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16日目 覗き穴の外の世界について

11月3日
数日前から自宅の玄関前にある通路灯の調子が悪い。
夜になると一定の間隔で点滅する。
引っ越したばかりで通路側の窓にはカーテンが付いていない。
すりガラスだったので外から中は見えないので後回しにしていたが、これはなかなか不気味だ…。そろそろ変えないと。
3歳になった息子からは「ピンク!ピンクにする!」と言われているがどうしようかと考えてはや1週間が経った。


11月4日18時30分
夕方まで妻と子供と公園で遊んで、あとは夕飯〜入浴、さて今日息子は何時に寝るだろうか…。


11月4日19時
(〜♪チャイム音)
「だぁれ?なぁに!?」
インターホンの音とともに息子が玄関に駆け出す。
宅配便だろうか。日用品をよく頼んでいるが、この時間に来ることは時間指定をした日以外稀だ。主に発注をしている妻もなんとなく首を傾げている。
宅配便が好きな息子を制してゆっくりと覗き穴に近づく。
通路灯が消えているので視界が悪い。
点滅のたびに少し外が見える。


頭に布を被った女性?が立っていた。
布のせいで表情がわからない。
息子の声が聞こえてしまっているようでドアの前から去る気配がない。


しばらく待っても無言で依然として表情がわからない。


ドアロックをかけたまま少しだけドアを開き、
「はい」と声をかける。

相手から返答はない。
息子が不安そうにこちらを見ている。妻も来た。

ドアを一旦閉め、もう一度覗き穴から覗く。
身長は150センチ程度、小柄な女性のようだ。


今住んでいるマンションの中でもウチは両サイドの階段からちょうど真ん中あたりにある部屋なので、
狙ってくるか何か事情がないと自然ではない。
佇まいと状況から、可能性として
①鍵を忘れた、無くした近隣住人が手当たり次第に助けを求めている
②宗教勧誘
③強盗
④人ならざるもの

を考え、宗教勧誘にしては段取りが悪いし、不気味すぎる。
時間も遅すぎる。強盗としてはフィジカルが弱い。
④は一旦考えたくない。
①の可能性を信じ、強盗だとしても制圧するつもりで妻にも警察に連絡できる準備をしてもらい、ドアを開けた。

変わらず女性が立っていた。

やはり布を頭から被った女性がそこにいた。
ドアを開けたことで表情も見えたが、かなり若い。10代に感じる。
困ったような表情で「ah…am…」と何かを言いかけてはやめ、携帯のようなものを見たりするが、その場からは動かない。

「どうしました?」と聞いても反応は変わらず。
「Can you speak English?」と尋ねると、「Ah…just little?」と答える。
「Are you looking for something?」と聞く。
「……..embassy…?」

(大使館…?)

とにかくここはあなたの求めている場所ではないと思うということを伝えようとしていると、長身の男性が現れた。170後半くらいの身長で痩せ型、頭髪はやや後退気味で白髪混じり、歩き方はしっかりとしている。
服装は軽めのマウンテンパーカーにジーンズぽい感じ。日本人のようだ。

「申し訳ありません。上に住んでいるものなんですが、部屋を間違えてしまったようで…さぁ、戻ろう。」
それだけ伝えると女性も素直に従い、男性についていった。越してきたばかりなのでどこにどんな人がいるかなどは全くわかないし、その男性も女性も今日初めて会った顔だった。
その場では男性の話以外に信じるものもなく、女性も従って戻っていったのでそれ以上の話はせずドアを閉めた。

親戚かなにかでたまたまここに来たものの、戻る部屋がわからなくなってしまったのだろうか。
妻に男性の風貌を伝えると、「昨日集合ポストの周辺にいたかも…なんかいろんなポストに青い封筒入れてたよ。うちには入れてなかったけど…」と言っていた。ではやはり住人なのだろうか。

宅配便でなかったことで息子は終始首を傾げていたが、とにかく危害がなかったことに安堵して夕食に戻った。


11月4日 19時30分
夕食を終え、妻と息子は寝室で就寝準備を始めている。
あの男女はなんだったのかと考えながらトイレに入った。


(〜♪チャイム音)
「だぁれ?なぁに!?」
インターホンの音とともに息子が玄関に駆け出す。

すごく嫌な感覚があって、トイレから飛び出して息子を引き止める。
妻もすぐ携帯を片手に来てくれた。「ちょっと着替えるわ…」といつでも息子と下がれるようにしてくれた。

覗き穴を覗く。


先ほどの女性と男性がいた。


女性は玄関のドアにしがみつき、男性がそれを引き剥がして連れ帰ろうと争っている様子が覗き穴の外に展開されていた。

女性は無言ながら夢中でしがみついてるようで、かなり切迫した様子に見える。
男性は「そんなことしてると本当に怖い人呼ばれちゃうよ!」と女性に声をかけながら引き剥がそうとしている。

①男性がサイコで本当は女性に危害を加えており、女性が助けを求めている
②女性に何かしらの疾患があり男性がそれを宥めている
③超高度な宗教勧誘もしくは特殊詐欺
④人ならざるもの

動悸と冷や汗を感じるが、妻と子供に危害を加えられる可能性もあったため、ドアロックをかけ、
意を決してドアを開く。

「なんでしょうか?」
問いかけると男性が答えた。

「すいません。この子、心を病んでまして。この部屋に友達がいると言って聞かないんです。」

②か…

「あぁ…はぁ…」
としか答えられず、一瞬沈黙が流れる。


「あの、もしよろしければ一度ドアを開けていただいて、この子を安心させてもらえませんか?」

…え?③?…斜め上すぎるぞその注文…


「子供が寝るところなのでそれはできないです。」

妻!!!!妻!!!救世主メシア女神…土壇場でよわよわ夫ですまない…

妻がはっきりと拒絶を示すと、

「あ、そうですか。ご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ございません。」
とだけ男性が答え、ドアを閉めてからしばらくすると二人はいなくなっていた。

このやりとりの間女性は終始無言だった。


いるはずのない存在を追いかける、聞こえない声が聞こえる、というのは統合失調症によくある症状のようで、男性の話を基準にすると理屈は通る。



でもなんで大使館に行きたかったんだろう。




10月29日 午前3時

(〜♪チャイム音)
時計は「3:00」を示している。
空耳か…?
明日が退職前最後の出勤だから緊張してるのかな…寝y…

(〜♪チャイム音)
…?
いやー絶対聴こえるよな…
でも3時…丑三つ時ぞ…え…ここ心理的瑕疵物件とかなの…
たしかに相場よりかなり安いかも、とは思ったけど…
いや…無視だろ…

(〜♪チャイム音)

「…ねぇ、チャイムの音聞こえない?」
妻に声をかけてみる。

「…え?聴こえないけど…」

マジか…
「一応、見てくる」

なるべく静かにドアに近づき、覗き穴に近づく。
呼吸が浅くなって手足が冷えてきた。

意を決して穴を覗く。

誰もいない。
壊れた照明灯が点滅するだけで、何も確認できなかった。




11月5日

また来るかもしれないなぁ




(実話です。結局真相はわかりません。)

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