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新クトゥルフ神話TRPG公式シナコン2023考察という名の妄想

0. はじめに

 ありがたくも新クトゥルフ神話TRPGシナリオコンテスト2023にて拙作の「闇夜を焦がして疾走れ」がシナコン初挑戦ながら奨励賞をいただくことができました。

 今回のシナコンへの挑戦は極めて知識も時間もない中での挑戦でしたが、だからこそ「どうしたら勝てるか」をかなり意識して、シナリオを仕上げました。
 ほかの参加者の方々が有用な考察をあげてくださっている中、付け焼き刃と小手先で戦った自分の考察を公開して、人のためになるのかは疑問ですし、ここに書かれていることを真にうける必要はまったくありません。
 それでもこの記事を読んでいる人が、次のシナリオコンテストに挑むにあたって新しい考察の種を見つけることができたらいいなと思ったので、当時考えていたことをここに残しておきたいと思います。

 以下はすべて私の勝手な「妄想」と言うよりも、そうであってもらわないと困るという「願望」であり、実際に効果的な考察ではないと思いますが、これをきっかけにして次回のシナリオコンテストに向けて効果的な考察を生み出す方が現れることを期待しております。私はそれを利用して次こそ10万円稼ぎます。


1. 公式が「大賞」として選びたいシナリオを考察する

 当然ですが、全体的な完成度の高いシナリオが優秀なシナリオとして認められることは明らかですが、その中でもどういうキャラクター、どういう性質を持ったシナリオなら審査員の目に留まりやすいかを考えていました。
 前述しましたが、ここに書いているのはあくまで「妄想」ですので、審査員の方々がどういった想いで応募作品を読んでいるのかはわかりませんが、「自分がその立場だったら」という視点に立って仮説を立てました。

前提として大賞作品は公式の名の下に無料で大々的に公開される

 これはRole&Roll時代からそうですが、大賞作品は公式の名の下に公開されます。しかし以前と違うのは公開される範囲はRole&Roll誌内という限られたものではなく、誰でも手軽にアクセスできるインターネット上に無料で公開されるという点です。
 クトゥルフ神話TRPG公式の最近の動きとして、Discordサーバーのオープン、オンラインセッション用の素材配布、アプリのリリースやクイックスタートルールの公開、そしてこれらを公式Xアカウントでの頻繁な告知などがあり、個人的にそういったアクティビティは新規層を誘い込む、あるいはそういった層が遊びやすい環境の構築をしていっているなという印象があります。
 そんな中で行われるシナリオコンテストで大賞を獲り、無料で公開されるシナリオには(古くからの層はもちろん)そういった新規層にたくさん遊んでもらって、シーンを盛り上げるようなものを期待しているのではないかと考えました。
 もしそうならば、キャッチーなテーマかつ遊びやすい構造で、新規層間でバイラルを生み出せるようなものが望ましいシナリオが適当だと思いました。

新クトゥルフ神話TRPGをもっと遊んでほしい

 前項に続くような内容ではありますが、個人的に新クトゥルフ神話TRPGの環境はまだまだ盛り上がりきれていないという印象があります(実際の統計は知りませんが)。
 新クトゥルフ神話TRPGがリリースされてからそれなりの時間が経ちましたが、私や私のプレイグループもいまだにクラシック版で遊んでいますし、X上で流れてくるシナリオの宣伝もクラシック版のものが多い印象です。
 移行しない理由としては新しいルールを覚えるのがめんどくさい、クラシック版にキラーコンテンツ格のシナリオが多くあり、新クトゥルフ神話TRPGに移行するのが億劫だということが大きいと思います。
 満を持してリリースして、これからもサプリメントやイベントなど、とにかくどんどん進展させていきたいこの新クトゥルフ神話TRPGというコンテンツを盛り上げるためには、とにかく勢いがある新規層をこちら側に動かして取り込んでいく必要があります。
 その入り口として無料で遊べてかつ、公式のお墨付きである大賞作品を利用したいのではないか、前項の要素でキャッチした新規層に「新クトゥルフ神話TRPGってこんなゲームだよ」ということを教えてあげるような、「新クトゥルフ神話TRPG入門編シナリオ」の面も期待されているのではないか、もしそうならばシナリオ内に「新クトゥルフ神話ならではの要素やルール」を目立つ形で盛り込んだものの方が審査員へのウケもいいんじゃないかと考えました。


