業創出の方法論②

前回は新規事業創出の全体像や課題発見方法~新サービスの設計方法について解説した(まだ読まれていない方は以下noteを先に)。今回は、仮説の検証方法ビジネスモデルの設計の仕方等について解説していきたいと思う。

仮説の検証方法とは?

前回述べた”課題の構造化”や打ち手や新サービスの設計は何れも仮説でしかない。顧客とのディスカッションだけでは全ての仮説検証はできないので、様々な方法で検証していく必要がある。仮説検証の方法は大きく5つある(下図参照)。

①インタビュー(対話):課題に直面している方々や業界関係者などにインタビューをする。課題の原因について、「何が発生していると思われますか?」といったオープン型の質問で聞いたり、「こんなサービスがあったら嬉しいですか?」といったクローズ型の質問で聞いたり、オープンとクローズを織り交ぜながら検証していく。

②行動観察(オブザベーション/1日行動観察):机上で検証するだけでなく、行動観察するのも非常に有効である。課題が発生している現場に行き、じっくり観察する。観察する際には、一人の行動や一つのモノの流れを着目することがお勧め。そうすると実際の現場やプロセスがイメージできると、原因や打ち手もよりリアルになってくる。また、ターゲットとなる顧客の生活を体感してみるのもいい(一緒に住んだり、映像を撮ってもらい眺めたり)。ここ数年でエスノグラフィーという手法を活用して、新サービスや製品の開発が様々な企業で行われているが、その手法もまさに観察を起点にしている。

③データ分析:世の中には色んな統計データがあるので、それを活用して検証する。解決したい課題がどれくらいの大きさの話なのか、課題やその原因にはどのような分類があるのかなどは定量的に押さえられることが多い。

④各種レポート・事例分析:業界レポートやテーマに関するレポートを活用して検証する。レポートを活用して検証することもできるし、レポートの中にあるグラフの参照元が書かれているので、参照元を辿ってデータ分析をすることもできる。また先端の事例や海外の事例などから検証するのも有効である。

⑤アンケート調査:アンケートで仮説を検証する。既にあるアンケートを活用する場合と、新たにアンケート調査を行い仮説検証する場合がある。新たにアンケートを設計する場合はただ単に質問を並べるのではなく、仮説が検証できるように設計していく。

検証したい項目に応じて、幾つかの方法を組み合わせて検証していくことになる。

仮説の検証方法

ビジネスモデルとは?

課題の構造化・打ち手・製品/サービスの検証ができたら、ビジネスモデルの設計を行っていく。製品/サービスとビジネスモデルは混同しがちなので、整理していきたいと思う。サービス/製品は現象として見えているものであり、ビジネスモデルはそれを支える構造のことを指す。ビジネスモデルはよく調べないと一般的には見えてこない(下図参照)。

サービス・製品とビジネスモデルの関係

ビジネスモデルの設計方法

ビジネスモデルに必要な要素は大きく4つ。①誰に対して(ターゲット)、②どんな価値を(バリュー)、③どのように提供し(ケイパビリティ)、④どのように収益を上げるか(売上の流れ、コストの流れ)、である。そして、モノ/サービスの流れとお金の流れを図式化するのがビジネスモデルの設計である(下図参照)。

ビジネスモデルの設計に必要な要素

例えば、スタディサプリのビジネスモデルでいくと、元々の顧客は中高生がターゲットであり、事業としてはスタディサプリを介して、授業動画を配信し、利用料(980円/月額)をもらっている。スタディサプリを運営しているのはリクルートマーケティングパートナーズで、主な役割は教師発掘・企画である。質の高い教師を雇い、動画コンテンツを作ってもらっている。スタディサプリが人気を博してきたので、中高生の教師向けに、中高生の学習進度の確認や指導に活用されるようになっている。さらに、大学・専門学校向けにはスタディサプリ進路というアプリを開発し、進路情報を中高生の教師向けに提供している。

ビジネスモデル(スタディサプリ)

ビジネスモデルを考える上で一番苦労するのはお金の流れである。ただ、世の中にある収益モデルは12パターンである(下図参照)。新しい収益モデルを生み出すというよりは、既存にあるものを組み合わせながら考えていくことになる。

収益モデルのパターン

ビジネスモデルキャンバスとは?