2. シナリオ本文について

尖ったアイデアは大前提

  シナリオを魅力的にする要素はいくつかありますが、シナコンという場において求められているのはなにか考えたとき、個々人が持つ無二のアイデアセンスと、それをどれだけ上手くゲームという形に整形する技術なのではないかと考えました。
 アイデアは原石で、ルールへの理解や自己考察は研磨と考えています。その原石の質が高くなければ、勝負の舞台にすら上がれないと思っていましたし、自分には研磨する技術も時間もなかったので、とにかく「自分はこんなにもすごい原石だぞ」というのをわからせるよう、アイデアセンスだけで戦っていくしかないと思いました(結局、原石部分もそうですが、研磨の差で負けてしまったのは言うまでもないでしょう)。

とにかくインパクトでゴリ押す

 あなたがシナリオを読んで「これ遊んでみたいな」と思ったとき、そのシナリオには必ずあなたをそういう気持ちにさせるようなパンチライン(背景設定、攻略方法、物語など)があるはずで、どれほどゲーム性に瑕疵がなかったとしてもそういったインパクトある部分がなければ見向きもされないと思います。
 なので、審査員の方がこのシナリオを読んだときに「何いってんだこいつ」でもいいから、とにかく心に引っかかるような設定やシーンをできる限り盛り込んで印象に残すことを考えていました。そしてこの手段は私が持っているアイデアを活かす一番の方法でもありました。
 同じく奨励賞を受賞された、たけのこーた先生の記事でも同じようなことが言われていましたが、こちらにわかりやすく意図などが書かれているので参考になるでしょう。

公式シナリオを意識する

 前述しましたが、大賞に選ばれたあかつきには公式の名の下にシナリオが公開されるということから、なるべく『ビブリオテーク13』などの公式シナリオ集に並んでいても違和感がない雰囲気にしようと心がけました。そのため、今回のシナリオを書くにあたってルールブックと同じくらい『ビブリオテーク13』を読んだと思います。
 その雰囲気というものはシナリオの記述方法(PLではなくプレイヤー、SANチェックではなく正気度ポイントを失う、など)は当然ですが、シナリオ構成の部分もそうです。
 審査員評でもありがたいことに「要点を押さえている」、「手堅い構成」と言っていただけたのですが、この辺りも「設定は変なのに構成はシンプルな地道な探索を行なうものにしよう」という意識が伝わったからだと思います。個人的にこういったシンプルさこそが公式らしさだと思っているので。
 また、そうしたシンプルな構成は「あ、意外と手堅くいくんだな」というギャップによる印象も生じるでしょうし、地道に探索している暴走族という絵面もまあまあ面白いかなと思っています。

コンパクトなスケール感を意識する

 シナコンには26字×800行、およそ2万字程度という厳しい制限があります。なので書きたいことが書ききれないどころか、そもそもシナリオが収まらないという恐れすらあります。
 シナリオを書くならばできるだけ中身が詰まったものにしたいため、「邪神復活を阻止するために世界中を飛び回る」みたいな話よりも「近所で奇妙な事件が起きた」程度の小規模な物語の方が簡潔なものの方が適格だと思いました。イメージ的には「もっと食べたい」くらいのスケール感がちょうどいいのかなって感じです。

 また、2万字程度とは言いますが、改行などの都合でこれよりもはるかに少ない文字しか書けません。なのでNPCのステータスはかなり厄介になるな予想できていたので、なるべく重要なNPCは出さないよう意識しました。それでも出さなきゃいけないものは出さなきゃいけないのですが……。
 ただ、この考え方のおかげで、探索者が事件に巻き込まれるきっかけでありながらモチベーションとなる「アニキ」のキャラクター像をプレイグループにぶん投げる発想が生まれました。
 このおかげで文字数は節約できるし、「オリジナルのアニキを作る」という文面はかなり面白く、キャッチーな要素になり得るし(近頃は「自陣」というものに対する意識がそれなりに強く感じることもありますし)ということで、かなりいい感じになりました。

審査員は審査員である以前に読者である

 この部分はシナコン対策というよりも、普段のシナリオ執筆でも意識すべきことなのですが、読みやすく、そして読んでいて楽しい文章作りを意識しました。

 読みやすく、の部分については以下のような部分があると思っています。

・誤字脱字がない(私はめちゃくちゃやらかしました)
・リズムがいい文章になっている(センテンスの区切りを意識できているか、同じ接続詞が続いていないか、など)
・視覚的に読みやすい文章になっている(漢字が多すぎないか、ひらがなが繋がりすぎていないか、など)
・ひと段落における主張が一貫している(その段落は探索者視点のためのものか、メタ情報が書かれたものなのかはっきりさせる、など)
・ひと段落が長すぎていない(長すぎると息が詰まるので)
・なるべく簡単な言葉で書く(頭にスッと入る文章を意識し、理解してもらいやすくする)

 基本的に「文章を読む」という行為は集中力が必要なため、その集中力を削ぐような要素は読み手にとってストレスになりますし、そのストレスによってマイナスのバイアスが生じたり、伝えたいことが伝えきれなかったりする可能性が非常に高いと感じています。
 せっかく面白いアイデアが思いついて、それを上手いこと形にできたとしても、こんなことで魅力を削がれてしまってはもったいないです。
 なので、滅多に本を読まない私でもわかるくらいの初歩的なものですが、初歩的なことだからこそ丁寧に扱わなければいけないと思いました。出来ていたかは別として。

 読んでいて楽しい文章という点については、これは「インパクトでゴリ押す」の部分にも繋がってくるのですが、文章の途中途中にクスッとくるような要素、言い回しを取り入れてみるというものです。要はシナリオ分全体の中に緊張と緩和を混ぜ込むということです。
 シナリオというものは結局、物語とその運営に関する説明書みたいなものなので、どうしても堅苦しい雰囲気になってしまいますが、その雰囲気をところどころでブレイクしたら読み手もリラックスしてシナリオが読めるのではないか、という考えによるものです(この発想は「祭りの終わり」から大きな影響を受けています)。
 この点で言うとシナコン募集期間中に公開された七峰きざし先生の「屍煙」特設ページに書かれていることが、とても参考になると思います。
 実際、『ビブリオテーク13』に収録されている「カートゥーン・リアニメーション」の文章は軽快で読んでいて非常に「面白い!」、「こういう書き方もいいな!」と感じるものでした。なのでこのシナリオを読むのも参考になるはずです。


3. 最後に

 以上が今回のシナコンに挑むにあたっての考察でした。
 ほかにも今回の受賞者の方だけでなく、以前にシナコンで受賞された方が考察記事を書かれていたりするので、それらの方が遥かに参考になるでしょうし、実際に受賞した作品を読んでみるのも大切でしょう。

別に読まなくていい自分語り

 「闇夜を焦がして疾走れ」を書いた時、私は新クトゥルフ神話TRPGを1回しか遊んだことがなく、執筆を始めたのも締め切り前日である11月29日の17時からという、普通だったら諦める状況ですが、「こっからシナリオ書き上げて賞取れたら面白いよな」という気まぐれをモチベーションにして頑張ってみたら、なんとかいいところまで行けました(これは本文において最も参考にすべきでもなければ真似すべきでもないこと)。
 「出せば賞を取れるだろう」という根拠のない自信を心の拠り所にし、今回書き殴ったような姑息で小手先の考察をしつつ挑んだシナコンですが、実のところたまたま良い感じのシナリオフックがそこにあって、それがたまたま審査員の皆さんにいい感じに刺さった、運でなんとかなったみたいな感じだと思っています。
 とはいえ、ほぼアイデアと元々あったシナリオ構成能力だけで勝負していいところまで行けたのは確実に自信に繋がりました。
 次回はちゃんと時間を使って執筆し、読み直しとテストプレイを入念に行い、できれば複数作品応募して、ちゃんと大賞取ってちゃんと喜びたいですし、ちゃんと負けてちゃんと悔しがりたいと思います。皆さんも頑張って挑みましょう!!!




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