ビジネスモデルの骨格が出来上がったら、今度はビジネスモデルキャンバス(BMC)に落とし込んでいく。ビジネスモデルキャンバスの利点はビジネスの重要要素が一つの絵に纏まっていることである(下図参照)。

ビジネスモデルキャンバスとは?

顧客セグメント:ターゲットとする顧客を指す。例えば、子育て世代の主婦とか、東京近郊の理系の学生など。

顧客との関係:ターゲット顧客とどのような関係なのかを指す。例えば、リピート契約なのか、1回の契約なのか。セルフサービス方式なのか、接客方式なのかなど。

チャネル:どのようなチャネルを活用しターゲット顧客に価値を提供していくのかを指す。例えば、代理店経由なのか、直接営業なのか。Web経由なのか、対面方式なのかなど。

価値提案:どのような嬉しさを提供するのかを指す。言い換えると、顧客のどんな課題を解決するのかである。製品やサービスを指すのではないのでご注意を。例えば、スタディサプリでいくと、「低額で学生のより良い学びと未来を創る」である。

主要活動:価値を提供するための主要な活動を指す。例えば、多品種少量生産とか、プラットフォーム開発とか。全部書き出すとキリがないので、肝となる活動である。

リソース:価値を提供するための資源を指す。例えば、設備だったり、人財だったり、特許だったり。これも全部書き出すとキリがないので、肝となる活動である。

パートナー:価値を提供するためのパートナーを指す。例えば、設備メーカーだったり、アプリ会社だったり。全部自前で作ることはほぼなく、どこかと連携しながら、製品/サービスをエンジニアリングするはず。

例えば、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス博士が創設したグラミン銀行の場合のビジネスモデルキャンバスは以下の通りである。

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ビジネスモデルキャンバスの策定方法

ビジネスモデルキャンバスは穴埋め作業になりがちなので、そうならないようにストーリーを持って考えていくことをお勧めしたい(下図参照)。ターゲット顧客やユーザーは誰で、顧客やユーザーの嬉しさは何で、本サービスを選択する理由(=強み)は何で、どのようにその強みを顧客やユーザーに届けていくのか、強みを支えるためにどんなリソースを活用強化・調達していくのか。リソースを活用した主要な活動は何か。リソースや主要な活動を支えるパートナーは誰が最適なのか、を考えた上でビジネスモデルキャンバスに落とし込んでいく。

ビジネスモデルキャンバスを描くステップ

上記のストーリーを踏まえると、個人的にはビジネスモデルキャンバスよりも、下図のようなビジネスモデル俯瞰図(下図参照)が私にはフィットしている(最近考えたフォーマットなのでチューニングは必要かも)。

ビジネスモデル俯瞰図

ビジネスモデルキャンバスとの違いは3つある。一つ目は、「製品・サービス」を加えたこと(実はビジネスモデルキャンバスにはないですよね)、二つ目に、本サービスを顧客が選択する理由(=強み)を追加したこと。この強みを起点として、マーケティングや主要な活動・リソースを検討する。三つ目に顧客との関係を”増殖する仕掛け”に変えたこと。個人的には顧客との関係を記載するよりも、どう継続して顧客を増やし、ファン化していくのかということの方が大事で、マーケティングの4PでいうPromotionやPlaceを意識している。ビジネスモデルキャンバスは描き方によって、静的なものになりがちだけども、繋がりを意識することで動的なものに変えられると思う。動的なものに変えるにはビジネスモデル俯瞰図の方がいいのではないかと思っている。

総括

今回は課題の構造化や打ち手などの仮説検証方法、ビジネスモデルの設計方法、ビジネスモデルキャンバスへの描き方、そしてビジネスモデル俯瞰図について解説をしてきた。ビジネスモデルは一度作ったら終了ではなく、何度も書き直す必要があるし、事業を立ち上げた後も変更するものだと思っていた方がいい。ビジネスモデルはある意味単なるアイデアであり、実際に立ち上げてみると、想定通りにいかないことが多々ある。なので、随時に磨き込みを掛けていくものである。次回は収益計画の描き方や新規事業創出の肝について解説していきたいと思う。

ちなみに詳細の資料や解説動画については運営しているオンラインサロン「CLUB RIGHT HAND」にて公開中。また、プロジェクト化されたテーマについては本アプローチに沿ってディスカッションしながら進めている。新規事業創出に興味がある方は覗いてみてください。


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